2019/06/17
カービンオプティクスの最新事情を知りたい!【最新GUN事情】
毛野ブースカがアメリカ在住のリアルガンレポーターのSHINに、ガンやタクティクスに関する疑問、質問を聞いてみようというコーナー。今回のテーマは日本でも注目を集めているショートスコープを中心とした「カービンオプティクス」だ。SHIN にアメリカの最新ガン事情を語ってもらった。
毛野: |
最近、電動ガンに低倍率スコープを載せているんですよ。倍率のないドットサイトから慣れが必要でしたが、倍率を下げれば近距離の的もドットサイトと変わらないスピードで撃てるし、サバイバルゲームでは倍率を使って索敵と敵味方の判断にすごく役立っています。 |
SHIN: |
低倍率スコープはカービンオプティクス(カービン用の照準用光学機器のこと)の中でもっとも進化が起こっている分野ですね。 |
毛野: |
使い始めてから、ドットサイトに混ざって使われる低倍率スコープにも様々な種類があることに気がつきました。最近のカービンオプティクス事情はどのようになっているんですか? |
SHIN: |
今でもドットサイトが主流ですが、低倍率スコープは「ショートドット」「カービンオプティクス」と呼ばれ独自のカテゴリーを築いていて、多くのメーカーが工夫を凝らした魅力的な製品を投入している、まさに発展途上の分野ですね。 |
ドットサイトの利点は軽快さと、近距離での素早く正確な照準にある
ドットサイトの代名詞であるエイムポイントのComp M4。軍用として開発され、非常に頑丈なオプティクスである
EO Tech ホロサイトもエイムポイントと人気を分けるオプティクスだ
一方、スナイパースコープでは倍率を最低に下げても3~5倍率あり、近距離での射撃が行なえない。そこで、スコープの上にドットサイトをのせる「ピギーバック」や、45度の位置にドットサイトやアイアンサイトを取り付ける「オフセットサイト」を使って近距離での射撃に対応する
スナイパースコープを使っての遠距離射撃。オフセットマウントにはトリジコン製のRMRドットサイトが搭載されている
オフセットアイアンサイトを使っての近距離射撃。スナイパー用の高倍率スコープの弱点をカバーするために2つのサイティングシステムが必要となっている
毛野: |
なるほど、倍率を持たないドットサイトとも、スナイパー用の高倍率スコープとも違う分野なのですね。 |
SHIN: |
そのとおりです。カービンオプティクスは単純に言えば「よく見えるドットサイト」であり、カービンの持つポテンシャルを引き出すことができる、ドットサイトとスコープの中間を目指しています。 |
毛野: |
ドットサイトではカービンの威力を発揮できていないということですか? |
SHIN: |
使い方によりますが、そうですね。M4やAK74などのアサルトライフルに使用される弾薬は「ミッドレンジカートリッジ」と呼ばれ小型軽量です。これは歩兵がより多くの弾薬を持ち運べることを目指し、また実戦的な歩兵の交戦距離は至近距離から300m程度であるため、それほど強力な弾薬を使用する必要がないことから小口径、中威力化されました。 |
毛野: |
アサルトライフルは300m程度で人体サイズに当たる程度の命中精度と威力を目指していますよね。 |
SHIN: |
ドットサイトの場合、アイアンサイトに比べてターゲットに焦点を合わせたまま狙えるので遠距離での命中精度は向上します。ですがターゲットを探し、敵なのか味方なのか、何をしているのかを判断するといった、ターゲットID(Targetidentification=目標を識別すること)の能力は向上しません。 |
毛野: |
狙って当てられるけど、何を撃っているのかわからないということですね。 |
SHIN: |
そうです。最初にショートスコープが実戦で使用されたのは1993年のソマリア、モガディシュで起こった「ブラックホークダウン」として知られている戦闘です。当時展開していた米陸軍特殊部隊デルタフォースのスナイパーのひとりであったダレル・ホーランドは民間人の間に隠れて攻撃してくる民兵を判別し近距離での狙撃を行なうために、日本製の1.25~4倍率の民間用低倍率ハンティングスコープを取り付けて対応しました。 |
EO Techホロサイトの後方に取り付けられた3倍率ブースター。ドットサイトと組み合わせることで倍率のあるスコープとして運用するアイデアだった
シュタイナー製1~5倍率ショートスコープ。「TRUE 1×(=完全な1 倍率/等倍)」と「デイタイム・ブライトネス(=ドット/レティクルが昼間でもはっきり見える明るさ/輝度)」を備えた初期の製品だ
毛野: |
