実銃

2021/08/27

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】

 

 この1挺は戦うために作られた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
 今回紹介するのは、東欧で生まれた異色のSMG「Wz.63短機関銃」だ。

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】

 

冷戦下のポーランドが生んだ異色のSMG

 

 Wz.63短機関銃は冷戦下のポーランドで製造された異色のサブマシンガンだ。ラドムVISと呼ばれるガバメントのコピーモデルを開発したピオトール・ヴィルニエブツィックによって設計されたが、彼の同僚が1944年に英国でMCEM-2サブマシンガンの実験的開発に関わっていたため図面が入手できたのか、実際はMCEM-2サブマシンガンに影響を受けている。

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】

 

Wz.63 短機関銃(#TM06627)

  • 全長:585mm(333mm)
  • 口径:9mm×18
  • 装弾数:15/25発
  • 価格:¥209,000

 

 当初は1963年に制式採用された事からwzor63(Wz.63)と命名され西側に知られるようになったが、ポーランド軍ではPistolet Maszynowy wzor1963の頭文字をとって「PM-63」、それに“コマンドーの自動武器”を意味する“Reczny Automat Komandosow(RAK)”を付けた「PM 63 RAK」が正式名称となっている。そのため今日でも「Wz.63」と「PM 63 RAK」の2つの名前で呼ばれているミステリアスなSMGである。

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】
1960年代に東側で展開式のフォアグリップを採用していた先見性の高さには驚かされるばかりだ

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】
引き出し式のストックにはコンパクトに収納できるバットプレートがつけられている。強度も充分で、安定した射撃を可能にしている

 

現在にも通じる異彩を放つ形状とアイデアに溢れた設計

 

 Wz.63の設計思想は現代におけるPDWと同一のコンセプトでありながら、銃の構造に癖があり扱いにはやや難があった。特徴的なものでいうと、オープンボルト構造でありながらも自動拳銃と同じスライドが載せられている点であり、自動拳銃でいうところのホールドオープン状態で発射可能状態になるといったところだ。
 またオープンボルト方式から普段は安全のためにボルトを前進させた状態で保持しておき、射撃時は鳥のくちばしのようなスライド先端を壁などに押し付けることでボルトを後退、素早く発射可能状態にすることができた。さらには発射速度を下げることでフルオート射撃時の制御を容易にする機構や、ステアーAUGのようにトリガーの引きしろでセミ/フル射撃を行なえるなどさまざまな機能が盛り込まれていた。

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】
Wz.63最大の特徴は延長されたスライド前部であろう。上部がカットされた形状からポーランド兵からは「スプーン」と呼ばれ、片手でのコッキングやリコイル制御などシンプルながらも最大級の機能を持たせている

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】
シンプルな刻印は前からシリアルナンバー、ラドム造兵廠を表す⑪、製造年が簡潔に表されている

 

 自動拳銃に近い操作性を採用したのは、拳銃の取り扱いに長けた兵士がいち早くWz.63に馴染めるようにとの考えからだろう。しかしこれは非常に混乱を招く構造であり、Wz.63は熟練者ならば使いこなせても一般兵士には受けが悪かったようだ。特に後方に飛び出したスライドは射撃中に顔の前で高速運動するため、当たれば歯を折られかねないと恐れられ、兵士たちの間で「歯科医」という不名誉なあだ名をつけられるほどであった。

 

Wz.63短機関銃【無可動実銃ミュージアム】
ストックを完全に収納することでピストルのように扱うことができる設計だ。しかし後方に張り出すように配置されたスライドはここからさらに後退してホールドオープンするため、慣れない者が構えればスライドが顔面を直撃しかねない

 

 とはいえWz.63は軽量かつコンパクトであり、東側ではライバルとなりうる存在がチェコのVz.61スコーピオンぐらいであったため、東側での特殊任務で使用可能な数少ないSMGとして地位を確立した。Wz.63は偵察部隊、特殊部隊、小隊長、参謀、車輌と砲兵の乗組員、対戦車ミサイルの乗組員と後方部隊、そしてエリートの反テロリストチームによってさえ使用された標準的なサイドアームとして活躍したのだ。

 

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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事は月刊アームズマガジン2021年10月号 P.170~171より抜粋・再編集したものです。

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