2019/03/17
実銃レポート GRAND POWER X-CALIBUR
最高のトリガージョブを実現したスロバキアのオートマチックピストル
中央ヨーロッパに位置するスロバキア共和国の銃器メーカー、グランドパワーのオートマチックピストルK100は、かつてあのSTIが惚れ込み、プロダクションディビジョン向けにGP6としてSTIブランドで発売したほどの実力を持っていた。今月はそのK100のバリエーションの中でもフラッグシップとして登場したエクスカリバー(X-CALIBUR)を撮影。最高のトリガージョブを実現したこの銃の魅力に迫ってみた。
■トリガージョブに求められること
ピストルの精確さを決めるのは、トリガージョブ次第だと思う。工作技術の進化とともにバレルの精度は上がり、名の知れたメーカーのピストルであれば25m程度の射程ではアキュラシーに大差はないからだ。
一般警察官向けのサービスピストルは、多くの場合最小限の射撃訓練しか受けていない警官が装備することになるため、銃に不慣れな人が扱うことを想定したセッティングになっている。つまり簡単に発砲できないようトリガートラベルは長く、トリガープルは重くされ、射撃後のトリガーリセットも一発一発をかみしめながら行なうようなセッティングにされる。とりわけドイツなどにおいては、警官向けモデルは民間向けモデル以上にトリガープルを重く、トリガートラベルを長する傾向が見られる。
たとえば2人の警官の一方が犯人を地面に押さえ付け、もう一方の警官が犯人に銃を向けているような状況を想定してみよう。銃を構えている警官が極度の緊張を強いられているような場合、トリガートラベルが短かったりトリガープルが軽かったりすれば暴発し、まだ抵抗の素振りを見せていない犯人を意図せずに射殺してしまうようなケースもありうるだろう。上記のようなトリガーセッティングが施された警官向けモデルであれば、そうしたミスは防ぎやすくなるはずだ。
とはいえ、銃に慣れ親しんだシューターならそんな銃は選ばず、選んだとしても敏感な方向にトリガーチューンを施すだろう。とりわけ競技用の銃にはトリガーに触れた程度でシアが切れてしまうようなセッティングもあるし、ダブルタップなど連射しやすいようにトリガーリセットやトリガートラベルが小さくセッティングされる場合もある。筆者の場合はそんな銃を撃つ方がゾクゾクするし、魅力を感じる。
■STIが惚れ込んだグランドパワーK100
2006年、カスタムガンでIPSCのトップを狙っていたSTIは、スロバキアのグランドパワー(GRAND POWER)の製品、K100をGP6としてSTIブランドで発売した。STIはスタンダード/オープンディビジョン向けを中心に展開していたもののプロダクションディビジョン向けは弱く、そこを拡張しようとしていた折に出会ったのがこのK100である。STIが惚れ込んだのは、この銃のトリガージョブの素晴らしさ。2006年のIWAでヨーロッパ向けにGP6が発表された際、デモンストレーションを行なうチームSTIヨーロッパの表情からも、その素晴らしさは伝わってきた。
K100はグランドパワーの創設者、ヤロスラフ・クラチナ氏がIPSCなどのシューティングマッチに参加するにあたり、理想的なピストルを求めて生み出された。先祖代々がハンターという家に生まれたクラチナ氏は銃に触れながら育ち、銃に何が必要なのかを熟知している。前述のトリガージョブはそのひとつだ。そしてベレッタM8000クーガー等で知られ、アキュラシーと耐久性の面で有利なロテイティングバレル式のメカニズムを採用しているのも特徴だ。
2006年にSTIからプロダクションディビジョン向けピストルとして発表されたGP6。それまでのSTIのイメージからかけ離れたスタイリングだったが、射撃してみるとSTIの判断の正しさを感じさせる高性能を実感できた。グランドパワーのK100がベースだが、違うのはセーフティインジケーターの色(K100が赤でGP6は青)とロゴくらいでほぼ同じ。それだけK-100の完成度が高かったというわけだ。フランスではSTIの銃はたいてい50万円以上する中でこのGP6は6~7万円くらいとコストパフォーマンスは高かったが、その野暮ったい雰囲気からかセールス面では成功せず、カタログから外れてしまった
■アメリカでの失敗と中・東欧での成功
しかし、GP6はシューターからの受けが悪かったようで、現在STIのカタログからは外されている。性能や価格の面で優れていたにも関わらず、だ。これはクロアチアのメーカー、HS Produktが開発したHS2000をアメリカのスプリングフィールドがXDピストルとして発売し、ビジネス面でも成功を収めた事例とは対照的なように思える。
その理由は、筆者の推測になるがK100のスタイルの泥臭さにあったのではないだろうか。見た目がセクシーさに欠け、はっきり言ってダサいのだ。また、テイクダウンの際ワルサーPPKのようにトリガーガードを引き下げるのだが、ここがいつか折れそうな感じで(ポリマーのテンションを利用した効率的なものではあったが)安っぽさも感じたほどだ。
