実銃

2019/09/18

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情【最新GUN事情】

 

毛野ブースカがアメリカ在住のリアルガンレポーターのSHINに、ガンやタクティクスに関する疑問、質問を聞いてみようというコーナー。今回のテーマはエアガンのアクセサリーとしても人気がある「サイレンサー」。アメリカにおけるサイレンサーの最新事情を語ってもらった。

 

前回の【最新GUN事情】はコチラ

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

 

 

所持登録は面倒。でも人気は高い

 

毛野:
 

世界最大の銃器の展示会であるショットショーに以前行った時、想像していたよりもたくさんのサイレンサーが展示されており、多くの注目を浴びていてびっくりしました。サイレンサーは特殊部隊などが使用する特別なアイテムというイメージがあったのですが、米国では民間人の間でも一般的なのですね。
 

SHIN:
 

そうですね。まずサイレンサーはサプレッサーとも呼ばれます。どちらも消音器、減音器という意味で銃口部分に取り付けることで銃声を減少させる機能を持っています。米国におけるサイレンサーの民間所持は認められています。ですが銃器を取り締まる連邦組織であるBATFE(アルコールたばこ火器爆発物局)への登録が必要となります。登録に際しては$200の所持税金を収め、顔写真や住所などの基本的な情報の他に指紋の提出が必要となります。これを元に犯罪歴を調べ、問題がなければ所持が許可されます。サイレンサー1つに付き1つの登録が必要になるので購入するたびにこの手続きが必要になるんです。
 

毛野:
 

なるほど。意外と面倒臭い手続きに思えますがどれぐらい期間がかかるのですか?
 

SHIN:
 

今ではオンラインでほとんどの手続きを終えることができますし、やってみるとそう大変でもありません。私も現在2つのサイレンサーの登録を進めています。登録が完了するまで時期によりますが3ヵ月から1年程度と言ったところですね。
 

毛野:
 

サイレンサー自体の値段の上に、$200の税金まで取られさらに1年も待たなければならないというのは辛いですね。それでもショットショーで見かけたとおり、サイレンサーには人気があるということなのですね。
 

SHIN:
 

確かにそうですね。サイレンサーはスパイ道具のような面白さだけではなく、民間人にとって実用的なアイテムでもあります。ハンティングやセルフディフェンス、練習の際に銃声が低減するのですから聴覚を守りつつ安全に射撃が楽しめるようになります。そのため、HAS(ヒアリング・セーフ・アクト)と呼ばれる法案が提出されており、サイレンサーの登録をより簡単にしようという動きも一部の議員の中で起こっています。
 

毛野:
 

そういう面もあってサイレンサーが多く展示されていたのですね。
 

SHIN:
 

そうですね。サイレンサーは10年前に比べるとはるかに一般的なアイテムになりました。現在でも州によっては所持が規制されていますが、規制されていない州ではよく見かけますね。
 

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

ボルトアクションライフルとサイレンサーの組み合わせはスナイパーの間では一般的となっている。銃口から発生するマズルブラストが減ることで土煙が少なくなる。超音速弾を使用した遠距離射撃でも弾頭が発生させるソニックブームの音が撃たれる側からは射撃位置をつかみにくくさせる役割をする

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

FN-SCARもショートストロークピストン作動とアジャスタブルガスシステムにより、サイレンサーとの併用を得意とするモデルである。近代的なアサルトライフルの多くはサイレンサーの使用も視野に含めて開発が行なわれている

 

 

基本原理は100年以上変わらない!?

 

毛野:
 

サイレンサーはエアガンでも人気のアイテムです。もともとそれほど音が大きい訳ではないので効果は少ないですが、実際に発射音を大きく消すことができます。
 

SHIN:
 

実銃は射撃の際に3つの音を発生させます。銃口から発生する銃声、弾が音速を超えて飛翔した時に発生するソニックブーム、そして銃の作動音です。サイレンサーはこの中のから、銃口から発する銃声を低減させる役割を持っています。
 

毛野:
 

車の排気音を消音させるサイレンサーと同じと考えていいんでしょうか。
 

SHIN:
 

考え方は非常に似ています。火薬の燃焼によって発生したガスは弾頭をバレル内で加速させます。弾頭が銃口から離れた瞬間、大きな圧力を持った燃焼ガスは急激に膨張し、空気を震わせることで大きな音を出します。同時に、高温の燃焼ガスは大気中に放出されると急激に膨張しこれも大きな音を出します。そのため、サイレンサーは燃焼ガスのスピードを低下させ、さらに大気中に放出されるタイミングを遅くすることで消音化を行ないます。
 

