2025/04/27
【NEW】無可動実銃に見る20世紀の小火器196 Heckler & Koch SL8-1
SL8
そして1994年9月13日以降、アサルトウエポンと見做された銃を製造するアメリカのメーカーは、それまでの製品の名称や、一部仕様を変更して、アサルトウエポンに該当しないような形で製品を継続供給した。多くの場合、マガジンは5連、または10連という短いものを装着して販売したが、マガジンの規格は従来と同じであるため、9月12日以前に製造された大容量マガジンを装着することができる。ようするに、アメリカのガンメーカーはどこも、AWBが施行されたからといって、アサルトライフルベースのセミオートライフルの製造を中止したり、まったく新しい軍用色のないライフルを開発したりはしなかったのだ。それに対し、ドイツのヘッケラー&コッホは、新しいスポーツライフルを1998年に発表している。それがSL8だ。



チークピースは内側にスペーサーを噛ませることで高さ調節ができる。またバットプレート部に10mm厚のスペーサーを噛ませることで、最大50mmまでLOP(バットプレートからトリガーまでの長さ)を調整できた。
SLとはSelbst-Lade(自動装填)の略で、それまでにヘッケラー&コッホは.223RemのハンティングライフルHK630をベースとしたSL6、.308WinのハンティングライフルHK770をベースとしたSL7を製品化している。SL8はそれに続く製品という位置づけだ。
しかし、SL6, SL7がローラーディレイドブローバックであったのに対し、SL8はショートストローク ガスピストンで作動する。これは1990年代前半にドイツ連邦軍用として新しいG36を開発したことによるものだ。
この時、ヘッケラー&コッホはG3から続くローラーディレイドブローバックの技術的な限界を認識し、ガスピストン方式に移行した。そして完成したG36は1997年にドイツ連邦軍に採用されている。
SL8は新しいG36をベースとしたセミオートマチックライフルという位置付けで、1998年に発表された。SL8のデザインには、アメリカが1989年に施行した外国製セミオートアサルトライフル輸入禁止処置と1994年のAWBが強く影響している。もしこれらの逆風がアメリカ市場で吹いていなければ、ヘッケラー&コッホはG36をほぼそのままセミオート化して市場投入しただろう。しかし、現実問題としてそれではアサルトウエポンと見做されてしまうし、外国製アサルトライフルベースのセミオートモデルなので輸入することすらできない。

ボルトフォワードアシストとして使用する場合は、コッキングレバーを引き起こし、その状態のまま内側に押し込むとコッキングレバーとボルトがリンクする。これによってボルトの動きを外部からコントロール可能となる。弾薬をチャンバーに装填する際、できるだけ音を立てずにおこないたい時などにも、このロック機能は有効だ。
そこでヘッケラー&コッホはG36の外装パーツをすべて別の形に置き換えた。G36はポリマーを多用し、その外装パーツもほとんどがポリマーだったから、これは比較的容易にできたのだろう。結果的にSL8はG36のセミオートモデルでありながら、アサルトウエポンには該当しないスポーツライフルとして市販された。実際に先に挙げたアサルトウエポンの定義、そのすべてに該当していない。
・マガジンは着脱式のシングルスタック10連を装備している。
・ストックは固定
・独立型ピストルグリップでなく、グリップ下部がストックとつながるサムホールタイプ
・着剣装置なし
・フラッシュハイダーなし、マズルスレッドなし
・グレネードランチャー装着機能なし
これによりアメリカへの輸出も可能となるし、販売においても全く制約を受けない。
しかしながら、細部を見ていくとこの銃は明らかにG36ベースであることがわかる。グリップのアングル、セイフティレバーの位置と形状、トリガーの形状、そしてなにより、コッキングハンドルのデザインと操作性が全く同じなのだ。またボルトアッセンブリーにも互換性がある。但し、アメリカ輸出仕様は、AWBに対応するため、シングルスタックの10連マガジンを使用するため、ボルトヘッドは通常型のG36とは異なる。