K100/GP6(写真上)のテイクダウンはワルサーPPKのようにトリガーガードを引き下げる方式。トリガーガードに指を入れてもう片方はスライドを引っ張れるので力が入れやすく、エクスカリバー(写真下)と比べ無理せずにテイクダウンできる。ポリマーフレームの柔軟性を利用し、パーツ点数を減らす効率的な方式だが、競技銃としては安っぽく感じる
このようにアメリカ市場では鳴かず飛ばずだったK100も、コストパフォーマンスの高さからスロバキアをはじめハンガリー、チェコ、ポーランドなど旧東側の中欧・東欧諸国では販売は好調だった。この成功に伴ない、バリエーションも増えていった。
■K100のフラッグシップモデル
今回ご紹介するエクスカリバー(X-CALIBUR)は、K100の派生型としてはフラッグシップにあたる。外観で特徴的なのは、やはり前部と後部を大胆に肉抜きしたスライドだろう。コーンバレルにフルートを刻んだアキュラシー重視のロングバレルや、サムレストにもなる大型のサムセーフティ、アンビのマグキャッチなども魅力的だが、スタイリングはやはり好みの分かれるところだ。
GRAND POWER X-CALIBUR
- 使用弾:9mm×19
- 全 長:220mm
- バレル長:126.7mm
- 重 量:797g
- 装弾数:15発
スライドは大胆に肉抜きされ、特に前側は貫通していて中のバレルが見えるほど。なかなか複雑な造形で、前後の肉抜き部分はスライドを引く際のセレーションも兼ねている。フロントサイトは集光タイプ
リアサイトはELLIASONのアジャスタブルタイプを装備。リボルバー用でよく見られるデザインのリアサイトだ
スライドストップもアンビ。指をかける部分は最低限の厚みとして携行性を高めている。テイクダウンレバーはグロックと似ているが操作方法は若干異なる
スライドとバレルの閉鎖機構は、K100シリーズに共通するロテイティングバレル式。この方式はショートリコイルの際にバレルが回転し、ティルトバレル式のように軸線を変えることなく作動するためアキュラシーを確保しやすいのが特徴で、最近ではドイツ警察のトライアルに参加したグロック46が採用していることでも話題になった。耐久性が高いメリットもあり、K100の開発段階ではバレルの接触箇所を強固にしたことで10万回作動させてもトラブルのない耐久性と信頼性を確保したという。
ロテイテッドバレルを採用しているため、チャンバーがやや丸みを帯びているのが特徴的。ティルトバレルと異なりエジェクションポートは小さいがジャムの心配はない
コーンバレルがマズルに迫力を与えている。スライドがノーマルのK100より延長されているため、リコイルスプリングガイドはスライドの中に隠れている
スライドを引くとバレルがわずかに回転しつつ、フルートが刻まれたコーンバレルが顔を出す。何とも凝った作りだ
■大いなる力を秘めたメーカー
クラチナ氏の率いるグランドパワーは従業員100名以上のメーカーに成長し、現在では民間向けばかりでなくローエンフォースメント&ミリタリー向け製品にも力を入れているという。K100シリーズ以外では、9mm×19を中心としたサブマシンガン、ストリボーグ(STRIBOG=名前の由来はスラブ神話の風神)シリーズも展開。こちらもまたトリガージョブからリコイルコントロールまで作り込まれており、改良型のA3は非常にコントロールしやすかった。ちなみに、姉妹誌「月刊 GUN Professionals」(2017年9月号)にてグランドパワーの工場レポートを行なっているので、興味のある方はご一読いただきたい。
この銃のトリガージョブは最高レベルにある。適度なトリガートラベル(日本人の筆者にはトリガー形状からやや遠く感じたが)、トリガープル、節度感のあるシアなど、絶妙なバランスなのだ。トリガーリセットも最短と言えるほどでダブルタップもしやすく、つい連射をしてしまう
さて、グランドパワーは隣国チェコの名門銃器メーカー、CZのように世界に羽ばたくチャンスがありながら、うまく風に乗ることはできなかった。しかし、あのSTIも認めるK100を生み出したメーカーだ。その名の通り大いなる力を秘めていることは、X-CALIBURからも感じ取ることができた。
今回の撮影はプロップガンを手掛ける“東欧の魔術師”ことイワン・スタイナー氏の協力で、ハンガリーの射撃場で行なった。ちなみに氏はSASが主役のイギリスのTVドラマを手がけており、そちらの方も興味津々である
TEXT & PHOTO:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)
撮影協力:
STEINER SCENICS ARMOREURS
GIS Technologies LTD
この記事は2019年4月号 P.126~133より抜粋・再編集したものです。