実銃

2021/05/30

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】

 

 この1挺は戦うために作られた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
 今回紹介するのは特殊部隊と縁の深いサブマシンガン「MP5A3」だ。

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】

 

G3ライフルから派生した究極のSMG

 

 サブマシンガン(SMG)は拳銃とライフルの間を埋める補助兵器として、どちらかといえば扱いにくい印象を持たれていた。軍用としてはパワー不足、法執行機関にとってはハイパワーすぎる、と認識されていたからだ。今ではすっかり「MP5=特殊部隊」のようなイメージが定着しているが、その歴史は実に興味深いものである。

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】

 

MP5A3 短機関銃(#B31591)

  • 全長:660mm(500mm)
  • 口径:9mm×19
  • 装弾数:10/15/30発
  • 価格:¥550,000

 

 1960年代、H&Kは軍用SMGの需要を満たすために新型SMGの開発を始める。この時代はドイツの軍用SMGとしてMP2(UZI)、警察用SMGにはワルサーMPLを採用していたように、オープンボルトSMGが主流であった。「プロジェクト64」と名付けられた本計画は最終的にMP5という当時では珍しい機構を採用したSMGを誕生させた。

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】
フレームはドイツ語表記のセレクターを持つ前期量産型だ。フレームはガラス繊維で強化されているので強度は高く、表面のモールドやグリップ部の形状など目視しなくても感触で理解できる形状となっている

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】
フロントサイトはG3譲りだが、バレルはSMGらしくシンプルなマズル形状。3つのラグはサイレンサー装着に必要なものだ

 

 MP5はG3ライフルをベースとしたクローズドボルトを採用している。クローズドボルトは精度を向上させる設計ではあるが、オープンボルトよりも高価で構造が複雑な機構である。ではなぜ、H&Kはこのときクローズドボルトを採用したのか?
 明確な資料がないため推測になるが、おそらく生産効率とコスト面で有利と判断したと思われる。G3譲りのローラーロッキング機構と撃発機構を組み合わせたMP5ならばG3と同じ製造工場で生産が可能だ。また、その高い命中精度は発注元の軍や警察の要求ではなくH&Kの掲げる理念が生み出したものであろう。

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】
刻印は前からモデル名、生産年、シリアルナンバーの順で入れられている。中央の突起部は専用のスコープマウント装着時の位置決めに必要なものだ

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】
エジェクションポートから覗くボルト部にはイラスト入りの刻印が見える。プレスレシーバーは外圧からの強い衝撃に耐えられるように複雑に曲げられている

 

 MP5は高価だったこともあり、一定の性能を有して安価なワルサー製SMGから主流の座を奪えず、当初は国境警備隊のエリートと一部のドイツ軍部隊にしか採用されていなかった。しかし後にMP5は細かなバージョンアップによる性能向上と時代の要求を満たすスペックによってSMGのトップに躍り出る。SMGでありながらライフル並みの精度を誇るMP5はプロユーザーに高く評価され、唯一の欠点と言われた価格と頻繁な整備も使用者が一定の訓練レベルを満たしていることから問題にはならなくなった。

 

MP5A3サブマシンガン【無可動実銃ミュージアム】
A3ストックは伸縮型。SASがこの型を採用したのは、ガスマスクを装着した射撃時にサイトを使わず感覚かライトでターゲットを照射して撃つため、コンパクトさが重視されていたからだ

 

ある2つの事件が印象づけた『特殊部隊のMP5』

 

 SMGに対する評価が一変したのは2つの事件がきっかけだった。1977年に起こった「ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件」と1980年の「駐英イラン大使館占拠事件」だ。どちらもテロリストによる武装籠城事件で、GSG-9やSASといった創設間もない対テロ特殊部隊が対処にあたった。

 

ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件

オペレーションファイア作戦に関するレポートはこちら


 彼ら特殊部隊員が装備したのはMP5だった。MP5は当初、1966年に西ドイツに採用されている。そしてイギリスのSASが西ドイツのGSG-9との共同訓練の経験から、1970年代後半頃よりMP5を導入していた。閉所においてターゲットにのみダメージを与えられるMP5はこれまでのサブマシンガンのイメージを一新させ、エリートの持つ次世代型のサブマシンガンとして認識されていくこととなった。

 完成から50年以上経過した現在でもMP5を凌駕するSMGは存在しない。それほどMP5は完成されたSMGであったのだ。

 

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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事は月刊アームズマガジン2021年7月号 P.218~219より抜粋・再編集したものです。

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