2020/10/16
【実銃】サブマシンガン名作のシビリアンモデル「SIG SAUER MPX Pistol」
MPXは、元々ミリタリーもしくはLE(ローエンフォースメント:法執行機関)向けの9mm口径SMG(サブマシンガン)としてデザインされた。だが、2015年にセミオートオンリーの一般向けモデルがリリースされるやいなや、急速に人気を得ていった。今回は、ガンコントロールの厳しい米カリフォルニアでは珍しいMPXピストルのピストルブレース付きバージョンを紹介する。
SIG SAUER MPX Pistol
- キャリバー:9mm Luger
- バレル長:8インチ
- 全長:18インチ
- オペレーションシステム:ショートストロークガスピストン
長年の射撃友達から、SIG SAUER MPX、それもピストルブレース付きのモデルを手に入れたというぶっ飛びのニュースが舞い込んできた。ガンコントロールの厳しいここカリフォルニア州では、めったにお目に掛ることのできない激レアモデルだ。
このSMGやライフルのピストルバージョンというのはかなりの曲者で、銃身長こそピストル並みだが、元々付いていたストック部分を取っ払ってしまった代物なので、重い上にバランスが悪く、そのままでは正確な射撃はかなり難しいのが相場である。さらに、みなさんもご存じのように、ハンドガンシューティングはライフルに比べ格段に難しい。これは基本的な構造によるもので、ピストルは両腕という安定しない2点でしか支えることができないが、ライフルは左右の腕(それも離れた場所でホールドすることができる)に加えて肩という3点で支えることができるからだ。つまりピストルでは、より訓練を重ねたスキルが必要ということになる。
だが、ピストルブレースの登場がピストルの弱点を大幅に解消し、現時点では、合法的かつ画期的ともいえるファイアアームズ(銃火器)となっていると言っても過言ではないのだ。
この状態で全長は27インチ(約69cm)でしかない。取り回しは最高だ。トリガーシステムはAR-15を踏襲しているので、世に出回っているカスタムのキットを簡単に組み込むことができる
ピストルブレースとは
正式には“Pistol Stabilizing Brace”(スタビライズ:安定させる)といい、ライフルやSMGにある肩付けするためのストックではなく、本来はピストルを腕に安定させるためのデバイスである。このあたりはアメリカにおける複雑な銃規制法が絡んでくるので、誤解のないように簡単に説明しておこう。
まず、アメリカでは、合衆国で制定されている法律があり、それに加えて各州が定めた法律や条例が存在している。つまり、ある州では合法であるファイアアームズも、規制のある隣の州に持って入ると非合法となってしまうのだ。特に登録方法の違うライフルとピストルの分類は厳格で、“ATF(アルコール・タバコ・ファイアームズ局:連邦司法省の取締機関)”のレギュレーションでは以下のように規定されている。
- ライフルは、最低でも全長26インチ(約66cm)以上あること
- ライフルのバレル長は、16インチ(約41cm)より長いこと
- ピストルのバレル長に制限はないが、肩付けできるバットストックを備えないこと
- 16インチより短いバレルを持ち、ストックを備えたファイアアームズは“SBR(ショートバレルドライフル)”とみなされる
- SBRを所持するには、定められた書式の申請書を提出し、税金を納めて許可を受ける必要がある
ただし、カリフォルニア州におけるSBRの所持許可は映画関係会社以外にはほぼ不可能といわれている。
そこで我々一般人にとってクローズアップされるのが、ブラックライフル、もしくはSMGの一般バージョン(セミオート)であるピストルモデル、それもピストルブレース付きである。
ピストルブレースによる、本来の使い方はこうだ
もちろんこのまま腰だめで撃つことができる。この状態での長さは18インチ(63.5mm)でしかない
今回のSIG SAUER MPX Pistolは、セルフプロテクションを第一義とする我々一般人にとって、まるで別世界の優れモノである。思わずぐっと来るほどの優れた撃ちやすさと精度の高さに加え、とにかくリコイルはソフトなので、ダブルタップ(2連射)やターゲットの移行など、まったくストレスなくできてしまう。そして、この取り回しのよさはどうだ。ブレースを折りたたむとその長さは18インチ(約46cm)しかなく、肩付けできる状態にしても約27インチ(約69cm)でしかない。CQBはもちろんのこと、ハウスプロテクション用にベストマッチといえるだろう。
通常分解はM4と同じく、テイクダウンピン2本を抜くだけで可能となる。リコイルスプリングはボルトアッセンブリーの上部にアタッチされている。ハンドガードは、フロントのテイクダウンピンを抜くと、前方にスライドアウトすることができる。バレル基部のボルト2本を抜くと、簡単にバレル交換ができる構造になっている
この画期的な銃の全容は「月刊アームズマガジン11月号」で細かく紹介しているので、ぜひ確認していただければ幸いだ。後編のレポートではいよいよ実射を行なう。ピストルカービン付きのSIG SAUER MPX Pistolの実力をぜひ、ご覧いただきたい。
Text & Photos: Hiro Soga
この記事は月刊アームズマガジン2020年11月号 P.118~125より抜粋・再編集したものです。