2025/04/22
Saga of Patents パテント探究10 ブラウニング モデル1897
Saga of Patents
パテント探究 9
ブラウニング モデル1897
床井雅美 Masami Tokoi
Gun Professionals 2013年1月号に掲載

以前、ベルギーFN社から発売されて空前の大ヒット商品となったFNモデル1900セミオートマチックピストルについて書いた。
アメリカ人ジョン・M・ブラウニングは、偉大な小火器発明家だった。しかし、いかに偉大な小火器発明家といえども、考案した全ての小火器が製造されて大きな成功を収めることはない。いや、発明家にとって、一つでも成功作が出れば、とても幸運だと言えるだろう。
パテントを調べていくと、過去に実に多くの小火器が考案、発明されていることに改めて驚かされる。その中で製品化されるのはごくわずかであり、まして製品化された小火器の中で成功するのは、さらにその中のごく小数のものであることが理解できる。
一つの成功作の背後には、実に多くの失敗作ともいえる製作されなかった多くの発明品が存在する。
その中で、いくつもの発明を製品化でき、加えて多くの成功作を得られたジョン・ M・ブラウニングは、もちろん天が与えた才能に恵まれていたことに疑いはないものの、幸運の女神を味方に付けていた人物だったと考えざるを得ない。
だが、その天才ジョン・M.ブラウニングにしても、製品化されなかった多くの製品がある。今回取り上げるのは、彼が発明したものの、結局製品化されなかったセミオートマチックピストルだ。

このピストルのパテントは、後にベルギーFN社でモデル1900として製品化されたものの原案パテントや、アメリカのコルトパテンツ ファイアアームズ社(以下コルト社と表記)で、モデル1900として製品されたピストルの原案パテントと同時にパテント申請がおこなわれた。
今回取り上げる製品化されなかったセミオートマチックピストルの発明は、1897年4月20日にアメリカパテント第580923号として取得された。
ジョン・M・ブラウニングは、この時4件もの異なるアイディアのセミオートマチックピストルのパテントを同時申請している。まさに天才の面目躍如と言うところだ。
今回取り上げるのは、その4件うちの一件。弾丸を発射する際に発生する発射ガスを利用して作動させるガス圧利用のセミオートマチックピストルのパテントだ。
このパテントのモデルは、後にコルト社が製品化させたモデル1900とよく似た全長の長い外見を備えている。比較的強力な弾薬を使用するためのピストルとして設計されたものとみえ、フルロッキングのブリーチ(遊底・スライド)(f5)が組み込まれていた。
バレル後方のブリーチ(f5)は、ボーチャードピストルやパラベラムピストルに組み込まれているトグルジョイントに似た構造の部品によってロックされる。
ロッキング原理もそれらと近いもので、3つの部品(f5,f2,f)とピストル本体を3本のピンで連結させてある。ブリーチ(f5)が前進した状態では、前方のピン(f3)と後端のピン(f4)、そして中央のピンが、ほぼ直線上に並ぶように設定されている。この状態がロックされた状態だ。


ブリーチ(f5)は、ロックバー(f2)によって前方に固定されているため、弾薬が発射されてブリーチ前面に高い発射ガスの圧力が加わってもブリーチが後退することはない。
弾丸がバレルの中を進みバレルの中央を過ぎると、バレル上方に開けられた小孔(b1)を通じて発射ガスの一部が上方に噴き出す。バレル上面には、シリンダー状の部分(b2)が設定されており、この部分にブリーチのロッキングバー前方に連結されたガス作
動レバー(f)がかぶさっている。
小孔(b1)から激しく噴き出す発射ガスによって、ガス作動レバー(f)は、上方に跳ね上げられる。しかし、このガス作動レバー(f)は、ピストル本体にピンで連結されているから、後方への回転運動をおこなうことになる。
ガス作動レバー(f)が起き上がると、ガス作動レバー(f)とブリーチ(f5)を連結している3本のピンの位置関係がずれ、ロッキングが解かれた状態になる。これでブリーチ(f5)が後退可能になる。
ブリーチ(f5)自身の前面にかかる発射ガス圧だけでなく、後方に回転するガス作動レバー(f)の動きがロッキングバー(f2)を通じてブリーチ(f5)の後退を加速させる。
ブリーチ(f5)が後退して発射済の空薬莢を排出すると、ガス作動レバー(f)は、後方に回転する際に圧縮したリコイルスプリング(f6)の圧力によって、前方回転運動に転じる。ガス作動レバー(f) の動きによってロッキングバー(f2)が前進し、ブリーチ(f5)を前方に引き戻す。

