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2024/07/21

メジャーモデルガンメーカーが放った最後の輝き「MGC ベレッタM9」

 

メジャーモデルガンメーカーが放った最後の輝き

 

 

 1985年にM9としてアメリカ軍に制式採用されたベレッタM92Fは、現在に至るまで多くのメーカーによってトイガン化されてきた。しかし、その多くはエアガンで、意外にもモデルガンはMGC、マルシン、タナカしか再現していない。ここでは1991年に登場したMGCのモデルガン「ベレッタM9」の特徴を時代背景とともに紹介する。
 

標準モデルはアメリカ軍のM9仕様だが、このモデルはコマーシャルモデルの刻印が入っているカスタムモデル。重量は標準モデルが600g、このモデルはヘビーウエイト樹脂製なので720g(実測値)となっている。標準モデルの価格は16,500円だった

 

 ベレッタM92Fを再現した最初のトイガンは1986年初頭に発売されたマルゼンのライブカート/ケースレス共用のエアコッキングガンである。その後、マルシン(エアコッキングガン、スライド固定式ガスガン)を筆頭に東京マルイ、ヨネザワ、LSからエアコッキングガン、ポイントからスライド固定式ガスガンとして発売された。MGCは1985年に業界初となるハンドガンタイプのセミオートガスガンM93R-APを発売。その後、スライド固定式ガスガンシリーズとしてウィルソンLEやS&W M459、S&W M645、Cz75をリリースした後、1990年にようやく同シリーズにベレッタM92Fが登場した。モデルガンメーカーとしての意地と、製品を重ねるごとにリアルさを増していったMGCの製品らしく外観の出来映えはよく、表面にブラスト仕上げを用いたり、ダブルボアサイクロンバレルを採用するなど完成度は高かった。のちに当時導入したばかりのヘビーウエイト樹脂を採用したモデルが加わった。
 

M92Fらしいフォルムが忠実に再現されているこのモデル。スライド、フレームともにスライド固定式ガスガンからの流用ではなくモデルガン専用に完全新規で作られている

 

 一方、MGCは1991年に現タニオ・コバの小林太三氏の設計による本格的なガスブローバックガン、グロック17を発売する。リアルなブローバックに加えて実用性が備わったモデルとしてベレッタM92Fを上回るヒットを飛ばし、ハンドガンの発射方式の主流はスライド固定式からガスブローバック式へと移っていった。ベレッタM92Fも数年後にガスブローバックガン化され、結果的にベレッタM92FはMGCにとって最後のスライド固定式ガスガンであり、集大成的な意味合いもあった。
 そんな時代が移り変わろうとしていた矢先に、当時「オワコン」的な雰囲気が漂い、各社から新規製品がほとんど発売されていなかったモデルガンに、マルシンからベレッタM92Fが1990年に発売された。1986年に発売されたエアコッキング式とスライド固定式ガスガンからの流用ではなくフレーム、スライドとも完全新規だった。最初に無発火モデルが発売され、後に発売された発火モデルはラージハンマーピン仕様のM92FSを再現していた。リアルな外観と新型PFC(プラグ・ファイア・カートリッジ)採用による快調なブローバックが楽しめた。ちなみにこのマルシンのM92FSは現在も発売されている。

 ベレッタM92F系のモデルガンと言えば、スズキ製作所が1983年に発売したベレッタM92SBが挙げられる。当時としては高額(13,000円)だったが、リアルな外観とロッキングブロックによるショートリコイルやアンビセーフティが再現されるなど完成度は高かった。しかし、業界がエアガンにシフトし始めていたのと、その頃はまだ実銃のM92SBの存在が知られていなかったせいか短命に終わってしまった。

 

ベレッタのトレードマークが堂々と入れられたパッケージ。初期のパッケージは紙製ではなくプラスチック製で、何種類かあるようだ。側面に「CUSTOM MODEL」と書かれたステッカーが貼ってあるものの詳細は不明。おそらく限定品なのだろう


 ここで紹介するMGCのモデルガン、ベレッタM9はマルシンのM92Fに遅れること1年後の1991年に発売された。同社のモデルガンの新作は1983年に登場したS&W M586以来であり、モデルガンメーカーとして誕生した同社にとって最後の新規金型のモデルガンとなった。多くのメーカーがコマーシャルモデルのM92Sをチョイスしているのに対して、MGCはアメリカ軍仕様のM9を再現している。ただし今回撮影した製品はイタリア製のコマーシャルモデルの刻印が施されたヘビーウエイト樹脂製の限定モデル。調べてみたが詳細は不明で、1990年代半ばのMGCはバリエーションモデルが数多く作られており、その一環で発売されたもののだろう。刻印以外の特徴はM9と同じのようだ。

 MGCのM9はフレーム、スライドともにモデルガン専用として新規金型が起こされている。外観は初期型がチョイスされ、表面はサンドブラストによるマットフィニッシュ。現代のガスブローバックガンのようにダミーながらロッキングブロックによるショートリコイルが再現され、実銃同様にトリガーと連動するファイリングピンブロックやエキストラクターはライブで作動する。発火によって錆びやすいパーツには防錆処理(ミルフィニッシュ)が施されている。慣性式センターファイアのCPブローバックシステムとM9用CP-HWカートリッジによる快調なブローバックが楽しめた。オプションでダミーカートとダミーカート専用バレルが用意されていた。
 

バレルが突き出した特徴的なマズルフェイス。バレルにはライフリングが再現されている

 

