実銃

2024/12/31

2024年の実銃市場を振り返って【Gun Professionals】

 

2024年のFirearms(実銃)市場を振り返って

 

 2024年も実銃市場には様々な動きがありました。それをひとつずつ書き始めるとかなりの項目になります。そんなわけで、主だったものをピックアップしてみました。

 

NGSW部隊配備開始

 

 アメリカ合衆国陸軍フューチャーコマンド(U.S.Army Futures Command:AFC:2018年創設)は、2024年3月28日にNext Generation Squad WeaponであるXM7とXM250をケンタッキー州フォートキャンベルの第101空挺師団第506歩兵連隊第1大隊が受領したことを発表しました。

 

XM7 & XM250 Images Courtesy of SIG SAUER

 

 XM7はSIG SAUERのMCX-SPEARをベースにしたもので、既存のM4カービンの後継機とされているものです。XM250は同じくSIG SAUERが既存のM249に置き換えることを目的に開発したSAW(分隊支援火器)です。いずれも6.8×51mmハイブリッドアモを使用しており、この弾薬が普及していけば、約半世紀にわたって続いた5.56×45mm時代は終焉を迎えることになるかもしれません。
 6.8×51mmハイブリッドアモはブラス(真鍮)ケース(薬莢)の底部のみをスチールとし、既存のブラスケースと比べて圧倒的な高圧に耐える構造を持っています。そのMax.プレッシャーは約80,000psiで、これは7.62×51mmの60,191psiを大きく凌駕しており、弾道、パワーその両方で機能アップが図られることは間違いありません。
 Next Generation Squad Weaponは同時に、VORTEXが供給するXM157ファイアコントロールスマートスコープ(NGSW-FC)を搭載しています。これは1-8倍のFFP(ファーストフォーカルプレーン:第一焦点面)のスコープユニットで、レーザーレンジファインダー(距離計)、バリスティックコンピュータ(弾道計算装置)、デジタルディスプレイを組み合わせています。射手に標的までの距離と弾道計算に基づいて算出されたドロップ量、そこから算出されるエイムポイント(狙点)が示されることで、より素早く、より正確な射撃が可能になります。
 アメリカ陸軍は2025年、約18,000挺のXM7と約1,700挺のXM250を導入する予定です。また2030年代初めまでに111,000挺以上のXM7と13,000挺以上のXM250がアメリカ陸軍で運用されることが計画されています。2024年は“NGSWが実際に動き出した重要な年”だという事ができるでしょう。
 

 

S&W ボディガード 2.0


  2024年7月16日、S&Wは.380口径のサブコンパクトオートであるボディガード380を大幅アップデートした新製品ボディガード2.0を発表して、すぐに発売しました。旧型は2010年に登場し、ダブルアクションオンリーで6連シングルスタックマガジン、レーザーサイトが内蔵されるという特徴を持っていましたが、新型2.0はストライカーファイアのシングルアクションで、10連、または12連マガジン、レーザーサイト無しとなっています。重量はなんと278gしかありません。

 

S&W Bodyguard 2.0 Image Courtesy of Smith & Wesson Brands,Inc.

 

  大きさはほとんど変わらないものの、トリガーの引きやすさと圧倒的なファイアパワーが新型の魅力ですね。この銃は10月24日、Guns & Ammo誌の2024年ハンドガン オブ ザ イヤー、10月25日にはNational Association of Sporting Goods Wholesalers (全米スポーツ用品卸売業者協会:NASGW)の2024年ベストハンドガン オブ ザ イヤーを獲得するなど、発売後すぐに高い評価を獲得しています。
 Gun Professionalsでは2024年10月号で第一報、12月号で詳細実射レポートをお届けしました。
  個人的には、2024年に新発売されたハンドガンの中では、このボディガード2.0がもっとも魅力的だと感じています。この銃、とにかく小さいのです。従来のボディガード380は、「これはマイクロコンパクトですよ!」と言わんばかりの外観でしたが、ボディガード2.0はM&P2.0を思わせる外観のまま、サイズを縮小しています。なんといっても全長133.4mmですからね。本当に小さいです。その結果、トリガーガードはちょっと窮屈ですが…。メカもM&P2.0とほぼ同じで、.380マイクロコンパクトとしての妥協はほとんどありません。まさにベストハンドガン オブ ザ イヤーというべき存在です。

 

 

The Year of The Lever Gun  レバーアクションの年


 2024年初めの頃、“今年はレバーアクションの年だ:The Year of the Lever Gun”と盛んに言われていました。
 そうなった一番の理由は、Smith & Wesson(S&W)が1月22日に発表したモデル1854の存在でしょう。その1週間ほど前から銃砲関係者に毎日S&WからMailが届き始め、なにやら大注目の新製品が発表される雰囲気が作られたのです。いわゆるティーザー広告ですね。その内容は、ちょっとクラシックなものでアウトドア系の製品の登場を予感させるものでした。
 1月21日には“Back to Our Roots”(私達の原点に立ち返る)と題し、同社が172年前の1852年に発売した最初の製品であるヴォルカニックピストルの写真が送られてきました。これはレバーアクションピストルで、「まさか!いまどきこんなものを発売するはずがない!」と思ったのですが、翌日発表された製品が、モデル1854でした。
この銃は、.44マグナム弾を使用する、レバーアクションライフルで、Marlin(マーリン) モデル1894に少し似た伝統的なデザインに、現代的な要素を組み合わせ、最新加工技術を用いて完成させたものです。

