2025/04/13
Smith & Wesson TERRIER & HAND EJECTOR
Smith & Wesson
TERRIER & HAND EJECTOR
Photos & Text by Toshi
Gun Professionals 2018年6月号に掲載
1950年代中期のS&Wテリアと60年代後期のハンドエジェクター、古き良き時代のクラシックリボルバーだ。“チーフのようでチーフじゃない”このキャッチを使うのは、旧Gun誌2002年5月号以来の2回目。今回はそんなチーフ似の2挺をまとめてお届けする。
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憧れのチーフ
今、行きつけのガンショップに、最古型のチーフが1挺並んでいる。
フロントサイトが半月型でトリガーガードが小さく、さらにグリップも短い時期の製品。サムラッチもやや角張った小判型(俵型?)だ。
シリアルは972番だから完全に初年度、つまりチーフが誕生した1950年製である。相当に古く、且つ珍しい。
チーフなら、自分は手元に3挺持つ。内2挺は50年代前半の初期型で、残る1挺も5スクリューだから結構古い。が、どれも店頭のものほど古くはなく、何といっても半月型フロントサイトのインパクトには負ける。コレは絶対に揃えたい。
自分よりもチョイ古いマニアの方なら、多分ディテクティブこそがスナブノーズの王道ってことになるのかもしれない。あっちは誕生が1927年とメチャ古く、スナブノーズの語源ともなった元祖中の元祖。けども、モデルガン時代から自分が慣れ親しんでいるのは、どっちかと言えばチーフのほうなのだ。渡米当初に買ったステンレス製チーフを、金に困って売り払ったのが未だに後悔されるくらいで。
店頭にある最古型は、マジで滅多に出ないというか、自分が見たのは過去に一度だけだ。カリフォルニア在住時代、ガンショーで買い損ねをやった。その時は、オリジナルの真っ赤な箱入り極上が800ドル。10年ほど前の話である。既に先客がいて涙を飲んだ。アレは一生、引き摺るほどに悔しかったぜ。


しかし、だったら店頭の1挺を早く押さえろって話だが、程度が中の下に加えて、ガッカリな部分が一つあるのだ。実はトリガーのグルーブが、見事に削り落とされているのである。指触りを気にしたのかもしれないが、まったく残念な事をしてくれたもんだ。
それでも、お値段は1,000ドルという。多分店員は、トリガーの件は知らずに値付けをしたに違いない。少しでも加工が入れば、オリジナルとしての価値は一気に落ちる。ま、せっかくだから黙っておくか。
それにしても残念だ。最古型のチーフさえ手に入れば、チーフ集めは打ち止めにしても良いくらいのもの。イヤ、それはウソか。まだまだ足りないか。映画『タクシードライバー』に出てきたニッケルめっきで小判型ラッチでスクエアバットのヤツも絶対欲しいし(コレ、何度も書いてます)、普通の70年代物も揃えたいしステンレス製も買い戻したい…打ち止めは全然、程遠い有様か。
さて、そんなワケで極初期チーフとはどうやらご縁が薄そうなので、今回はチーフのようでチーフじゃないS&Wの小型リボルバーを2挺、ご覧頂こうと思う。どちらも超お気入りの逸品、テリアとハンドエジェクターだ。

テリア
先ずはテリアから。
コイツは一目見て、可愛い。チーフの可憐さを好む人なら一発で気に入るだろう。
口径は.38S&W、それを5発だ。半月型のフロントサイトは、前章で書いた最古型チーフと同じシェイプ。サムラッチ以外の外観はとことん似ている。
が、だ。コイツはJフレームではない。それより古くて小さいIフレームのリボルバーだ。
Iフレームは1894年に開発され、1896年から一般へお目見えした小型フレームだ。生産は1960年まで続き、途中、ココから枝分かれしたのがJフレームである。
テリア自体の登場は、1936年だ。コレには、コルトのスナブノーズの動きが大きく関係している。
コルトは1920年代初頭から、バンカーズスペシャル(1926年)やらディテクティブ等々の短銃身のリボルバーを次々に製作し、主に鉄道員やら郵便配達人らに好評を得ていた。その状況を横目で見つつも、S&Wは「短銃身だとリコイルが強くて命中精度も落ちる」との理由からひたすら敬遠し続けていた。しかし、市場のニーズが徐々に増大し、それに押し切られる形でS&Wも決断。同じIフレのレギュレーションポリス(1917年登場。4インチ銃身)の短銃身版として誕生させたのが、このテリアだった。つまり、S&W初のスナブノーズがコレなのだ。ちなみにKフレのミリポリの2インチは、2年後の1938年に登場している。