標準モデルの刻印はアメリカ軍のM9仕様なのだが、このモデルはイタリア製のコマーシャルモデルのものが施されている。表面はブラスト仕上げ

 

スライド右側の刻印もコマーシャルモデルとなっている。ちなみにスライド固定式ガスガン版はベレッタUSA刻印(ABS樹脂製)、イタリア刻印(ヘビーウエイト樹脂製)があり、ステンレスシルバーモデルがこのモデルと同じ刻印が施されている

 

発売当初の謳い文句ではシリアルナンバーは1挺ごとに施されているという。M9は7桁の数字のみだが、このモデルはステンレスシルバーモデルと同じ「C+5桁の数字+Z」で構成されている
 
フロントサイトにはホワイトドットが入れられている

 

トリガーガード右側付け根部分にはイタリア製に見受けられるプルーフマークなどが施されている。その後ろのSPGマークはM9より小さくなっている

 

トリガーガード前部の加工痕の再現に加えて、トリガーガード内のパーティングラインは成型段階で処理されている。

 

チャンバー内にカートリッジが装填されていると、実銃同様にエキストラクターの赤い印(インジケーター)が露出して装填状態がわかるようになっている

 

実銃の特徴であるロッキングブロックによるショートリコイルメカはダミーながら再現されている。今となっては当たり前だが、当時としては画期的だった

 

スライド上部のファイアリングピンブロックが再現されているのはモデルガンならでは。トリガーを引ききるとファイアリングピンブロックが持ち上がって撃発可能になる

 

セーフティレバーをオンにすると、ファイアリングピンが上方にキャンセルされることでデコッキングしてハンマーダウンしても弾が出ないシステムが忠実に再現されている

 

実銃同様、デコッキング&ハンマーダウン時にセーフティオン。本来ならハンマーコック時にレバーを下げればデコックされるが、このモデルはスライドをちょっと後ろに下げないとデコックできない。写真のようにコックアンドロック状態になってしまう

 

グリップ中央にはベレッタのトレードマークが入れられている

 

フィールドストリップは実銃同様、ロックボタンを押しながらテイクダウンレバーを下げることでスライドが外せる。パーツ点数は少なく発火後のメンテナンスがしやすい

 

フレーム後部のパーツ構成。左からエジェクター、デコッキングパーツ、ファイアリングピンブロックを持ち上げるためのリフター。各パーツには防錆処理が施されている

 

M9の初期型を再現しているためトイガンで一般的なラージハンマーピンではない。その意味でMGCのベレッタM9は貴重な存在かもしれない

 

フレーム右側にはトリガーバーとトリガーバーにテンションをかけているトーションが備わっている。トリガーバーはスライド側のセーフティレバーと連動している

 

バレルにはロッキングブロックがダミーながら再現されており、バレル基部にはバレルをスムーズにショートリコイルさせるためのパーツが追加されている

 

このモデルはブリーチ部分だけではなくスライドやフレームもヘビーウエイト樹脂製。そのためスライド単体だけでもそこそこ重量感がある

 

防錆処理が施された装弾数15発のマガジン。カートリッジは装填しやすくメンテナンスも楽

 

7㎜キャップ火薬を使うM9専用のCP-HWカートリッジ。パッケージに入っていたカートリッジは撃し終わったままの状態で掃除されていなかった

 

 手にしてみると、スライド、フレームともにヘビーウエイト樹脂製で、重量感があり前後バランスも良好。トリガープルはやや重めだがフィーリングはスムーズ。M92F特有のストロークが長くハンマーが落ちるまで重さが一定のトリガープルが再現されている。特徴的なスライドマウントのセーフティレバーはライブで作動。デコッキング機能が搭載されているのだが、このモデルはスライドをちょっと下げた状態でないとデコックできなかった。スライドの動きは経年によりスライドが変形してしまったためか渋く、オイルを差しても変化は感じられない。このままでは発火させてもまともにブローバックしないだろう。完全なオリジナル状態でないのが残念だが、こだわって作られたMGCのベレッタM9の特徴を垣間見ることができた。

 

東京マルイのガスブローバックガンU.S.9mm M9(写真左)と比較したところ。全体のプロポーションや細かなパーツ形状に違いはないが、東京マルイはリアルサイズで、MGCのM9はスライドやグリップはやや厚くちょっと太めな印象を受ける

 

MGCのGM-5(シリーズ70マークⅣ、ヘビーウエイト樹脂製、CP-HWカートリッジ仕様)と並べたところ。GM-5も誕生当初はリアルだったが、約10年後に登場したベレッタM9と比べるとディテールの再現度に甘さを感じる。生まれた時代が違うのだから仕方がない

 

 もともとリアルがウリのモデルガンだが、モデルガン人気が絶頂期だった1960~1970年代においては、形状や機能がデフォルメされ再現性が低くても「実銃に似せた形状や雰囲気、操作が楽しめること」がリアルであって、現在における「実銃の形状や機能を正確にトレースすること」がリアルという概念とは異なる。1980年代半ば以降、リアルさを増したエアガンの台頭や、より正確な実銃の資料が入手しやすくなったことで、おもちゃ然としていた中途半端な(古典的な)リアルさを持つモデルガンは好まれなくなり、現在の概念に近いリアルなモデルガンが求められるようになった。それに応えるかたちで登場したのがMGCのベレッタM9である。MGCによる完全新規のモデルガンはこのモデルを最後に途絶えてしまったが、他社のモデルガンに影響を与えたことは間違いないだろう。

 

TEXT:毛野ブースカ

 

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