2025/09/08
マルシン コンバットマスターピース 【ビンテージモデルガンコレクション20】

Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2013年11月号に掲載
1970年代は.357マグナムに.44マグナムと、マグナム全盛時代。そんな中、あえて.38スペシャルの「コンバット・マスターピース」がマルシンから発売され、コアなマニアやマグナムに食傷気味だったファンを驚かせ、そして歓迎された。記憶に残る大人好みの渋い1挺だった。


右:smGモデルに付いていたカートリッジ。これもスプリング可動式だが、カートリッジの頭部、全体の1/3くらいが動く。
諸元
メーカー:MKK(マルシン工業株式会社)
名称: コンバットマスターピース 4インチ、6インチ
主 材 質:亜鉛合金
発火方式:シリンダー内前撃針
撃発機構:シングル/ダブルアクション
使用火薬:平玉紙火薬
カートリッジ:スプリング式可動カートリッジ
全長: 9-1/8インチ(4インチ)、11-1/8インチ(6インチ)
重量:830g(4インチ)、925g(6インチ)
口径:.38スペシャル
装弾数:6発
発売年:1976(昭和51)年
発売当時価格:¥6,000-4インチ)、¥6,500(6インチ)、カートリッジ6発・木製グリップ付き
オプション:357マグナム用木製グリップ ¥2,000
※ smG規格(1977年)以前の模擬銃器(金属製モデルガン)は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエローを吹きつけるなどの処置が必要です。
※ 全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではではありません。また価格は発売当時のものです。
1976(昭和51)年は、とんでもなく長い8-3/8インチ・バレルの.44マグナムが衝撃的だった映画「タクシー・ドライバー」が公開され、元祖.44マグナムの「ダーティハリー3」も年末に公開されるなど、アメリカはもちろん、銃が持てない日本でもマグナムブームのまっただ中にあった。もちろん人気の劇画「ドーベルマン刑事」(1975~1979)も「週刊少年ジャンプ」に連載中だった。
モデルガン各社が.357マグナムや.44マグナムのモデルガンを続々と発売する中、マルシンはあえて.38スペシャルのコンバットマスターピースを発売した。とはいっても、.357マグナムのコンバットマグナムとの同時発売ではあったが。
どちらもS&Wの中型サイズのKフレームを使うリボルバーだから、共通部品が多く、極端な話、口径以外エキストラクターロッドを下までカバーしているかいないかの違いくらいしかない。あえて付け加えるとすると、1957年のモデルナンバー制導入でM15となるコンバットマスターピースはサービスグリップ、M19となるコンバットマグナムはオーバー・サイズのターゲットグリップ(マグナグリップ)というくらい。
それでも、印象は違った。M19コンバットマグナムはよく目にするスタイルだが、M15コンバットマスターピースはM10ミリタリー&ポリスとの中間のような新鮮な印象があった。
特にボクはちょうど警察学校でのセンターファイアーピストル射撃大会の手伝いをしたばかりで、そこで多くのマスターピース(モデル14ターゲット・マスターピースかモデル15コンバットマスターピースか正確には覚えていない)が使われていたのを目にして衝撃を受けていた。選手たちはもちろん、銃もものすごくカッコよく見えた。その銃のモデルガンが発売されるなんて。M19コンバット・マグナムとの同時発売で保険を掛けていた(オマケ?)としても、マルシンはなんとマニアックな会社だとこの時初めて認識した。その前に発売されたコルトSAAも仕上げがきれいで、木製グリップまでついて良い出来だったが、ボクにはいまひとつピンと来なかった。しかしM15コンバットマスターピースには驚かされた。
S&W社のKフレームは1900年代から徐々に評価を上げていき、第二次世界大戦後にはフルズアイ ターゲットを使用する標的射撃の世界で確固たる地位を築いていたという。それがK-22、K-32、K-38と呼ばれるマスターピース三兄弟だ。数字は口径を表し、それぞれ.22口径、.32口径、.38口径ということになる。
