2025/07/28
【NEW】Heckler & Koch VP9/SFP9 その可能性を探る
自衛隊が新拳銃として、SFP9Mの採用を発表して5年半が経過した。配備が始まり、順次旧型との更新が進むSFP9/VP9だが、この拳銃はこれからもさらに進化させていくことができる、大きな可能性を秘めている。
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VP9/SFP9 自衛隊新拳銃
2019年12月6日、防衛省は新拳銃としてHK SFP9Mの採用を発表した。SFP9Mは、Striker Fire Pistol 9 Maritime(ストライカーファイアピストル ナイン マリタイム)の略で、その名が示しているのは、ストライカーファイア方式を持つ9mm口径拳銃 海洋仕様ということだ。
SFP9Mは現在世界標準となっている、ブラウニングタイプ改良型の閉鎖機構を持つショートリコイル作動のポリマーフレームの多弾倉ハンドガンだ。意識して操作しなければならない手動安全装置は装備されていない。したがってチェンバーに弾薬が装填されていれば、トリガーを引くだけで発射できる。
本来の商品名はVP9であったが、他社製品に類似する商品名のハンドガン(B&T VP9)があったことから、ヨーロッパおよびカナダではSFP9となった。自衛隊に納品される製品はドイツ本国から購入するもののため、スライドにはSFP9の刻印が打たれている。
この新拳銃の採用によって、これまでの9mm拳銃は順次、新型に置き換えられていくことになる。1982年から自衛隊に採用されてきた9mm拳銃は、SIG SAUER P220を日本のミネベア株式会社(2017年に社名変更し、現在はミネベアミツミ株式会社)がライセンス生産したもので、最後に調達が行なわれたのは2012年のことだ。
市街地戦闘訓練や海外派遣等、自衛隊の活動の場が広がるにつれ、それまであまり重要視されていなかった拳銃の必要性が高まり、従来より近代的な拳銃が求められるようになったことが今回の新拳銃採用の理由となっている。
新拳銃の候補
新拳銃の選択は2017年に始まり、候補としてSFP9Mの他にベレッタAPX、グロック17 Gen5がそれぞれ複数挺ずつ購入され、整備性を確かめるためのアーモラ―コースの受講も含めた性能の評価が行なわれてきた。
現代の軍用オートマチックピストルに求められる性能を簡単にまとめると、
・9mmパラベラム弾を使用
・作動が確実なショートリコイル作動方式を採用
・15発を超える多弾倉マガジン
・軽量で均一、かつ短時間で製造が可能なポリマーフレーム
・ストライカーファイアード トリガーメカニズムを内蔵
・トリガーを引かない限り、ストライカーが絶対に弾薬のプライマーに触れることが出来ない複数の自動セイフティを装備
・安全性とシンプルな操作を両立
・左右どちらの手でも操作が可能なアンビコントロール機能
・様々な環境下でも、最小限のメンテナンスだけで25,000発を超える耐久性
・モジュール交換でアップデートと整備が行なえる、高いメンテナンス性と発展性
となる。
これらを必要条件として考えた場合、今回自衛隊新拳銃の候補となった3社の3機種すべてがこの要求仕様に合致しており、どれを選んでも大きな差はなかっただろう。違いがあるとすれば、採用から配備、これから先20年間の運用にかかるコストにあったと思われる(防衛省が実際に定めた要求仕様の詳細は公開されていない)。
先ほど挙げた“現代の軍用オートマチックピストルに求められる性能”は普遍的なものであり、それを満たすために開発された製品であれば、どれも同じテストを経て進化し、最終形態になっているという事実から、普遍的な要求仕様はすべて満足しているはずだからだ。
つまり、この3機種のうちどれを選んでも、“定められたルールを守り、新しい技術を学習する事ができる”資質を持つ者を選抜したうえで、近代的で効果的な拳銃取り扱いの訓練を施し、300発程度の実弾を使った射撃訓練を行なった場合、得られる射撃能力に大きな差が生まれるとは思えない。すなわち同カテゴリーに属する他社製品であるSIG P320や、S&W M&P9 2.0、FNH FN509、CZ P-10等を含めても同じはずだ。
このレベルの拳銃の機械的な差というのは、梨とリンゴの味を比べるような物であり、最終的には使用者の資質と与えられた訓練、その習熟度と使用環境による影響の方が結果に大きく左右してくる。