初期の名称はS&W .38/22と言い、57年からはモデル32のナンバリングが付いた。Iフレが60年に消滅してからはJフレに移って生産が続けられ、最終的には74年に消滅と手元の資料にはある。
ご覧の個体は、シリアルと各部の特徴(5スクリュー等)から、50年代中期の製品と推測される。当然、モデル番号はまだ付いていない。
カリフォルニア在住時代の15年前、ショップで695ドル(+税)払って買った。今なら確実に1,000ドル越えだ。目が覚めるような真っ赤な赤箱入りも得点高い。この手の古いポケットリボルバーは、バレル先端の色剥げ等々使い込まれている場合が多いが、コイツはほぼ無傷。奇跡の一挺だ。
仕上げは、磨きが浅くて鈍い雰囲気。ブルーというよりも黒っぽい。コレが当時のスタンダードな仕上げだったのだろう。トリガーやらハンマーは濃い目のケースハードゥンが美しい。



グリップは、我々がよく知るJフレよりも底が5mmほど短い。カーブ形状やらピンの位置は同じなので、底の隙間を気にしなければJフレのグリップを流用できる。
トリガーガードも小さく、Jフレのそれよりも前後幅で7mm、上下で2mmほど狭い。また、それにともなってトリガーも短めで、カーブがややきつくなっている。
フレームの幅はJフレと同じだ。そして多分、内部メカも或る程度は互換が可能と思われる(試したことないです。スミマセン)。シリンダーが収まる空間のサイズは、Jフレより前後幅が3mmほど狭く、上下は一緒。つまり極端に言えば、Iフレのメカ部はそのままに、長めのシリンダーが収まるようフレームの前方部だけを伸ばしたのがJフレということになる。無論、元祖Jフレのチーフは、.38スペシャル弾へのパワー増加に伴い、焼き入れ等の強化処理は行なわれたはずだが。
メカ的に大きな違いは無いが、メインスプリングロッドの頭がボールエンドのソケット式だ。当時は手が込んでいた。コレは後に二股のスロット式に変わる。あと、Iフレの極初期には、メインスプリングが板バネだった。古い個体の画像を見ると、フロントストラップに調整用のネジが浮いているからすぐ分かる。手元の資料では、1953年を境にコイル式に変更されたらしい。変更後のモデルは“改良型Iフレーム”と呼んで区別しているようだ。
Jフレに昇格してからは、見た目はまるでチーフそのもの。初期には四角っぽいサムラッチを装備した時期もあり、それこそ、“チーフの弱いヤツ”状態だった。


今回、何年か振りにコイツを引っ張り出したのだが、サムラッチが固くてシリンダーが開かず、トリガーも固まっていてビクともしないのだ。まさか、中でパーツでも折れたのかと焦ったが、どうやら油が凝固していたらしく追油をしたらようやく緩んだ。一度すべてをバラして脱脂する必要がありそう。それにしても冷や汗掻いた。大事な一挺なんだから頼むぜホント。
ともあれ、チーフでも十分可愛いのに、ココまで行くと宝石である。それこそチーフが登場するまでは、コイツをLEWIS辺りのヒップホルスターやらバーンズマーチンのショルダーに突っ込んで犯人を追ったS&W好きの刑事も結構いたことだろう。まあ、.38S&W弾では刑事用には少々心許ないけどね。
その.38S&W弾(1877年)だが、コレは.38スペシャル(1898年)の元ネタとなった弾だ。径は同じで、カートリッジの長さが9mmほど短い。146グレインのラウンドノーズ弾の初速が700fpsぐらい。マズルエナジーは150ft.lbsほどだ。コレが.38スペシャルの158gr弾だと、初速が755fpsで200ft.lbsのエナジーが出る。数字的な差はこのくらいある。.38S&Wはパワーが緩い分、小さな銃には向いていたわけだが、今じゃ完全に絶滅危惧種のカートとなっている。

