エアガン

2024/10/02

エアガン黎明期に登場した謎のモデルガン「マルシン シューティングデバイス MkⅠ」

 

エアガン黎明期に登場した謎のモデルガン

 

 

 1983年に登場したマルゼンのライブカート式エアガンKG-9をきっかけにトイガンの市場がモデルガンからエアガンへ一気にシフトした。モデルガンメーカーは後追いするかたちでエアガンを販売することになるのだが、当初はエアガンに対して消極的(否定的)なメーカーと、積極的なメーカーに分かれていた。消極的なメーカーの代表はMGC。月刊モデルガンチャレンジャー誌上でエアガンの危険性を訴えるネガティブキャンペーンを展開した。そんなMGCも1985年に何事もなかったかのようにスライド固定式ガスガンM93Rを発売して業界関係者やユーザーを驚かせた。

 

ダブルアクションオートのスミス&ウェッソンM439を再現した発火式モデルガンをベースにしたシューティングデバイスMkⅠ。デバイスが付属した左側のグリップやコッキングハンドル付きのリアサイトに変更された以外はノーマルのままだ

 

 一方、積極的なメーカーはコクサイとマルシンだった。マルゼンのKG-9はオーソドックスなライブカート式のエアコッキングガンに対して、両社ともモデルガンメーカーのプライドとコダワリからか、発売した製品はかなりユニークだった。まず先行したのはコクサイ。1983年末にBB弾の発射機能を持つモデルガン「スーパーウェポンM16A1」を発売した。これはモデルガン本体にシリンダーとピストン、インナーバレルを組み込み、火薬の力でピストンをコックしてBB弾を発射するというエアガンのようなモデルガンだった。バレルの上にインナーバレルが設けられるなどリアルさに欠ける部分があったが、連射できて、発火させなくても手動でピストンをコックしてBB弾が発射できた。ケースレス式なので命中精度もそれほど悪くはなかった。M16A1に続いてXM177E2、レミントンM700 BDLが発売され、一定の人気を得た。

 

シューティングデバイスMkⅠの右側を見たところ。グリップ右側はノーマルのまま。リアサイトはコッキングハンドルが付き、デバイス側にあるヒゲばねを引くためのフックが追加されている

 

マルシン・シューティングデバイスMkⅠ

 

 コクサイのスーパーウェポンに遅れること数か月後に登場したのが、今回紹介するマルシンの「シューティングデバイスMkⅠ」である。スーパーウェポンは圧縮した空気でBB弾を飛ばすエアガンに対して、シューティングデバイスは正確に言えばエアガンではない。BB弾をヒゲばねで弾いて飛ばす、まるで指でレバーを弾いてパチンコ弾を飛ばす昔のパチンコ台のような発射機能を追加したモデルガンだ。発火式モデルガンS&W M439をベースに、BB弾の発射機能とマガジン、スコープマウント&スコープが備わった装置(シューティングデバイス)がグリップ左側に装着されている。発火してスライドが後退した時にヒゲばねが引かれ、引き切って戻る勢いでBB弾が発射されるというものだ。

 当時はBB弾が発射できるハンドガンが少なく、そう言った意味では画期的だったが、シューティングデバイスの構造はスーパーウェポンに比べてかなり原始的といえば原始的だ。スーパーウェポンは発火させなくてもBB弾は発射できたが、シューティングデバイスは発火しないとBB弾は発射できない。しかもヒゲばねのテンションが強く、しっかり発火しないとヒゲばねが引けず、結果的にBB弾は発射されない。最悪どちらも楽しめないという残念な結果に終わってしまうことが多々あった。シューティングデバイスは発火式モデルガンにコダワリすぎた故にモデルガンとしても中途半端な製品となってしまった。

 

シューティングデバイスMkⅠのパッケージはこんな感じ。赤色のイヤマフにショルダーホルスターを着けているシューターに時代を感じさせる。ブローバックしてカートリッジがェジェクトされ、デバイスからBB弾がしっかり発射されているが、エジェクションポートからそんなにスモークを出さなくてもいいのではないかと思ってしまう

 

