2024/10/04
圧倒的な耐久性とユーザビリティを誇る光学機器メーカー・トリジコン(Trijicon)とは
“Made in USA” にこだわる光学機器メーカー
トリジコン(Trijicon)は、米海兵隊をはじめ世界各国の軍・法執行機関で採用実績のあるACOG、そしてVCOGやRMRといった傑作光学照準器の数々を手掛けてきたメーカーだ。Made in USAにこだわり、耐久性とユーザビリティ(使いやすさ)を徹底追求してきたトリジコンの光学機器。多くの兵士や警察官に支持されている同社製品がどのように生み出されてきたのか、見ていこう。
ひとりの航空エンジニアが創業
トリジコンは1981年、航空エンジニアでハンターでもあるグリン・ビンドン(Glyn Bindon:1937-2003)により設立された。当初は副業程度にトリチウムを使用した新機軸のガンサイト「Armson OEG」の販売を手掛けていたが、やがて彼は米海軍のF-8クルセイダー戦闘機やNASAでの開発プロジェクトなどの豊富な経験を活かし、1985年にはトリチウムレティクルのライフルスコープ「Spectrum Riflescope」を開発。光学機器メーカーとして次のステップを踏み出した。以来、同社は様々な光学照準システムの開発を手掛け、革新的な設計と製造技術で業界をリードしている。
トリジコンの製品は、トリチウム技術などにより発光し視認性を高めたイルミネーテッドレティクルや驚異的な耐久性で知られ、世界中の軍・法執行機関での採用実績を持つ。そのために同社で開発されたすべての戦闘用光学機器は高い技術力を持つ自社工場で製造すること、すなわち「Made in USA」にこだわっているのである。
ACOG Advanced Combat Optical Gunsight
軽さと耐久性を両立
輝かしい科学 ―Science of Brilliant― 製品に課される過酷なテスト
すべてのトリジコン製戦闘用光学機器は、MIL-STD-810Gのテスト基準を満たしているか、それを上回っています。
MIL-STD-810Gとは、米国防総省が定めたMIL規格のひとつだ。この規格においては温度、湿度、高度、振動、衝撃、耐水などの過酷な環境条件に即したテストが行なわれ、軍の装備品がこれらのテストを受けて問題なく機能することが実証されなければならない。
トリジコンは自社の光学機器が砂漠や極地といった極端な場所で使われたり、落下して硬い地面に叩きつけられたり、水没したり、粉塵にまみれたり、火に包まれたりしてもなお「照準」に必要な機能を失わない耐久性を持たせるように設計している。
以下、同社製品に課されているテスト項目について列記する。
アラスカ‐アフリカ冷熱衝撃テスト
同社の各種光学機器は「アラスカからアフリカまで」、-20℉(-28.89℃)から 140℉(60℃)において熱膨張や収縮などが機器に与える影響を確認する、冷熱衝撃テストを実施。これにより、どのような地域でも正常な機能が維持される製品を送り出している。
ゼロ点規正耐久テスト
各種光学機器のゼロ点規を1,000発、3,000発、5,000発…と連続射撃後に測定。射撃時の衝撃や振動によりレティクルのずれが起こらず、精度が維持されていることを製品に課している。
落下耐久テスト
同社は「落として破損してしまった」度に保証請求が発生するべきではないとの考えから、過酷な落下耐久テストを実施。落下して衝撃を受けても、機能が維持されることが課されている。
衝撃・振動耐久テスト
射撃時や落下以外にも、運搬時などの衝撃や振動は光学機器にストレスを与える。各種光学機器の衝撃・振動耐久テストでは使用前、使用中、使用後を想定した激しい衝撃や振動が加えられ、これにより性能の低下や故障が発生しないように設計される。
浸漬テスト
各種光学機器が海水や泥水に没した際、曇りや浸水が発生していないか確認する浸漬テストを実施。内部には過酷な環境条件から保護されるように、乾燥窒素が充填されている。
このように、過酷な環境下で確実に機能するような製品作りへの姿勢を表すものとして、彼らは「Science of Brilliant( 輝かしい科学)」という標語を用いている。
両目照準で視野を広く ―Bindon Aiming Concept―
旧来のスコープでは照準時に片目を閉じる必要があったところ、創業者はレティクルを発光させることで主眼で標的を照準しつつ、もう一方の目で標的と背景を捉えられることに着目。視野を広く取れることは戦闘でも狩猟でも有利であるため、このコンセプトを創業者の名にちなみ「Bindon Aiming Concept(BAC)」として自社製品に採り入れている。
豊富な実戦を経て証明された高い信頼性