メカニズム的には、確かに作動するように設計されている。しかし、よく見ていくと、このセミオートマチックにはいくつもの問題点があることがわかってくる。
まず第1にピストルを、ガス圧によって作動させようとした着眼点だ。もちろんガス圧を利用して作動させるピストルがまったく製品化されなかったわけではない。しかし、その多くが、ピストンなどを組み込むため大型化してしまった。
その点、このブローニングのピストルは、ピストンではなく、ガス圧で跳ね上げるガス作動レバー(f)を利用したため、それほど大型化しなかった。ガスを受ける部品がピストルの内部で作動するのではなく、ピストル静止時の外側に対しておこなわれるため、ピストルを小型に設計できた。
その反面、大きな回転運動をおこなうガス作動レバー(f)をもとの位置に引き戻すことに苦労の跡が見られる。リコイルスプリングを圧縮し、その力でガス作動レバー(f)を反回転させるため、ガス作動レバー(f)とリコイルスプリング軸(f11)の間に自転車のチェーン状の部品(f7)が組み込まれている。これでスプリング圧の作動する方向を変化させている。
トグルリンクを組み込んだピストルやライフルを開発したボーチャードやゲオルグ・ルガーも同じような苦労を味わっている。そして彼らの発明品の中に、ブラウニングとまったく同じような解決法をとった設計がある。
だが、この設計は、優れた解決方法と言いがたい。激しく動き、強いスプリング圧のかかる部分に微細なピンを組み込みこむと、部品の破損やピストルの故障の大きな原因になる。
結局このピストルを含め、それらのいずれも製品化されなかったことが、この解決法の限界をよくものがたっている。
この点を含め、ブラウニング ガス圧利用ピストルが実用化されなかった理由を考えてみると、いくつかの理由が思い浮かぶ。
実際に射撃したこともなく、また試射リポートも目にしたことはない。そのため確実でないが、このピストルは、上方に大きく動くかなり重量のあるガス作動レバーを備えている。そのため射撃の際に、マズルがかなり跳ねあがるものと思われる。
ガス作動レバーとブリーチを繋ぐロッキングバーの連結もピストルの跳ね上がりを大きくする可能性がある。
なんといっても、製品化されなかった最大の理由は、ほかの2つの製品化されたパテントのアイデアに比べ、このピストルの設計がシンプルさに欠けた点だったことに疑いはない。
このブラウニングの発明がまったくの失敗作だったかといえば、そうとも言えないのだ。発射ガス圧でバーを跳ね上げて作動させるアイディアは、ピストルでこそ製品化されることがなかったものの、マシンガンの作動メカニズムとして実用化され、コルト モデル1895マシンガンとして製品化された。マシンガンのように全体重量が大きければ、大きく動くガス作動レバーの反動に悩ませられることもない。
今回取り上げた1897年4月20日付けアメリカ パテント第580923号のピストルは、マシンガンのメカニズムとしてブラウニングが考案し、実用化されたメカニズムをピストルに組み込んだものだった。
小火器でも、マシンガンとピストルの間で、同一メカニズムが同じように作動しないことの証明でもある。
Text by 床井雅美 Masami Tokoi
Gun Pro Web 2013年1月号
※当サイトで掲示している情報、文章等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。