実銃

2023/09/24

【実銃】映画『ジョン・ウィック:パラベラム』の拳銃「Combat Master」その内部機構とカスタムに迫る!【Chapter 3】

 

Taran Tactical

Innovations
 JW3 Combat Master 
 

 

 映画『ジョン・ウィック:パラベラム』に登場して大人気となった2011 コンバットマスターだが、製造メーカーのSTIがSTACCATOと名を変えて製品ラインナップを大きく変えたため、供給がいったん途絶えてしまった。

 この状況にTTIは自社オリジナルの2011を製品化、ハイグレードな改良を加えてコンバットマスターを復活させている。今回は新生コンバットマスターの魅力と改良点を、詳しくご紹介したい。

 

Chapter2の記事はこちら

 

※この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 

 


 

 

 中小のカスタムガンメーカーでも自社ブランドの2011フレームや80%フレームを発売し始めた中、これまでの路線に見切りをつけ、新しい市場開拓に舵を切り直したSTIの潔さは結果を出し、STACCATOと名を改めた現在、全米280以上のポリスデパートメントでディーティガンとして使用許可が下りている。

 

購入時にはTTIベースパッド付きのSTI製21連マガジンが4本付属する。STIは長らくマガジンの品質・信頼性に今一歩のところがあり、時としてチューンも必要とされたが、現行の改良型では品質が大きく向上している。法執行機関での採用を広めるためにマガジンは最重要箇所でもあった。左がインフィニティ製で右がSTI製。タランは混ぜて使っている

 

独自のロッキングピンでTTIが特許を持つファイアーパワーベースパッド。グロックや2011から始まりAR系、SIG MPXなど市場で人気のあるモデル用を数多く用意している。2011系は3/4/7mmの厚みがある


 最終的にタランは2011フレームを製造できる業者を地元カリフォルニア南部で見つけ、その業者と契約、パーツ製造を依頼して新型コンバットマスターの製品化への道筋を付けた。

 

TTIベースパッドの取り外しにツールは必要ない。ロックピンを指で上げ下げするだけだ。このピンは内部のゴムにより上下に動かす際にある程度の抵抗感を持っている。シューティングマッチの際に一度落としたマガジンを、次のステージまでに掃除して組み直す作業を敏速に行なえるので人気があり、法執行機関でもこれを使用するオフィサーがいる

 

TTIの薄型フォロワーとスプリングを組み合わせる事で装弾数をさらに増量できる。旧型では9mm×19用にスペーサーを必要としたが、新型では基本必要としない(筆者は入れて使っている)


 筆者がTTIで新型コンバットマスターの試作品を最初に見たのは2020年7月頃だった。通常の5.4インチバージョンでステンレス素材を加工したもので仕上げはされておらず、平然とワークショップのテーブルに置かれていて最初はSTI製の特殊仕上げくらいに思っていた。

 

TTIはいよいよ自社ホルスターも製品化。イスラエルで製造されているStealthGear(ステルスギア)社のSG-Xコンペンティションホルスターで、ブラック、ブラックカモ、カーボンファイバーから選べる。ドロッププレートはブレードテックなど主要各社のアタッチメントシステムと互換性がある


 見せてもらうとフレーム真下の製造メーカー名の刻印から、STIの名前が消えていた。ダストカバーが分厚くなり、大型マグウェルなどを追加されている。その時初めて、カリフォルニア製コンバットマスターの計画をタランが説明してくれた。


 スライドのフィッティングのタイトで滑らかなところはSTIとほぼ同一だった。通常は1,000発くらいのブレイクイン(慣らし運転のようなもの)を必要とするカスタムガン特有のギチギチ感がなく、ガタがないのに実にスムーズにスライドが引ける。トリガージョブもSTI製に引けを取らない切れ味で、この品質ならタランの求める基準に達していると感じた。

 

リバースプラグの通常分解ではスプリングを圧縮した状態にしないとスライドから取り外せない。STIで導入されたドーソンのツールレスガイドロッドでは、指先でロッド内のロックを押し込むだけでツールを必要とせず、スプリングが固定される

 

新型では一般的なガイドロッドの小穴に曲げた針金などを差し込み圧縮状態にしてから取り外すステンレス製ロッドを採用


 この新型コンバットマスターの量産体制が整い、製品版の出荷が始まったのは今年(2021年)に入ってからだ。STIバージョンとの特に大きな違いは、エクストラワイド2011フレーム、パラ/クラークタイプバレルの採用、新型アルミトリガー、アフテックエキストラクター、TTIグリップジョブ、TTIマグウェル、そしてサイトブロックバージョンも選べるようになった事だ。

 

ガイドロッドの付け根に樹脂製のバッファーが標準装備され、スライドとフレームの衝撃が緩和されてリコイルも若干ソフトに感じる

 

スライド上部の比較


 価格はSTIバージョンよりかなり跳ね上がり、ブルバレル版が$5,599.99、サイトブロック版が$6,199.99となっている。しかしオリジナルのSTI版は製造中止のあおりを受けて現在オークション価格が高騰している。

 

トリガープルに影響を与えるオートマチックファイアリングピンブロックは内蔵していない。カスタム1911系では一般的な仕様だ

 

左は通常バレルをサイトトラッカーのスライドに入れてみたところ。サイトトラッカーのバレル上にあるリブは大きく、ブルバレルをさらに重くしている


 筆者が見かけたものでは開始価格は$7,500くらいで落札価格は大体$8,000から$9,000弱くらいといった感じだ。最も高いもので少数製造された.40S&Wモデルが$15,000というのもあった。特に規制が厳しいカリフォルニア州では通常の9mmモデルで1万ドル前後の価格を付ける人もいる。