BB弾は銃側のバレルからは発射されず、銃本体左側(写真では右側)に備わったシューティングデバイスから発射される。銃側のバレルではなく、あくまでもデバイスからBB弾が発射されるのであってパララックスとか気にしてはいけない

 

デバイスが装着されているグリップ左側は金属製なので剛性は確保されている

 

マガジンは9mm×19弾仕様のシングルカアラムタイプ。カートリッジの装弾数は8発。この辺りはモデルガンからそのまま流用されている

 

モデルガンのカートリッジはマルシン独自のPFC(プラグ・ファイア・カートリッジ)。7㎜キャップ火薬仕様で、ブローバックパワーを強めたシューティングデバイス専用のキャップ火薬があったとされているが、真偽のほどは定かではない

 

グリップ左側に備わったシューティングデバイス。樹脂製でバレル、マガジン、スコープがユニット化されている。ただし、これ単体でBB弾は発射できない

 

スコープ下にある筒がBB弾用のバレルだ。長さ60mmの真鍮製インナーバレルが内蔵されている

 

マガジン前方にはインナーバレルにBB弾が送り込まれないようにするカットオフレバーが備わっており、発射の際はカットオフレバーを下げてインナーバレルにBB弾を送り込む

 

デバイス後方に備わったBB弾用のマガジン。装弾数はカートリッジと同じ8発。フォロワーをいちばん後方まで下げて、上部にある給弾口からBB弾を装填する

 

ピストルスコープをモチーフにしたスコープ型照準器。レンズは無倍(等倍)で、クロスヘアがプリントされているが実用性は乏しく、単なる飾りといってもいい

 

リアサイトはコッキングハンドルとデバイス側のヒゲばねを引くためのフックが取り付けられている。コッキングハンドルはイマドキのドットサイト付きレースガンにも採用されており、先取りしていたといってもいい(のかな…)

 

シューティングデバイスを固定しているスクリューを緩めるとグリップからシューティングデバイスが外せる。銃本体はこのままでも発火でき、グリップとリアサイトを交換すればノーマルのM439に戻せる。シューティングデバイスはこのままではBB弾を発射できない

 

外したシューティングデバイスの左側を見たところ。アイディアは面白いが、黎明期のエアガンの実射性能であっても、それに追い付けないほど実射性能は低い

 

シューティングデバイス右側を見たところ。デバイス中央にあるヒゲばねでBB弾を弾いて飛ばす。インナーバレルは備わっているものの実射性能は推して知るべしだ

 

ヒゲばねをアップで見たところ。BB弾を飛ばすためか想像よりもテンションがあり、かつストロークも短いので、ブローバックにそれなりの力がないと引くこと自体が難しい

 

BB弾はこのような感じでインナーバレル側にセットされる。ヒゲばねの先端がBB弾に触れているのがわかるだろうか。BB弾の上にある突起のはキャリアと呼ばれる強制給弾装置

 

リアサイト上部を見たところ。ヒゲばねを引くフックと、その上にはBB弾をインナーバレル側に導くキャリアを作動させるための突起が設けられている。これらのパーツがないとシューティングデバイスからBB弾は発射されない

 

今回発火できなかったので、手動でスライドを引いてヒゲばねを引いてみたが、経年劣化のためか時折フックからヒゲばねが外れたり、ヒゲばねが引っ掛からないことがあった。実際に発火させてBB弾を連続して撃つのは難しいのではないかと思う

 

 モデルガンメーカーらしいアプローチで発売されたスーパーウェポン、シューティングデバイスともに長続きはせず、コクサイ、マルシンともに純粋なエアガンを発売し人気を博していった。その後、BB弾が飛ぶ(BB弾発射機能を持つ)モデルガンはどのメーカーからも発売されることはなかった。逆に発火せずともモデルガン的なリアルさを持つエアガンは数多くあり、発火に限って言えばクラウンモデルのスパークリングエアガンがあるものの少々趣が異なる。モデルガンはモデルガン、エアガンはエアガンというのが現在の結論だろう。マルシンのシューティングデバイスはまさに世の中がエアガンに移りつつある過渡期に誕生したトイガンである。

 

TEXT:毛野ブースカ

 

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