2020/12/26
【自衛隊】「統合幕僚監部」って知っていますか?【後編】
陸・海・空自衛隊の活動──と言えば、誰でも何となくは想像できるだろう。だが、これら3つを束ねる組織「統合幕僚監部」について、その活動を理解している人は少ないのではないだろうか。前回に引き続き、声優報道官のインタビューの様子をご紹介しよう。
「統合幕僚監部」の役割とは?
声優報道官がインタビュー!
国際協力室と海賊対処行動
中村桜
統合幕僚監部は、現在どんな活動に携わっているんでしょうか?
北村2等海佐
私は運用部運用第2課の「国際協力室」というところに所属しています。国際協力室は、運用第2課において国外での任務を担当する部署になります。私は海上自衛官ですので、主に海上自衛隊の海外任務にあたっている隊員を統括しています。
中村桜
海上自衛隊の海外任務にはどんなものがあるんでしょうか?
北村2等海佐
ソマリア沖アデン湾での海賊対処行動はすでに10年以上続いており、今年1月からは中東地域における日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動もスタートしました。アデン湾での海賊事案の発生件数は、自衛隊の派遣開始当初の2011年には237件とピークを迎えていましたが、自衛隊をはじめ国際社会の取り組みにより現在はかなり低い水準で落ち着いてきているんです。
中村桜
すごいですね! 海賊が減少したということは活動の終了も近いのですか?
北村2等海佐
海賊発生のそもそもの背景には、ソマリア国内の貧困等の問題や不安定な治安、そしてソマリア自身が海賊を取り締まる海上警備能力が脆弱であるというが問題があります。こうした根本的な原因が解決されていない状況では、もし国際社会が手を緩めたとたんに、再び海賊行為が活発化する可能性が高いと考えています。なので、海賊対処行動は簡単に止めるわけにはいかないのです。
中村桜
北村さんは実際にアデン湾に行ったことはあるんですか?
北村2等海佐
私はP-3C哨戒機のパイロットで、海上自衛官として第1次隊の先遣要員に参加しました。また、その後も海賊対処部隊の指揮を執っている自衛艦隊司令部の航空運用幕僚としても海賊対処行動に携わりました。日本から12,000kmも離れた土地ですから、何が起こるかわからないという不安と緊張の連続でしたね。無事に任務を終えて帰国したときは心底ホッとしたことを憶えています。
中村桜
海賊は発見しましたか?(笑)
北村2等海佐
残念ながら、私は見つけることはありませんでした(笑)。
対領空侵犯措置
井澤詩織
統合幕僚監部では「対領空侵犯措置」を担当していると聞きました。これはどんな仕事なんですか?
榎本2等空佐
自衛隊法の84条に領空侵犯に対する措置という項目があります。航空自衛隊では、この自衛隊法に基づいて、我が国の周辺空域を24時間態勢で監視をしているんです。
まず、地上のレーダーにより24時間365日、許可なく日本の領空に入ろうとする航空機がいないか監視し、そのような疑いのある航空機がいた場合は航空自衛隊の戦闘機が緊急に発進(離陸)して対応します。これがいわゆる「スクランブル」です。
スクランブルで飛び立った戦闘機は領空侵犯の恐れのある航空機に接近し状況を確認します。実際に領空侵犯された場合は「日本の領空から出ていきなさい」といった警告等を行なうんです。
私が所属している統合幕僚監部 運用第1課は、自衛隊の行動に関する各種業務を所掌する部署で、そのなかの一つとして私は対領空侵犯措置にかかる業務を担っています。対外的な公表も行なっており、統合幕僚監部のTwitterでも情報発信をしているんですよ。
井澤詩織
スクランブルは一年間に何回あるんですか?
榎本2等空佐
昨年度(2019年度)は947回でした。これは過去3番目に多い年でしたね。20年前と比べて、近年は6倍以上に増加しているんです。参考までにお伝えすると2000年度は115回でした。また、過去もっとも多かった2016年度は1168回でした。これらの多くが中国やロシアの飛行機ですね。
井澤詩織
1000回! ほぼ毎日3回スクランブルしているってことですよね! 榎本さんはスクランブルしたことがあるんですか?
榎本2等空佐
はい、私はF-15戦闘機に搭乗していましたので、実際の任務としてスクランブルをやったことはあります。
井澤詩織
外国の飛行機に警告をするのは、怖くないですか?
榎本2等空佐
パイロットは緊張感をもって任務に就いていますが、普段からあらゆる事態を想定して訓練をしていますので、怖いと感じることはないと思いますよ。日本の空を断固して守り抜くとの観点から、防衛省・自衛隊として万全を期していますので、安心してください!
災害派遣
上坂すみれ
ここ数年はニュースや報道で、災害派遣に活躍している自衛隊の姿を見ることが多くなりましたね。
中村3等陸佐
近年、今までに経験したことのないような大雨や台風など、大きな自然災害が増えてきていますね。こうした災害で被害を受けた地域の都道府県知事等からの要請を受けて、自衛隊は部隊を派遣します。ただ、ひとくちに“災害派遣”と言っても、災害の内容はさまざまで、自衛隊の対処も異なるんです。
上坂すみれ
災害派遣には、どんなものがあるんですか?
中村3等陸佐
地震や台風、山火事、火山噴火など天災による被害への対応、豚熱(CSF)や鳥インフルエンザなど特定家畜伝染病の発生への対応、また最近では新型コロナウイルス感染症の流行により医療体制がひっ迫した場合への対応などがあります。
発生した地域や被害の大きさにより、自衛隊の対応は一様ではなく、状況に応じた活動が求められます。こうしたときに、統合幕僚監部は現場の部隊との調整を行ない、政府の方針に基づいて部隊が適切に運用されるよう、関係部署や関係省庁・関係機関と連携し、日々の活動計画を立てるのです。
上坂すみれ
大きな自然災害が増えてきたということは、自衛隊の災害派遣も増えているのですか?
中村3等陸佐
件数としては大きな増減はありません。ちなみに昨年度(2019年度)の災害派遣は449件でした。このうち、大きな比率を占めているのが「急患(緊急患者)輸送」なんです。実に365件と、ほぼ1日に1回のペースです。
自衛隊の急患輸送はあまり知られていないかもしれませんが、日本のような島国は医療設備の乏しい離島も多く、そうした地域で急患が発生した場合に、要請に基づいて自衛隊の航空機で大きな医療施設まで搬送します。昼も夜もなく24時間365日対応しています。離島だけでなく、はるか洋上の漁船や貨物船に急患が発生した場合でも、US-2という救難飛行艇を派遣して救助します。
上坂すみれ
大変なお仕事ですね。統合幕僚監部に所属されている方は、やはり希望して来られるんですか?
中村3等陸佐
人それぞれだと思いますが、私は統合幕僚監部を希望して転属してきました。自衛隊は必ずしも希望通りの配置になるわけではないのですが、私は運よく希望が叶いました。
現場で国民のために働くことも、もちろん重要な仕事ですが、もっと高い視点で仕事をしてみたいと考え、現在は統合幕僚監部で勤務させてもらっています。ここでの仕事を通して、自分の視野をもっと広げたいと考えています。
上坂・井澤・中村
これからも、がんばってください!
統合幕僚監部では2017年に公式Twitterを開設。対領空侵犯措置や災害派遣、さまざまな活動について日々、情報発信している。ぜひ、そちらもご覧いただければ幸いだ。
取材協力:菊池雅之
撮影:葛貴紀(井上写真スタジオ)
この記事は月刊アームズマガジン2021年2月号 P.44~47を再編集したものです。