2024/10/19
レンガで造られた浦賀造船の歴史を象徴する遺産『浦賀ドック』【かつて造船の町だった地】
横須賀市 都心から京急で約1時間、横須賀の中心地を超えその先に今回の目的地はある。
横須賀の観光といったら「猿島」「YOKOSUKA軍港めぐり」「三笠公園」「ドブ板通り」「横須賀美術館」「ソレイユの丘」といった場所などが上げられる。今回紹介する浦賀は他の観光地とは少し離れた場所にあり、今では少しマイナーな地かもしれない。しかし、歴史・日本の産業において重要な役割を果たした地になる。
そんな「かつて造船の町だった地」横須賀・浦賀にある日本で二つしかないレンガ作りのドックである「浦賀ドック」を前編では本来役割と現在の様子を紹介して行きましょう。後編では浦賀の歴史から浦賀ドックについて紹介していきます。
・浦賀ドックって何のために作られたの?そもそも浦賀ドックって何?
浦賀ドックは紆余曲折あり明治時代、浦賀船渠株式会社によって造られたドック(この歴史については後編で紹介)。オランダ人技師の基本設計とドイツ人技師の技術指導を元に、横須賀製鉄所で技術を学んだ杉浦宋次郎を中心として、1897年に民間主導としては最初期に設立された造船所である『浦賀船渠』が1899年に竣工した「修繕ドック」になる。
この修繕ドックというのが浦賀ドックを語るうえで重要になり、ドックと呼ばれる場所は船の修理・メンテナンスを行う為の施設であり、多くの船が造船される船台と呼ばれる場所と共に造船所の主要施設になる。
修繕ドックもといドライドック(乾ドック)は名前のごとく検査や修理の為にドックに水を入れ船を入渠し水を抜き、ドライな状態でメンテナンスを行う施設。その為浦賀ドックには船を修理することに特化した設計や時代の変化における改修が多くみられる。

横須賀市自然・人文博物館所蔵
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浦賀ドック見学
最寄りである浦賀駅の改札を出ると目の前に住友重機械工業の浦賀造船所が広がっている。現在は造船事業を行っていないため静かだが、かつては駅まで造船所からの活気が届いていそうな距離感だ。
駅を降りて造船所にそって浦賀通りを歩きしばらくすると浦賀ドックの入口は見えてくる。

前述した通り浦賀ドックは日本で最初期に民間主導で作られた造船所であり、当時の懐事情から現代となっては貴重な日本で唯一見学できるレンガ造りのドライドックになる。
ここからは当時の設計や現代にいたるまでの改修点など、今現在、イベントなどの一般開放日のほか、事前予約制のツアー限定で見学して見ることができるポイントを中心に写真で浦賀ドックを解説していこう。

※焼過(やきすぎ)レンガ:通常より高温で焼かれ赤褐色で焼きムラのあるレンガ。吸水性が少ない
浦賀ドックの大きさ
- 開渠時
長さ:約136m
幅:約18m
深さ:約9m
- 現在
長さ:約180m
幅:約26m
深さ:約10.9m
ドックのサイズは時代によって変化し、開渠(かいきょ)時と現在ではここまでサイズが変化している。造船技術が進歩し、船の大型化や艤装(ぎそう)の増加により度々改修が行われた為、その都度ドックの改修が行われ拡張されてきた。その為実際訪れてみると時代によって改修され閉渠(へいきょ)まで使われてきたのを実感できる。
ちなみに、ドック建造時はすべてレンガ作りだったが、のちに改修された箇所は全てコンクリート造になっている。

このようにコンクリート造になっているので改修された場所は一目瞭然




(フィンスタビライザー:船の航行時の揺れを抑える装置。船速が早ければ早いほど効果を増し、止まると効果を失う)
次はドライドックの設備について見て行こう。
造船所のドックというのは主に船を修理するための場所であり、基本的に建造する場所ではない(建造は主に船台だがドックでも建造する場合はある)。その為、ドックには海に浮かんでいる船をドック内に入れ、排水し、整備するための設備で構成されている。

また作業を行いやすいように昇降用の階段も設けられている











浦賀ドックはゲート式を採用している(ほかにはフロート式と呼ばれるゲートもある)。ドック内に水が注水され船を迎え入れるときは海の方に倒れる。艦船をドックに入れるとウィンチで跳ね上げドックを封鎖するある


整備が行き届いているため、海風に晒される地でもしっかりと形を残しているがよく見ると時代を感じる造り



浦賀ドックには活用センターと呼ばれる施設が併設している。ここは普段は解放しておらず、イベント時にしか見学することができない。しかし、この中には当時造船所で使われていた工具や進水記念品の展示、浦賀ドックの歴史含め諸々が展示されている。その展示の一部を紹介していこう。

当時ここまで電話が使用される現場は珍しい。船内のどの場所で何が行われているか状況把握の為には必須であった

熱した鉄をあけた穴に打ち込むことで鉄板を固定する。投げられてくるリベットを受け取る人と、リベットガンで打ち込む人のツーマンセルで作業は行われた。現在では溶接が主流

発注者と受注者がボタンを同時に押すことで最初の溶接が始まる。

資料としても少なくかなり貴重な展示品。日本でしか見られなかった特殊な羅針盤

現在は展示場所に置かれていないが特別に見させていただいた
この浦賀ドックは取材時現在(2024年8月)では安全管理上の問題で、当日気軽に訪問して見学できない。その為訪問するには「旅行代理店などのバスツアー」「個人向けガイドツアー(毎月第一・第三日曜日)」「イベント等に合わせた公開(不定期)」といった限定されたツアーやイベントに参加して見学する必要がある。

(2024/6のグーグルストリートビューで確認できます)


個人的な感想になるが、一度はこの浦賀ドックを生で見学して欲しい。艦船と歴史が好きな筆者としては、かつてとはいえ造船所のドックに入ることができてかなり楽しめた。また、映画などでのロケ地として利用もされているので「もしかしたらこの景色見たことあるかも?」という人は聖地巡礼をしてみてもいかがでしょうか?
PHOTO&TEXT:出雲
取材撮影協力:横須賀市
横須賀市観光協会
横須賀市自然・人文博物館
Special Thanks:住友重機械工業株式会社
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