2025/04/13
MIROKU LIBERTY CHIEF
大海を渡った、見果てぬ夢のジャパン拳銃
MIROKU
LIBERTY CHIEF
Toshi
Gun Professionals 2022年3月号に掲載
ミロク リバティチーフが開発された時、アメリカ市場で人気を二分していたチーフスペシャルとディテクティブを参考に、より優れた製品にしようと試みたらしい。Made in Japanの工業製品が世界に羽ばたこうとしていた時代だ。あれから60年以上が経過した今、改めてリバティチーフと同時代の.38口径スナブノーズリボルバーと比較してみたい。
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ミロク再び
モデルガンを、そして日本拳銃をこよなく愛する貴殿なら、Gun Pro2021年6月号の132及び133ページの見開き広告にはさぞや驚かれたことだろう。
そうだ。ミロクのリバティチーフがモデルガン化される告知が、そこに載っていたからだ。
まさか、まさかのミロクである。奇跡を通り越してほぼあり得ない、想像だにしていなかった展開。しかもメーカーは、新興のモデルガンメーカーというからダブルで衝撃だった。
自分はちょうど同じ号に、手元にあるミロク製リボルバー4挺をかき集めた記事を書いている。アレを見た読者の皆さんは、十中八九の九分九厘、「タイアップ記事だな、絶対」と思われたに違い。
しかし、事実は違う。アレはまったくの偶然だった。イヤそれどころか、編集部の松尾副編もあの広告には驚きを隠せなかったらしい。
というのも、掲載広告に関しては社内の営業部が担当し、ある程度のタイムラグが生じるため、松尾副編があの広告を観たのはミロクの原稿を入稿した後だったというのだ。
無論、業界の情報として、新興のモデルガンメーカーが活動を始めた件やらは、松尾副編はずっと以前から掴んではいた。しかし、製品の機種と時期に関しては知らされていなかったらしいのだ。
そして、筆者の元へ一連の事実が伝えられたのは、雑誌発売直前の月末。だからもう、大ビックリにも程があるってくらいのモノだったというわけである。
それにしても、正直言って、一種あり得ないリバティチーフのモデルガン化である。コレが例えばハートフォードさんの二十六年式あたりなら、同じマイナー系でも一国の採用銃だから、「おおー、ついに来たかっ!」って反応だったろう。しかし、リバティチーフはあまりにも遠く、言い方は悪いが、モデルガンファンの多くが「なんでコレなの?」みたいな印象だったのではなかろうか。
実は自分もその点がずっと気になっており、今回、製造元のエム・アイ・イー総研ア!クション事業部さんが制作したリバティチーフの販売計画書を拝見する機会を得て、疑問が解けた。と同時に、非常に興味深い情報も得ることができた。
そこには、モデルガン製造に関してのみならず、謎に包まれた実銃ミロク・リバティチーフの誕生の経緯にも繋がるエピソードが書かれていたからだ。

リバティチーフ
その販売計画書にあった話をかいつまんで紹介すると―――――――
ア!クション事業部が、約15種類のモデルガン開発の目途をつけてサンフランシスコへ実銃の計測に向かった際、あるシューティングレンジで面白い話を耳にした。そのレンジの経営者の祖父が、昔、ショップ兼セキュリティーコンサルタントをやっていた頃、日本から来たマーケッター(市場調査員的な意味)から、当時アメリカの私服警官や一般市民に最も人気のあった“S&Wモデル36チーフ”と“コルト ディテクティブスペシャル”についてどう思うか聞かせてほしいと言われ、こまごまと説明をした事があるという。その後、「こんな銃になった」とそのマーケッターを紹介した警備会社の役員が持ってきたのが、ミロクのリバティチーフだったのだと――――――――。
なかなかスゴイ話である。ミロクの社史によれば、同社がリバティチーフの試作を開始したのが1961年、そして北米向けに輸出を開始したのは翌62年だ。当然、そのマーケッターが米国入りしたのはそれより前だから、あるいは50年代の末だったかもしれない。そんな大昔に、ミロクはちゃんと米国内でのリサーチもした上で、リバティチーフを作り上げていたことになる。


