2019/07/05
実銃レポート G19 Gen5 MOS FS
究極のストック・グロック
カスタムにも劣らない「究極のストック・グロック」と言われているのが、G19 Gen5 MOS FSである。どこがどれだけ優れているのか、カスタムグロックとしては引く手数多の“AGENCY ARMS”のGen5カスタムと比較してみた。
GLOCK、その進化
またまたグロックである。
グロック嫌いの方々には、もうすっ飛ばしていただくしかないが「グロックも大きく進化している!」というのをお伝えしたく、あえてこのモデルを取り上げさせていただいた。
GLOCK 19 Gen5 MOS FS
グロックには手を入れるもの、という一般の概念を覆してしまった優れモノだ。金属製ナイトサイト、モジュラーオプティックシステム、フロントセレーションと、一味違うコンパクトグロックなのだ
かくいう筆者の立ち位置も微妙で、グロックが好きかと聞かれると、素直にうなずけない部分がある。1911やリボルバーのような「愛でる」「所有する」喜びとは対極にある存在が、グロックだったからである。1980年代後半にはファーストジェネレーションのグロック17を手に入れてはいたが、これは数回撃っただけでガンセーフ(金庫)の底にしまい込んでしまったし、セカンドジェネレーションも値段に負けて手に入れたが、持ち出すことは稀だったのだ。
パッケージング。マガジン3本、グリップのアクセサリー、ドットサイトのアダプターが4枚付属してくる
それが変わり始めたのは、1998年にGen3(ジェンスリーと読む。第3世代のこと)がリリースされ、グロックのカスタムが一般的になってきてからである。ラッキーなことに当時立ち上がったばかりのセイリエント・アームズ・インターナショナル(SAI)のガンスミスと知り合い、そのフルカスタムを手にする幸運に恵まれたのだ。
軽量化スライド、ドクター・マイクロドットサイト搭載、グリップのフルスティップリングを備えたこのカスタムで、IPSCやスチールチャレンジといった競技にも参加して、約8万発を撃ち込んだ。もちろんバレルは3回フィッティングし直したし、ロッキングラグは破損後交換、スプリング類は数えきれないほどリプレイスしたが、とにかくトリガーを引きさえすれば弾が出るという信頼性は抜群だった。グロックはワークホース(働く馬)であり、ツールだったのだ。
ここ米カリフォルニアでは、独自の州法により、現在手に入れることができる新品グロックはGen3のみである。悲しい現実だが、私にとってグロックというのは“出物があれば手に入れる”ベースガンの筆頭である。絶対数が多いだけあって、程度のいい中古が場合によっては300ドルほどで買えることがある。
ベースガンというのはいくつかの理由があって、Gen3までのモデルは信頼できる道具とするには、最小限いくつかのカスタマイズが必要だったのだ。
- オリジナルのポリマー製前後サイトを、視認性の高いスチール製に交換する。
- グリップ周りのカスタマイズ=個人的には、バックストラップ下半分のふくらみをできるだけフラットに削り、全面に滑り止めのスティップリングを入れる。トリガーガード付け根も、ハイグリップがしやすいように削り上げる。
- トリガープルチューン=ポリッシュするだけでもいいが、できればプリトラベル(トリガーを引き始めて、最初の壁に当たるまでの引き代。個体によって違うが、7~8mmほど引く必要がある)を少なくして、4.5ポンド(約2.04kg)ほどの重さでトリガーを引き切りたい。ストックのままだと6ポンド(約2.7kg)以上ある。
この3点は、いわばGen3までの弱点ともいえる。ポリマー製サイトは固いものにぶつけると変形してしまい、フロントサイトなどがいびつになってしまう。まともなサイティングができないガンなどジャンクでしかない。グリップ周りのカスタマイズは多分に個人的な好みだが、指に合わないフィンガーグルーブや、汗をかくと滑ってしまう表面仕上げはいただけない。また、トリガープルに関しても好みが反映するが、Gen3ストックのままだと、1マガジンも撃つと指が疲れてくる。訓練が足りないと言われればごもっともだが、重ければ安全というものでもなく、より精密に撃てる重さ、切れ味が求められるのは当然だ。
この辺りに関してはグロックも承知していたようで、次世代であるGen4ではグリップ周りの設計変更や細部のチューンナップなど、いくつかの改良はあった。だが、充分とはいえない程度だった。
そして2017年、グロックは満を持してGen5をリリースする。改良点をリストアップしてみよう。
- マークスマンバレル=これまでのポリゴナルバレルを進化させ、ライフリングを持つニューデザインとなった。グロックからは、精度が向上していると発表されている
