2025/09/02
ちょっとヘンな銃器たち20 シュタイヤーガスシールリボルバー

前回の続いて、アンリ・ピーパーの開発したガスシールリボルバーをご紹介したい。今回はオーストリア=ハンガリー帝国の軍用ピストルトライアルに提出されたものの、採用に至らなかったモデルと、ガスシールリボルバーの構造について解説する。
ガスシールのメカニズム
前回は、ピーパーガスシールシリンダーリボルバーが開発された経緯と、メキシコ軍がこれを採用したこと、そして開発者アンリー・ピーパーの人物像を解説、さらにこのリボルバーのメカニズムについても少しだけ説明した。
今回はまずどのようにガスシールをおこなうかについて、より詳しく説明したい。
ダブルアクションでトリガーを引く、またはハンマーを手動でコックしていくと、同時にシリンダーが回転する。そしてハンマーが完全にコックされると、シリンダーが前進してバレル後端のフォーシングコーン部分と密着する。しかし、この機械的なメカニズムだけではシリンダー先端とバレル後端のガスシールは完全なものにはならない。いくらシリンダーがバレル後端と密着しても、バレル後端とシリンダーの全面の間には依然として隙間(ギャップ)が存在する。
このバレルとシリンダー間のギャップを完全にシールし、そこから発生する発射ガスの漏れを完全に防ぐ重要なカギは、このリボルバーで使用される特殊な弾薬の形状にあるのだ。
帝政ロシア陸軍に選定採用されたナガンガスシールリボルバーと、ピーパー ガスシールリボルバーで使用される弾薬の構造はきわめてよく似ている。ほとんど同一といって良いほどで、当然ながら発射ガスをシールする働きも同一だ。
通常のリボルバーで使用される弾薬はブレットの半分以上が薬莢の先端から前方に露出している。それに対し、ガスシールシリンダーリボルバーで使用される弾薬はブレット全体が長い薬莢の内部に隠れた構造だ。薬莢のマウス部分(前端部分)は内蔵されたブレットの先端より長く、前方に突き出している。
ブレットは薬莢の中に完全に収まっている。これにより、ケースマウス(薬莢先端)部分がシリンダーとバレルのシールに利用される構造なのだ。
シリンダーに装填された弾薬のケース先端部は、シリンダー前面のチャンバー前方の一回り大きくされた開口部から少しだけ露出している。
ハンマーが完全にコックされると回転を終わったシリンダーが前進する。その時、チャンバー前方の拡大された開口部がバレル後端のフォーシングコーン部分に密着し、薬莢先端部分がフォーシングコーン部に侵入する。この動きによって、バレルとシリンダーのギャップが薬莢の先端部分で埋められる。
さらにトリガーが引かれ、ハンマーが落ちると弾薬が撃発し、ブレットが前進を始める。まずブレットはケースマウス部分を押し広げ、次いで発射ガスの圧力がケースマウスをさらに押し広げ、バレル後端のフォーシングコーン部分にケースマウスが密着し、これによって発射ガスを完全にシールする。
こうしてガスシールシリンダーリボルバーは発射ガスをロスしないリボルバーとして機能するわけだ。
前号では断面図のキャプションとして、ナガン ガスシールシリンダーリボルバーはトリガーで押し上げるブロックとフレーム内の傾斜によってシリンダーを前進させる設計で、ピーパー ガスシールシリンダーリボルバーは、フレーム内に上から吊るすように装着されたブロックと、ハンマーの前面と、トリガー後端部分に装備させた爪によって、シリンダーを前進させる設計であることを説明した。必要ならばそれを改めてご覧頂きたい。
オーストリア=ハンガリー帝国軍用リボルバー選定
最終的にピーパー ガスシールリボルバーを大量装備したのはメキシコ軍だけに留まった。しかし、メキシコ軍のほかにもピーパーリボルバーを軍用拳銃の候補として考えていた国があった。それがオーストリア=ハンガリー帝国だ。