全長:186.4mm
全高::137.4mm
全幅:33.5mm
銃身長:4.09インチ(103.9mm) 6条ポリゴナル 右 1:9.8inch
重量:724.6g(空マガジン装着時)
マガジン装弾数:10/15/17/20発
自衛隊が新拳銃として、SFP9Mの採用を発表して5年半が経過した。配備が始まり、順次旧型との更新が進むSFP9/VP9だが、この拳銃はこれからもさらに進化させていくことができる、大きな可能性を秘めている。
Heckler & Koch VP9
2014年6月10日、突如ヘッケラー&コックUSAから新製品としてVP9が発表され、その直後に市販が開始された。その初期段階にVP9を入手して以来、おそらく5,000発程度撃っているが、これまで思い出せるような作動不良や不具合を経験したことがない。さらに、3,500人以上の人員を誇る筆者の職場においても、これまで5年以上多くのVP9が運用されているのを見てきたが、総合的に見て非常に信頼性の高いハンドガンだというのが筆者の感想だ。
フルメタルジャケット弾やホローポイント弾といった異なる形状の弾頭を持つ弾薬を使っても作動不良を起こさず、さらに対人用の+Pといったより強力な弾薬を使っても反動はコントローラブルなレベルに抑えられている。この部分はライバルとなるグロックGen5シリーズ、S&W M&P2. 0やSIG P320よりも優れていると感じる。
これは片手であえて緩くグリップを握るといった作動不良が起きやすい環境を作り出してテストを行なった上での感想だ。
さらにVP9の持つその高い命中精度は特筆すべきだろう。他社製品に比べても一段上の命中精度を持ち、命中精度が改善されたグロックGen5よりもさらに優れていると言える。また110~147grといった異なる弾頭重量を持つ弾薬を使った際にも、その着弾点の移動は最小限であり、これはM&P2. 0が苦手とする部分でもある。
これはサプレッサーを装着した状態での射撃に対しても言えることだ。VP9は特にサプレッサーを装着した状態での安定した作動と、高い命中精度を保てるデザインとなっており、これはグロック、M&P、P320のどれも実現していない優れた機能なのだ。
グリップはグロック、M&P、P320等よりもより細かなサイズと形状調整が行なえる。
トリガープルの感触はグロックよりも優れており、M&Pよりも扱いやすいトリガーリセットだといえる。またバラツキが大きいP320のトリガーよりも優れている。
フレームの完全分解はグロックよりも複雑で難しいが、P320と同程度であり、特に問題となるとも思えない。また、マガジンやリコイルスプリングといった消耗パーツの入手も現状問題ない。こうして見ると、VP9には他社製品には無い利点も多いのだ。
筆者はVP9を運用していく上で、自分なりのアップグレードをVP9に施してきた。同じことは、SFP9Mを採用し、運用している自衛隊でも可能なことだ。


ダットサイト、ウェポンマウントライト、エクステンデットマガジン、そしてサプレッサーとの併用は近代的なコンバットピストルに必須となる要素だ。
VP9タクティカルは2017年に登場した、サプレッサーの使用を前提としたモデルで、サプレッサーの取り付けを行なうためのスレデッドバレルと、専用のトリチウム入りリア&フロントサイトが装備されていた。
筆者はこのスライドに追加工を施し、ダットサイトを直接取り付けられるようにした。
なお現行のVP9タクティカルは、あらかじめオプティックレディスライドへと進化している。




SilencerCo Omega 9K
全長:115.3mm
直径:37.6mm
重量:207g
素材:ステンレス17-4PH(SUS630)、コバルト-6
対応口径:9mm, 300BLK
スレッドピッチ:5/8×24

HK純正バレルはヨーロッパで一般的な13.5x1mm Left Hand (LH)規格であった。これは外径13.5mmでネジ山のピッチが1mmというものだ。
しかし、OMEGA 9Kは米国で主流の5/8×24規格だ。これは外径5/8インチ(15.875mm)で、ネジ山が1インチに24(約1.058mm)というもので、HKの純正バレルとは規格が合わない。そこでサイレンサーコーの5/8×24規格のVP9専用スレデッドバレルに交換した。エジェクションポート部にサイレンサーコーのマークが刻まれている。