 

S&W Model 1854 


 さすがにこれだけでは、“The Year of the Lever Gun”とは言われなかったでしょう。他にも新興ライフルメーカーのAero Precision(エアロプレシジョン)と、同社の関連会社であるStag Arms(スタッグアームズ)が新型レバーアクションライフルの試作品を発表しました(発売は2025年の予定)。こちらには大幅にモダナイズドされたバリエーションもあるようです。

 

Aero Precision Lever Action Proto Type Photo by Yasunari Akita

 

 他にもベアクリークアーセナル、ボンドアームズ、ヘンリーリピーティングアームズ、ヘリテージマニュファクチャリングなどがレバーアクションライフルを発売、または発売を予定しています。これらに本家本元のウィンチェスター、超老舗のマーリンが加わることで、レバーアクションへの注目度が大いに上昇しました。
 なぜ今、レバーアクションなのか?ということには、いくつかの理由がありますが、ボルトアクションライフルを除けばAR系一辺倒になっている現在のライフルマーケットに対する“ちょっとした飽き”が原因ではないでしょうか?実戦やマッチに用いる実用品としてみたら、あるいは純粋に精度を突き詰めれば、ARやボルトアクションライフルが正解ですが、それとは違うある種のロマンを感じられるタイプの銃として、レバーアクションに人気が集まってきているのではないでしょうか。トリガーを引くだけで連射できるセミオートより、毎回レバー操作する“ひと手間”に魅力を感じるわけですね。このレバーアクション人気は今年急に始まったものではなく、数年前から続いているものです。2024年はそれがさらに加速したという感じでした。

 

 

バンプファイアストック&アームブレイス


 2017年10月1日に起こったラスベガス乱射事件は、バンプファイアストック付きの銃を用いた犯人により、60人が死亡し、869人が負傷しました。これはアメリカにおいてもっとも多くの犠牲者を出した銃乱射事件として記憶されています。
このストックをセミオートライフルに装着すると、発射時のリコイルを利用して連続的にトリガーを引いたのと同じような現象が自動的に作りだされます。この悲劇を受けて、NRAもバンプファイアストックの規制に賛成という姿勢を見せました。
そして2018年、当時のドナルド・トランプ大統領の下、司法省は行政機関としての権利を行使し、バンプファイアストック付きの銃をフルオートマチックウエポンと認定、一般への販売を禁止しました。

 

Slidefire Bump Stockを装着したブルガリア製AK Photo by Masami Tokoi/Terushi Jimbo


 しかし、2024年6月14日、最高裁判所がバンプファイアストックに対する連邦禁止令を無効とする判決を下しました。これにより、バンプファイアストックを州法で禁止している15の州とコロンビア特別区を除き、35の州でバンプファイアストックは所持購入が可能となりました。これは、じゅうそのものにはフルオートマチック機能はなく、またストックにもそのためのメカニズムが組み込まれているわけではなく、フルオート化は人が介在して生み出されるものであるから、禁止令は無効となったのです。

 

Bump Fire Stock付きAKの実射 2013年撮影 Photo by Yasunari Akita


  これとは別に、2024年8月24日、テキサス州地方裁判所は、銃に装着したアームブレイスをストックと見なし、これが装着された単銃身の銃をショートバレルドライフル(SBR)として規制の対象としたATFの判断を、恣意的であるとして無効とする判決を言い渡しました。これにより、2023年5月よりSBRと見なされたアームブレイス付きラージフォーマットピストル(約700万挺)は、それ以前と同じに“あくまでもピストル”として合法的所持が可能となりました。これを受けて、2013年1月初めまで市場に大量に販売されていたアームブレイスを装着した銃が少し市場に戻りつつあります。こちらもバンプストックと同様、州法によって扱いが異なります。

 

H&K SP5K + Arm Brace   Photo by Yasunari Akita


 以前、バンプストック付きの銃を撃ったことがあります。ストックが銃に完全に固定されておらず、カタカタと前後に動きます。個人的意見としては、こんな不安定な銃には魅力を感じませんでしたね。連邦法禁止令の無効を受けて、バンプファイアストックのメーカーであるSLIDEFIREはストックの販売を再開しました。疑似的であれなんであれ、フルオートマチック射撃を気軽に楽しみたい人達にとって、これは朗報でしょう。しかし、私としては賛成できません。銃は遊び半分で撃つものではないと思うからです。
 アームブレイスに関しては、ATFがアームブレイスをストックと見なして規制の対象とした経緯が行政手続法(Administrative Procedure Act)の規定を無視したことが問題視され、ATFの決定が無効となりました。したがって最終的にはまた覆される可能性があります。あくまでも“現在アームブレイスは規制されていない”ということに過ぎません。

 

 

