2025/04/26
March1-8×24mm FFPとM4スポーツモデル
March 1-8×24mm FFPと
M4スポーツ・モデル
Text & Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2013年6月号に掲載
ハイエンドスコープの世界では高倍率比の製品が登場している。このトレンドを牽引するのが日本のディオン光学技研だ。2013年、1-8倍でFFPであると同時に、コンパクトなボディを持つ製品が発表された。さっそくこれをM4カービンに載せてテストしてみよう。
2025年4月 GP Web Editor補足
高倍率比スコープはすっかり定着し、主要メーカーの多くがラインナップするようになりました。ここでご紹介したMarch 1-8×24mmは、その後、さらにコンパクト化したShortyが登場、そしてFFPで10倍比を実現した1-10×24mm Shortyにまで発展しているのが現状です。
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2013年5月号でリポートしたCA93の調子が悪くウンザリしたこともあり、今月は口直しに調子抜群のM4スポーツモデルを取り上げた。これまで何回となく取り上げられたモデルだが、日本の読者の間ではM4の人気は依然として高いと聞いている。米国も一時、AR系の市場は飽和状態になり販売も下降線をたどりつつあった。しかし例のAWB(アサルトウエポンバン)が新たに施行されるかもしれないという噂の影響から、人気が大きなうねりとなって盛り返してきた。
今回、M4と抱き合わせたのはラスベガスSHOT SHOW 2013で初公開されたばかりである日本のディオン光学技研製のMarch 1-8×24mm FFPだ。実を言えば、SHOT SHOWで展示された試作製品を借りたのだ。FFP(第一焦点面)で8倍比は世界でもトップクラスだ(2013年時点での話)。特に8-10倍比における正真正銘の1倍はなかなかデザインが難しいと聞いた。1-4倍または2-8倍などの4倍比ズームスコープは数多く存在し、珍しくはない。1-8倍など高倍率が今後、トレンドになれば各社から続々発売されるに違いない(実際にそうなりましたし、FFPで1-10倍も登場しています)。
高倍率ズーム流行の導火線に火をつけたのはディオン光学技研だった。第二焦点面ならディオンは既に10倍比の1-10×24mmを5年前から発売している。高倍率比のFFP(ファーストフォーカルプレーン/第一焦点面)開発には難しさがあり、それは今も変わるところはない。1-8×24mmFFPの小売価格がイルミ付で2,800ドル(米国小売価格)となると半端ではない。性能面での対抗馬はシュミット&ベンダー(S&B)の1-8×24mmFFPショートドットだ。S&Bはこの製品を今回のSHOT SHOWで公開していた。こちらの市販価格は3,600ドルだそうだ…入手してテストしたいモデルの一つだがS&Bに打診してもこればっかりはこっちの予定通りにはならない。
というわけで今回のテストリポートはMarch 1-8×24mmFFPの独り舞台になってしまった。比較するものがないというのは…性能を語るとき、どうしても片手落ちとなるが仕方がない。

March 1-8×24mm
最近、AR/M4 系スポーツモデルにスコープを装着するケースが多くなった。IPSC競技と少なからず関係があるようだ。従来の低倍率ダットサイトまたは低倍率ズームスコープに飽き、市場はより高い性能を持つコンパクトスコープに興味を持ち始めた。
IPSCだけでなく、ハンティング分野でもこれらは、近距離における野ブタ狩り、そして200-300ヤードで鹿猟に使える汎用性高いスコープだ。初心者は普通、まず普及価格の製品から値段の割には良さそうな性能のスコープを購入する。そこにはある程度の妥協も入る。そしていろいろ経験する中、物の良し悪しを知る。
一部のユーザーはやがて、もっと性能の良い物が欲しくなる。近年、ライフル、そしてスコープユーザーの目は肥えてきた。またハイエンド(上級)製品の水準も上がってきた。これらハイエンドスコープは値段が高ければ高いほど、もしその性能に納得できないとなったとき、ユーザーは騙されたと感じ、メーカーはその反動をもろに受ける。インターネットのフォーラムで叩かれることもある。しかし、その中には不正確な情報、単なる誤解、あるいは偽情報も少なくない。ネットは精査なしに誰にでも書き込めるからだ。ネットには良くも悪くも情報が氾濫している。スコープに関するものも例外ではない。
というわけで今回はディオンの新型スコープに焦点を合わせて話を進めたい。スコープの高倍率化は果たして意義があるのだろうか?これまでのスナイパー系スコープの倍率は4-10倍の範囲内の固定倍率が主流だった。ズームがスナイパースコープとして注目されてきたのはこの10年である。ハンティング界を見渡せばズームスコープは既に40年前からあった。筆者が1970年代、米国で始めて買ったハンティングスコープは日本製ブッシュネル3-9倍のズームだった。



