2025/05/05
CMC モーゼルKar98k 【ビンテージモデルガンコレクション5】
Vintage Modelgun Collection -No.5-
CMC
WWII Mauser Karabiner 98k
Kal 7.92mm
(1979年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2012年8月号に掲載
ミリタリー人気が高かった1970年代、ファン待望の長物モデルガンの1つがモーゼルKar98kだった。MP40と共に第二次世界大戦時のドイツ軍コスプレに欠かせない重要アイテムで、発売されるや、BLKではないモデルガンとしては異例の大人気となった。
諸元
メーカー:CMC
名称:WWIIモーゼルKar 98k
主材質:亜鉛合金
銃床:輸入材
作動方式:ボルトアクション
発火方式:前撃針
カートリッジ:7.92mmボトルネックド、インナーロッド方式
使用火薬:平玉紙火薬/5mmキャップ火薬
全長:1,110mm
重量:3.8kg
装弾数:5発
発売年:1979(昭和54)年
発売当時価格:¥39,000-(カートリッジ1発¥250-、クリップ1コ¥350-)




※smG規格合格品以外は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではではありません。また価格は発売当時のものです。
アメリカで1962〜1967年にかけて放送され、日本でもほぼ同時期に全152話が放送された人気戦争ドラマ『コンバット!』。それ以後も繰返し再放送され、つい最近の2008〜2009年にもBSで放送された。
2012年は放送50周年に当たる。2011年には全話を収録したDVD-BOX完全版全6巻が発売されるなど、その人気は衰えを知らない。まさに歴史に残る永遠の名作だ。
だからモデルガンが充実していった1960年代後半から第一次モデルガン法規制が実施される1971年までは、モデルガンファンにはウエスタンとともにミリタリーが高い人気を誇っていた。当然『コンバット!』が好きなミリタリーファンは、ドラマに登場する銃に憧れた。
アメリカ軍ならサンダース軍曹のトンプソン、ガバメント、ヘンリー少尉のM1カービン、そしてカービーのBAR、一般兵士のM1ガーランド。マシンガンはブラウニングM1919。
ドイツ軍は一般兵士のモーゼルKar98k、下士官のMP40、将校のワルサーP38かルガーP08。マシンガンはMG34かMG42。



長物はモデルガンメーカーにとって両刃の刃でもあった。高価な金型が大型化せざるを得ず、さらに高価になるからだった。多額の投資をして売れなければ、メーカーそのものの存続さえ脅かしてしまう。当時は小さな会社が多く、1作の成否が存亡に大きく影響したのだ。なかなかその領域に手を出せなかったというのが実情だろう。多くはピストルカービンというカスタムのような商品で市場を探りながら商品展開を進めていった。
そんな中、六研が最初にKar98kの亜鉛合金による量産の企画を立ち上げた。1975年のことだ。しかし、これは実現しなかった。
そうこうしているうちに、1977年それまで規制対象外だった金属長物も対象とした第二次モデルガン法規制が施行された。新規製作される金属モデルガンはsmG規格に準じた改造防止策を講じたものでなければ販売できなくなった。
金属長物の本体は、亜鉛合金以上の強度を持つスチール材などが使えなくなり、薬室前には銃身を塞ぐ形で改造防止の超鋼材(インサート)を鋳込まなくてはならなくなった。つまり、銃腔がストレートに貫通していてはいけなくなったのだ。
これでは発火ガスが前方に抜けず、金属ハンドガンに起こったことと同じことが起きる。すなわち、発火ガスの逆流によるバックファイアと、薬室内の汚れの増加だ。特にデトネーター方式のブローバックモデルは汚れに敏感で、続けて何発も撃てなくなってしまう。




そこで考え出されたのがガスバイパスだ。薬室前方の側壁にガス抜き穴を設け、そこから発火ガスを側路に導いてインサートを迂回、再び前方のバレル内にもどしてやる。こうすれば法規制に触れずに、バックファイアと薬室内の汚れを大幅に減らすことができる。
この規制でプラスチック長物が登場することになり、金属長物は全滅を免れた。Kar98kの企画ももう一度息を吹き返しし、1979年CMCから亜鉛合金の量産モデルとして発売された。
すでに『コンバット!』初回の放送からは10年以上が経過し、ミリタリー人気もそれほどではなくなっており、WWIIよりは1975年に終戦となったベトナム戦争に注目が移りつつあった時期でもある。CMCも思いきった決断が必要だったのではないかと思う。
原型製作は六人部登さん。設計には国内にあった正規登録実銃のモーゼル98系ライフルのメカニズムが参考にされたという。