1880年代、オーストリア=ハンガリー帝国は、軍用ライフルや軍用ピストルの近代化計画を実行した。これはオーストリア陸軍省が組織したTMK(Das Technisch und Administration Militar-Komité:技術行政軍事委員会)が主導するもので、無煙火薬の弾薬を使用する軍用ライフルと軍用拳銃の研究と選定が目的だった。共に無煙火薬を弾薬に使用することで、従来の重く、且つ初速の低い軍用弾を、ライフルと拳銃共に8mm口径周辺の軽量小型弾薬に変更する方針だ。この近代化計画に積極的に参加したのがオーストリアのシュタイヤーにあったÖsterreichische Waffenfabriksgesellschaft(オーストリア武器製造会社:略称ŒWG)だ。同社は後にシュタイヤー・マンリヒャーと呼ばれるようになり、現在はシュタイヤーアームズとなっている。
ŒWGはベルギーの近代制式ライフルトライアル向けとして、ベルギーのピーパー社に小口径無煙火薬弾薬使用するライフルを提供するなどして関係を深め、ŒWG内でアンリー・ピーパーは“ハインリッヒ”という通称で呼ばれるような親しい関係になっていた。
一方、オーストリア=ハンガリー帝国陸軍の制式ピストル近代化プロジェクト向け拳銃としてŒWGは、アンリー・ピーパーが開発し、1889年にベルギー、次いで1891年にドイツで特許を取得したガスシールリボルバーに着目した。
ŒWGはアンリー・ピーパーと契約を結び、彼の特許要件をそのままに、よりオーストリア=ハンガリー帝国陸軍向けの改良をおこなうことにした。そして完成したのがシュタイヤーガスシールリボルバーだ。
オーストリア=ハンガリー帝国陸軍向け新制式ピストルトライアル向けに改良されたこのリボルバーは、前回紹介したピーパーガスシールリボルバー、およびそのメキシカンモデルと作動原理は同一ながら、その外見が大きく異なっていた。
共にスイングアウト式シリンダーを備えているものの、シリンダーを固定するラッチが、メキシカンモデルはコルトスイングアウトリボルバーによく似た形式であるのに対し、シュタイヤー ガスシールシリンダーリボルバーは、シリンダークレーン部にシリンダーラッチを配置していることだ。またグリップはオリジナルに比べてより垂直に近い。
最初にオーストリアのŒWGで試験的に製作されたシュタイヤー ガスシールリボルバーは、ベルギーのピーパーと同型のシリンダーラッチだったとされている。しかし、リポーター自身はその現物を確認できていない。しかし、すぐにŒWGはシリンダークレーン部にラッチを移動させた。この改良型は1893年に作られたという。この改良に関して、1894年にŒWGはオーストリアパテントを取得した。
リポーターが実際に見て写真を撮影させてもらったシュタイヤー ガスシールリボルバーはシリアルナンバー7で、個人コレクターが所有する製品だ。これには改良されたクレーン上部にラッチが装備されている。フレーム左側面は、WAFFENFABRIK STEYR(シュタイヤー兵器製造工場)の2行に分けた製造所表示刻印が打刻されていた。
オーストリア=ハンガリー帝国軍のピストルトライアルは、1993年におこなわれることになり、リボルバー本体をŒWGが製造し、使用する8mm口径の弾薬をオーストリアのGeorg Roth(ゲオルグ・ロート)が生産した。
まだシュタイヤー ガスシールシリンダーリボルバーはゼロ生産の段階だったもののオーストリアの技術行政軍事委員会(TMK)はこれにModell 93の仮トライアルモデル名を与えてテストした。
ベルギーのオリジナルモデルに比べてグリップ角度がより垂直に近い。この変更はオーストリアのTMK(Das Technisch und Administration Militar-Komité:技術行政軍事委員会
の求めに応じておこなわれた改良だ。またシリンダー側面のフルート加工が独特な形状となっている。
ゲオルグ ロートは、まだ量産が決まっていないこのリボルバーで使用する8mm口径弾薬の生産を始め、製品識別番号をNo.426/314とした。
1893年のトライアルでは、小口径化された弾薬の初速を低下させないガスシールという新機構と、トライアルに提出された3挺のリボルバーが合計2,150発を大きな故障を生じることなく射撃できたこと、そしてクリーニングしないまま、連続900発を射撃できたことが選定委員の大きな関心を集め、翌1894年以降の継続トライアルが決った。
このトライアルが継続中の1896年、シュタイヤー ガスシールシリンダーリボルバーにとって強力なライバルが出現した。それは、オーストリアで軍用リボルバー モデル1870を製造供給してきたLeopold & Gasser (レオポルド・ガッサー)が提出した8mm口径のリボルバーだった。
