エアガン

2018/10/11

SIG P240【2018年11月号掲載】

 

SIG P240

 

「コンバットピストルの遺伝子」を持ちながら「競技用ピストル」としての高い完成度も併せ持つP240。「名作P210を改良して、アキュラシーを高めた最高峰のピストルだ!」と、コレクターも絶賛する異次元のピストルの魅力に迫る。

 

名作P210の遺伝子

 

 P320がアメリカ陸軍の次期制式拳銃に採用されたことを筆頭に、シグ・ザウエル(SIGSAUER)の銃器類は世界各国の軍や法執行機関から民間に至るまで愛用されている。品質の良い鉄を材料に、優れた金属加工技術を駆使して製作された同社の製品。その評価の高さは皆さんもご存知の通りだろう。

 中でもP210シリーズは、決して少なくない数のガンマニアや射撃競技を親しむユーザーたちから絶大な支持を受けている名作だ。スイス陸軍の制式拳銃として1949年から'75年まで採用されてきた軍用銃だが、その品質の高さはミリタリーモデルの枠を超えているといっても過言ではない。

 高品質は当然価格にも影響している。一般的なハンドガンの価格が1,000ドル以下なのに対して、P210は定価で1,400ドル。値段に見合った品質を維持するためにも、生産性も上げられない。そこで、SIGでは生産性とコストダウンを行なったP220を後に発表する。その系譜は、現在に至るまで連綿と続いており、先ほど挙げたP320もそこに名を連ねる。

 後継モデルが出ているにもかかわらず、P210は「持ってよし、眺めてよし、射ってよし」なハイエンドモデルとして、登場から半世紀以上経過した現在も、基本的な姿を変えることなく製造され続けている。

 

SIG P240

純正のケースでは無いとのことだが、精密機器をエレガントに運搬するにはうってつけの革ケースだ

 

 今回紹介するP240も、P210の遺伝子を色濃く受け継いだ、高い命中精度と優れた作動性を持つターゲットピストルだ。

 P240はシグがヘンメリー(Hammerli)と手を組んで開発した。高品質なモノづくりを自負する同社が、射撃競技スポーツ用拳銃を製造するメーカーと組んだのだから、ヘタなものができるはずがない。

 P210を基本として、そこにターゲットピストルとしての技術を盛り込み「コンバットピストルの遺伝子」を持ちながら「競技用ピストル」としての高い完成度も併せ持つ1挺が誕生したのである。

 

「最高峰のピストルだからね」

 

SIG P240

.38 SPL WCを実射する銃のオーナー、Vence Vinko。コレクターとして100挺以上を所有するガンマニアでもある

 

 今回紹介する2挺のP240を見てみよう。トリガーガードおよびテール部分の延長やロングスライド化など変更部分は多いが、「.38 SPL WC」のシルエットはP210の印象を色濃く残している。人間工学に基づいてデザインされた緩やかなカーブを描くニルグリップは手にシックリと馴染み、射撃の際の負担を低減してくれる。

 ロングスライド化に伴い、フレームも延長されている。これはスライドとフレイムのガタつきによる命中精度の低下を防ぐためのものだ。この部分のガタつきは命中精度に大きく影響を与えるだけに、クリアランスはタイトであればあるほど良いといわれている。このモデルはフレーム部分を延長することでスライドを保持しているレール部分も長くなり、その結果スライドのガタを低減させている。高い技術が求められる上にコストもかかるため、必然的にターゲットピストルのような競技用モデルに多く採用されている加工だ。

 

P240 .38 SPL WC

 

SIG P240

一見してロングスライドであることがわかる。角張ったスライドは1949年にデザインされた銃(注:銃自体は1970年代前半のデザイン)をベースとしながらも古くささがない

 

SIG P240

P210との大きな違いのひとつは大きく開口されたエジェクションポート。ロックをシンプルかつ確実にするために、チャンバー側のロッキングラグは大きく長方形で作られ、スライド上面の開口部に噛み合わせている

 

SIG P240

後方まで延びたスライド。ハンマーは最低限飛び出ているだけ。リアサイトとスライドが面一なのが美しい。フレームがスライドをくわえ込むような作りで、スライドとバレルをがっちり固定できる強度とアキュラシーを確保する

 

 一方「.32 S&W Long WC」は全体的なフォルムこそP210に似ているが、スライド全体がブローバックするのではなく、デザートイーグルのように下半分のみが可動して排莢と装填を行なう。重いスライドを作動させるためには火薬量の多い弾を必要とするが、この方式ならば動く部分が少ないため、小口径の弾でも問題はない。命中精度を求めた末に考え出された究極のカタチといえるだろう。

 

P240 .32 S&W Long WC

 

SIG P240

大きさ重量も.38 SPL WCモデルとほぼ同じ。ワンハンド競技用のグリップを装備しているが、交換すれば一般的なダブルハンド用のモノも使用できる

 

SIG P240

スライドの形状が変わってちょうどセレーションの刻まれた部分だけが後退する。その隙間から排莢するので両サイドにエジェクションポートもない。フレームは.38 SPL WCと同じで、最高のトリガーフィーリングを持つ

 

SIG P240

スライドを後退させたところ。エキストラクターのある右側から排出される

 

 これらのオーナーはハンガリー・ブダペスト在住のコレクター、ベンス氏(Vence Vinko)だ。以前も彼のコレクションからレポートをお送りしているので、記憶に残っている読者もいるだろう。 彼のコレクションは100挺以上におよび、その収蔵のために家の改造まで余儀なくされている。珍しいモノ、メカニカルなモノ、ヒストリカルなモノと幅も広い。

 P240は「最高のピストルは?」という質問に、彼が
「やはり名作P210を改良して、アキュラシーを高めた最高峰のピストルだからね」
と答え、膨大なコレクションの中から取り出したモデルだ。

 

「極上」の撃ち心地

 

SIG P240

 

 今回は極上のピストル2挺を味わうことができた。ヨーロッパでは法の規制もあり、アメリカにおけるガバメントのように、ガンスミスたちが軍用銃を至高のカスタムガンへと昇華させていく土壌がない。そこで、シグ・ザウエルとヘンメリーという実績あるブランドがコラボしてワンランク上の銃、P240を作り上げた、と言ってもいいだろう。最高の技術と知見を持ってして作り上げられた名銃P240。その魅力は尽きることがないようだ。

 アームズマガジン本誌にはより詳細なメカニズムを含め、その「極上」の撃ち心地についてもレポートしているので、ぜひじっくりとお読みいただきたい。

 

Special Thanks to 
GIS Technologies Ltd. : www.gistactical.com
TEXT & PHOTO:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)

 


この記事は2018年11月号 P.96~103より抜粋・再編集したものです。

 

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