2025/07/19
十四年式の逆襲 旧日本軍の十四年式は本当にダメな銃だったのか
Gun Professionals 2014年8月号に掲載
南部式、陸軍十四年式の再考
2014年2月号で、十四年式でジャムが多発する原因は、ミッドウェイ製の薬莢サイズが旧軍オリジナル8mm南部弾と異なる事にある、という考察をおこなった。その後、これまで知らなかった8mm 南部リロード弾が市販されているのを見つけた。これならいけるかもしれない。十四年式拳銃の汚名を晴らすべく、再挑戦だ。
OWS Inc.製8mm南部弾
日本陸軍の主力サイドアーム十四年式と九四式はこれまで本誌でも何回かリポートされた。つい最近もリポート(2014年2月号)されたばかりだが、いずれもいざ実射となるとフィーディングトラブルからくる作動不良が多発、“げんなり”気分を何回も味わっている。リロード弾を使う限り実用性あるモデルとはお世辞にもいえないものだった。
かつての日本軍はこの程度のサイドアームを持たされ、戦わざるを得なかったのか?それが事実となれば不憫この上もない。装備させられた兵器が対戦車ミサイルであれ、サイドアームであれ、いざというときに機能しないのでは金属の塊に過ぎない。敵に遭遇して発砲しても、1発撃ったところで作動不良を起こせば、反撃され、The Endとなる。どうせまともに動かないのなら、投擲兵器として使えるように? 掴みやすいデザインにすべきだ…(ようするに、敵に投げつけるわけだ)、こんな皮肉もついつい言いたくなる。
先の十四年式拳銃リポート後、ある読者の方から、「グアムで撃った十四年式は快調に作動する」という投書を頂いた。もっとも使用したカートリッジがファクトリー弾なのか、リロード弾なのかは不明だという。コレクターズアイテムと化している旧軍の8mm弾を気軽に撃つなんてことは考えられない。したがって、撃ったのはリロード弾なのだろう。少なくとも快調に作動する十四年式も存在するわけだ。
前回筆者は、十四年式はどれも作動不良を起こしている、というスタンスで記事を書いた。しかし、それは言い過ぎだっただろう。
実際にリロード弾を使っても安定作動する十四年式は存在する。
もしかしたら十四年式はオリジナルカートリッジを使う限りマスターピースだったかもしれない。後世の筆者を含めた一部が、当時のことを知りもしないで批判しているということも考えられる。
戦後、一時期ではあったが米軍が捕獲した旧軍の十四年式が再建された海上保安庁のサイドアームとして支給されたことがあった。それに合わせて8mmカートリッジも生産された。そのとき、作動不良が多発したという話は聞いたことがない。安定的に作動していたのか。かつてこの銃をサイドアームとして使用した方にお聞きしたいものだ。
米国内にある南部式、十四年式、九四式の作動不良は、米国製の8mm南部カートリッジ、そしてリローディングダイに問題があるのではないか、というのが2月号の結論だった。しかしながら米国は広い国だ。筆者の結論は少々早すぎたのかもしれない。これについてはは後で判ってきた。
先日、古銃の有名店、ジャクソンアーモリーで8mm南部の米国製ファクトリーカートリッジを見つけた。50発入り1箱60ドルの価格シールがついていた。試しに1箱ではあったが購入してみた。もっとも店には1箱しかなかったのだが…。
これを購入した理由は、持参した旧軍のオリジナル8mm南部弾と比較し、ケースのテーパーがミッドウェイ製8mm南部弾と比べて、オリジナルに近かったというのが一番の理由だ。もっとも目視という非科学的な方法でだが…
店頭には売り物の十四年式は数挺あった。しかし、店の中でマガジンに実弾をつめてちゃんと装填排莢ができるかどうかをチェックするというのは安全上やってはいけないことだ。だから確かめたわけではないが、この新しい8mm南部ファクトリーカートリッジになんとなく手応えを感じた。英語で言うガッツフィーリングというやつだ。
このファクトリーカートリッジの製造販売元はネヴァダ州カーソン市のOld Western Scrounger Inc.(OWS Inc.)となっている。8mm南部といえばミッドウェイ製…だけではなかったわけだ。広い米国、ネヴァダのカーソンとなればテキサスから見れば鳥も通わぬ辺境の地だ(笑)。カリフォルニアに近い分…でもないか?