で、だ。ア!クション事業部は、そのレンジの経営者に、祖父が知人から譲り受けたというリバティチーフを見せられた。細部として、フレームトップの反射光防止のすじ彫りやグリップの滑り防止用チェッカリング、そして吸い付くようなサイドプレートの合わせ目等々、日本人ならではの本当に細やかな加工を見るにつけ、「これは日本のモノづくりそのものだ」と感銘を受け、モデルガン立ち上げ第一弾の商品に決定したというのである。
付け加えると、エム・アイ・イー総研は経営コンサルタント会社であり、ア!クション事業部の立ち上げのコンセプトとして“日本のモノづくりを根底で支える町工場の再生プロジェクト”を掲げていた。このコンセプトに、純国産リバティチーフの如何にもジャパンな印象がオーバーラップしたからこそ、日本のモデルガンファンが想像だにしなかったモデルガン化が実現したということらしい。それは決して闇雲ではなく、奇をてらったものでもなく、銃自体の人気度に左右されたものでもなかったのだと。
ちなみに、ア!クション事業部の主任であるMさんの趣味が、モデルガンとのことだ。コレは嬉しい。やっぱり、好きな人が作ってくれるものは心がこもってますからね。

MIROKUとCOLTとS&W
さてと、モデルガンの話題はこの辺にして、そろそろ実銃へシフトせねばなるまい。
が、その前にもう少しだけ、前述の販売計画書の話を続けたい。なぜかと言えば、ア!クション事業部がそのレンジの経営者から聞いた話として、日本から来たマーケッターにレンジ経営者の祖父が語った意見の内容についても、併せて載せているからだ。それらには、面白いことにリバティチーフの姿へ通じるものが多く含まれているのである。先ずは一気に列記してみよう。
① ディテクティブの内部構造はシリンダーが回らなくなったりするので、S&Wの内部構造の方がいい。
② S&Wは5発だが、6発はカートリッジが詰められる方がいい。
③ メンテナンスのことを考えると、本体を開ける側はコルトのようにシリンダーが下がる左側が取り回しとして楽である。
④ 本体を閉める時を考えると、サイドプレート部分は直線構造にしたほうが操作性が楽である。
⑤ シリンダーラッチは コルトタイプの操作性がいい。
⑥ フロントサイトは モデル36の方が一瞬見やすい。
⑦ サイトを覗き込んだ時に反射光が気になるので、何とかした方がいい(反射光を消す工夫がいる)。
⑧ シングルアクションで撃つことは少ないので、トリガープルを軽くした方がいい。
⑨ 専用のホルスターを販売しないなら、コルトおよびS&Wのホルスターに入るようにしておく。
⑩ 手汗の状態でハンマーをコッキングすることが多く、汗で滑らないようにした方がいい。
上記の十項目だ。




印象として極めて私的であり、個人的な経験を基にしたクセの強い意見である。的を得ていたりいなかったり、根拠があいまいな点も幾つかある。が、これはこれで興味深く、実際、ミロクが参考にしたらしき部分が多々見受けられる。一般にリバティチーフは、外観はコルトで内部メカはS&Wを模したハイブリッド銃と言われる。それに通じるものを、この十項目からヒシヒシと感じるのだ。謎多き銃の一端を示す貴重な証言と言えるのではなかろうか。
この十項目を考慮に入れつつ、今回は手元にあるコルト ディテクティブおよびS&Wのチーフを引っ張り出してきた。ミロクのリバティチーフと見比べてみようという魂胆である。
サンプルのディテクティブは、66年製のセカンドモデルだ。従ってグリップフレームが短い(66年に短縮化)。リバティチーフ開発当時はファーストモデルを参考にしたはずだが、グリップフレーム以外のスペックはほぼ同じと考えてよいだろう。
一方のチーフは、フラットなシリンダーラッチが付いた54年製の超骨董。リバティチーフが参考にしたであろう時代の個体である。
三挺を並べた第一印象としては、ミロクは少々あか抜けない。極太のバレルが迫力な一方、何やらまがい物感も漂う。ただしコレは、自分がディテクティブとチーフに慣れ親しんでいるせいもあろう。初めて銃を手に取る人なら、もしかするとディテクティブ辺りは武骨で泥臭く映るかもしれない。一番スッキリはチーフだろう。
サイズ的には、ミロクはディテクティブとほぼ同じだ。装弾数も両者6発。が、ミロクはフレームがやや分厚く、上下幅もあって大柄に見える。ディテクティブはシリンダーが少々長いから、その分スマートだ。重量はミロクが一番重い。その次がディテクティブ。装弾数が1発少ないチーフはウンと小さく軽くなる。
ミロクのボディがやや厚めなのは、強度の問題を考慮したのかもしれない。コルトやS&Wには、焼き入れ等の長年のノウハウがあるはずだ。だからボディをギリギリ絞り込めているに違いない。見た目のサイズだけでは測れない部分は必ずある。

