2018/12/21
2018年度 国際スナイパー大会【2019年1月号掲載】
2018 International Sniper Competition
世界各国からスナイパーたちが集まる
ジョージア州フォート・ベニング基地に所在するアメリカ陸軍スナイパー・スクールは、「International Sniper Competition(国際スナイパー大会)」を主催しており、今年も10月15日(月)~19日(金)の日程で開催された。
参加資格はほぼオープンであり、アメリカ陸軍に限らず「米国および友好国の現役スナイパーチーム(スナイパー1名、スポッター1名、コーチ1名の合計3名。ただしコーチは競技に参加できず、選手交代も認められない)」であり、「所属部隊指揮官の許可を得られるなら」参加可能としている。とてもアメリカらしい、自由な参加規程と言えるだろう。そのため毎年幅広いチームが参加しており、今年もアメリカ四軍(陸・海・空・海兵隊)はもちろん、FBIアトランタ支局や沿岸警備隊 特殊任務訓練部などの法執行機関、国外からもオーストラリア陸軍、イギリス陸軍、スウェーデン陸軍、アイルランド陸軍、カナダ陸軍、ドイツ陸軍のスナイパーが参加し、合計30チームがエントリーした。
4日間90時間連続の競技内容
本大会の大まかな日程と種目だが、各参加者は競技開催前の土曜か日曜に到着し、インプロセシング(到着受付)を完了したのちに、ゼロイングを行なう。競技開始は月曜の早朝で、そのまま木曜日まで約90時間連続して実施され、20以上の種目を昼夜問わず、限られた睡眠時間(1日平均3時間程度)でこなしていかなければならない。競技は射撃だけでなく、銃を持っての5km走や、装備を背負った13km行軍、そして障害物コースなどが含まれるため、射撃技術はもちろんだが、強靭な体力と「絶対に諦めない」という不屈の精神力が求められる。
具体的な競技内容は以下の通り。毎年、細部は変更されているが基本は変わらない。また、詳細な競技内容については、射撃直前までチームには知らされない。
- Known Distance-距離が判明している標的への狙撃
- Unknown Distance-距離が判明してない標的への狙撃
- Moving Target-移動標的への狙撃
- Shooting from moving platform-不安定な射座からの狙撃
- Stress Shoot-激しい運動直後、心拍数が高い状態での狙撃
- Night time Shooting-夜間狙撃
- Identification Shooting-識別射撃
- Cover and Concealment-非発見性とカモフラージュ技術
- Obstacle Course-障害物走破後の狙撃
- Road March-約10km~15kmの行軍
- Long Distance Shooting-1km以上の有効射程外への長距離狙撃
- Side Arm Marksmanship-拳銃射撃
- Target Detection Skill-標的捕捉技術
開会式直後、いきなりの長距離行軍で大会はスタートした。これは今までになかったことだ。立てかけてある装備までの約100mをダッシュ、装備を装着後に射撃場までの約12kmの距離を走破する。言うまでもなくタイムイベント(時間制限のある競技)なので、遅ければ減点される。
ここで注目したいのは各人の装備だ。狙撃銃を収納できるバックパックを持っているチームのタイムは速い。そして、両腕の疲労は各段に小さい。このあとの射撃競技に少なくない影響があるだろう。これは実戦でも同様である。私の経験から断言できるが、スナイパーは絶対に狙撃銃を収納できるバックパックを持つべきである。
建物内に拠点を確保し、標的を狙撃するステージ。ただし三脚や二脚などの固定器具が一切使えないという制約が課された(スポッティング・スコープも同様)。標的を捕捉したのち、射手はスポッターの肩を借りて狙撃銃を安定させている。窓枠は使用しても良いのだが、窓から狙撃銃を突き出して、自身の位置を露見させるようなバカな真似をする参加者は一人もいない。なるべく窓から離れた位置で射撃をするのが基本である。
※各競技の詳細は本誌でくわしく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください(WEB編集担当)
総合優勝は第75レンジャー連隊
今年の大会を制したのは、アメリカ陸軍の精鋭、第75レンジャー連隊チームである。2017年に続く大会2連覇となった(参加選手も昨年と同じ)。2位にコロラド州軍チーム、3位にスウェーデン陸軍チームが続いている。全体的に見たとき、上位10チームには大会常連チームが並んでいる(第82空挺師団、カナダ陸軍、デンマーク陸軍、沿岸警備隊、海兵隊スカウト・スナイパーなど)。また下位は初出場チームが多い。継続的に参加している部隊が、着実に力をつけていることがわかる。
競技内容は毎年異なるし、部隊から派遣される人員も異なる場合が多いが、継続して参加する部隊が上位を占めている。これは参加する隊員が、所属部隊では教官レベルのスナイパーであり、帰隊後に自らの経験を後輩たちに指導・訓練するからである。そして、本大会の目的は“そこ”にあると言える。スナイパー・スクールの教官も「順位は大した問題ではない。ここに来て自分自身の限界を見極め、勉強し、部隊に帰って後輩を指導し、全体的なレベルアップにつなげる。そしてスナイパーコミュニティのネットワークを作る。これらが大会の目的だ」と言っている。私もこの考えには100%同意する。
