2019/04/25
実銃レポート HS-Produkt XDM-9 4.5
クロアチアで生まれ、アメリカで揉まれて育ったストライカーファイアピストル
アドリア海に面した美しい東欧の国、クロアチアのHS-Produktが作り上げたピストルHS2000は、スプリングフィールドによりXDとして発売され、銃の巨大市場アメリカで大成功を収めた。そして目の肥えたユーザーのフィードバックを得て進化したのが、このXDMだ。今回はその最新版のカスタムと、XDのもうひとつの進化版、XD MOD.2を試した!
XDピストルを生んだHS-Produkt
フランスの制式アサルトライフルは2016年にHK416Fが採用され、現在FA-MASから更新が進みつつあるのは周知のとおりだが、そのトライアルにクロアチアの銃器メーカー、HS-Produktの手がけたブルパップ式アサルトライフルVHSも参加し、最終選考に残ったほどの実力を有していたことはあまり知られてはいないだろう。このメーカーはピストルも製造しておりHSとXDMというラインアップを揃えているが、こちらもいまいちピンとこないかも知れない。しかし、スプリングフィールドXDといえばご存知の方も多いはず。この銃こそ、HS-ProduktのHS2000ピストルをスプリングフィールドが見初め、自社ブランドのXDとして発売したものだ。
ちなみにHS2000はクロアチア軍および警察向けとして1990年代後半に開発された。ヨーロッパの無名メーカーの良質なピストルを、アメリカの有名メーカーが自社ブランドで発売した例は先月ご紹介したSTI GP6(グランドパワーK100)も同様だが、GP6が鳴かず飛ばずだったのに比べXDがセールスで成功を収めたのは対照的だ。
筆者がフランスで銃砲所持許可を取得した頃、アメリカで試射したXDを気に入り、手に入れてみたいと思った。しかし、スプリングフィールド製品はフランスでも販売されていたもののXDは販売契約の制約からアメリカ国内向けのみ。ロゴが違うだけで中身はまったく同じHS-ProduktのHSもフランスには入っておらず、結局購入を断念した。
従来のスプリングフィールドXDシリーズはアメリカ国内向けの商品名だったのに対し、進化版のXDMシリーズは開発メーカーであるクロアチアのHS-Produktと、アメリカのスプリングフィールドが同じ商品名でラインアップしている。今回もイワン・スタイナー氏に協力いただきHSProduktのXDM最新モデル、しかもマイクロドットサイトやストレートトリガーが装備されたカスタムを用意。前回のエクスカリバー同様ハンガリーの射撃場で味わった
XDの進化版「XDM」
XDがアメリカで爆発的な人気を得られたのは、スプリングフィールドという名門が扱い販売戦略が優れていたことと、そもそもHSシリーズの素性が良かったのがその理由だ。ポリマーフレームのストライカー式ピストルは注目されていたし、トリガーフィーリングも良好で無骨なカッコよさもあった。そこからアクション映画やゲーム、アニメ等にも登場するほどになり、コストパフォーマンスの高さからIPSCなどの競技用としても人気が出た。
このように、HS-Produktとしても有名になったXDのブランドで展開したかったようで、HSシリーズの発展型として2007年に登場したXDMシリーズはHS-Produktとスプリングフィールドが同じ製品名で展開することになった。
XDMシリーズは、銃の巨大マーケットであるアメリカで人気となったXDのフィードバックを得てブラッシュアップされ、スライドのデザインはよりスリムとなり、グリップのバックストラップを交換可能とするなど現代のトレンドに合わせている。
XDM-9 4.5
- 使用弾:9mm×19
- 全 長:193.5mm
- バレル長:116.5mm
- 重 量:715g
- 装弾数:19発
今回主役となるのは、HS-ProduktのXDM-9 4.5だ。撮影のため用意いただいたXDM-9 4.5は、現行モデルをベースにマイクロドットサイトの搭載など、オーナーがスポーツシューティング向けにカスタムしている。