遠距離を狙撃するためにスコープを使ったのではなくて、比較的近距離で起こる市街地戦において敵味方を判断するターゲットIDのためにスコープを運用したのですね。 |
SHIN: |
そうです。おそらく離れていても100m程度の距離でも、群衆の間からAKやRPGを撃ってくる敵だけを狙撃することはアイアンサイトやドットサイトでは難しかったでしょう。この経験が後に、元デルタフォース隊員で銃器コンサルタントでもあるラリー・ヴィッカーズ氏がシュミット&ベンダーと共同開発することになる「サークルドット/コンバットオプティクス」スコープのアイデアとなっています。 |
毛野: |
1990年代には今のショートドットのアイデアがあったのですね。 |
SHIN: |
そのとおりですね。近距離ではドットサイトのように機能し、300m程度でもターゲットIDが行なえ、正確な射撃をサポートする低倍率スコープは、技術的に難しい部分とともに、遠距離を時間をかけて狙い撃つ高倍率のライフルスコープとは異なり、近距離から300m程度までの性能を持つアサルトライフルの能力を引き出すためのライフルスコープ(=ショートスコープ)という、そのコンセプトの差が明確に理解されるまでに時間がかかったといえます。 |
毛野: |
ドットサイトとライフルスコープがあるのですから、それを組み合わせるだけに思えますが? |
SHIN: |
ドットサイトの利点は倍率のない1倍率、つまり肉眼で見ているのと同じ倍率であり、そこに昼間でも明るく見えるドットが浮かび上がることで、ターゲットを見据えたままドットを合わせれば照準が完了するというドットサイトの存在を感じさせない点にあります。ですが可変式倍率ズームを持つスコープの場合、レンズの設計上1倍率を実現するのが非常に難しかったんです。 |
毛野: |
なるほど、それで5年ほど前までは1.2倍や1.25倍率が最低倍率のショートスコープが多かったのですね。 |
「TRUE 1×」の1倍率であれば、ショートスコープでもドットサイト並みの素早い照準が行なえる
SHIN: |
シュミット&ベンダーや、スワロフスキー、シュタイナーといったハイエンドスコープメーカーが「TRUE 1×」(トゥルーワン)と呼ばれる、ドットサイトのような正確な1倍率を持つスコープを作っており、非常に高価でもありましたね。それ以外は、1.25倍率といったレベルで比較的入手しやすい価格のものを製造していました。もう1つは「デイタイムブライトネス」なドットです。 |
毛野: |
日中でも充分に明るいドットということですか? |
SHIN: |
そうですね。やはり構造的にレンズにLEDでドットを投影するドットサイトに対して、レティクルを光らせるスコープのイルミネーション構造では、明るくシャープなドットを実現するのが難しかったのです。 |
毛野: |
なるほど。今のショートスコープには「TRUE 1×」と「デイタイムブライトネス」の2つの特徴を持つものが増えてきましたね。 |
SHIN: |
技術研究の賜物ですね。さらに今は倍率比が大きい物を作るのがチャレンジになってきています。例えば、初期のショートスコープは1~4倍率のズームがメインで、1~5倍率のものは倍以上の値段となっていました。これも技術的な難しさからくるものでした。現在では1~8倍のものも一般的になってきましたね。 |
昨年発売されたナイトフォースの1~8倍比を持つ「ATACR 1-8×24 F1」(ATACR=アドバンスド・タクティカル・ライフルスコープ)はカービンオプティクスとして使用されることを念頭において開発された最新スペックを備えたショートスコープだと言える
VORTEXのショートスコープ「RAZOR HD」も価格と性能、頑丈さがバランスよく備わった素晴らしいショートスコープだ
毛野: |
今後はショートスコープがドットサイトよりも主流になっていくのでしょうか? |
SHIN: |
どうでしょうか。ドットサイトの利点はシンプルさにあると思います。訓練時間が短くて済みますし、サイズもコンパクトです。ですが、ショートスコープはもっと幅広く使用されるようになると思いますね。今後はレンズデザインによるコンパクト化、さらにカーボンファイバーやチタンといった素材の応用による軽量化が進むと思います。 |
毛野: |
なるほど、ドットとショートスコープ。2つの利点を持つオプティクスを使い分けるのも楽しそうですね! |
近距離ではドットサイト並みの素早さでの照準が行なえ、300m程度の距離でのターゲットIDと射撃をアシストする低倍率。アサルトライフルの持つポテンシャルを引き出せるのがショートスコープである
TEXT:SHIN、毛野ブースカ
PHOTO:SHIN
この記事は月刊アームズマガジン2019年7月号 P.134~137より抜粋・再編集したものです。