2025/04/21
COLT New Model Army 1860【Vintage Model-gun Collection No.3】
Vintage Model-gun Collection -No.3-
COLT
New Model Army 1860
(1977年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals Vol.3 (2012年6月号)に掲載
第二次モデルガン法規制の直前に発売され、わずか数ヵ月で姿を消すことになった悲劇のモデルガンがマルシンのM1860だ。MGCのコルト・ネービーM1851(1969)に対抗して作られたものの、あまりに短期間でファンに注目される余裕すらなかった。しかしウエスタン好きには深く印象に残るモデルだった。


諸元
メーカー:マルシン工業(MKK)
名称:コルトニューモデルアーミー1860
主材質:亜鉛合金
発火方式:パーカッション式
撃発機構:シングルアクション ハンマー
使用火薬:平玉紙火薬(?)
全長:約330mm
重量:約1,050g
口径:.44
装弾数:6発
発売年:1977(昭和52)年
発売当時価格:¥7,500
※smG規格合格品以外は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエローを吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではではありません。また価格は発売当時のものです。
コルトニューモデルアーミー1860(アーミーM1860)がマルシンから発売されたのは1977年のこと。昭和で言うと52年で、第二次モデルガン法規制が施行された年だ。広告が初めて専門誌に掲載されたのは10月末に発売される12月号だから、おそらく発売は10月頃だったのだろう。
しかし、12月1日から第二次モデルガン法規制が施行されることになっていたので、その寿命はわずか2ヵ月足らず。なぜ新製品として発売したのか。
その答は今回お借りしたモデルに刻まれていた。バレルの基部にsmGと刻まれているのだ。つまり法規制対象外品のマーク付き。
かつてマルシンでプラグファイヤーBLKシステムの開発に関わった池谷立美さんにお話を伺ったところ、マルシンはトップストラップのないオープントップフレームのリボルバーは、銃身分離タイプにならないと考えていたらしい。
つまり銃身相当部分にはバレル基部と呼ぶべき部分があって、これはフレームの一部に相当するのではないかという判断だ。それを意識してのことなのか、バレルには基部との境に段が付けられている。これは実銃にはない特徴だ。あえてモデルガンに取り入れたとしか思えない。
日本モデルガン製造協同組合もそのように考えていたようで、マルシンのこのモデルに対して「銃刀法施行規則第17条の3に基づくsmG規格合格証」を発行している。



ところが警察の判断は銃身分離タイプ(法規制対象品)だった。店頭に出回っていたものは回収となりマルシンに戻された。そして戻されたアーミーM1860は、ねじやばねなどを外してすべて溶かされてしまったそうだ。相当な数があったらしい。もったいない話だ。マルシンには大きな痛手となったことだろう。
ただ、回収にはなったが、すでに販売されたものまで回収ということにはならなかった。そのためsmGマークの入ったアーミーM1860も少数だが存在することになった。注意しなければならないのは、所持していても法律違反ではないが、smGマーク入りだからといって売買すると違法になることだ。くれぐれもお気をつけいただきたい。
今回お借りしたアーミーM1860には「1 78」の刻印がある。これは1978年1月に製造されたか出荷されたという意味だろう。明らかに第二次モデルガン法規制後の日付だから、運良く回収されずに販売されたものの1つだと思われる。警察の判断に何カ月か掛かったため、その間に販売された可能性が高い。
そんなわけで、マルシンのアーミーM1860には2つの仕様が存在するようだ。sm仕様のものとsmG仕様のものだ。外観からは刻印の違いのほか、smG仕様のものはシリンダー隔壁が5mmくらいの幅でカットされていることから見分けられる。
国内では数ヵ月の短命に終わったマルシンのアーミーM1860だったが、マルシンはおそらく輸出もしていただろうから、すぐ完全に製造中止になったのではないと思われる。輸出モデルは規制対象外だ。