米陸軍は1987年、トリジコンが開発したコンパクトなライフルスコープ、ACOG(エイコグと発音:Advanced CombatOptical Gunsight)TA-01を一部の部隊で採用。1989年のパナマ侵攻、1991年の湾岸戦争などで実戦投入された。スペックは4x32で、トリチウムによる自光式レティクルを持ち、使い勝手の良さや堅牢さから軍・法執行関係者の注目を集めることとなった。
同社製品はほかにもハンドガン用トリチウム封入型アイアンサイト「Bright & Tough Night Sights」をFBI(連邦捜査局)に、「Reflex 1x24」ドットサイトを米特殊作戦部隊向けのSOPMODM4カービンキットに採用。また、ACOGは改良を重ねて様々なニーズに応じたバリエーションが展開がなされ、米海軍特殊部隊SEALsやイスラエル軍特殊部隊、ドイツ連邦警察の対テロ特殊部隊GSG9など各国の軍・法執行機関での採用例が増えていった。
過酷な環境下でもしっかり機能/小銃手の戦闘力を劇的に向上
とりわけ、2005年には米海兵隊がACOG TA31 4x32をRCO(Rifle Combat Optic:ライフル戦闘光学機器)として大々的に採用。海兵隊の一般的な小銃手が装備するM16A4やM4A1などにも搭載され、「イラクの自由作戦」に投入されている。このACOG TA31RCOの採用は、後の国防長官で当時第1海兵師団長だったJ.N.マティス少将に「第二次大戦期のM1ガーランド採用以来、海兵隊歩兵の殺傷力における最高の改善」とまで言わしめた。また、2008年以降、M240B汎用機関銃などに搭載するACOG 6x48が米陸軍および海兵隊で導入されている。
VCOG Variable Combat Optical Gunsight
トリジコン製品ではACOGの他にもハンドガン対応のマイクロドットサイトRMR(Ruggedized Miniature Reflex Sight)がUSSOCOM(米特殊作戦コマンド)のMAS-D(Miniature Aiming Systems -Day Optics)として2018年に採用。さらに2020年には米海兵隊がVCOG(Variable Combat Optical Gunsight)1-8x28をSCO(Squad Common Optic:分隊共通光学機器) として採用し、主にM27 IARに搭載している。
このように、米軍を中心に世界各国の軍・法執行機関で使用されている同社の製品は、いくつもの戦場や事件現場で使用され、その実力、信頼性を証明してきた。トリジコンの光学機器が持つ比類のない耐久性と耐衝撃性、あらゆる環境下で確実に使える信頼性の高さは多くの兵士や警察官に支持されるに至り、今も進化を続けているのである。
ACOG with RMR
世界各国の軍・法執行機関で採用
夜間照準器や時計の文字盤などに活用される「トリチウム(Tritium)」とは?
トリチウムは三重水素とも呼ばれ、陽子1つと中性子2つで構成される放射性同位体である。弱いβ線を放射しながらβ崩壊し、半減期は12.32年。水素爆弾(水爆)の材料の一つとしても知られ、原子爆弾の核分裂を起爆装置としてトリチウムに核融合反応を誘発させ、最終的に旧来の原子爆弾を大幅に超える核出力を得られる。
この物質は自ら燐光を発し続けているため、夜光塗料としてごく微量のトリチウムを小さなチューブなどに封入する形で、時計の文字盤や照準器などに活用されている(ただし、β崩壊に伴い一定の年月を経ると光量は低下していく)。トリチウムは宇宙線と大気の相互作用で生成され自然界に存在するが回収は困難なため、原子炉内でリチウムに中性子を当てるという人工的な方法で生成されたものが商業利用されている。それゆえ、トリチウムは1g当たりの価格が約3万ドル(近年のレートではおよそ430万円)となっており、「地球上でお金を出して買える最も高価な物質のひとつ」とも言われている。
トリジコンは初期の頃からこのトリチウムを光学照準器のレティクル照明やハンドガン用ナイトサイトに採用しており、現在ではトリチウムに加え、集光方式のファイバーオプティックイルミネーションやバッテリー式のLED照明も併用して、より多様化したニーズに応えている。
海兵隊員の命を救ったACOG
2004年9月、「イラク自由作戦」に従事していた米海兵隊のトッド・パワーズ2等軍曹がイラク・ファルージャにて作戦行動中に狙撃された。その際、彼はM16A2を構えて別の敵兵を狙っていたが、着弾の際幸運にも銃に装着していたACOG(実は元海兵隊員の父からの贈り物)に当たり、彼は後方に吹っ飛ばされたものの軽傷で済み、任務を続行できたという。このことは、トリジコン製品の頑丈さを示す好例といえるだろう。
LINE UP —JAPAN EDITION—
日本で購入できるトリジコンの光学機器
堅牢で高い信頼性を持つトリジコンの光学機器は、日本ではノーベルアームズ(NOVEL ARMS)が輸入・販売を手掛けている。ここでは主なラインアップをご紹介しよう。
