2025/04/02
ちょっとヘンな銃器たち15 Frankenau パースリボルバー
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この外見からはとてもリボルバーとは思えない。
口径:5mmピンファイア
外装ケース:100mm×64mm×32mm
内蔵リボルバー:銃身長 20mm
装弾数:5発
日本を含め、治安の安定している国の都市部では、真夜中でも安全に出歩くことができる。そのような地域では、誰も夜間の外出に自衛用に武器を携帯したりすることはない。
アメリカでは現在、コンシールドキャリーウエポン(CCW)パーミットが発行されるなど、多くの一般市民が自衛用に銃を携帯することが可能となっているが、それは例外的なことで、ヨーロッパの多くの国ではそのようなことはおこなわれておらず、銃を自衛のために持ち歩くことは禁止されている。
しかし、夜の街が安全になったのは、比較的近年の話だ。
19世紀後半のヨーロッパ都市部では表通りには街灯が設置されていたものの、現代のような街路灯を使って道路を煌々と照らすのではなく、ぼんやりとした光を放つガス灯があっただけだ。ガス灯で照らされるのはそれがある場所の近くだけで、ちょっと横道に逸れるとそこには真っ暗であることがほとんどだった。
このような暗い夜道を、馬車を利用しないで出歩くのはかなりの冒険といえた。とくに有産階級の人々にとっては、彼らが持ち歩いている金品や着用している高価な外套を狙って暗がりに潜む強盗らの格好のターゲットになる危険があった。
そこで、そのような有産階級への販売を目的とした小型護身用ピストルがいくつも開発された。最初のフィラデルフィア デリンジャーはそのような用途を持っていたし、同様のピストルは数多く、他にも靴の中に隠して持てるブーツピストルなどもあった。これらは単発だったが、リボルバーが登場すると、当然連発式の小型護身用ピストルが作られるようになっていく。
今回紹介するパース(財布)リボルバーもそういった護身用連発ピストルの一つだが、ほかの護身用ピストルとは全く異なる外見を持っている。

右:リボルバー収納部分と反対側は、じゃばら式の小銭入れとなっているため、コインや予備弾薬などを収納できる。
以前紹介したプロテクターパームピストルや、先月号のゴロアピストルにも、財布やシガー(葉巻)ケースに似せた携帯ケースが供給されていた。しかし、それらは使用する際に偽装されたピストルケースから銃本体を取り出す必要があった。
それに対し、今回紹介するパース(財布)リボルバーは、ピストル全体の外見が財布に似せた形状に作られており、見ただけではピストルと判断されにくく、しかも、そのままの状態で銃弾を発射できる点が大きく異なっている。
このリボルバーを開発したのはドイツのニュールンベルグに当時住んでいたOscar Frankenau(オスカー・フランケナウ)という人物だ。一部のネット上の銃砲解説では、イギリス製、あるいはイギリスで考案されたとしているものがあるが、オスカー・フランケナウ自身がアメリカで取得したUSパテントには、ドイツ帝国ニュールンベルグ居住のオスカー・フランケナウが特許申請すると明記されており、ドイツで考案されたことにまず間違いはない。また同時にドイツで製作されたことも確実だ。そしてその名前からも彼はドイツ人だと思われる。
オスカー・フランケナウはこのリボルバーを開発後、1876年にまずドイツでパテントを取得し、続いてイギリスでも1877年9月5日にパテントを取得した。同年11月6日にはアメリカでもパテントを取得している。それがイギリス考案のイギリス製と誤解されるようになったきっかけは、おそらく誰かがこのイギリスパテントに注目して、そのように記述し、それが広まったからだろう。
しかしながら、オスカー・フランケナウの人物履歴ははっきりしていない。おそらく銃砲技術者だったと思われるが、このフランケナウ パースリボルバー以外に彼の名前を付けた銃砲の記録は今のところ見当たらず、追跡する手掛かりがない。
オスカー・フランケナウはパテントの中でこう述べている。
「リボルバーを、手帳や葉巻入れ等のピストル用と見えないようなケースと組み合わせることで、必要なときにいつでもすぐに発射できるようになります。旅行者や他の護身用ピストルが必要な人々なら、このような組み合わせの利点はすぐに理解されるでしょう。襲撃された際に財布や手帳を取り出すと見せかけて、強盗に向けてリボルバーを発砲できる機能を備えていることは、護身用武器として有用だからです。」
つまり、このフランケナウ パースリボルバーは最初から護身用を意識して開発された偽装ピストルだったことがわかる。
現在、多くの国の銃砲取締法では、警察官がボディチェックする際に発見し難いことを理由に、他の物に見えるような偽装ピストルの所持や売買を禁止している。しかし、このフランケナウ パースリボルバーはその例外としてコレクターが売買できる製品のひとつとなっている。

その理由はいくつかあるが、第一に現在入手がきわめて困難なピンファイア弾薬を使用することだ。そして、民間に流通している製品数が圧倒的に少なく、売買される価格が最近のオークション価格を例にとると5,000ドルから,8000ドルと高価で、一般的な犯罪で使用される恐れが少ないことが挙げられる。そして社会の安全が十分ではなかった時代を知るための歴史的遺物であることも理由だろう。
偽装銃砲に対して厳しい規制をおこなっているアメリカも、このフランケナウ パースリボルバーを歴史的なアンティーク銃砲“Curio”(キュリオ:骨董品)に分類し、一般コレクターが合法的に売買できる銃砲に指定している。

