2025/11/02
ちょっとヘンな銃器たち 22 ジョセリン チェーンピストル

リボルバーはシリンダー型の弾倉を用いるため、その装弾数を増やそうとしても自ずと限界がある。そこでシリンダーではなく、チェーン状に連結したチェンバーをピストルに組み込むことで、20発もの装弾数にする試みが19世紀の半ばにあった。その代表的な例がジョセリン チェーンピストルだ。
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装弾数増加の試み
リボルバーが連発ピストルの主流だった時代、シリンダー型マガジンを利用する以上、装弾数はどうしても限界があった。しかし、開発者たちは時として思わぬ方向で装弾数を増大させる考案に突き進んだ。
11月号でご紹介した、シリンダーの各チェンバーに複数の弾薬を直列に装填するタンデムローディング方式もそのひとつだといえる。
それより多くの開発者がチャレンジしたのは、シリンダーに多くのチェンバーを設けて装弾数を増大させることだった。しかし、チェンバー数を増やせば増やすほど、シリンダーの直径は大きくなってしまう。これらの大型シリンダーを組み込んだリボルバーは、いずれもかさばり、かつ重く、とても実用的だとは言えないものばかりだった。そのためそれらの多くは、少数が短期間生産されただけで製造停止に追い込まれている。
そのような中、直径の大きなシリンダーを用いることなく、多数の弾薬を装填できるリボルバーを設計できできないだろうかと考えた銃器開発者がいた。
それがアメリカのマサチューセッツ州ノーフォーク郡ロクスベリーに住むヘンリー・S・ジョセリン(Henry S. Josselyn) で、時代的には1860年代前半の事だ。南北戦争がおこなわれていた時代で、当時ピストルはパーカッションリボルバーが主流を占める。その中で、S&Wだけがパテントにより貫通シリンダーを用いた金属カートリッジリボルバーを製造することができた。
ジョセリンが当時考案したピストルは、現在研究者やコレクターの間で一般的に”ジョセリン チェーンピストル”と呼ばれている。
Chain Gunとの違い
このピストルをご紹介する前に、現在“チェーンガン”と呼ばれて、より広く知られている銃器に関して簡単に解説を加えておきたい。
チェーンガンと呼ばれる現代の銃器と、このチェーンピストルとは、その構造が全く異なっている。現代のチェーンガンは、航空機搭載や装甲車への搭載用として開発されたマシンガンだ。
チェーンガンは、搭載マシンガンとしてレシーバー部分を最小のスペース、つまり小型にすることを目的に開発・設計されている。そのため伝統的な射撃反動や発射ガスを利用して銃を作動、連射するのではなく、電動でブリーチが作動するように設計された。このブリーチを強制的に前後動させるために、ラチェットとチェーンが利用されており、その結果チェーンガンと呼ばれるようになった。
それに対し、今回採り上げるチェーンピストルは、同じようにチェーン状の部品が組み込まれているものの、その部品の利用方法は全く異なっている。チェーンピストルはマガジンをチェーン状にしたものだ。
いずれにせよ、現代チェーンガンとジョセリン チェーンピストルは全く別の構造だということをまずご理解いただきたい。では話を19世紀に戻そう。
チェーンの活用
ヘンリー・S・ジョセリンは、シリンダーの直径を大きくせずに装弾数を増大できる方法に考えを巡らせていた。そして思いついたのがシリンダーに装備されるチェンバーを1発ずつ独立させて円筒型にし、このチェンバーを連結させてチェーン状にすることだった。
現代から見ると、彼の発明したチェンバーチェーンは、自転車に組み込まれているチェーンによく似ている。ではジョセリンは、自転車のチェーンから連結チェンバーを思いついたのだろうか。答えは、“ノー”だ。自転車にチェーンが組み込まれたのは、1885年以降で、それ以前からアイデアとしては存在していたが、実用化されておらず、当時の自転車は足で地面を蹴って進むものだった。
それではジョセリンはどのようにしてチェンバーチェーンを独自に考案したのか…?おそらく彼は工場で動く工作機械からヒントを得て、これを発案したのだろう。この時代の工場に備え付けられていた工作機械は、水力で水車を回して動力を得ていた。そして水車の回転運動エネルギーはベルトか金属製のチェーンで工作機械に伝えられる。そして機械に回転運動を伝えるチェーンは、のちに自転車に利用されるチェーンを大型にしたような構造のものだった。
ジョセリンが工場の動力伝達チェーンを見て連結チェンバーのヒントを得たとリポーターが考える根拠は、その形状がよく似ているからだ。彼はチェンバーを独立させて20個のチェンバーを連結式にし、その両端を連結させてOの字型にした。このチェーンをOの字型に連結することも当時の工場の動力伝達チェーンで広くおこなわれていた方法だった。本来シリンダーが装備されていた場所にこのチェーン状のチェンバーを装備させることで、連発数を増やす。こうすればピストル全体の左右幅はあまり増大しない。
この個体は、発明者のヘンリー S.ジョセリンがアメリカパテントを申請した際に提出したパテントモデルとされている。
一般的に開発者は、ある課題が与えられるとその課題ばかりに目が行ってしまい、他のことに対する注意がおろそかになる傾向がある。多くの開発者がそうであったように、ジョセリンも例外ではなかったようだ。
彼の場合、リボルバーの縦幅と横幅を拡大することなく装弾数を増やす事がその課題だった。その課題は連結チェンバーチェーンを考案し、これを組み込むことで克服されたように見える。しかし彼はどうやらピストルに求められる大前提を忘れていたようだ。ピストルは携帯しやすく、必要な時に素早く取り出せて使用できなければならない。
