2025/07/04
【NEW】Time Warp 1986 MGC M76 インターセプター
Time Warp 1986 MGC M76 Interceptor
バレル固定BV式フルオート
text & illustrations by 池上ヒロシ
あきゅらぼ
協力:サタデーナイトスペシャル
M93Rでガスガン市場に参入することで、破綻寸前だったMGCは息を吹き返した。この勢いを維持発展させるべく、打ち出してきたのがMGC流BV式フルオートガスガンだ。1986年のM76インターセプターはその第1弾にあたる。

このガスガンは1980年に発売したモデルガンの金型を改修して製品化されている。
既存のモデルガンをベースに、とにかく強引にでもBV式のユニットを組み込んでフルオートガスガンとして発売することで、ブームが高まっていたサバイバルゲームの世界になんとしてでも参入しようとした製品なのだ。
ただこの改修の影響で、M76はもうモデルガンとしては製造できなくなってしまった。
1985年から約6年間、サバイバルゲームフィールドを制覇したのがBV式フルオートガスガンだ。開発は朝日商事(アサヒファイヤーアームズ)によるものだが、その協力を得てBV式のガスガンを次々に開発、発売していたJACのほうがBV式を象徴するメーカーといったイメージが強いかもしれない。
BV式とはどういうシステムか? 一言でいえば、BB弾でガスルートを塞ぐことで弾を飛ばすシステムとなる。意図的に弾詰まりをチェンバー部に一瞬だけ生じさせ、これによりガス圧が高まって、BB弾が前方に抜けて撃ち出される。するとガス圧が一時的に低下、次のBB弾がチェンバーに送られる。この繰り返しによってフルオート射撃をするシステムとなっている。
JACのBV式はインナーバレルそのものがガス圧に押されて前後に動くという豪快なシステムが最大の特徴で、当時すでに金属製になっているのが普通だったインナーバレルが射撃時に激しく前後に動くことによる独特の撃ち味は、多くのファンの心を掴んだ。


① ガスが流れ込むとサブチェンバーが前進、チェンバー内にあるBB弾が前方に押し出され、Oリングによって行く手を遮られて“弾詰まり”した状態になる。
②さらにガス圧が高まるとサブチェンバー&BB弾はOリングごとインナーバレルを前方に押し出す。するとOリング周囲がラッパ状に広がっているので、押し付けられるBB弾の力によってOリングが押し広げられる。
③ついにはBB弾がOリングから抜け出して前方に飛び出し、インナーバレル内で加速されて発射される。
④するとガスの圧力が一時的に下がるのでインナーバレル、サブチェンバーが後退、次弾がマガジン内からせり上がってくる。ガスは流れっぱなしなのですぐにまたガス圧が高まり、自動的に①から繰り返しとなる。
インナーバレルにウエイトを装着してより重くして、さらにバレルスプリングも強いものに変えれば、射撃時の振動はさらに大きなものになり、それに加えてBB弾が“弾詰まり”から抜けるために必要になる力がより大きくなる、つまりもっと高いガス圧に対応可能となる。
それほど手間をかけずともパワーアップが簡単に行なえるという点が、BV式が良く売れた最大の理由といっていい。当時はまだ明確に違法なものとして取締りの対象になっていなかったものの、むやみなパワーアップは決して良いこととはあの段階でも思われていなかった。とはいえ、「より強く」、「より遠くへ」というニーズが実際に存在していたことは確かなことで、それができる余地があるということは大きなセールスバリューになっていたのも事実なのだ。
バレルが前後動するタイプのBV式が宿命的に持っていた欠点、それは容易に想像がつくことではあるけれど、命中精度があまり良くなかったことだ。BB弾を加速するルートとなるインナーバレルが動いてしまうという時点で大きなマイナスだし、さらに実際にBB弾がバレル内を通過しているその瞬間こそが最も激しくバレルが動いて振動が発生している時なので、本当に命中精度については今のエアガンと比べると悲惨といっていいものだった。“バレル前後動方式のBV式=当たらない”というのは、もう宿命的なものといっていい。
なんとかしてそれを回避し、ちゃんと狙ったところに当たるBV式を実現しようとしたメーカーもある。2019年2月号の当連載で紹介したフジミのモーゼルM712は、BV式ではあるがバレルは固定式だった。BB弾の行く手を阻む(弾詰まりさせる)のはBB弾の直径よりもだいぶ小さめのOリングで、ガス圧が高まるとそのOリングをBB弾が無理やりくぐり抜けて前方に飛んでいくという仕組みだった。チェンバーが前後動してOリングが広がる余地が生まれるというような機構なしに、単純にOリングの弾性のみで保持されているわけで、ガス圧とBB弾、Oリングの相性が良くバランスが取れていればうまく動くのだが、少しでもバランスが崩れると(例えば、ガス流量を増やそうとしてガスルートにある穴を大きくする改造をしたりすると)一気にバランスが破綻して作動に支障をきたす、実に繊細なメカニズムになってしまっていた。
今回紹介するMGCのインターセプター。これも朝日商事の技術協力を受けることでBV式を組み込んだ製品だ。ある意味ではJACのBV式(バトルマスター等)と兄弟のような関係にあるガスガンとも言えるが、バレルは固定式であるという点がJAC製品と大きく異なる。

