2025/04/20
S&W Model 69 Combat Magnum【動画あり】
Smith & Wesson
Model 69 Combat Magnum
L フレームの5 連発.44 マグナム
Text and Photos by Terry Yano
Special thanks to On Target, Tylar Coe, Bowen Classic Arms Corp., Mike Cummings, Tsuki-san, and Philip Davenport
Gun Professionals 2015年1月号に掲載
かつては世界最強のハンドガンカートリッジであった.44マグナムだが、今ではトップ5にも入らなくなってしまった。しかし、実用性は高く、マグナムハンドガンカートリッジとして現在でも人気はまったく衰えていない。アモのサイズやプレッシャーの高さから、同口径のリボルバーは大型フレームのものがほとんどであったが、近年は装弾数を減らして中型フレームに組み合わせたモデルも存在する。.44マグナムの本家本元であるスミス&ウェッソンも、2014年のSHOT SHOWでLフレームの.44マグナム5連発リボルバー、モデル69を登場させた。
対猛獣用ハンドガン
ハンドガンの多くは対人用として作られているが、競技用や狩猟用などに特化してデザインされたものも少なくない。大型獣に対する護身用ハンドガンもそのひとつだ。例えば、アラスカでフィッシングやキャンピングをしようというのであれば、熊に遭遇することも想定する必要がある。こういった件に関しては、同州に在住の本誌リポーター、ウッディ小林さん以上に詳しい方は思いつかない。私などに語る資格はないのだが、以前からアラスカでのアウトドアライフを経験したいという夢をもち続け、その時に携えてゆく銃器を検討しているといえば、なんとか格好がつくであろうか。
熊などの大型獣の襲撃から身を守るために携行するハンドガンは、作動不良が死活問題となる点においては対人用のキャリーガンと同様だ。これに加えて、大きなパワーと高い貫通力が求められる。ブラックベアなら.357 SIGでも十分に倒せると考えられているが、もっと大型で獰猛なブラウンベアを相手にするのであれば、少なくとも.44マグナムクラスのパワーを用意しておきたい。勝負は数発で決まるので、装弾数の多さよりもカートリッジのパワーが優先される。こうなれば、セミオートハンドガンよりもリボルバーに分があることは明白だ。
.17 HMRから.50 S&Wマグナムまでバラエティー豊かなダブルアクション(以後はDAと略す)リボルバーを製造するスミスアンドウェッソン(Smith & Wesson、以後はS&Wと略す)のラインナップには、ビッグゲームハンティング用の長銃身モデルのほか、アウトドアでの対猛獣を想定した比較的短銃身の大口径キャリーガンも少なくない。

左から、今回の主役であるモデル69(.44マグナム、5連発)、チタン合金製シリンダーを備えたモデル520(.357マグナム、7連発)、5インチのスラブサイディッドバレルとチタン合金製シリンダーを備えたモデル968(9×19mm、7連発)。


写真上がNフレーム6連発のモデル629(6インチ銃身)で、下がLフレーム5連発のモデル69(4.25インチ銃身)。

.44マグナム
.44マグナムは、銃器メーカーであるS&Wと弾薬メーカーであるレミントンが共同で開発し、1956年に発表されたビッグゲームハンティング用のハンドガンカートリッジで、当初は“.44 Remington Magnum”という呼称も用いられている。240グレインの弾頭を1,450fpsで撃ち出し、マズルエナジー(初活力)は1,120ft.lbsという当時のハンドガンとしては驚くべき数値を示した。開発経緯を詳しく書けば長くなるので、いつかモデル29をリポートする時に改めて紹介したいと思う。
S&Wの“The .44 Magnum”(後のモデル29)やスタームルガーのシングルアクション(以後はSAと略す)リボルバーであるブラックホークに採用されたほか、ルガーのセミオートマティックカービンやマーリンのレバーアクションライフルに採用され、ミッドレンジにおけるディアハンティング用のハンドガン/ライフルカートリッジとしてポピュラーになった。

S&Wとルガー以外にも、ダン・ウェッソン、インターアームズ/バージニア・ドラグーン、コルト、フリーダムアームズ、マグナムリサーチ、トーラスなど多くのメーカー/ブランドによってSAやDAの.44マグナムリボルバーが製造されている。また、トンプソン/センター(T/C)の中折れ単発拳銃であるコンテンダーや、自動拳銃であるデザートイーグルにも同口径のモデルが追加された。
発表当時は世界最強のハンドガンカートリッジであった.44マグナムだが、1959年に発表された.454カスールにその王座を奪われている。その後も.500や.475のラインバーマグナムなど、.44マグナムよりパワフルなハンドガンカートリッジは次々に登場したが、それらワイルドキャットを使用するのはカスタムメイドの特注リボルバーだ。市販されているハンドガンとファクトリーアモに限定すれば、.44マグナムはしばらく世界最強の地位を保っていた。現在のパワーランキングではトップ5にも入らないが、アモのバリエーションは多くて入手しやすいことから、今でもその人気が衰えていないことがわかる。現在、2003年に発表された.500 S&Wマグナムが世界最強のハンドガンカートリッジとして君臨しているが、同口径のために開発されたXフレームリボルバーはメインアームとしてならともかく、サイドアームとして携行するには大き過ぎる図体となった。
S&Wの.44マグナムリボルバーの発展
S&Wの.44マグナムリボルバーは、1957年のモデルナンバー採用後はモデル29となり、1979年にはステンレススティール版のモデル629が追加された。1990年にはフルラグド銃身を備えた“.44 Classic Stainless”と、それを木製グリップや交換式フロントサイトなどで前者をアップグレードした“.44 Classic DX Stainless”シリーズが登場している。
大型のNフレームで作られたモデル29 / 629は、4~8-3/8インチの銃身長のものが多いが、マグナポート付き3インチ銃身の“Trail Boss”(トレイルボス)という限定モデルや、メタリックシルエット射撃用の10インチといった銃身長でも製造された。ハンティングやロングレンジの競技用としては6インチ以上の長銃身が好まれるが、大型獣に対する護身用としては4インチ前後の銃身長が好まれる。軽量な4インチのテーパードバレルを備えたモデル629マウンテンリボルバーが作られ、後のマウンテンガンシリーズに発展したのは、山歩きの護身用として携行性が考慮された結果だ。

