2025/10/30
S&W モデル586 ディスティグゥッシュトコンバットマグナム

Kフレームでは357マグナムに対する耐久性が不足していることを痛感したS&Wは、新たにモデル586を1981年に製品化した。別名ディスティグゥッシュトコンバットマグナム、“卓越したコンバットマグナム”だ。その完成度の高さに、これは次の時代のフラッグシップになると、当時誰もが感じていた。

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Lフレーム
スミス&ウェッソン(S&W)はコルトと並ぶリボルバーの老舗メーカーだ。どちらも19世紀からリボルバーを作り始め、20世紀に入るより前に現代に通ずるスイングアウト、ダブルアクションリボルバーを製品化している。第二次大戦前までは多くの面でコルトが一歩リードする状況が続いていたが、戦後になるとS&Wがコルトを圧倒する状況に転じた。
S&Wはリボルバーのラインナップに各口径、用途に合わせて複数のフレームサイズを用意している。小型のJフレーム、中型のKフレーム、それより少し大きいLフレーム、大型のNフレーム、そして特大のXフレームがあり、フレームサイズと使用する弾薬、そしてスチールやアルミ、ステンレス、スキャンジウムなどの材質を組み合わせる事で様々なスタイルのリボルバーを幅広く提供している。ごく一部の例外を除いて、そのメカニズムはほぼ共通だ。
今回ご紹介するモデル586はLフレームに属し、1981年に357マグナム弾を6発装填して運用するのに最適のフレームサイズとして開発された。モデル586の登場はLフレームの発表と同時であり、このフレームサイズを代表する機種という位置づけであったといえる。
モデル586はカーボンスチール製で、ステンレス製はモデル686と呼ばれた。モデル586が登場した1981年、固定サイトのモデル581もすぐに加わった。
357マグナム弾
357マグナムはスミス&ウェッソンが1934年に発表したカートリッジだ。38スペシャルをベースとし、ケース長を3.2mm延長、火薬量を増やし158gr弾を1,500fpsの初速で撃ち出す強力なリボルバー用カートリッジという位置づけだった。1935年には357マグナム弾を使用する初のリボルバーとして大型のNフレームを使用する、その名もずばりの“357マグナム”がS&Wから発売された。これは当時、“レジスタードマグナム”とも呼ばれ、その威力からハンティングだけではなく、法執行機関でも多く愛用される人気の機種となった。この銃の発展型が1957年にモデル27と呼ばれるようになる。
1955年に開発されたコンバットマグナムは、コンパクトなKフレームを使用しながら強力な357マグナムを使用できるリボルバーとして大成功を収めた。しかしながら、38スペシャル用にデザインされたKフレームから、より強力な357マグナムを撃つため、フレームや、フォーシングコーン部分の耐久性に問題があった。このコンバットマグナムは、1957年にナンバーが与えられ、モデル19となっている。
耐久性は高いが、サイズの大きなNフレームと、357マグナムを撃つには華奢すぎたKフレームの中間のサイズを目指して開発されたLフレームは、その間に位置する357マグナム用フレームとして完成されたものだ。
Lフレームの誕生
Satoshi Matsuo
Kフレームを用いた357マグナムリボルバーは、1955年登場のモデル19(当初の名称はコンバットマグナム)、および1970年に追加されたモデル66、1972年のモデル13、およびモデル65がある。これらは357マグナム弾を撃ち続けるとバレル後端のフォーシングコーン(バレルエクステンション)部に亀裂が入るという問題があったにも関わらず、長い間、対策が講じられなかった。その理由は、モデル19などを使うポリスオフィサーが、通常の訓練などでは.38スペシャルを使用し、勤務にあたる時しか、357マグナムを装填しなかったため、問題があまり顕在化しなかったためだ。
コンバットマグナムが誕生するキッカケを作ったBill Jordanですら、通常は38スペシャルを用いて訓練することを妥当だと考えていたらしい。
この亀裂が入る原因は、Kフレームはフォーシングコーン下端部がわずかにフラットに加工されていたことにある。ここがフラットなのは、シリンダーの軸前端部にあるガスリングがフォーシングコーン部にぶつかることを避けるためだ。
Photo by Hiro Soga
ガスリングとは何か。それはシリンダー前面に付けられたシリンダー回転軸を保護するためのリング状のパーツだ。リボルバーを射撃すると、バレル後端とシリンダー前端部の間の隙間、いわゆるシリンダーギャップ部から漏れた発射ガスがシリンダー前面に放射状に広がる。この発射ガスには鉛やカーボン(炭素)が含まれており、これがシリンダーの回転軸に付着して堆積していくとシリンダーの回転を困難にする。しかしガスリングがあると、漏れた発射ガスが回転軸に堆積することを防げるのだ。
Photo by Hiro Soga
Kフレームはコンパクトに作ったため、このガスリングとフォーシングコーン下端部とのクリアランスがとれなくなってしまったため、フォーシングコーンの下端をフラットに削って対処した。それでも38スペシャル程度であれば問題はなかった。
このKフレームで357マグナムを撃てるコンバットマグナムを開発した時、各部の熱処理を変更し、強度を高めたが、フォーシングコーン下端部のフラット加工はそのままの形状だった。その時点では問題がないと判断したのだろう。
そしてコンバットマグナム、その後のモデル19が発売された後も、これで357マグナムを常時撃つシューターは、警察官にも、一般市民にもほとんどいなかったため、その時点では、このフラット加工が弱点だとはほとんど知られなかった。357マグナムを常に撃つ人は、より大きなNフレームを使用していたのだ。
その後、シリンダーに装着されていたがスリングが外れるトラブルが発生し、S&Wはその対策として、ガスリングをシリンダーではなく、ヨーク部に移す変更をおこなった。その結果、ガスリングはより大きくなって、フォーシングコーン部のフラット部をより大きく加工する必要が生じた。その時点でもこれが亀裂に繋がるとは考えられなかったようだ。これがおこなわれたのは19-3の中期だ。この設計変更はダッシュナンバーに反映されていない。
しかし、このガスリングの位置移動は、シリンダーギャップから漏れる発射ガスのシリンダー軸への堆積を防止するという目的には不向きであった。そのため、S&Wはガスリングをシリンダー側に戻し、その固定方法を変えた。これに伴うダッシュナンバーの変更は19-4であり、66-1だ。
これは正しい判断だったが、S&Wがこの時、なぜかフォーシングコーン部のフラット加工を大きくしたまま、元に戻さなかった。その結果、この部分に亀裂が入るトラブルが多発するようになった。
またこの時期、アメリカの警察官の射撃訓練の方法が変わり、訓練中も公務で使用する弾薬を使用することが奨励されるようになっていた。すなわち射撃訓練も357マグナム、それもフルロード弾を使うようになったのだ。これは凶悪犯罪が多発するようになったことが大きく影響している。
その結果、Kフレームは357マグナムを使用するのには強度不足だという認識が広まり、この時になってS&Wは、フォーシングコーン下端部をフラット加工しなくても良いサイズのフレームが必要だと認識し、その結果がLフレームの開発だった。
357マグナムを常に射撃してもじゅうぶんな強度を持つLフレームの設計は、スタームルガーから転職してきたDick Bakerが担当している。出来上がった試作品はKフレームの拡大版であったが、外観的に差別化することを目的としてパイソンとダン・ウエッソンリボルバーを参考にフルラグバレルが装着された。この新しいLフレームは1980年に完成、1981年に発表されている。