毛野:
 

車のサイレンサーと異なる部分は内部を弾が通過するといった部分ですね。
 

SHIN:
 

そのとおりです。内部に複数のバッフルを重ね、燃焼ガスのスピードを低下させるというアイデアは1909年にハイラム・マキシムによって特許を取得しています。今でも基本的な構造は同じですね。
 

毛野:
 

100年以上も構造は変化していないのですね。
 

SHIN:
 

これが一般的なバッフル式と呼ばれる構造で、他には「ワイプ式」と呼ばれるサイレンサーもあります。これはワイプと呼ばれるゴム製蓋を弾頭が貫通することで内部に燃焼ガスを閉じ込める構造と持っています。バッフル式に比べて小型化、より高い消音化が望めますがワイプが数発で消耗してしまうことからあまり一般的ではありません。
 

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

もっとも成功したアサルトライフル用サイレンサーはナイツアーマメント製NT4 だと言えるだろう。ユニークなロック機構を持ち、フラッシュハイダーの上から被せ、デッドボルト型のパーツでロックする

 

 

毛野:
 

なるほど。銃口からの発射ガスによる音はサイレンサーで低下できるとして、弾頭が発生させるソニックブームと、作動音はどのように対応しているのですか。
 

SHIN:
 

弾頭を音速以下(亜音速)とすることでソニックブームは発生しなくなります。高い消音性を求めるのであれば、サイレンサーとサブソニックアモ(亜音速弾)と呼ばれる弾を併用することが望ましいです。例えば9mmパラベラム弾では147gr以上の重い弾を使用することで、亜音速化できます。
 

毛野:
 

単に弾速を遅くしてしまうと威力の低下も起こってしまいますね。
 

SHIN:
 

威力は「弾頭×弾速」ですので、弾頭重量を上げることである程度保つことができます。ですが、距離が離れるほど弾頭の落下率は大きくなりますから亜音速弾は遠距離射撃には向かないものとなりますね。
 

毛野:
 

銃の作動音はボルトアクションライフルやシングルショットと言った手動式であれば低減しますね。
 

SHIN:
 

その通りです。またリボルバーではシリンダーとバレルの隙間から燃焼ガスが漏れるのでサプレッサーの効果は薄くなってしまいます。
 

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

FNX45はサイレンサーとの使用を前提として開発された近代的なハンドガンである。亜音速弾である.45ACPとの併用により、高い消音性と威力を兼ね備えている

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

オスプレイサイレンサーは箱型でオフセットしたボアラインでサイトをそのまま使用できる。S&W M&Pはサイレンサーとの併用が比較的不得手なモデルである。銃によってサイレンサーを取り付けるためのホスト(=サイレンサーが装着でき、機能を発揮できる銃)として適しているかは異なる

 

 

サプレッサーはこれからも進化を続ける

 

毛野:
 

基本的な構造は100年以上前から変わっていないとして、どのような部分に各社努力を注いでいるのですか?
 

SHIN:
 

より高い消音効果を求め内部のバッフルのデザインを流体力学等を駆使して研究しています。また、チタンやインコネルといったハイテク素材を使用し、軽量で耐久性の高いサイレンサーが生まれています。
 

毛野:
 

目的や口径によってサイレンサーにも特徴がありそうですね。
 

SHIN:
 

そうですね。例えばフルオートでライフル弾を断続的に撃っても耐えられる頑丈なサプレッサーや、セミオートでの使用が主になるカービンに向くチタン製の軽量なサプレッサー等が特徴的ですね。.22LR用のアルミ製サイレンサーは$200程度からありますし、チタン製の軽量ハイエンドなものは$1,800程度するものもあります。
 

毛野:
 

なるほど、銃声を低減させるというサイレンサーにも多くのノウハウがあるのがわかりました。エアガンでもトレーサーユニットを内蔵できるもの等が登場し、エアガン用サイレンサーの選択肢も広がっています。実用的でかっこいいアイテムとしてこれからも広がっていきそうですね。
 

 

実銃ライターに聞く最新「サイレンサー」事情

B&Tは優れたサイレンサーを製造しているメーカーである。燃焼ガスを多く抑え込めるほうが消音効果は高まるがサイズは大きくなる。そのため、ハイマス&ローマスの大小の異なる目的を持ったサイレンサーを用意している。サブマシンガンをフルオートで撃つには大きいサイレンサーのほうが適しているだろう

 

 

TEXT:SHIN、毛野ブースカ
PHOTO:SHIN

 

 


この記事は月刊アームズマガジン2019年10月号 P.156~159より抜粋・再編集したものです。

 

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