2019/06/16
実銃レポート WASR 10/63UF
フォールディングストック仕様のルーマニア製AKMS
AK47
アームズマガジン読者であれば「AK47」の名は聞いたことがあるだろう。今回は数多くあるAK47のバリエーションの中から、ルーマニア製のフォールディングストックバージョンであるAKMS(WASR10/63UF)を通じてAK47の特徴を紹介していこう。
AK47は、設計者であるミカエル・カラシニコフ将軍の名を取って「カラシニコフライフル」の名でも知られ、「アサルトライフル」という兵器カテゴリーを築いた最初の銃器であると言える。発射ガスを利用するガスオペレーテッド作動方式にロータリーボルト閉鎖方式というアサルトライフルとしては一般的な構造を持ち、1947年に登場してからは旧共産圏諸国の主力インファントリーライフル(歩兵小銃)として製造工程の変更、小口径化といったバージョンアップを受けながらも基本構造は変更されず、現在では生産数の多さ、配備地域の広さから、世界でもっとも一般的なアサルトライフルとなっている。
西側代表のM16(Colt製SP1)と、東側代表のAKMS(WASR 10/63UF=UFとはアンダーフォルダーの意味)
AK47はベトナム戦争(1960年~1975年)において最初の大きな戦闘に使用された。中国・ソビエト連邦の支援を受ける北ベトナム軍は1943年から使い続けている7.62mm×39弾とそれを発射するSKS及びAK47で武装し、冷戦最初の大きな武力衝突の場となったベトナム戦争を戦った。AK47は全長が短く、軽量で30連発マガジンを使用しフルオートでのコントロールが安易であるためジャングル戦では米軍のM14に勝る威力を発揮した。
AK47シリーズに採用されている7.62mm×39弾
30連ボックスマガジン(写真右)と韓国製の75連ドラムマガジン。AKの信頼性の高さの要因の1つとなっているのがマガジンデザインである。余裕のあるスプリングテンションと頑丈なスチール製マガジンは状況に左右されず、確実なフィーディングを行なう
AK47の使用する7.62mm×39弾はコントロール性と威力のバランスの取れた優れたカートリッジとして知られ、AK47の生産性・耐久性の良さとともに世界各国の紛争地帯で使用されることとなる。こうしてAKシリーズは旧ワルシャワ条約機構に属していた東欧各国に最初に採用され、東ドイツ、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ユーゴスラビア、ルーマニア、そして後に中国、北朝鮮などでも生産が開始されると共産圏諸国におけるアサルトライフルの代表となった。
AKMの誕生
1959年、製造工程が簡素化でき資源の節約にもなるプレス加工で製造したレシーバーを持つAKMが開発され、やがて5.45mm×39に小口径化されたAK74が開発される。AK47→AKM→AK74が公式の流れではあるが、世界各国で生産されるAKシリーズは各国の状況によってそのバリエーションは無数に存在する。AK47には大きく分けて削り出し(ミルド)レシーバーを持つモデルと、プレスレシーバーを持つモデルが存在し、ライセンス生産を行なった国の技術力、生産時期によって混在している。また、AKMは生産性の向上、軽量化、フルオート時の連射速度を低下させるレートリデューサー、マズルブレーキの取り付け、直銃床化などが行なわれたAK47の改良型である。だが、これらの特徴も、それぞれの生産国の事情によって特徴が混ざり合うこととなる。多少の特徴の違いは無視し、7.62mm×39弾を使用するAKをAK47、5.45mm×39弾を使用するAKをAK74と呼ぶのが一般的でとなっている。
今回紹介するWASR 10/63は、ルーマニア製のAKMである。60年代初頭、ルーマニアはAKMのライセンス生産を開始。1963年に固定ストックのPM md.63、1965年に折りたたみストック仕様のPM md.65の製造を開始した。ロシア製のAKMに順じ、セミ/フルオートの切り替え、クロームメッキ仕上げのバレル、ガスピストン、ガスシリンダーを持ち、独自のデザインのピストルグリップタイプの木製フォアグリップを装備していた。米国にセミオートモデルとして輸入されたPMmd.65が今回紹介するWASR 10/63である。