最初に作られたK-22は、反動もほとんどなく、弾薬も安いことから、入門用、年少者用、プリンキング用、スポーツ(競技)用、など幅広い層に受け入れられ、高い評価を得た。そこで「マスターピース(傑作)」という名が与えられることになったらしい。これは現在もモデル17マスターピースとしてクラシックシリーズで製造が続けられている
2025年9月GP Web Editor補足:現在22LRのモデル17はすでにカタログから消えているが、ステンレスのモデル617が製造供給されている。但し、10連発仕様となるなど、往年のK-22とは別物だといえるだろう。
そして、1930年代くらいまでポリス用として人気があった.32口径版も作られ、これが後にモデル16マスターピースとなる。護身用として相応の威力と軽い反動から人気があったものの、犯罪の凶悪化などで威力不足が叫ばれるようになり人気を落としてしまう。
代わって台頭してきたのが.38口径で、1970年代くらいまでは法執行機関の標準口径だったし、一般的にも人気の口径だった。
K-38は最初、標的射撃に向いた仕様で作られた。バレル上面には細めのリブが載り、フロントはくっきりとしたサイトピクチャーを得やすいパトリッジサイト、リアが上下左右に微調整可能なマイクロメーター・クリックサイト。グリップはマグナグリップ。1957年以降はこれがモデル14になる。
K-38の人気が出てくると、警官がパトロール勤務でも使いたいという声が上がるようになり、4インチバレル、ホルスターからの抜き撃ちの際引っかかりにくいボーマン・クイックドローフロントサイト、スクウェアバットのサービスグリップという仕様でコンバットマスターピースが作られた。これがモデル15になり、2インチ、6インチ、8 3/8インチ・バレルのバリエーションも作られ、マグナ・グリップを装備したりするようになる。
このモデルガンの発売当時、マルシンは本格的にモデルガンに参入して間もなく、これからラインナップを充実させて行こうというところだった。そこで、すでに発売されている各社のKレームリボルバーをそろえて研究し、良いとこ取りで設計することにしたという。もちろんコンバット・マスターピースは発売されていなかったので、資料として洋書を参考にしたそうだ。
マルシン・モデルガンのコンセプトとしては、価格をあまり上げずに、国際の金属モデルの仕上げが評判が良かったことから、それに負けない仕上げとすること、また各社がどこもやっていない木製グリップを標準装備とすること、だったという。
こうして仕様が決定した。モデルガン式のダブルアクション機構や、簡略化されたシリンダーの固定方法、クリックなしのフルアジャスタブル リアサイトなどは当時の標準だ。ちゃんとハンマーはリバウンドするし、メインスプリングには板ばねも使っている。
トリガーストップは省略されていたが、これがモデルガンで初めて再現されたのは、確か1982年発売のCMCのプラスチック製S&W M19、6インチ・モデルからではなかっただろうか。
企画の段階では、バレル上部のリブを利用して発火ガスを銃口へと導くガスパイパスを設ける案も出たという。しかし非常に手間がかかることと、コストが跳ね上がることからボツにされた。実現したらおもしろかったろうが、ガスもれやサビなどの問題も起きていたかもしれない。
マルシンは、発売直前の広告に載せた写真では、コンバットマグナムと同じスムースな木製ターゲットグリップを装着していた。しかし発売されたのはスムースな木製のサービスグリップ付きだったような気がする。あるいは、最初だけターゲットグリップで、あとからサービスグリップに変えたのかもしれない。発注先はMGCでもおなじみのヤマト木工だったという。
コンバットマグナムはともかく、売れ筋から外れるコンバットマスターピースの発売は、ファンにマルシンの存在感を強く植え付けた。そしてマルシンはこのあと開発を加速し、1979年には最初のPFCブローバックモデルを発売する。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:池谷立美
撮影協力:maimai、石井博士
Gun Professionals 2013年11月号に掲載
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