マルシンのアーミーM1860の刻印を良く見てみると、バレル上面に“A RMY MODEL 1860 CA L .44 RMI”とある。ひょっとして、このRMIはアメリカで日本のモデルガンなどを輸入・販売していたレプリカモデルス インクのRMIではないだろうか。グリップの底にもJAPANの文字(浮き彫り)があるし。国内向けだけだったらこの刻印はいらないはずだ。
調べてみたところ、1977/1978年版のRMIのカタログに1860シビルウォーアーミーリボルバーというモデルが掲載されている。若干仕様が違うが、たぶん間違いないだろう。
いずれにしても、マルシンのアーミーM1860の発売は新鮮だった。それまで、オープントップのパーカッションはMGCのコルトネービーM1851しかなかった。パーカッションだけならCMCのレミントンもあったけれど、よりクラシックさを感じさせるオープントップではなかった。
しかし、MGCのネービーM1851は1969年(昭和44年)の発売。なんで今頃マルシンがという思いもあったのは事実。
1970年代に入って最後のTV西部劇と言われたNHKの人気番組「西部二人組」(1972〜1973:日本公開年、以下同じ)も途中で打ち切りとなるなど、ウエスタンブームも下火になりつつあった。映画では、かろうじてクリント・イーストウッド監督・主演の「アウトロー」(1976)が公開されたくらい。ジョン・ウェインの遺作となった「ラスト・シューティスト」は1976年にアメリカで公開されながら、日本で公開されたのは1979年になってからだった。
西部劇以外なら、同じイーストウッドの人気シリーズ最新作「ダーティハリー3」(1976)や、スピルバーグの「未知との遭遇」(1978 )、現在まで続く人気シリーズの第1作め「スター・ウォーズ」(1978)などが公開され、大ヒットしている。
TVではNHKの「警部マクロード」(1975〜1977)、TBS系の「刑事コジャック」(1975 〜1979)、テレビ東京系「特別狙撃隊SWAT」(1976)、TBS系「刑事スタスキー&ハッチ」(1977〜1981)など、ポリスアクション全盛となった。
なぜその時アーミーM1860だったのか。まず発売の前年、1976年はアメリカ建国200年だった。フランスのグループ、バンザイの「ビバ・アメリカ」が大ヒットし、7月4日をピークに日本でも各地で記念イベントが開催された。その中にアメリカを象徴するようなウエスタンショーもあった。六研/ CMCのプラスチック製SAAが発売されたのも1976年だ。






映画やTVではすでにウエスタンは終わりつつあったが、まだモデルガンの遊びやファッションとしてのウエスタンは残っていたのだ。
マルシンは、MGCのネービーM1851を横目でにらみつつ、同じコルトでアーミーのM1860に白羽の矢を立てた。これなら古式銃として日本に実銃が存在するから、国内取材が可能ですぐに作ることができる。
その古式銃(サード・モデルらしい)から図面が起こされ、マルシン内にあった金型部門でベテラン職人さんによって金型が掘られた。まだ放電加工などは使われていなかったという。
そしてMGCのネービーM1851では実現されていなかったことを取り入れた。まず、MGCではオプションとされていた彫刻(テキサスとメキシコ海軍の海戦の様子)入りシリンダーが標準装備とされた。
また、MGCでは一体だったローディングレバーのラッチをちゃんと可動の別部品にした。さらに、トリガースクリューとロッキングボルトスクリューもねじ山を実銃どおり頭側に切り、メイン・スプリングにも板ばねを使った。
ただ、バレルの固定方法はMGCと同じ六角穴付きボルトで留めるスタイルが踏襲された。これは改造防止策の1つだろう。




不思議なのは、パッケージの箱を見るとどこにもパーッカッションキャップを収納するスペースが作られていないこと。さらにシリンダーのニップルにも穴が開いておらず、かりに火薬を使って撃ったとしてもガスは抜けず、ハンマー付近でしか音がしない。池谷さんにその点を伺ったところ。ハッキリとは覚えていないが、たしかパーカッションキャップは作らなかったと思うとのこと。ひょっとしたら発火モデルとは考えていなかったかもしれない。もし発火させたければ、MGCのパーカッションキャップを使ってもらう方式だったのかもと。確かにパーツ表にもパーカッションキャップの記載がない。
あるいは、いずれと考えていたものの、規制対象となったため、実現できなかったのかもしれない。ストックも取り付けられるモデルだったが、それも作られなかった。木製グリップも出ていない。
しかし、当時としてはユニークなモデルであり、1種類しかなかったオープントップリボルバーを充実させるものだった。ああ、買っておけばとはいつも思う言葉。まさかあんなにすぐ無くなるとは。まさに悲劇の1挺。



●Vintage Model-gunとは
本コーナーにおけるヴィンテージモデルガンは、原則的に発売されてから20年以上経過した物を対象としています。つまり現時点で1992年以前に発売されたモデルガンということになります。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:池谷立美
撮影協力:酒井 恒
Gun Professionals Vol.3 (2012年6月号)に掲載
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