写真をご覧いただければお判りの通り、このピストルを収納してコンパクトに携帯できるホルスターのデザインは、相当優秀なデザイナーでも思い付けないだろう。また、いざ使用するときに下に長く垂れ下がったチェーン状のチェンバーは、周りの物に引っかかって、簡単に作動不良に陥ってしまう可能性が高い。
欠点をあげつらっているが、リポーターはこのチェーンピストルが嫌いではない。むしろ自身の発案に素直に従い、果敢に試作した開発者を好ましく思う。試作しないより試作して、自ら冷静にその結果を評価するから次の発明が生まれるのだ。
基本的にジョセリン チェーンピストルの構造は、ハンマー露出式のシングルアクションリボルバーと大きく変わらない。本来リボルバーに備えられているシリンダーを取り外し、代わりに後ろ面に回転ラチェットを装備させた星形の部品をシリンダー軸に組み込む。ハンマーをコックすると通常のリボルバーと同様にハンマーに装備されたハンドがラチェットで星型部品を回転させる。この回転で連結チェンバーチェーンは1発分だけ動いて射撃準備が整う。
平均的なリボルバーは、シリンダーのチェンバーを定位置に固定するためのシリンダーストップラッチ溝がシリンダー側面に設けられている。チェーンピストルの場合、チェンバー部の上面にシリンダーストップラッチ溝が設けられた。
シリンダーストップ本体は、シリンダーストップ溝に対応させてフレームの上部ストラップに装備されており、ハンマーをコックする際、リボルバーの後方に伸びたシリンダーストップのレバーをハンマーノーズで押し上げて解除する。
ジョセリン チェーンピストルのチェーンで連結されたチェンバーには、最大20発までの.22口径リムファイア弾を装填して射撃できる。通常の.22口径リムファイアリボルバーの装弾数は5-7発で、多いものでも10発程度だから、ジョセリン チェーンピストルはその約2倍以上の弾薬を装填できることになる。チェーンを延長すればさらに装弾数を増大させることも可能だ。
この大きな装弾数が、果たしてかさばる連結チェンバーチェーンに見合うかどうかが評価の分かれ目となる。
チェーンピストルは普及したか
このパテントが取得された1866年、アメリカでは南北戦争が既に終結し、戦争中に製造された銃器が余剰品として大量にあふれていた。タイミング的には最悪であり、このジェスリン チェーンピストルを量産しようとするガンメーカーは現れなかった。だが、たとえそのタイミングでなくても、結果は同じだっただろう。いずれにしてもこのチェーンピストルは市販されることなく、やがて忘れされてしまった。
銃器製造メーカーから興味を持たれなかった最大の理由は、銃自体がかさばることだったと思われる。それに加えて、トータルでかなりの重量になる連結チェンバーチェーンを動かすため、ハンマーのコックにかなりの力を必要とすることも問題視されたに違いない。
量産されることがなかったため、おそらく製造されたのは数挺だけだったと考えられており、現在では珍しい構造を持つピストルの典型的なサンプルとして、博物館で展示される珍品となっている。
同類の複数のチェンバーをチェーン状に連結させて連発式とした銃器は他にも存在する。ジェスリン チェーンピストルに先立つ1855年にイギリスのロンドンでトーマス・トゥリービー(Thomas Treeby)によって考案され、イギリスパテントが取得されたのがトゥリービー チェーンライフル(Treeby Chain Rifle)だ。これは、パーカッション撃発方式で、発射ごとに装備されたハンドルでバレルを回転前進させ、次弾のチェンバーを手で送り、再びバレルを後退させてチェンバーと密着させて射撃するものだった。このイギリス製トゥリービー チェーンライフルはジョセリン チェーンピストルより多数製造されたらしく、リポーターは過去に複数回この実機を目にしている。
ヘンリー・S・ジョセリンがこのトゥリービー チェーンライフルを目にしていたかどうかは、記録されたものが残っていないのでわからない。しかし、当時のアメリカ銃砲産業にとって、イギリス市場は重要なマーケットであり、イギリスのトレンドに敏感であったことから、ヘンリー・S・ジョセリンがこのトゥリービー チェーンライフルの実機、あるいはイギリスパテントに接していた可能性はある。
この他にも、セミオートマチックピストル風のグリップフレームに、連結チェンバーチェーンを組み込んだピストルが、20世紀初頭にロシアで製作されている。このロシア製チェーンピストルのサンプルは、現在ロシアのツーラにある銃砲博物館に展示されている。
ずっと後の時代になるが、1941年にイタリアのジュリオ・ソッソ(Giulio Sosso)は、グリップフレーム内のボックスマガジンの代わりにチェーン状のマガジンを内蔵させたソッソピストル(Sosso Pistol)を試作した。もちろんこれらも量産には至っていない。
チェーン状に弾薬を連結することは決して間違いではない。現代マシンガンが弾薬供給のために利用しているメタル弾薬リンクも発想自体は全く同じだ。それを小型であるべきピストルに組み込んだことが間違いなのだ。
今回このリポートに使っているジョセリン チェーンピストルの写真は、リポーターが若いころアメリカのスミソニアン博物館で研究させてもらっていた時に撮影した。博物館の武器庫に収蔵されていたもので、このジョセリン チェーンピストルは、ヘンリー・S・ジョセリンがアメリカパテントを申請した際に提出したパテントモデルとされているものだ。リポーターの知るかぎりこのスミソニアン博物館の収蔵品のほかに、2挺のジョセリン チェーンピストルが公共の博物館の所有となり現存している。まだコレクター向けのオークションに出品されたということは聞いたことがなく、個人で所有されているものは存在しないようだ。
Text by Masami Tokoi 床井雅美
Photos by Terushi Jimbo 神保照史
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