2025/05/27
【NEW】ハートフォード コルトSAA.45 バントライン スペシャル Modelgun
Text by トルネード吉田
ハートフォードから、人気モデルガンのコルトSAA“バントライン スペシャル”が久しぶりの再販となる。“バントライン スペシャル”は、アメリカ西部開拓時代の伝説の銃だ。その特別に長い銃身は12インチ(約30cm)もある。
普通なら拳銃としてありえない程の長さの銃身だが、このSAAは実際にコルトが製造し販売したものだ。その名前“バントライン スペシャル”の由来は、ダイムノベル作家(大衆娯楽小説家)のネッド・バントラインが、かつて無法がはびこり最悪の町と言われたカンザス州のドッジシティの治安に貢献した5人のPeace Officersへ贈呈した特注の12インチのSAAを、そのように呼んだことからきている。
その銃が有名な保安官ワイアット・アープを含む5人へ贈られたのは1876年の夏頃だ。ただし、これは現在では「実際には、このようなエピソードの事実はなかった」と研究され、ほぼ結論づけられている(ただし完全に存在を否定できた訳ではない)。

バントライン スペシャルの伝説は、全て“WYATT EARP Frontier Marshal”という1冊の本から始まっている。これはワイアット・アープの生涯を描いた伝記本だ。邦訳も既に絶版だが1962年に鮎川信夫氏により「ワイアット・アープ伝 <真説・荒野の決闘>」というタイトルで出版されていた。この伝記本は作家のスチュアート・N・レイクがアープ本人から直接聞いた内容を書きまとめたものだ。だが実際の内容は、アープに関する史実とフィクションが入り交じって、アープの活躍をスーパーヒーロー的に描いており、大衆娯楽小説に近いものだ。そのレイクによる創作のひとつが、バントライン スペシャルなのだ。この本では「アープは銃を受け取ってから、保安官としてのキャリアを通じて最後までそれを愛用した」と書かれている。
バントライン スペシャルの実銃や伝記本で描かれていることについては、Gun ProfessionalsのWeb移行前最終号の2025年3月号の筆者の連載「WESTERN魂!」に“バントラインスペシャルの伝説”というタイトルで詳しく書いているので、ご興味のある方は是非そちらをご覧いただきたい。
ハートフォードがモデルアップした12インチのバントライン スペシャルの銃身左横には“COLT BUNTLINE SPECIAL .45”の刻印がある。これは戦後にコルトSAAが製造再開された時に(いわゆるSAAの2nd.ジェネーションだ)1955年から1961年にかけて放映されたテレビ西部劇『保安官ワイアット・アープ』(原題:The Life and Legend of Wyatt Earp)の人気にあやかって、コルトが1957年から発売したものだ。このTVシリーズでは銃身長12インチのSAAが使われている。
WYATT EARP / PEACEMAKER / From The Grateful People of Dodge City APR 1878 8TH
この刻印の“PEACEMAKER”とは、ご存じコルトSAAの最も有名な愛称だ。
今回再販のバントライン スペシャルのグリップには特別な仕様として、彫刻入りの真鍮製のメダリオン(プレート)が付く。このプレートは1993年の西部劇『トゥームストーン』にワイアット・アープの愛銃として登場したプロップガンをイメージしたものだ。
「トゥームストーン」とは「墓石」の意味だが、これはアリゾナ州のかつて銀の採掘で栄えた町の名前だ。映画『トゥームストーン』は、アープと彼の親友の元歯科医で殺し屋ギャンブラーのドク・ホリディの熱く激しい生きざまを見どころ満載、ガンアクションたっぷりに描き、比較的、史実に忠実でありながら見事にエンターテインメントに徹している真の傑作西部劇だ。この映画でのバントライン スペシャルの銃身長は10インチで、木製グリップの右側に彫刻入りの真鍮製のプレートがインレイされている。この銃は映画の中盤のクライマックスである“OKコラルのガンファイト”へアープが向かう直前に登場し、ドクとアープ3兄弟と宿敵のカウボーイズ4人との至近距離での正面切っての撃ち合いで火を吹く。『トゥームストーン』を観た西部劇ファンなら誰もが憧れ、この銃を欲しがるだろう。
『トゥームストーン』のバントライン スペシャル
映画『トゥームストーン』に登場した10インチのバントライン スペシャルのプロップガンは、映画のアーモラー(武器係)を担当した現代のカウボーイであり、オールドウエストの歴史研究家でもあるピーター・シェライコ(Peter Sherayko)によるものだ。