カートリッジ名の表記に驚いた。8mm Jap Nambuとなっていた。わざわざJapという文字を入れる必要性はないのだが…。Japは日本を侮辱する言葉、いわゆる差別用語でしかない。戦後70年を経た今日、堂々とJapという言葉が使われていることに違和感を覚えた。いまどき、という意味だ。ネットじゃ頻繁に使われている言葉であり、目くじら物ではないが、匿名が通用するネットと違い、印刷物や商品名での使用となると話が違う。スウェーデンのNormaも、6.5mm、7.7mmカートリッジでJapの呼称を戦後、何十年と使っている。この口径にはいろんな種類があり、何らかの表記で分けなければならないという事情があることは理解できる。それでもやはり侮辱/差別用語なのだ…。日本から遠く離れたヨーロッパの一国、日本がスウェーデンと戦争した歴史はないはずだが…(苦笑)


小火器の価値
もしかして、グァムで十四年式が快調に作動したという読者のテストカートリッジはこれだったのかもしれない。8mm南部リローディングダイと言えば現在、市場にあるものはRCBS製のみだ。しかし調べてみれば戦後、1940年代末から1950年にかけていくつかのメーカー製リローディングダイがあったという。となればその中にはオリジナルに近い、または違った独自の寸法で作られたリーマでカットされたリローディングダイが存在した可能性もある。
今回、ジャクションアーモリーを訪ねた主な理由は、不発といえど実包をリーマーメーカーに郵送する場合の法的解釈を聞きたかったからだ。なんといっても経営者ジャクション氏は界隈じゃよく知られた元検事だ。
先回のリポートの後、筆者が長年関係するカスタムリーマメーカーと交渉、新たなリローディングダイ用のリーマの寸法をオリジナルカートリッジのシェイプから起こすことで話がまとまり、オリジナルカートリッジを送る段階まで進んでいた。リーマが出来たら筆者がそれを使い、リローディングダイをつくるというわけだ。
RCBSリローディングダイでケースが矯正されたとき、ケースのテーパーアングルがオリジナル南部弾と違っていることは先のリポートで述べた。
ケースのテーパーアングルはマガジンリップからのフィーディングアングルと深く関係しているからだ。またマガジンデザインによっては射撃時のリコイルでマガジン内のカートリッジが前にのめり、マガジン内のカートリッジの角度が崩れることもあり得る。口径に比較して全長が短いカートリッジで、しかもボトルネックタイプだとマガジンデザインが難しくなる。
今日では十分に研究され、.357SIGを例にするまでもなく、ボトルネックでもちゃんとフィーディングするマガジンが作られている。もちろんボルトネックオートピストルカートリッジは8mm南部が最初ではない。.30ボーチャード、7.63mmマウザー(C96)、などはいずれもボトルネックカートリッジである。以前のリポートでも再三触れたが、オリジナル8mm南部(軍用サープラスのこと)弾は市場に存在しても不発ばかりでどうしようもない。コレクター品としての価値はあっても実射を好む所持者には不満もいいところだ。
1960年ごろまでなら、太平洋戦域で捕獲され米市場に持ち込まれた8mm南部カートリッジが少なくともあったはずだ。経年劣化が激しいと見え、1970年代、筆者が目にした8mm南部カートリッジは既に劣化した物だった。この点、米軍、ドイツ軍物なら例え1920年代に製造されたものでも発火する。日本軍物は要となる弾薬からして列強国に劣っていた。いくら優れた機構を有した火器でも、肝心要の弾薬がおかしいのでは鋼鉄の塊に過ぎない。
当地の日本軍小火器コレクターには筆者のようなネガテイブな見方をしない方が多い。コレクターのほとんどは、実際には射撃をしないので、そんなことはどうでもいいということなのかも知れない。
筆者は旧日本の兵器、特に小火器を批判的に書く事が多い。米国兵器賞賛で“アメリカかぶれ”なんて思われているかもしれないが、これは理由があってのことだ。兵器はとどのつまり、“作動するか、しないか”であって、格好でもなければ輝かしい歴史でもない。作動しなければ兵器として意味がない。
今回、十四年式、そしてそのルートであった南部式について、ちょっと変わった探りを入れてみたい。