プレス加工で作られたトップカバー。ガタツキが大きく、この部分にリアサイトを取り付けできないため、サイトレディアスを伸ばせない。最新型のAK-12等ではヒンジ形のトップオープンのデザインとなり、リアサイトともにピカティニーレールも装備され、オプティクスの運用などにも対応している
ルーマニア製であることがエングレービングペンで手書きで刻まれている。高級感はまったくない
リアサイトはスタンダードなスクエアノッチとなっており、射撃距離にあわせてエレベーション調整が行なえるタンジェントサイトタイプ。AKの命中精度は西側のM16などと比較すると比較的低いと言える。これには短いサイトレディアスも1つの要因となっている
AKMSは戦車兵や空挺部隊向けに開発されたフォールディングストック仕様のコンパクトモデルだ
バレル上部に空けられた穴から、発射ガスの一部をガスシリンダーへと導きボルトを後退させる。ガスブロックは後方へと傾斜した形となっている
コンペンセイターはマズル部分にねじ込み固定される。フロントサイトベースに回転止めとしてのディテントがある
AKシリーズの信頼性の高さは、緩い工作精度によるところがあると言われるが、それだけではない。オートマチック式の銃器の信頼性を高めるための構造的な工夫が多く投入されている。充分な質量を持つボルトキャリアが、長い距離を移動し、充分なタイミングを測って勢いよく閉鎖する。そしてマガジンからチャンバーまでのジャンプは充分な距離があり、しっかりとしたマガジンリップに押さえられた、きついテーパーの付いた弾薬が自然な角度でチャンバーへと送られる。こうした機械的な信頼性を高めるデザインが重なることで、AKシリーズの信頼性が確立されたと言っても過言ではない。
セレクターのデザインはレミントンM81ライフルが参考とされている。セーフ状態ではチャージングハンドルの通るスロット部分をカバーするダストカバーとしても機能する
ストックを展開した状態。しっかりとした頬付けができず、撃つたびに頬骨にストックが激突するので、決して使いやすいストックではない。ルーマニアのPM mod.65はロシア製のAKMSに相当するモデルであるがストックのデザインは一世代前のAKS47に準じている。生産国、時期によって様々な特徴がある
フィールドストリップしたところ。AKシリーズの利点として単純な構造が挙げられる。AKのフィールドストリップは工具を使わず、分解・組み立て工程が単純だ。さらに屋外で紛失しやすい小さなピンやネジといった部品を外す必要がない。また、組み立ての際に間違って部品を取り付けないように正しい方向にしか組み込めない設計となっている。いわゆるフールプルーフ(foolproof)された構造であり、高いメンテナンス性を持っている
トリガーガード前部にレシーバー側にマガジンを引っかけるためのタブが備わるAKシリーズは、マガジンが確実に保持されるという面では優れているが、素早い装填・着脱には向かない。タブを確実にレシーバー内に引っ掛け、大きく回転させるようにして装着する
ボルトキャリアの右側にあるチャージングハンドルを引く
オーソドックスなAK47/AKMシリーズは作動の確実性との引き換えにボルトが激しく動く大味なものとなっている。一方、近代的なAK74やAK100シリーズは大幅に改善され、スムーズな射撃を楽しむことができる
AKシリーズは命中精度は低いと言われるが、サイトレディアスの短さが1つの要因となっている。また多くのバリエーションと使用弾が、各国で様々な品質管理の中で作られているためでもあるが、高品質なAKシリーズの一般的な命中精度は4MOA(100ヤードで4インチ)であると言われている。構造的な精度が4MOA程度あり、人的な要因が現在よりも抑えられるのであれば、300m以内で運用されるアサルトライフルとしては充分な命中精度を持っているといえる。AKシリーズは今後も多くの国で使用されるアサルトライフルのマスターピースであり続けるだろう。
TEXT&PHOTO:SHIN
この記事は月刊アームズマガジン2019年7月号 P.110~117より抜粋・再編集したものです。