実銃

2023/02/28

冬戦争・継続戦争から冷戦終了までフィンランド軍の国防を支えたスオミ M31 短機関銃【無可動実銃】

 

この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。
数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。
発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。
時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。
その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。

 

 


 

鬼神のような活躍をした北欧のSMG

 

 

スオミ M31 短機関銃(前期型)

  • 全長:862mm
  • 口径:9mm×19
  • 装弾数:20/36/40/50/71発
  • 価格:¥187,000

 

 開発当初ですらクラシックな部類に入るスオミM31が成功した背景には特異な事情があった。ロシア帝国より独立したばかりのフィンランド軍では兵器の数が圧倒的に足りておらず、特に軽機関銃の不足は深刻であった。そこで軽機関銃の代わりになったのがスオミM31であった。最大70発のドラムマガジンや素早いバレル交換が可能なシステム。金属の塊から削り出された強度の高いレシーバーと木製ストックなどすべてを盛り込んだ結果、フル装填時の最大重量は8kgに達した。おかげで軽機関銃のように使っても問題なく、安定した射撃と高い命中精度、サブマシンガンとしては射程距離も長かったようだ。同じスタイルではMP41やベレッタM1938などと並び第二次大戦の短機関銃の傑作と言われている。1953年まで総生産量は約80万挺を超えデンマーク、スウェーデン、スイスではライセンス生産もされた。

 

レシーバー下部にコッキングレバーを装備する。ボルトのブローバックには連動しないので射手が怪我をすることがない。レシーバーエンドキャップはダンパーになっていてブローバックの衝撃を和らげてくれる

 

木製ストックは氷点下になる北欧では皮膚に張り付かないなど気候の点でベストなセレクトであっただろう


 そしてスオミM31の最大の謎は名称だ。銃器には一般的に開発者の名前が付けられるものだが「スオミ」はフィンランドを表す言葉だ。設計者の名前はフィンランド史上最高の銃器設計者アイモ・ラハティである。拳銃から対戦車ライフルまでフィンランドで生産される多くの銃器を設計した人物であり、実際にラハティの名前が付いた銃器も多数存在する。有力な説はスオミM31の製造権をティッカコスキ銃器工廠に売却してしまったためと言われている。フィンランドを代表する銃器を作りながらも名前を残せず、戦後にロシアにより銃器開発を禁止されてしまった。

 

スオミの攻撃力を最大限にしたのはこのドラムマガジンだ。
70発の装弾数は当時では最大のものであった

 

バレルジャケットは冷却効果が高いが素手では火傷してしまう。このタイプのSMGの唯一の弱点ともいえる


 ラハティは発明家としてミートボールマシンや電気オーブンなど生活用品の設計をして晩年を過ごした。スオミM31は制式採用銃の座を1960年代にアサルトライフルに渡したが、車載用などのバリエーションモデルが1990年まで使用され続け、最終的に2007年まで武器庫に保管されていた。これほど長く愛され、頼りにされたスオミM31はトンプソンやシュマイザーと並び評されるべきサブマシンガンなのである。

 

セレクターとセーフティを兼ねたレバーはトリガーフィンガーで操作できる現代にも通用する設計である

 

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TEXT:IRON SIGHT

スペシャルサンクス:赤城バイブルキャンプ

所在地:群馬県前橋市富士見町赤城山

 

この記事は月刊アームズマガジン2023年4月号 P.222~223をもとに再編集したものです。

 

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