当時、すでにヨーロッパにいた床井雅美さんは六人部さんから要請を受けて、Kar98kを詳細に取材、その資料を六人部さんへ送ったそうだ。
それと同時に、すでに無可動実銃のKar98kも日本に入って来ており、今ほど規制が厳しくなかったため、可動部分も多かった。その1挺を六人部さんは購入したそうだ。
おそらく、無可動実銃のKar98kを傍らにおいて設計を進め、ボルトなどは床井さんなどの実銃資料を参考にしたのだろう。
刻印に関しては、無可動実銃のままではなく、モーゼルの専門書から1942年製のbyf(モーゼル)が選ばれたという。
ガスバイパスはオイルをしみ込ませた特殊な紙をパッキンとして使うしっかりしたもので、カバーを留めるねじが、前半分のバレルを固定するねじも兼ねるようになっていた。ボクはもったいなくて発火させたことがないが、発火させても多分ガス漏れは少なかったと思われる。






また第二次法規制(smG規格)に合わせて遊底(ボルト)内のインサートを避けてカートリッジ底面を叩くようにするため、ファイアリングピンは前方と後方の二分割になり、前方はセンターにスプリングを仕込み三日月型の先端を持つ形式とされた。
ストックは当初、実物のストックが世界中にたくさんあるということで、輸入してそれを使うことが計画されていたという。床井さんがあちこち手配して集めたものの、軍用はイカンということで、許可にならなかったそうだ。それで無可動実銃のストックをベースに、田中木工(現タナカ)に発注された。
当時、六研で働いていた人がマルシン工業にいらっしゃるということで、会社にお邪魔してお話を伺った。
もともと六人部さんはモーゼルライフルが好きで、いつかKar98kを作りたいとおっしゃっていたそうだ。ただ、コストを考えずそっくりに作ったため、当時の量産長物としては最高値の39,000円という価格になってしまった。それでも『コンバット!』のKar98kを待っていたファンに歓迎され、価格からすればよく売れたという。



また、製造上もっとも難しかったのはボルトとボルト後端に取り付けられるボルトスリーブのねじ切りだそうだ。ボルトスリーブを締め込んだ位置とボルトハンドルの位置を合わせなければならない。そのためには、ボルトの雌ねじとボルトスリーブの雄ねじのねじを切り始める位置を正確に合わせなければならないのだそうだ。
ちなみに、六研から発売しようとしたときバットプレートとクリップだけはプレス屋に発注してある程度まとまった数が完成していたので、CMCから発売されることになったときに、初期生産モデルだけそれが使われることになったそうだ。バットプレートはROCKENと刻印が入れられているのでそれとわかる。
クリップは後のCMC製と見分けが付かない。実物そっくりに再現した凝ったものだった。非常に手間がかかることから、カートリッジが1発250円だったのに対して、クリップ1コが350円もした。
また、当時CMCの製造を担当していた松栄製作所に放電加工機があったことから、ヴァフェンアムト(Waffenamt、ドイツ陸軍兵器局)の検印“WaA79”の刻印が製作され、ストック右面の撃針分解器の横に打刻された。ただし、これは手間がかかったので、最初のロットのみで中止されたそうだ。



発売から半年後にスポーター(¥42,000)が発売されたが、これはオリジナルデザインで、ベースになった実銃は存在しないという。スコープ用のマウントベースが簡易形式のものだったので、人気は今ひとつだったらしい。
またCMCがモデルガンの製造をやめる前年の1984年5月頃に、バリエーションとなる短銃身のモーゼル33/40マウンテントルーパー(発表の翌月にはマウンテントループに変更、¥43,000)を発売している。しかし、時代はすでにエアソフトガンが主流となっており、ほとんど話題にならなかった。
その後、金型はタナカに買い取られ、ガスガンに生まれ変わった。またモデルガンとして再会したいと思うが、いずれにしても名銃は名銃として生き続けるだろう。
●Vintage Model-gunとは
本コーナーにおけるヴィンテージ・モデルガンは、原則的に発売されてから20年以上経過した物を対象としています。つまり現時点で1992年以前に発売されたモデルガンということになります。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:床井雅美 マルシン工業
撮影協力:千葉のクマ吉、酒井 恒
Gun Professionals 2012年8月号に掲載
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