2025/10/28
マニューラン MR73 スポール3インチ GIGNのリボルバー現生産型

リボルバー全盛期の名機といえば、世界的にはコルトやS&Wの名が真っ先に挙がる。しかしフランスの治安機関が最も信頼を寄せたのは、国産のマニューランMR73 であった。この銃はリボルバーの最高傑作だといえるかもしれない。そんなMR73だが、製造メーカーであるマニューランは1998年に銃器生産から撤退してしまった。だが幸いにも、MR73の生産はシャピュイアームズが引き継いでいる。
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採用の背景 比較試験で浮かび上がった MR73 の強み
第二次大戦後の長い間、フランスの警察官はセミオートマチックピストルを装備していた。1960年代から1970年代に主に使われたのはUnique (ユニーク)RR 51で、これはUnique Modèle 17(ユニーク モデル17)の改良型だ。7.65mmブラウニング(32ACP)を使用するシングルアクションモデル。全長145mmの小型ピストルだが、オールスチールなので750gと大きさの割には重い。グリップフレームは長く、マガジンには9発装填できた。もちろんブローバックで、フランス軍が第一次大戦で大量の使用したスペインのルビーピストルを外装ハンマーにしたようなピストルだった。
赤軍などによるテロが西ヨーロッパで多発する中、フランスの国家警察(Police nationale de France)、および国家憲兵隊(Gendarmerie nationale:ジャンダルム)は、1970年代前半に対テロ特殊部隊の創設を決め、その武装の選定を開始する。きっかけは1972年のミュンヘンオリンピックでのテロ事件だ。西ドイツ警察は人質救出に失敗、パレスチナ武装組織によって人質にされた9人全員が死亡した。
フランスの対テロ特殊部隊の主力装備ピストルはセミオートマチックではなく、即応性に優れたリボルバーとすることが決まり、アメリカ製を中心に複数の候補を実射比較する。その時の評価軸は、命中精度、信頼性、携行性、耐久性、メンテナンス性、そして実戦での“止める力”──これらの総合点で高評価を獲得したのは、リボルバー大国アメリカの候補ではなく、意外にもフランス国産のマニューランMR73だった。設計者はGilbert Maillard(ジルベール・マイアール)で、決定的だったのは次の3点だ。
1. ハンマーのコッキング角とトリガー特性
MR73 はハンマーとシア、シアとトリガーのクリアランスを含むロックワークの仕上げが極めて精密で、シングルアクション時のブレイクがクリアかつ予測可能であった。短銃身で視認時間が限られる状況では、この“切れ”の再現性が命中に直結する。
2. 銃身のコールドハンマーフォージング
バレルをコールドハンマーフォージング(冷間鍛造)で製造するすることでライフリングの均一性と精度が高く、短いバレルでも良好なグルーピングを示した。想定されるあらゆる実戦射程を満たすには、こうした高い銃身精度が不可欠だった。
3. 材質と熱処理による剛性
MR73 は一般的なリボルバーより硬質な材料と厳密な熱処理プロセスが採られており、357 Magnumを繰り返し射撃しても発生するプレッシャーにじゅうぶんに耐える耐圧性と長い製品寿命を持っている。“壊れにくさ”は現場での“信頼性”に直結するものだ。
これらの要素をすべて判定、フランスの運用思想に完全に合致したMR73がジャンダルムリの特殊部隊GIGNに採用された。
トリガーとハンマーの独特な色調は硬質金属コーティングによるもの。

「なぜ3インチなのか」
短銃身は携行性と取り回しには優れるが、弾道性能はどうしても不利になる。GIGNは、3インチが実用的な折衷点であるという結論に達した。
それは、以下のような判断に基づくものだ。
・私服でのコンシールドキャリーにも適し、都市部の閉所空間でも操作性を損なわない。
・357 Magnumを用いることで、実用的な弾速・エナジーを確保できる。
・MR73 の高精度銃身と調整済みトリガーがあれば、短銃身でも必要な命中精度を確保できる。
このため、3インチ MR73 は“コンシールドキャリーが必要な捜査系/警護系の任務”に最適と判断された。
かつてリボルバーのバレル長といえば、2インチ、2.5インチ、4インチ、6インチがほとんどだった。このスナブノーズと4インチの中間に位置する3インチという長さは実に秀逸だ。FBIも1981年に3インチのS&Wモデル13を採用、コルトも限定生産ではあったが、3インチのコンバットパイソンをそれと同時期にリリースしている。
製造メーカー:Chapuis Armes(シャピュイアームズ)
形式:回転式(DA/SA)
使用弾薬: 357 Magnum/38 Special
装弾数:6発
銃身長:3インチ(約76 mm)
ライフリング:6条・右回り
全長:約230 mm
重量:約1,000‐1,050 g(グリップ/サイトで変動)
バレル:高強度スチール、冷間鍛造
フレーム:高強度スチール(ハンドフィット/高研磨ブルー)
トリガー/ハンマー:硬質金属の被膜処理(耐摩耗仕上げ)
サイト:フロント=ピン留め式ランプ/セレーション入りブレード
???リア=フルアジャスタブル(上下・左右調整、目盛り付き)
グリップ:TRAUSCH ラバー(1本スクリュー、バックストラップラップド)
安全機構:ハンマーブロック+ハンマーリバウンド
付属品(出荷時):25 m試射ターゲット(個体精度証明)
この357マグナム弾のヘッドスタンプは“G.F.L. .357 MAGNUM” G.F.L.はGiulio Fiocchi Leccoの略で、フィオッキ製だ。
支給事情 一般警察には行き渡らなかった高級仕様
MR73 はその製造工程にハンドフィッティングや厳格な個体試験を含み、その製品単価は高かった。結果として全国の一般警察に広く支給することはできなかった。製造メーカーであるマニューランは、後になって一般警察官向けにより廉価な機種としてマニューランF1/X1(マニューランMR88)といったモデルも用意した。こちらはスタームルガーのセキュリティシックスをライセンス生産したものだ。
高品質で仕上げられた MR73(特に3インチなどの特殊仕様)は生産量が限られ、主にエリートユニットや選抜されたオフィサーにのみ配られた。この事情が、3インチモデルの現存数が少ない理由の一つとなっている。
つまり、3インチ MR73 は“現場運用に耐えるが、高級で希少なツール”であったのだ。