米陸軍、海兵隊共にスナイパーライフルの主流は10倍の固定倍率であった。何故、高倍率を使わないのか?ひとつに、ズームはパーツ点数が多く、故障し易いという潜在意識があるからだ。事実、パーツは多くシンプル・イズ・ベストの考えからみればこの考え方は正解だろう。しかし、もっとも大きい理由は多分に10倍以上あっても夏場など陽炎の影響から正確なレンジング(目標までの距離測定)に使いにくいという判断からきたものであろう。更なる理由はズームの場合、第一、第二焦点面の選択でそれぞれ長所短所があり、あえて10倍固定選んだという事もある。これは別に悪い選択ではない。M24スナイパーウエポンシステム(SWS)の主流スナイパースコープは10倍固定で現在も使われている(もはやM24SWSは使われていません)。固定倍率にはそれなりのメリットもあるからだ。読者もご存知のようにスナイパーの相棒スポッター(観的手)は通常、20倍のスポッテイング・スコープを使うので銃のスコープが10倍固定でもハンディになっていない。
じゃ高倍率ズームのメリットは何か?大型化しないのであれば高倍率はあって邪魔になるものでもない。陽炎がひどい夏場は場所にもよるが夏季間の4-5ヵ月だ。残りの期間は陽炎があってもそれほどではない。詳細な情報を得るためには高倍率が必要になる可能性は否定できない。あって邪魔になるわけではないという意味である。また戦術的に見た場合、倍率を10倍より更に下げることが可能であれば、視野が広がり比較的近い距離(300ヤード以下)での複数ターゲットとのエンゲージが容易となる。
2025年4月 GP Web Editor補足
現在、アメリカ陸軍が使用するスナイパーライフルはBarrett MK 22 Mod 0 Advanced Sniper Rifle(ASR)で搭載するスコープは、Nightforce ATACR 5-25×56mm, または7-35×56mm、USMCのスナイパーライフルはBarrett MK 22 Precision Sniper Rifle(PSR)で、こちらに搭載するスコープはLeupold Mark 5 HD 5-25×56mmとなっている。10倍固定スコープはもう遠い過去のものだ。

March 1-8×24mmFFP/FMC-1レティクルのメリットは第一焦点面なので倍率に関係なくライン区間(ミル)は常にコンスタントである。第二焦点面のように“指定された倍率のみ”でライン区間が正確な1ミルとなる不便さはない。これが第二焦点面の厄介な面ではあるが、レティクル・ラインが倍率に関係なくコンスタントな太さというメリットもある。
米国シューターにとって長い間、ズームスコープといえば第二焦点面だった。ヨーロッパメーカー製の第一焦点面は米国にもかなり以前から入っては来ていたが、一般シューターには敬遠された。米国シューターには倍率が大きくなると同時にレティクルが太くなるのが我慢ならなかったのである。米国スコープメーカーで創業60何年の老舗Leupold社も一部としてFFPモデルを加えたのは15年前ぐらいでしかない。
野ブタは動きが速い。こんなとき倍率を一倍にして両眼標準、イルミのダットで獲物を追う。その他の鹿猟は8倍まであればじゅうぶんのはずである。ミルラインの使い方を学べば距離の測定も簡単だ。レーザーレンジファインダーで距離を測定している間、鹿はどこかに行ってしまう。筆者の野ブタ対応ライフルであるウインチェスターM100は最近、EOTECHからMarch 1-10×24mmSFPに交換した。EOTECHは至近距離で威力を発揮するが100ヤードを超えたら使うのが難しい。
1-8×24mmFFPは寸法から言えば1-10×24mmSFPと同じである。長さ258mm、重量555gだ。このモデルはミルレティクル というだけでなくエレベーション(高低)、ウィンデージ(左右)共にミル仕様である。1クリックの移動量は0.1ミル(100mで1cm)だ。
エレベーション、ウィンデージ共にそれぞれ56ミルありMOA換算なら200MOAにもなる。アングルベースなしに1,000ヤードまで無理なく撃てる。アイリリーフは86mm-98mmの範囲なので、たとえ.458Win Magにマウントしても据銃さえしっかりしていればスコープの接眼部がリコイルで額に当たる可能性はきわめて低い。このスコープのユニークさはFFPと言うだけでなくFMC-1と言うレティクルにもある。イルミをオンにするとセンターの6ミル径のサークル、そしてその中のクロスヘアがイルミする。5-8倍ズームにすると6ミルサークル内のミルライン、サークル外のラインを使いレンジング、ホールドオーバーが可能となる。
このクラスのスコープにサイドフォーカスダイアルを付けたモデルは少ない(今はいっぱいありますというか、固定パララックスのスコープ以外は、低価格モデルを除いてほとんどがサイドフォーカスになりました)。サイドフォーカスダイアルは同時にバッテリーコンパートメント、そしてスイッチであることが多い。サイドフォーカスについては実射の項で再び触れたい。
現在、作られているトップクラスのスコープは30~40年前の同クラスのズームスコープとは異なる。工作精度も材料も大きな進歩を遂げた。レティクルも理にかなったデザインのものが多くレンジング、ホールドオーバーが容易になっている。