このレオポルド・ガッサーリボルバーはオーソドックスな無煙火薬を装填した8mm口径弾薬を使用するソリッドフレームの製品だった。
ガッサーの提示したリボルバーは、全体的にシュタイヤー ガスシールリボルバーに比べて小型で、しかも8発の装弾数を持ち、何よりその構造がシンプルなことが特徴だった。
軍用拳銃の備えるべき性能として、命中精度や銃弾の威力が重視される。その威力の点で注目されたのが、発射ガスをシールして逃がさないガスシールリボルバーだ。しかし、軍用拳銃には命中精度や威力以外にも重要な要件がある。それが堅牢で故障を起こしにくいということだ。言い換えると、部品数が少ないことが重視される。部品数が少なければ、それに比例して故障の発生確率が小さくなる。ガスシールリボルバーはシリンダーを前後動させる都合上、部品数がそれだけ多くなり、その作動も複雑だ。トライアルで故障なく無事に射撃できても、過酷な環境が想定される戦場で、長期間無故障で稼働することの完全な保証にはならない。一方、部品数が少ないことは、故障を少なくすることに直結する軍用拳銃の重要案件の一つとなる。
確かに銃弾の威力は重要だ。しかし実際の戦場での拳銃の有効射撃距離は25m以下といわれる。それ以上の距離では、威力を考慮する以前に命中させること自体が難しくなる。
ガスシールリボルバーでシールできる発射ガスの量は全体の10%内外とされる。ピストルの場合、チェンバーから銃弾が射出される際の瞬発的な加速が、初速の最も重要な要素だ。銃弾がバレル内を前進し始めた以後、銃口から飛び出すまでに加えられるガス圧は、銃身自体が短いことから、それほど初速に大きな影響力を持たない。すなわち、10%の発射ガスの漏れは、初速の10%減とはならない。
たとえバレルとシリンダーのギャップからガス漏れがあっても、実用上概ね25m以下とされる射程では、従来型のリボルバーと威力の差がそれほど大きくなく、従来型でじゅうぶんに役に立つ。
オーストリアの技術行政軍事委員会は、1899年2月28日に次期オーストリア=ハンガリー帝国の軍用リボルバーとして、レオポルド・ガッサーが提出したソリッドフレームの通常型ダブルアクションリボルバーを選択し、“リボルバー モデル1898”の制式名を与えて採用した。その後、レオポルド・ガッサーはRast & Gasser(ラスト&ガッサー)となったため、この銃はラスト&ガッサーとして知られるようになっている。
シュタイヤー ガスシールリボルバーは、オーストリア・ハンガリー帝国の軍用リボルバーに選択されなかったものの、その後の1902年に49挺の複数の異なるバレル長の製品をオーストリア軍の研究機関に研究用として納入した。
シュタイヤー ガスシールシリンダーリボルバーは、製作精度の高いリボルバーだったが、この納入を最後に生産が打ち切られている。
生産停止の理由は、もちろんオーストリア=ハンガリー帝国の軍用拳銃に選定されなかったことだったが、それにも増してピストルのトレンドが従来のリボルバーからセミオートマチックに移って行ったからに他ならない。ŒWGも以後セミオートマチックピストルの開発に主力を注ぐようになり、リボルバーの新規開発をおこなわなくなった。
リポーターが実際に見たシュタイヤー ガスシールリボルバーは、シリアルナンバー7の製品のほか、チェコのプラハにある陸軍博物館にあるシリアルナンバー9の製品だ。
これらの他、同型でシリアルナンバー60の刻印が打刻された製品が存在していることが知られている。これら3挺のリボルバーはいずれも同一仕様だ。
これまでに3桁以上のシリアルナンバー刻印が打刻されたシュタイヤー ガスシールシリンダーリボルバーは確認されておらず、その生産挺数はオーストリアの研究者によると生産総数は100挺で、そのすべてがオーストリア陸軍に納入されたといわれている。
Text by Masami Tokoi 床井雅美
Photos by Terushi Jimbo 神保照史
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