右:フランケナウ パースリボルバーを射撃するために握った様子。正確な照準はおろか射撃方向を保持し続けることも難しい。
ピンファイア弾薬は1850年代に本格的な普及が始まった。同時に後装式金属薬莢の銃器が普及していく。
一方、リムファイア弾薬も1857年に.22ショート弾薬が開発されたことで普及し始めた。薬莢からピンが突き出たピンファイアより、そのようなピンがないリムファイアの方が使い勝手が良いため、1860年代以降、ピンファイアは衰退を始めた。
オスカー・フランケナウがこのパースリボルバーのパテントを取得した1876年であれば、リムファイア弾薬がじゅうぶんに普及していたのだが、なぜかフランケナウはピンファイアを選択している。
フランケナウ パースリボルバーは、外側に黒色の皮を張り付けた金属製のボックスの中にダブルアクション式の小口径小型リボルバーが内蔵装備されている。その外見は黒色の皮張り手帳かあるいは財布、またはシガーケースに見える。
金属製のケ-スは両側面がやや膨らみ、四隅も丸みを帯びた形状だ。これは外套のポケットに忍ばせやすく、また取り出しやすくするためだろう。
当時のピンファイア弾薬で使用されている発火火薬や発射火薬は、金属腐食性を持っていた。フランケナウ パースリボルバーを発射すると、ケース内部に発射ガスが留まって残りやすい。そのためリボルバー本体とケースの内側は、共に腐食防止のためのニッケルメッキが施されていた。
腐食防止にメッキされていても、リポーターが実際に見たサンプルは例外なくケース内部に錆が発生していた。リボルバー本体も同様で、バレル先端部の他、バレルの後端、シリンダーの先端部分やシリンダー後端のピンファイア弾薬のピンを突き出させる切込み周囲に、多かれ少なかれ錆の発生が見られた。
内蔵されているリボルバーは、シリンダーに口径5mmのピンファイア弾薬を5発装填できるダブルアクションオンリーとなっている。ダブルアクションオンリーのため、ハンマーコック用のハンマースパーはない。
使用者はあらかじめこのリボルバーのシリンダーに5発の5mmピンファイア弾薬を装填しておく。弾薬の装填はシリンダー後方のリコイルプレートに装備されたローディングゲートを後方に倒して1発ずつおこなう。
パースリボルバーはその名前の通り、小銭を持ち歩く財布として使用できる機能も備えられている。リボルバーを内蔵させるケースの脇には小銭を入れられるコンパートメントが設けられており、ここに予備弾薬を入れておくことも可能だ。
弾薬を装填したフランケナウ パースリボルバーの蓋を閉めると、黒革を張ったその外見は、黒革張りの財布、あるいはシガーケースのように見える。万が一強盗に遭遇した時には、財布を出すふりをしてこれを取り出し、強盗に向けて本体下面に装備されているフォールディング(折り畳み式)トリガーを起こして引く。ダブルアクションなので連射も可能だ。
フォールディングトリガーを起こすと同時に、コンパートメントに内蔵されたリボルバーのマズル前方に装備された弾丸通過孔が開き、銃弾が通過できるようになる。このフォールディングトリガーをボックスの下面に折りたたんで格納しておく限り、トリガーが引かれる可能性はないため、ピストルを安全に持ち運ぶことが可能だった。
発射する5mm口径のピンファイア弾薬は、高い殺傷能力を備えているわけではない、むしろ弱小弾薬といえる。現代の自衛用ピストルの常識と異なり、当時のヨーロッパの護身用ピストルは、襲撃相手を殺傷するのではなく、突然の反撃で怯ませ、同時に大きな発射音で周囲に事件が発生していることを知らせることが目的だった。
リポーターはこれまで数挺のフランケナウ パースリボルバーを手にとってチェックする機会に恵まれ、発射こそしないまでも、その操作性を試すことができた。
結論から言うと、弾薬の威力もさることながら、このフランケナウ パースリボルバーを射撃しても、わずか1~2m離れた目標に命中させることすら困難に感じられた。
そのわけは、このピストルの大きさと同じくらいの分厚い財布(長さ10cm程度)を手に持って頂くとよくわかるだろう。なければスマートフォンなどでもよいだろう。グリップの無い財布やスマートフォンを正しく保持し、相手に狙いをつけることは難しい。加えて財布の下にトリガーがあると想定して、人差し指、あるいは中指で相当の力を要するダブルアクションの長いトリガートラベルを操作するフリをしてみて頂きたい。
分厚い財布を正確に一定方向に保持し続け、人差し指あるいは中指を動かすことがいかに難しいか理解できるだろう。このような操作をおこなうように人間の手や手首はできていないのだ。
フランケナウ パースリボルバーの護身用武器としての限界は、命中させることより、突然の反撃発砲で襲撃相手を怯ませ、同時に大きな発射音で周囲に事件が発生していることを知らせるという、当時の護身用ピストルに求められた最低必要条件に留まっていただけだったといえる。

ピンファイア弾薬の時代が完全に終わり、現代に通じるメタリック弾薬の時代になっても、フランケナウ パースリボルバーがリムファイア、またはセンターファイア仕様に近代化されることはなかった。この銃が近代化されることなく静かに消えていったのは、この使い難さが一因だったのかもしれない。
Text by 床井雅美 Masami Tokoi
Photos by 神保照史 Terushi Jimbo
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