2003年、S&Wはスキャンディウム添加アルミ合金製フレームとチタン合金製シリンダーを備えたPDシリーズを発表する。これらには2ピース構造のバレルが採用されており、ライフリングをもつステンレススティール製のライナーにアルミ合金製のシュラウドを組み合わせるなど、軽量化が徹底されていた。発射時にシリンダーギャップから噴き出す高温高圧のガスから軽合金製のフレームを守るため、トップストラップ前部下面にはステンレススティール製のブラストシールドが設置されているのも興味深い。
PDシリーズの中で、.44マグナムを使用するのが“Model 329PD Airlite Sc”だ。軽量化は携行性向上にはよいが、一般的に同じアモを軽い銃で撃つと、重い銃で撃つよりは反動が強くなる。未装填重量が26オンス(737g)というモデル329PDを実際に撃ったことはないが、所持者によればの発射した時のリコイルはかなり不快であるとのこと。ただ、ハンティングの時など興奮状態では発射音や反動が気にならなくなることから、多少リコイルはきつくとも携行性を優先する人は少なくないのであろう。私自身は、練習時のことも考慮して、あまりにリコイルの強い銃をサイドアームにすることは避けたいのだが、考え方は人それぞれだ。

フロントサイトはレッドインサート入りのセレイティッドランプスタイルで、ロールピンでリブのスロットに固定されている。

バレルライナーはライフリングを利用して締め付ける専用工具によってフレームに取り付けられており、ガンスミスでも取り外し・締め付けが困難となった。
.44口径のキャリーガン
対猛獣用として.44マグナムのパワーは頼もしいが、大型リボルバーを携行するにはかなりのガッツが要求される。なんとか携行性を向上させようと、S&Wは前述のマウンテンガンシリーズを発表したわけだが、これは限定数が製造されただけにとどまった。一方、ルガーは同社の大型DAリボルバーであるスーパーレッドホークに2.5インチという短銃身バージョンの“Alaskan”(アラスカン)を加え、これをスタンダードアイテムとしている。スーパーレッドホークはS&Wのモデル29 / 629よりもはるかに頑丈で、.44マグナムに加えて.454カスールや.480ルガーといった口径のバリエーションも追加されており、それなりに売れているようだ。しかし、銃身長が短くなっても大きなシリンダー部はそのままで、未装填重量が1.3kgという大きな銃を携行するのは楽ではない。.44口径以上で6発という装弾数を維持しようとすれば、携行性を向上させるにも限界があるというわけだ。
“Sixshooter ”(シックスシューター)というのはリボルバーを意味する英会話表現だが、本誌読者の皆さんなら現在は7連発や8連発はもちろん、9連発や10連発のリボルバーが存在することをご存知であろう。また、5連発のリボルバーもキャップアンドボールの時代から存在する。リボルバーの全幅はシリンダー径で決まるので、スリム化するには装弾数を減らしてシリンダー径を小さくするしかない。
イギリスのウェブリーは、1872年からブリティッシュ・ブルドッグと呼ばれる小型ソリッドフレームに.44~.45口径という大口径カートリッジを組み合わせたDAリボルバーを製造しており、ヨーロッパ各国やアメリカでもコピーが作られた。大口径小型リボルバーの先駆けで、このコンセプトはチャーターアームズの.44ブルドックに受け継がれている。これは.44スペシャル5連発のスイングアウトリボルバーで、他口径の派生派も含めて50万挺が製造されたといわれているベストセラーだ。チャーターアームズは倒産と再生を繰り返しながら現在もブランドは存続しており、ブルドックシリーズの製造も続けられている。
S&WもLフレームに.44スペシャルを組み合わせた5連発リボルバーをいくつか発表したが、いずれも製造期間は短く、今では実用品というよりはコレクターズアイテムとなってしまった。リボルバーのカスタマイジングが得意なガンスミスであれば、.38口径6連発のLフレームを.44スペシャル5連発に作り変えることもできるのだが、こういった大口径コンバージョンのカスタムリボルバーを所持するには、相当な出費を覚悟しなければならない。


S&Wのハンマーからファイアリングピン(ハンマーノーズ)がなくなったのは1998年のことで、以後ファイアリングピンはフレームに内蔵された。