 

バレルの比較。下は通常のブルバレルで188g、その上がサイトトラッカーで206gだ。そして圧倒的に重いのが上のサイトブロックで244gとなっている。どれも5.4インチの高品質なマッチグレードバレルが採用されている

 

バレル全体はSTI版ではブロンズカッパーのTiN仕上げ、新生版ではFDE/ブロンズのDLC仕上げが施されているが、どちらでもフィードランプはよくポリッシュされている


 コレクション価値ではオリジナルのSTIバージョンの方が投資になるが、撃つための実用モデルを求める人にはTTIバージョンの登場は大歓迎だ。コンバットマスターの本当の良さは撃ってこそ理解できるからだ。
 

新生コンバットマスターではSTIが採用するナウリン/ウィルソンタイプではなく、インフィニティ等で採用されているパラ/クラークタイプのフィードランプを採用している

 

命中精度向上の要であるバレルのアンダーラグとスライドキャッチの軸のフィッティングは、STIと同様のタイトさで、擦れた後も均等だ。タランが最も重視した点の1つだ

 

新型の改良点は他にもある。エキストラクターをより確実性の高いAftec(アフテック)に変更した事だ。金属自体のしなりでテンションを与える1911のエキストラクター構造は、固定が不十分だと作動に影響を与えやすく、長期の使用でテンションを一定に保ち続ける事が難しい事もあり、各社が1911の設計に最も独自のアレンジを加える箇所でもある。アフテックでは小型スプリングを内蔵する事でエキストラクターのテンションを強めるという設計で、スプリングを定期的に交換する事で一定の強いテンションを保つことができる。無加工で導入可能だが、スライド内側に抜き取るのがちょっと大変だ

 

右がアフテックに変更した新型。カートリッジのリムへのエキストラクターの力のかかり方が強くなっている。価格は通常タイプより3倍以上だが、競技シューターから多くの支持を集めている

 

STI版の2011タクティカルレイルドフレームのデザインをそのまま受け継いでいる。この2011モジュラーフレームは最初にCMC(チップマコーミックカスタム)ブランドとして発売された。ガンスミスとして、またカスタムパーツのイノベイターとして業界のレジェンドと謳われたMichael “Chip” McCormick(マイケル・チップ・マコーミック)氏が今年(2021年)6月5日に他界し、銃器業界中から惜しまれた。マコーミック氏は、グリップ部を樹脂化させハイキャパシティマガジンを使用する1911フレームワイドボディを考案した。まさに2011の生みの親だったのだ。しかし、プラスティックモールディングなど技術的な壁に阻まれ、これを形にすることは難しかった。そこでCMCが出資という立場を取りながら、業界で初めてEDM加工による1911のハンマーやシアを製品化したVirgil Tripp(ヴァージル・トリップ)、コンピュータースキルを持つSandy Strayer(サンディ・スレイヤー)を迎えて共同プロジェクトを発足させた。その結果、CNC加工した4140スチールでフレーム上部を構成し、ナイロンコンポジットのグリップを組み合わせる事で他社の多弾数ワイドボディフレームよりも大幅に軽量化に成功した2011モジュラーフレームが誕生した。
共同特許(最終特許は1994年5月に下りる)を申請し、社名をSTI(Strayer-Tripp International)へと変更、新型フレームはSTIブランドとして広く知られるようになった。同年6月にサンディは独立してマイク・ヴォイド(Michael Voigt)とSVIを立ち上げたため、以降はSTIの社名はScience Technology Ingenuity(サイエンス、テクノロジー、インジュニュイティ)の意味へと変更した。1997年にDave Skinner(デイブ・スキナー)がヴァージルからSTIを購入。その後は所有者を変えつつ、昨年(2020年)5月に現在のCEOであるTony Pignatoのもと、その社名をスタカート(STACCATO)に変更して現在に至っている

 

左が新型フレームだがフィードランプを切り替えた事からフレーム側の加工もあわせて変更されている。一般的にパラ/クラークの方がフレーム側の加工が容易だ。エジェクターも僅かに長くなっている

 

スライドとフレームの加工はかなり精密に加工されているが、さらに滑らかに摺り合わせてある

 

しかし新旧のスライドはレイルの寸法が僅かに異なりフィットしない

 

トリガー関連パーツを分解したところ

 

STI版と同様に、タランが信頼するExtreme Engineering(エクストリームエンジニアリング)の軽量で素早く落ちるライトスピードハンマーと、ウルトラローマスシアを継続して採用した。同社のシアはロックウエル53から56まで熱処理で強度を高め、かなり軽量なトリガージョブを施し、4万発撃ってもハンマーフォローが起きないと謳っているほどで、実際に評価は高い

 

グリップ部は別物だが、トリガーの基本メカは1911と何ら変わらない

 

ハンマースプリングを収めるメインスプリングハウジングは、従来が樹脂製で14g、新型は金属製で59gと4倍以上も重量を増している

 

Photo&Text:Gun Professionals  LA支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 


 

『ジョン・ウィック』シリーズ最新作を観る方にオススメ!

月刊ガンプロフェッショナルズ 2023年10月号

 

 

 キアヌ・リーブス演じる伝説の殺し屋ジョン・ウィックの最終決戦が描かれる第4作目『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が、いよいよ9月22日に日本でも公開される。この映画でジョンは様々な銃を使いながら戦いを進めていくが、今月号のガンプロフェッショナルズではメインとなる3機種について、デザインを手がけたタラン・バトラーのインタビューを交えながら詳しくご紹介している。登場銃について知ることができるので、上映前にぜひご一読いただきたい。

 

 

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