マウンティングレイルは別物で、SL8はオープンサイトシステムを装備しているが、実際にはG36のサイトユニットが丸ごとSL8に装着できるようになっている。初期のG36は、Hensoldt(ヘンゾルト)製の3倍のオプティカルサイトとその上部に等倍のレッドダットサイトを配置したデュアルサイトシステムを装備していた。その後にこのサイトシステムは使いにくいという結論に至り、ピカティニーレイルを装備して様々なオプティカルサイトを装着可能とした。SL8にはそのG36初期型サイトユニットも改良型ピカティニーレイルも問題なく装着できる。
ヘッケラー&コッホは、このSL8を幅広く、世界中に販売すべく、仕様の異なるモデルを数多く製造した。アメリカ向けはシングルスタックマガジン仕様でロングオープンサイトベースの“SL8-1”が供給されたが、装弾数規制の無い国に向けてはG36用30連マガジンが装着できる“SL8”、G36のハンドガードと30連マガジン、ピカティニーレイルベース仕様の“SL8-4”、SL8-4のサイトシステムをSL8-1と同じオープンサイト仕様とした“SL8-5”、ドイツ連邦軍のDMRライフルとして試作された“SL8-2”などがあった。
さらには、5.56×45mm、あるいは.223レミントンは軍が使用する口径であることから民間で所持できない国に向けて、.222レミントン仕様としたSL8-10、サプレッサー対応の“SL9SD”, セミオートマチックライフルが禁止されている国に向けて、ストレートプルボルトアクションとした“R8”等がある。


これを改善することはできる。SL8(G36)には、ボルトをマニュアルでホールドオープン状態のまま保持するためのボルトキャッチボタンがある。トリガーガード内側の前上部にある小さなパーツで、ボルトを引いた状態でこれを押し上げると、マガジンの有無、弾薬の有無に関係なく、ボルトはホールドオープンとなる。このパーツをボルトリリースレバーとして機能させるパーツが、H&K純正、あるいはアフターマーケットパーツとして存在するので、それを装着すれば良い。なぜH&Kは最初からこれを組み込んでいないのか、ちょっと理解に苦しむ。マガジン交換のたびにコッキングレバーを引き出して、これを引くという操作は明らかに不利だ。
SL8の現在
アメリカ市場向けSL8-1は、2004年のAWB失効時に供給が止まったが、2006年から供給を再開、これが2008年まで続いた。
2017年にはSL8-1の仕様を見直し、やはり10連マガジンだが、ハンドガードをG36と同一形状とし、オープンサイトシステムを止め、13インチのピカティニーレイルベースを装着した“SL8-6”の供給が始まった。かつてのSL6-1は樹脂パーツがグレーであったが、新型SL8-6はブラックとなっている。
SL8-6のベースとなったドイツ国防軍のG36は、中東の砂漠地帯で長期間使用すると、内部の樹脂パーツが高温で軟化し、銃の命中精度を低下させるという事実が2012年に発覚、大問題となった。そのためか、このSL8-6のバレルを保持するトラニオンには、スチールがインサートされている。これが高温でのパーツ軟化対策のための改良なのかは不明だ。
そのようなアップデートが加わったSL8-6だが、現在のヘッケラー&コッホUSAではHK416の民間市場向けライフルとしてMR556、またHK417の民間市場向けライフルとしてMR762を供給しており、今更アメリカ市場にSL8を供給し続ける意味は無い。
事実として、SL8-6の供給は短い期間で終わった。現在のヘッケラー&コッホUSAの主力5.56mmライフルは、今年新型が発表されたMR556A4だ。これらは民間市場向けライフルであっても軍用のHK416, 417との外観上の差異はほとんど無いものだ。
その一方で、G36を民間市場に供給すべく、G36 .22LRが2025年4月に発表された。これは.22LRながら軍用G36のアクセサリーパーツと一部互換性を持たせるなど、単なる.22LRバージョンではない魅力的な製品となっている。
以上はアメリカ市場での話であり、SL8のバリエーションはドイツ国内を始め、ヨーロッパやその他の国々に向けて現在も供給が続いているようだ。
Heckler & Koch SL8-1
全長:980mm
銃身長:20.8インチ(528mm)
全幅:60mm
全高:250mm(10連マガジン装着時)
重量:3.9kg(マガジン込み:無可動実銃化加工前)
作動方式:ガスオペレーテッド、ショートストロークガスピストン
口径:.223Remington
無可動実銃
価格:\550,000(税込)
(無可動実銃はボルトが溶接されているため、ボルト操作、装填、排莢等はできません。)
シカゴレジメンタルス
東京上野本店
〒110-0005
東京都台東区上野1-12-7
Phone 03-5818-1123
Fax 03-5818-1124
営業時間:12:00~19:30
年中無休(年末年始を除く)
大阪ショールーム
〒541-0048
大阪市中央区瓦町1-5-14(瓦町一丁目ビル4階)
Phone 06-6223-9070
FAX 06-6223-9071
営業時間:12:00~20:00
年中無休(年末年始を除く)
Text by Satoshi Matsuo
Gun Pro Web 2025年6月号
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。