グリップ下部にはブラス(真鍮)製のマグウェルが装着され、使い込まれてエッジが金色になっている。グリップはHS2000や初期のXDと比べ角が取れ、一見ゴツゴツしたチェッカリングも握って不快感はなく、より滑りにくくなるなど進化を感じた。
スライドはXDM OSP(Optical Sight Pistol)シリーズで採用された、マイクロドットサイトを搭載可能なOR(Optics Ready)仕様で、ドイツ製のDocter Optic Sight IIIを搭載。トリガーは微妙で確実なトリガーワークに適したストレートタイプに交換され、チョイスしたオーナーの射撃センスがうかがえる。
XD MOD.2 5″TACTICAL MODEL 9mm
- 使用弾:9mm×19
- 全 長:210.8mm
- バレル長:127mm
- 重 量:822g
- 装弾数:16発
XDMとの比較用として、スプリングフィールドのXD MOD.2 5″TACTICAL MODEL 9mmも撃ってみた。こちらはフルモデルチェンジを受けたXDMとは異なるHS2000の正常進化版で、スプリングフィールドはXDシリーズ、HS-ProduktはHSシリーズとして展開。XD MOD.2はその最新モデルで、フレームやスライドのデザインも一新されている。従来のXDの角ばったやや大柄なグリップも悪くはないと思っていたが、MOD. 2ではグリップがフィンガーグルーブ付きのエルゴノミックタイプとなり、自然と手にフィット。滑り止めのシボも適切な位置に入っており、従来型と比べ射撃時の操作性は格段に向上している。
XDからデザインを一新されたXDM(上)と、XDの正常進化版ともいえるXDMOD.2(下)。いずれもXDの発展型だが、進化の方向性は若干異なっている
インプレッション
構えてみると、XDMはグロックに比べスライドの背の高さを感じ、XDもそれは同様だ。トリガーはストレートトリガー仕様にカスタムされ、軽くシャープなフィーリングになっている(トリガーセーフティはオミット)。ただ、先月ご紹介したエクスカリバーと比べると、少しおとなしい味付けではあるようだ。また、グロックのセーフアクションとは異なりXDはシンプルなシングルアクションを採用しているので、よりトリガーチューニングがしやすいのも特徴だろう。また、XD/XDMシリーズはトリガーセーフティに加えグリップセーフティも備えている。グリップセーフティは見た目には邪魔そうだが、実際に握ってみるとまったく気にならない。また、XDMのスライドは前後のセレーションが深く彫られ、上側が適度に傾斜し掴みやすくなっている。
このXDMは気持ちよく射撃できた。素性が良い銃だけに、カスタムすれば極上のピストルとなるのだ! XDMはフルサイズグリップでは装弾数が19発と多いが、従来型のXDとグリップの印象は大差がない。このXDMに装着されたブラス製マグウェルは適度な重みがあり、手首を回転させてみるとバランスが向上しているのがわかる。マグチェンジも格段にしやすくなっている
XD MOD.2のグリップはフィーリングが良く、リコイルをしっかりコントロールできる。シアが切れる感覚も掴みやすい。撃ってみて、XDがアメリカ市場で受け入れられたのがよくわかった
ノーマルのXDMも試してみた。スライドはOR仕様だがマイクロドットサイトは搭載されていない(スライドに装着されているのはドットサイト用のベースプレート)
クロアチアのマイナーな銃器メーカーHSProduktが生み出したHS2000は、スプリングフィールドに見出されたことでアメリカという巨大銃社会で磨かれ、優秀なコンバットピストルに進化した。コストパフォーマンスに優れ、バリエーションも豊富なXD/XDMシリーズは、いまやグロックと共にストライカーファイア&ポリマーフレームピストルを語る上で外せない存在になったといえるだろう。
Photos & Text:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)
撮影協力:
STEINER SCENICS ARMOREURS
GIS Technologies LTD
この記事は月刊アームズマガジン2019年5月号 P.142~149より抜粋・再編集したものです。