2025/06/20
超長距離射撃の現実 訂正と補足
Gun Professionals 2015年7月号に掲載
2015年5月号のレポート“超長距離狙撃の現実”では、2,000ヤードを撃つ場合のスコープ調整について細かくリポートした。しかし、訂正すべき部分もあり、同時に少し説明不足の部分があった。申し訳ない。今回はその部分を説明させて頂きたいと思う。あのレポートは、松尾副編集長とメールと電話でさんざん議論し、何度も書き直したものだった。初校を確認してしばらくしてから間違いに気付いたが既に印刷中、もはや手遅れだった。
訂正させて頂く部分は、“45MOAのアングルベースを取り付けた状態で、100でゼロインし、2,000を撃つのに対し、スコープの調整量をストレートベースを基準に計算してしまった”という部分だ。
センターファイヤーライフルのアクションとバレルは基本的に、ストレートにフィッテイングされている。スコープのクロスヘアがエレベーション、ウインデージトータル調整量のちょうどセンターに調整されたものを用意し、通常のストレート(アングル付に対してのストレートだ)ベース&マウントでライフルに搭載したなら、100ヤードでのスコープのゼロインは5-10MOAの調整量内に収まるハズだ。中には曲がったバレルなどが要因(他にもいろいろあるが)でスコープの調整量を超えてしまうケースもある。過去に筆者自身、そんな例を何回も見てきたのでそれほど珍しいことではない。しかし、今回はそれについては無視し、100ヤードでのゼロインが5-7MOAの調整量内に収まることを前提とする(そうしないと話が混乱してしまうからだ)。
このスコープを同じ銃に装着する際、アングルベースで搭載したらどうだろう?例えばタクティカルシューターが1,000ヤード用として常用するのが20MOAベースだ。このベースは後部からマズル方向に向かい0.33°の緩やかなスロープが付いている。
MOAからのアングル(角度)計算の公式は以下の通り
MOA÷60=アングル(角度) |
アングルベースを使わないとスコープによっては600ヤード付近から当てるのに必要なエレベーション修正量不足の問題が起きてくる。市場にあるスコープのエレベーショントータル調整量は少なくとも60MOA以上ある。映画『アメリカン・スナイパー』で描かれたクリス・カイルが使ったナイトフォースNXS 8-32×56mm, Leupold 3.5-10 Mark 4 SFPはいずれも調整量65MOAだ。スコープの調整量のセンター付近でゼロインしていれば、エレベーションの調整量65MOAはセンターで上下1/2にされた格好となり、概ね32MOAが修正可能範囲となる。この調整量は通常倍率に反比例し、高倍率スコープは一般論として調整量が少なくなる。もっとも最近では、高倍率でありながら、120MOAといった調整量の大きなモデルも存在する。


前回の説明は45MOAのスロープを持つアングルベースは、スコープエレベーション調整可能範囲32MOAに45MOAの下駄をはかせ77MOAとするものだと説明した。しかし、よく考えてみればそれはおかしい。スコープはボアラインより45MOAも下に向けているのだ(45MOAアングルベースはスコープを銃腔軸線に対し45÷60=0.75°ほど下に向けて銃に取り付けられている)。
“アングルベースはスコープのエレベーション調整のスターティングポイントをずらす役目を担う” この事は重要だ。アングルベースを付けた以上、100ヤードでゼロインしようとしたとき、レティクルはスコープの調整量内のセンターではなく、かなり外れた部分をゼロとすることになる。具体的には調整量65MOAのスコープでは100でのゼロインは不可能となる。レティクルをめいっぱい動かしても、調整量不足でクロスヘアのセンターにPOIを持ってくることができないのだ。
65MOAという比較的小さなトータルエレベーション調整量を可能な限り2,000ヤード射撃に生かすとなると、ゼロインの起点は600-700ヤード付近がほぼ理想となる。勿論レティクルのデザインにもよる。この場合、600-700ヤード以下の射撃はレティクルラインによって行なうことになる。これについては後で触れる。.338ラプアマグナム250gr.で600ヤードをゼロとした場合、ここから2,000ヤードまでの調整量は71MOA前後となる。600の起点はでスコープエレベーション調整範囲のボトムに近く、ここから限界までエレベーションをアップ側に回す(クランクアップする)。65MOAのスコープでは、71MOAには追いつかない。またスコープによってはこのクリックデッドエンド付近で像が見えにくい場合もある。それでも足らないので、先のレポートでも再三述べた通り、レティクルラインのクロスヘア・センターラインの下のラインを使い不足分のMOAを補うことになる。
一方、600ヤード以下の近距離ターゲットを撃つ場合はどうするか。このスコープでの600ヤードゼロイン位置はスコープのノブによる調整範囲最下限にありエレベーション調整量はほとんど残されていない。ということから600ヤード以下はレティクルラインのクロスヘア・センターラインの上のラインを使う。100ヤード:-10.5MOA、200ヤード:-9MOA、300ヤード:-7. 25MOA、400ヤード:-5MOA、 500ヤード:-2.6MOAと言った具合だ。近い距離ほどクロスヘアセンターから遠いレティクルラインを使うことになる。
繰り返すが、スコープの中には調整のマックスに近くなると解像力が落ちるものがある。特に逆光とかになるとその見えにくさが倍加する。エレベーション調整量が65MOAだからといって65MOA全範囲でセンター時と同じ解像力を期待することはできない。なんかぼやけて、しかもラインを使ってのエイミングとなると少々問題が起こりうる。
メーカーによっては実際のスコープスペックに表示した調整量の動き数値を実際よりかなり抑えているところも少なくない。ともかくエレベーション調整量が大きなスコープなら余裕が出来る。例えばスコープのエレベーション・トータルが100MOAとか120MOAなら半分は50-60MOAだ。光学有効48-55MOAとして、45MOAのベースを使ってなんとか100ヤードでのゼロインをクリア出来、95-115MOAあたりがエレベーション調整に使えるはずだ。ということは.338ラプアマグナムなら100―2,000ヤードの距離修正がエレベーションダイヤルを回して行うことが出来る。理屈から言っても計算尺のような目安に近いレティクルラインによるホールドオーバーよりノブを回しての方が弾を正確に送り込める。レティクルは状況により使うことになる。特に即決による速射で各距離目標の撃破となるとラインホールドの選択技しかない。



Text & Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2015年7月号に掲載
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