ACOG Low Tritium
- 全長:151.89mm(TA31)、203.2mm(TA11)
- 全高:58.42mm(TA31)、73.66mm(TA11)
- 全幅:50.8mm(TA31)、53.34mm(TA11)
- 重量:422.41g(TA31)、396.89g(TA11)
- 倍率:4倍(TA31)、3.5倍(TA11)
- 価格:各未定
ACOGはトリチウムとファイバーオプティック併用による電源不要のイルミネーションレティクルを備えている。しかし、トリチウムの使用量が日本の原子力基本法で定められた基準値を超えており(もちろん人体への影響はないレベルだが)、日本において輸入、販売、所持ができない。そこでトリジコンは日本仕様としてトリチウム含有量を減らしたLT(Low Tritium)バージョンを開発した。これにより、光り続ける期間が若干短くなるが、レティクル輝度はオリジナルと変わらないレベルを実現している。バリエーションはTA31 4x32とTA11 3.5x35の2種。
RMR HD
- 全長:54.61mm
- 全高:30.23mm
- 全幅:32.26mm
- 重量:47.61g
- ドットサイズ: 1.0MOA+55MOA、 3.5MOA+55MOA
- 価格:各¥137,500
マイクロドットサイトRMRの最新バージョンで、バッテリー収納部をトップローディング式に改め交換を容易にした(従来品のようにマウントベースから本体を外す必要がない)。視界は広くなり、レティクルはドットとリングサークル(55MOA)の2種類を切換え可能。前方感知式の光センサーによる自動輝度調整ができるなど、使い勝手が大幅に向上している。
55MOAのリングサークルでの照準
RCR
- 全長:47.72mm
- 全高:25.4mm
- 全幅:30.48mm
- 重量:56.13g
- ドットサイズ:3.25MOA
- 価格:¥146,300
トリジコン初のエンクローズドタイプボディを採用し、耐久性をさらに高めたマイクロドットサイトの新シリーズ。バッテリーはトップローディング式で、スイッチはプッシュボタン式(10段階に輝度調整可能)。横方向からねじ込みできるキャプスタンスクリューを備え、追加プレート不要でRMRフットプリント対応のマウントベースに直接装着できる。
RCRの装着例
MRO Patrol
- 全長:104.14mm
- 全高:76.2mm
- 全幅:45.72mm
- 重量:172.93g
- ドットサイズ:2.0MOA
- マウント:Full Co-Witness Mount、Lower 1/3Co-Witness Mount
- 価格: 各¥158,950
MRO(Miniature Rifle Optic)はアサルトライフルやショットガンに対応し、近接戦闘に最適の密閉型ドットサイト。左右どちらの手でも操作できるトップ配置の輝度調整ダイヤルを備え、輝度調整はナイトビジョンモード2段階を含む8段階。ウィンデージ/エレベーションノブはロープロファイルなキャップレスタイプを採用している。写真の「Patrol」タイプはキルフラッシュ&レンズキャップ付きモデルで、Q-LOCタイプのクイックリリースマウントを装備。
SRO
- 全長:55.88mm
- 全高:35.56mm
- 全幅:33.02mm
- 重量:45.36g
- ドットサイズ:1.0MOA、2.5MOA、5.0MOA
- 価格:各¥137,500
SRO(Specialized Reflex Optic)はターゲットシューティングや射撃競技向けに開発されたマイクロドットサイトだ。広視界のレンズを採用し、捉えやすく明瞭なドットは射撃精度とスピードを向上させる。輝度調整はナイトビジョンモード2段階を含む8段階。
RCRの装着例
ITAR対象アイテム
トリジコンにはITAR(国際武器取引規則)対象の製品(一般ユーザーへの販売は不可)も存在する。ノーベルアームズでは自衛隊や法執行機関など官公庁向けにこうしたアイテムを取り扱っている。
MGRS
IR-HUNTER
Q-LOC 革新的なクイックリリースマウント
トリジコンが近年発売した新型クイックリリースマウント「Q-LOC」は①片手で着脱でき②ロックを緩めた状態でもレールから落ちない③着脱してもゼロ点規正が保持される…など革新的な性能を有している。その特徴を見てみよう。
Special Thanks to:Trijicon
商品のお問い合わせ先:ノーベルアームズ(NOVEL ARMS)
画像提供:Trijicon
この記事は月刊アームズマガジン2024年11月号に掲載されたものです。
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