- フィンガーグルーブなしのフロントストラップ
- インテグラル・マグウェル
- アンビ スライドストップ
- nDLCフィニッシュ
- スライド前端のリリーフカット
- 2ピンデザイン(トリガーピンとトリガーハウジングピンの2本のみ。Gen3とGen4は3ピンだった)
- ニューデザインのマガジンフロアプレート
2世代続いたフロントストラップのフィンガーグルーブがなくなったので、「第2世代に退化した」という人もいたりして、このGen5への世代交代も賛否両論だったが、G19 MOS FSがリリースされると、ユーザーの評価は好転していった。
オールマイティ・コンパクトモデル
私の友人に、グロックの新しいモデルは基本的にすべて手に入れるというポリスオフィサーがいる(LEオフィサーには前述のモデル規制はない。基本的にどんなガンも買うことができる)。とにかく撃ってみないと気が済まないのだという。当然のように私もご相伴にあずかるのだが、昨今、あるモデルに惚れ込んでしまった。それが今回紹介したかったGen5の“G19 MOS FS”である。MOS FSというのは“モジュラー・オプティック。・システム フロントセレーション”のことで、現在リリースされているマイクロドットサイトなら装着プレートを替えるだけで装着できてしまう上に、フロントセレーション付きという優れモノなのだ。
これがMOSの切り欠き。ここにアダプターを載せ、好みのドットサイトを装着する
とにかく撃ち心地に好感が持てる。トリガープルは5ポンド弱と理想的だし、私の年代には必需品であるドットサイトも選び放題で、さらに自分で載せることができる。また通常のG19モデルにはあるフロントストラップ部分の半月型切り欠き(マガジンが抜けにくい際、ここに指を入れてマガジンを抜き去る)がなくなり、小指のおさまりは格段によくなった。グリップ全面に入った滑り止めの突起も強力で痛いくらいだし、新しいマークスマンバレルの精度も上々である。また今回テストしたモデルにはオプションで3点ナイトサイトが装着されており、交換の必要もない。
つまり、何も手を入れる必要がないのだ。
ポリゴナルをさらに進化させた“マークスマンバレル”。 確かに精度は少々上がっている。スライド先端はコーナーが落とされ、ホルスターへの出し入れが楽になった
俄然興味がわいてきた。これまた友人が所有しているAgency ArmsによるG19 Gen5のフルカスタムを借りてきて、比べてみることにした。
すぐさまレンジに持ち出してみた。事前に、Agencyカスタムのトリガープルを測ってみると、なんと10回の平均は3.89ポンド(約1.76kg)しかない。それもプリトラベルはほとんどないに等しいのである。
Agency Arms G19 Gen5 Custom
リアセレーションは広げられ、フロントのそれもアグレッシブで滑る心配はまったくない。さすがのカスタムだ。オプションでマッチバレルもフィットしてくれるが、Gen5からは精度も上がっているのでそのままにする人は多い
まずは、撃ち心地テストの一環として、7ヤード(約6.3m)から12秒で15発を撃ってみた。トリガープルの差ほどの「違い」が出ないのである。あえて違いを言えば、Agencyカスタムのほうが少しハイグリップができるのと「アクセレレーターカット」と呼ばれる親指レストがあるために、マズルライズ(発射時のマズルの跳ね上がり)が少々少な目に感じるくらい。劇的な差が感じられないのである。全面スティップリングのほうが手の平に吸い付くような感覚が味わえて好感が持てる。だが、これも大きな差ではない。
115グレイン FMJのリコイル。コントローラブルだ
G19ストックの12秒15発の結果。もっと撃ち込めばさらに良くなりそうだ
同じアモでのリコイルの違いは体感できなかった。スライドが軽い分前後するスピードが上がり、マズルライズそのものはそれほど変わりない
Agencyカスタムの12秒15発。スライドの軽さゆえか、連射はほんの少し楽に感じる。それでも大差はない
写真をご覧いただければお分かりだと思うが、12秒15発テストの結果も大差なかった。これではAgency Armsのカスタム代金1,500ドルは一体どうなってしまうのだろう。
今後も、仕様の違いが結果として如実に出るIPSCなどの競技に出てみて、違いを追いかけてみたい。これはAgencyのカスタムがどうこうというより、グロックが頑張ったのだなあ、という気がしている。
やはりGen5のポテンシャルは、かなりのものである、というのが私の結論である。
Text & Photos:Hiro SOGA
この記事は月刊アームズマガジン2019年8月号 P.110~117より抜粋・再編集したものです。