実戦形式で行われる競技
本大会の競技内容はミリタリースナイパーを想定しているため、どうしても法執行機関系チームは不利である。今年は参加チーム自体も少なく、沿岸警備隊(9位)とFBIアトランタ支局(20位)の2チームに止まっているが、不利を跳ね除け、両チームともおおいに健闘したと言えるだろう(特に沿岸警備隊チームは海兵隊スカウト・スナイパーチームより上位である)。確認したわけではないが、軍隊経験者だったのではないだろうか? 行軍や障害物走などは専門の訓練を受けなければ、できることではない。
また、気になるのは遠くカリフォルニア州コロナド海軍基地から参加した海軍特殊部隊SEALチーム1の25位という結果だ。だが、私からすればこれは驚くべきことではない。というのも、SEALは水兵(一部に海兵隊員)から選抜されるのだが、彼らは陸軍的な体力が無く、行軍時などにその体力差がモロにあらわれる。それがこの結果を招いたのだろう。これはSEALが劣っているという話ではなく、競技内容が陸軍の想定するスナイパーの運用に従っているということだ。
さて、過去には幾度も優勝しながら現在は消えてしまったチームもある。2007年、2008年、2012年と3度の総合優勝を誇るAMU(U.S.Army Marksman Unit、陸軍射撃部隊)チームである。低迷期を経て、ここ数年は不参加となっている。オリンピックの射撃競技やビアンキカップなど、多くの射撃競技でタイトルを乱取りしているAMUだが、実戦形式の本大会が射撃のみならず、精鋭歩兵としての体力面を重視するようになってきたため、射撃技術に特化したAMUの方向性に沿わなくなってきたようだ。射撃技術がスナイパーにとって能力の一部でしかない、という事実をあらわしている。
総合成績
1位 | 米陸軍 第75レンジャー連隊 |
2位 | 米陸軍 コロラド州軍 |
3位 | スウェーデン陸軍 |
4位 | 米陸軍 第82空挺師団 |
5位 | 米陸軍 ウィスコンシン州軍 |
6位 | カナダ陸軍 |
7位 | 米陸軍 モンタナ州軍 |
8位 | デンマーク陸軍 |
9位 | 米国沿岸警備隊 特殊任務訓練部 |
10位 | 米海兵隊 スカウト・スナイパー教官スクール |
(以下11~30位 略)
国際スナイパー大会の総合優勝者に贈られるトロフィー
また、各賞の入賞者にはアメリカ陸軍のAAM(The Army Achievement Medal)勲章が授与される。これは海外チームも変わらない。もし日本から陸自チームが参加し入賞すれば、同様に勲章を得ることができる
自衛隊もぜひ参加すべきだ
改めてベストテンを見てみよう。州軍チームが3つもランクインしている。州軍は正規軍と違い、毎月の1週末と年間2週間しか訓練しないパートタイム軍人である(この大会参加も、年間2週間の訓練=Annual Trainingの一環とされている)。それだけにこの好成績は素晴らしい。一昨年の大会では州軍チームが優勝しており、陸軍の訓練プログラムの成果が出ていると言えるだろう。かつては「Weekend Warrior(週末だけの軍隊)」と揶揄された州軍だが、その汚名は過去のものとなりつつある。
3位のスウェーデン陸軍チームは今回、初出場でいきなりこの好成績をおさめた。スウェーデンチームは同時に新設のトップ・アイアンマン賞(行軍や障害物走など、フィジカル競技の成績最上位チームに贈られる賞)を受賞している。これはスウェーデン陸軍がよく鍛えられている証拠であり、その意味では総合優勝より名誉な賞とも言える。筆者は最近、スウェーデンのヨーテボリ市で開催された空手スウェーデン大会に出場してきたが、同国空挺隊員の空手家も多く参加しており、その練度の高さを実感している。
優勝したレンジャー連隊チームは、新設されたトップ・ストーキング賞も獲得している。これは敵兵役のスナイパー・スクール教官を相手に、いかに見つからず追跡(ストーキング)できるかを競う種目だが、面白いことにゴテゴテのギリースーツを着用したチームが次々に発見されるなかで、軽量なハーフタイプギリー(TacticalConcealment社製ヴァイパー)を着用したレンジャー連隊チームが勝ち残った。以前に“ベストなギリー装備”として紹介したことがあるが、それが証明されたわけだ。レンジャーの訓練水準が高いことは言うまでもないが、そのレンジャーが選ばれた装備という点も重要だろう。
海外チームには上級下士官や将校も同行し、競技の様子を視察していた。真剣なまなざしで観戦しメモを取るものも多く、本国に帰って訓練に反映させることを考えているのだろう。視察するだけでも大いに勉強になる大会である
ここまで見てきたように、国際スナイパー大会は、競技内容、そして参加者がともに進化していく稀有なイベントである。以前より主張しているように、私は日本からの参加を強く推奨している。もちろん、いま参加すればほぼ間違いなく最下位付近からの出発になるだろうが、前述した通り、順位より経験を活かすことが重要である。自衛隊は勇気を出して参加してほしい。
TEXT : 飯柴智亮
PHOTO : 飯柴智亮/US ARMY Fort Benning PAO
この記事は2019年1月号 P.106~111より抜粋・再編集したものです。