2023/10/14
【実銃】幻となった純日本製「ミロクリボルバー」その実態とは?【Part2】
MIROKU
LIBERTY CHIEF & SPECIAL POLICE
リバティチーフ
自分がミロク銃に触れるのは、2014年4月号の『どマイナーワールド』で4インチのリバティチーフを扱って以来だ。その後も、ミロクへの関心は熱を失っていない。
例えば4年前、テネシーに遠征した際のガンショーで4インチのスペシャルポリスを発見、大喜びした。それには樹脂製のグリップが付いており、「グリップだけでも欲しいかも」と本気で思った。
また昨年にもウイルミントンの質屋で同型の樹脂製グリップ付きに遭遇。無残なサビサビ状態ながら相変わらず「グリップだけでも欲しいし」なんて、しげしげ眺めている。
さらに少し前、NY在住の友人から「ebayにミロクリボルバーの元箱が出品されているよ」との情報を貰っていながらうっかり寝過ごし、落とし損ねた経験もある。
そして実は今も、ネットで一挺、売りに出ているミロクを狙っている。コレはリボルバーではない。シャープス製モデル1859デリンジャーのコピーだ。真鍮のフレームに4連の鉄製バレルが載った古風な出で立ち。口径は22LR でローズウッドのベークライト製グリップが付き、元箱に入って565ドル。
ショップの写真を見る限りミロクの刻印はなく、JAPANの文字も無い模様だ。60年代以前の相当古い製品であり、もしかするとシャープス社自体がパーツで入れて国内で組み上げ、MADE IN USAとしてシラッと売っていた可能性も考えられる。値段がもう少し安ければ参考品として押さえたいが、銃不足で軒並み高騰の今は避けるべきかと指をくわえている最中だったりする。
その他、関連資料のほうも、米GUN WORLD誌の68年8月号に、なんと6ページの特集記事を発見した。リバティチーフの2および3インチとスペシャルポリスの4インチの写真付きだ。自分が海外銃器雑誌で見た中では最大最長のリポート。ただし内容は銃自体のインプレッションが主であり、バックグラウンド情報には一切言及がなくてガッカリしたけどね。
おっと、余談がらみの前置きが長くなってしまった。銃そのものの話をしなくちゃダメだな。かつてミロクが製造販売した幾つかのリボルバーの中で、一番有名なのはリバティチーフだろう。.38口径の六連発、スイングアウト式のDAリボルバーだ。サイズ的には名前のチーフよりもディテクティブに近い。
シリンダーラッチの形状や左側サイドプレートを見る限り、この銃はまんまコルトな雰囲気。エジェクターロッドもフローティングならシリンダーも右回転だ。しかし、内部のアクションを確認すると、コレがS&Wのアレンジという摩訶不思議な一挺である。
普通なら、王道のS&Wに傾くはずだし、それこそニューナンブのような丸々コピーになるのが自然。それをせず、独特な観点でS&Wとコルトをブレンドした設計者の感性に思いを馳せざるを得ない。
ミロクが製品化したリボルバーは、Mark IV、VI、VII、XI、XII、EIGなどが存在し、リバティチーフはMarkVIにあたる。いずれも38スペシャルまたは.22LRのリボルバーで、バレル長は2、2.5、3および4インチがあった。6連シリンダーの他、5連モデルも存在するという。
なおミロクの社史によると、同社はDAリボルバーの他にレミントンタイプの二連デリンジャーやら上記のシャープスコピーに加え、小口径のシングルアクション(RUGERのシングルシックスっぽい)やらドイツ製ROHMのRG-10に似たサタデー
ナイトスペシャル系まで生産していた模様。さらに床井さんの話では、セミオート拳銃の試作もやっていたらしいから、なかなか侮れない。
ハイポリッシュのガンブルー仕上げは小綺麗であると同時に、どこか安っぽくも見える。精一杯の見栄を張っている様相だ。昭和30年代なんて、日本製品のすべてがこんな具合だったんじゃなかろうか。
そして拳銃としては、全体に粗削りの完成度だ。各部の煮詰めがやや足らず、経験不足が目立つ。それらは写真のキャプションを参照してもらうとして、肝心のアクションがどうにも悪い。
かなりギクシャクした感触なのと、S&Wメカのコピーのクセにレットオフ寸前のトリガーの寸止めが効かない。シリンダーのロック音が聞こえてこないのだ。たぶん、ハンマーの後退量不足が原因だろう。せっかくのS&Wメカが台無しになっている。
しかしその一方で、本気度が感じられる部分もある。生産時期により、細かい仕様違いというか、改良が見受けられるのだ。
手元の2インチと4インチを見比べると、シリアル的に古い2インチのメインスプリングは板ばねで、4インチはコイルばねに変化している。コレだけでも相当大きいだろう。マイナーチェンジというよりは結構メジャーだ。
また4インチには、ハンマーロックのセイフティが追加されている。コレはシリンダー解放時にアクションを固定するメカだ。
リコイルシールドのシリンダーピンの横に突き出たボタンが、スター部に押されることで解除となる。後付けにしてはなかなか器用な細工。ただ、おかげでシリンダーを閉じる際、最後まで念入りに押し込む必要がある。
極々僅かな抵抗ではあるが、うっかり雑に収めるとラッチが閉まり切らない。ロックの無い2インチのほうは、サラッと戻すだけでOKだ。その他、ハンマーやらトリガーの形状などにも変化が見られる。
つまり、マジで本気だったのである。粛々と改良を進めていたのだ。考えてみると、元々の設計の段階からして手探りで大変だったろう。耐久性等を調べる発射実験も、弾の供給面とか国内じゃ極度に限られていたはずだ。そういった様々なハンデを考慮に入れれば、特に不具合はなく、一定水準を満たしているだけでも偉いと見るべきではあろう。
さてとココで、日本警察拳銃の話に戻りたい。同社の社史には、拳銃の製造許可を受けて試作を開始したのが1961(昭和36)年とある。そして前述の通り、米国への輸出開始が62年だと。思うに、61年に試作を開始と言うのはやや疑わしい。
独自のアイデアとアレンジを満載して設計し、量産体制までを一年で整えるのは、経験が浅いミロクには到底無理だったろう。が、もしも仮に、61年を拳銃輸出の許可を得た年と考えれば、どうだ。製造許可はもっと前、警察拳銃のトライアルに合わせて得たが、それは警察向けオンリー、つまり輸出の前提はなかったと。結果的に採用の夢はかなわず、代わりに輸出許可を申請したと考えればつじつまが合うのではないか。
また、銃本体の捻り具合から観ても、元々海外向けオンリーで企画されたとは考えにくい。だったら前述の通り、もう少しあっさり、S&Wかコルトの完コピで行ったはずだろう。トーラスやらロッシやらラーマがそうしたようにだ。
当時の日本製品に対する評価は今とは比べ物にならないほど低かった。同社のショットガンにしても、アメリカではCharles Dalyブランドの低価格品という位置づけであり、まだまだ一流品には遠かった。
そんな状況下でそつなく売るなら、下手に捻るのは逆効果というものだったろう。もちろん、モノづくりの根性を出した結果なのかもしれないけどね。なお、リバティチーフの価格だが、69年度の米Gun Digest誌の記事に寄れば54.95ドル。当時1ドルは360円だから、一挺約1万9800円。大卒の平均初任給が3万円の時代だ。外貨稼ぎには持って来いだった。
そういう意味では、結果的に国内の公安に買い叩かれるよりは、海外に目を向けて正解だったかもとは思ったりもする。
TEXT&PHOTO:Gun Professionals LA支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年6月号に掲載されたものです
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