ダイアモンドバックSDR


 ハンドガンを選ぶなら“セミオートマチックか? それともリボルバーか?”、これは20世紀の初頭から議論され続けた古典的なテーマです。しかし、1980年代半ばにはほぼ決着がついてセミオートマチックの時代が始まり、リボルバーは衰退し始めました。それから早くも40年近い時間が経過しています。しかしながら、ポリスデューティーやミリタリー、あるいはディフェンスウエポンとしての需要がなくなったものの、リボルバーはコンシールドキャリー用、ハンティング用、マッチ用といったカテゴリーでは生き続けていますね。
 但し、主流ではないということで、あまり目立った動きはありません。そんな中、2024年に登場したリボルバーがDiamondback FirearmsのSDR(Self Defense Revolver)です。ダブルアクションリボルバーといえば、S&W、トーラス、ルガー、この3社がほとんどすべてという中、2010年代には2016年にキンバーからK6Sが登場、そして2017年にはコルトがニューコブラで再参入するなど、少しだけ動きがありました。その後もコルトパイソンやアナコンダなどが新型になって復活するなど、嬉しい流れもあります。
 新登場のSDRは、コンパクトな.357マグナムの6連発で、ステンレススチール製、ファイバーオプティックサイト、フルーティングスタイルドシリンダーがワンタッチで着脱できるなどといった特徴を持っていますが、どれも既存の製品ですでに実現しているものばかりです。それでも真っ新な新製品の登場は嬉しいですね。リボルバーには、もっと頑張って欲しいと思います。

 

Diamondback Firearms SBR    Image Courtesy of Diamondback Firearms

 

 他にも様々な動きがありましたので、簡単に列挙しましょう。
 ダニエルディフェンスはH9でハンドガンマーケットに参入してきました。2017年に登場し、わずか2年で消滅したハドソンH9を再設計したメタルフレームモデルです。ハドソンH9の発表時はスゴイ反響だったのですが、7年が経過した今ではそれほど注目されていません。しかし、ダニエルディフェンスH9の登場は喜ばしい出来事ですね。グロッククローンとは異なる選択肢が増えるのは大歓迎です。
 コルトは2024年も、かつてのDAリボルバーと同じ名前を付けた製品をリリースしました。グリズリー、ヴァイパー、コディアックです。しかし残念なことに新規性はゼロで、“昔の名前ででています”ただそれだけに過ぎません。CZグループに買収され、コルトCZグループとなったコルツマニュファクチャリングですが、いつまでたっても新しい動きが見られないのはどうしてなのでしょうか。自分としては、コルトのポリマーフレームハンドガンや、8ショットパイソン、AR15を大改修したスーパーAR、ダブルスタックフレームのコルト2111…なんてものを見たいと思っています。
 ベレッタの新しいアサルトライフルNARP(New Assault Rifle Platform)は、2018年から始まったプロジェクトで2023年に発表されましたが、まだその全貌は見えていません。ベレッタって新しいものを発表してから現物が市場に出てくるまでかなり時間を置くことがあります。APXがそうでした。発表して注目されたなら、どんどん見せてくれた方が良いと思うのですが、この1年の間、新しい情報は入ってきませんでしたね。
 2023年12月27日にガストン・グロックが亡くなられ、50歳年下の奥様であるKathrin(カトリン)がグロックの新しいCEOに就任しました。これによってグロックに大きな変化が始まると思ったのです。2024年中には新しい動きはありませんでした。優れたプラットフォームであるグロックも、誕生から約40年が経過、市場にはグロッククローンが溢れています。さらにはSIG P320のFCUに代表されるシャシーフレームも広がりを見せてきました。王者グロックも安泰ではないと感じます。
 SIG SAUERは2024年も絶好調でした。P365のバリエーションは売れまくっています。P320について、SIG SAUERは
The P320 has become one of the most important, most tested, most proven, most selected pistols in the world, from military applications to competition, and everything in between.
(P320 は、ミリタリーユースからコンペティションまで、あらゆる用途で、最も重要で、最もテストされ、最も実績があり、最も選ばれているピストルのひとつとなっています)
と述べています。但し、その一方で、2024年になっても依然として、不本意な発射(unintentional discharge)が起こるという話は消え去ってはいません。2025年にはこの問題が完全に払拭されて欲しいと思います。

 

 実銃市場は現在、様々な動きがあります。ヘッケラー&コッホは遂にCC9を、ルガーとMAGPULはRXM、キンバーは新型ダブルスタックの2K11を発表しています。しかし、これらは2025年の新製品というべきものでしょう。
 ホーナディ新しいカートリッジとして、338 ARC(Advanced Rifle Cartridge)をリリースしました。これはAR15プラットフォームから撃てるハードヒットサブソニック弾です。これも2025年に向けた製品ですね。
 海外の実銃マーケットからは目を離せない状況がこれからもずっと続きます。そのような中、Gun Professionalsは2025年1月末より、Gun Pro Webに生まれ変わることになりました。これに伴い、こういった新しい情報を逐一報告していきたいと思います。Gun Pro Webをどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

TEXT:Satoshi Matsuo(Gun Pro Web Editor)

 

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