全長:764/509mm
重量:1,670g
装弾数:35発
発売時の価格:¥23,000
発売:1986年1月
*この個体はBV式なので、念のためガスガンとして機能しないよう内部を加工しています。
その方式はフジミモーゼルとは違って、それなりに手の込んだものになっている。ガス圧によってBB弾およびチェンバー部分が前方に押し出されると周囲が広くなってOリングが広がり、BB弾がチェンバーを抜けて前方に撃ち出されるという仕組みそのものはJACと同じだが、押し出されるのがチェンバー部分(マニュアルによると“インナーバレルSPガイド”という、どうにも判断に困る名称がつけられている)に限定されているという点が大きな違いだ。言い換えると、JACのBV式においてインナーバレル全体が担っていた役割を小さなチェンバーが代替したような形になっている。


前後に動くパーツが小さくなったことによる影響は複数に及ぶ。まず、パワーは低下した。インナーバレル前後動式ではバレルの重量そのものがBB弾を押さえつける(ガス圧が高くなるまで我慢させる)役割を果たしていたが、それが小さいチェンバーだけになればガス圧が高くなる前に動いてしまいパワーが弱いまま発射されるようになるのは当然の成り行きだ。気温や使用するガスの種類にもよるが、当時の記事によるとリキッドチャージで0.2J程度、業界自主規制値に比べても大きく余裕があるパワーとなっていた。“MGCのBV式は(JACと違って)パワーが弱い=サバゲでは使い物にならない”という声は当時からよく聞いたし、実際にそれがセールスにも大きく影響してしまったようだ。

溶接跡もリアルなスリングフックだけれど、これもレシーバーと一体となった樹脂製なので、あまり負荷を与えるような使い方はできない。
良い点もある。射撃時に前後動するパーツが小さくなったおかげで発射サイクルは早くなり、また低温環境時でも作動に支障をきたしにくいという特徴があった。インターセプターが発売になったのは冬の寒さも真っ盛りの1月で、当時の雑誌記事でもメーカーサンプルを使ったテストは12月に行ったと書かれているが、他製品(アサヒやJACのBV式ガスガン)が軒並み動かなくなる中、この製品だけは調子よく回転したとの記述がある。

余談だが、このストックの展開方法(ロックの解除方法)については、マニュアルのどこを探しても一言も書かれていない。この製品を買うくらいの人ならその程度のことは当然言われなくても判るはずという前提があるわけだ。エアソフトガン業界がユーザー“アン”フレンドリーだった時代の名残りを感じる。
肝心の命中精度はどうだったのだろうか。当時の記事を見ても特に記載はない。あまり良くなかったからあえて書かなかったのか、それとも当時は命中精度がどうこうなんてあまり気にする人が多くなかったからわざわざ調べて書いたりしなかったのかは不明だが、記憶を遡ってみても、MGCのBV式が取り立てて命中精度が高かったというような評判を聞いた記憶はあまりない。1991年に発売となった東京マルイの電動ガンFA-MASの、「フルオートで連続発射されるBB弾がまるで糸のように一本の線になって見える」驚異的な命中精度のインパクトがとにかく大きかったことを考えると、少なくともそのレベルには遠く及ばなかったということは確実に言えるだろう。

セレクターはフルオートの他セミオートの表示もあって、実際にそこに合わせることもできるが、基本的にはフルオートのみ。ただセミオートに合わせた状態でトリガーを一気に引くとバルブが少しだけ押されたあと、すぐにシアがリリースされてバルブが閉じる機構があり、トリガーを引くタイミングをうまく合わせるとセミまたはバースト射撃ができるようになっていた。
高い命中精度の実現のためには、BB弾の安定した保持、安定した吐出ガス量と圧、安定した加速の3つの要素が必要だ。バレルが固定されているということは高い精度を実現するためには有効だが、BV式ではどう頑張ってもガス圧、ガス流量の安定を高いレベルで実現するのは難しい。MGCのBV式も、結局のところ、射撃精度という部分はJACと大して違いは無かったようだ。

マガジンの装着方法は、正直いって面倒くさい。まずマガジンガイドという極太のスプリングをマガジンハウジング内に差し込み、その上からマガジンケースを装着してマガジンキャッチで固定する。その状態でマガジンケースの底部に開いている穴から、BB弾を装填したインナーマガジンを角度を合わせて慎重に差し込み、回転させてロックすることでやっと発射準備完了だ。途中でマガジンを抜くと、残ったBB弾がぶわっと飛び出してくるので、全弾撃ち尽くしてからでないとマガジンチェンジはできなかった。