彼は、アープが実際に長銃身のSAAを持っていたという説を裏付ける数少ない根拠の1つに基づき、12インチではなく、10インチのバントライン スペシャルのプロップガンを作り上げた(プロップガンといっても実弾が発射できるものだ)。シェライコは「トゥームストーンのバーテンダー“バックスキン”フランク・レスリー(“Buckskin” Frank Leslie)が10インチのコルトピストルを注文した」という当時の記録(コルトへの注文)からのイメージをふくらませ「当然、アープを知るレスリーがアープを尊敬し、アープと同じ銃を持ちたかっただろう」と推測、そこから「アープのバントラインは10インチ」と考察したのだ。
シェライコはイタリア・ウベルティ製のSAAレプリカ3挺を、アメリカのインポーターのEMF(Early Modern Firearms)Companyを通じて取り寄せた。その3挺の製造番号は連番で、銃身長7-1/2インチだった。そのためシェライコはコルトへ特注した10インチの銃身をガンスミスに交換させ、更にワイアット・アープの伝説に敬意を表して銃身に“COLT BUNTLINE SPECIAL .45”を刻印させた。
レイクの小説によると、ネッド・バントラインがコルトへ特注したバントライン スペシャルのウォルナット製のグリップには“Ned”の文字が深く刻まれていたという。あとはこれを再現すればプロップガンは完成だ。
しかし、『トゥームストーン』を元々監督する予定だった脚本家兼監督のケビン・ジャール(Kevin Jarre)は、“Ned”の文字の彫刻より、もう少し“伝説的”なものを目指したかったため、プロップガンの右側の木製グリップに彫刻家のジョン・エニス(John Ennis)によってデザイン・製作された彫刻入りの真鍮のプレートをインレイさせたのだ。そのプレートには「ワイアット・アープ ピースメーカー(平和の使者) ドッジシティの感謝する人々より 1878年4月8日」と刻まれている。こうして西部劇史上、最高にカッコいい伝説のバントライン スペシャルのプロップガンが出来上がったのだ。
撮影後、3挺のバントライン スペシャルのプロップガンは、1挺はアープを演じたカート・ラッセルが持ち帰り、1挺はジョージ・P・コスマトス監督が保管し、残りの1挺は個人のコレクターの手に渡った。なお、ピーター・シェライコは『トゥームストーン』で、アープ率いる追跡隊のメンバーの一人である“テキサス・ジャック” バーミリオン(“Texas Jack” Vermillion:実在した西部のガンファイター)役で出演しており、撮影後に映画で使われた銃やガンベルト、スパー(拍車)、サドル(鞍)、ナイフなどの小道具を紹介する“TOMBSTONE -THE GUNS AND GEAR-”というフルカラーの本を出版している(もちろん筆者は、これをアメリカから取り寄せ済だ)。
映画『トゥームストーン』について
『トゥームストーン』は、真の傑作西部劇だ。筆者が選ぶ“西部劇ベスト3”には必ず入れたい1本だ。だが残念ながら、この作品は今の日本では視聴が難しい。DVDは1998年に日本語吹き替え入りで発売されたが、既に廃盤。日本盤のBlu-rayは未発売。たまにテレビの地上波で放映されるが、136分の映画をCMありの2時間枠に収めるため全編をズタズタにカットされ、何と大きな名場面のひとつのドク・ホリディとライバルのガンマン、ジョニー・リンゴの酒場でのガンプレイ(ガンスピン)対決もばっさりカットという悲劇的な編集になってしまっている。中古DVDも今や貴重なため、5千円とか8千円、1万円以上とかの高値で取り引きされている。もし何とか視聴できるなら、絶対にオリジナルの長さで観ていただきたい作品だ。
筆者は当然、DVDは所有しているが、やはりアープのバントライン スペシャルや、ドクが使うコルト1877ライトニングなどのプロップガンのディテールなどを美麗画質でよく見たいため、アメリカ盤のBlu-rayも購入した。やはり映画は絶対に画質が良い方が、より楽しめる。当然、米盤のBlu-rayには日本語字幕は付いていないが、何度も繰り返し観た映画なので鑑賞に問題はない。だが、やはり日本盤のBlu-ray(吹き替え収録で)の発売を期待したいところだ。
今回再販のハートフォードのバントライン スペシャルは、気になるファンなら絶対に購入した方がよい。『トゥームストーン』劇中のプロップをよく再現している真鍮製のメダリオンだけでも、かなり貴重だ。ハートフォード東京店の限定カスタムの“マニアック100シリーズ”でリリースされる予定なので、生産数は多くない。ケースハードン調のブルーイングは手作業によって仕上げられるので、一度に数多くは作れないのだ。6月中旬~7月中旬の発売予定とのことなので、欲しい方は今すぐに予約をしよう。
ハートフォード
コルト SAA.45 バントラインスペシャル
全長:445mm
全高:130mm
全幅:43mm
重量:850g(カートリッジ含む)
装弾数:6発
価格:未定(2025年6月中旬~7月中旬発売予定)
お問い合わせ先:ハートフォード
Phone: 0120-187345
Text by トルネード吉田
Gun Pro Web 2025年7月号
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