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2024/07/20

時代の波に翻弄されたモデルガンの秀作「MGC S&W M586 6インチ」

 

時代の波に翻弄されたモデルガンの秀作

 

 

MGC S&W M586 6インチ

 

 リボルバーのモデルガンと言えば現在はタナカ、ハートフォード、KSC、マルシン、MULE/CAWからリリースされているが、今から40年前はMGCやコクサイ、CMCなど多くのメーカーからリリースされていた。ここでは1983年に登場したMGCのモデルガン「S&W M586 6インチ」の特徴を時代背景とともに紹介する。
 

MGCのモデルガンの中でも後期に発売されたS&W M586。全長は292mm、重量は620g。1983年に発売された当時の価格は6インチが8,800円、4インチが8,500円だった

 

 実銃のM586(モデル586)はNフレームとKフレームの中間サイズのLフレーム(S&WはKフレームと同じミディアムサイズにカテゴライズしている)を採用した.357マグナム弾が撃てるダブルアクションリボルバーだ。登場年は1981年。1957年に導入されたモデルナンバーは1980年に二桁から三桁となり、さらに識別しにくくなった。M586は最初から三桁で、頭文字の「5」はカーボンスチール製、M686の「6」はステンレススチール製を表している。ちなみにLフレームの9㎜×19弾仕様はM986、.44マグナム弾仕様(装弾数5発)はM69(なぜかこれだけでは二桁)、.357マグナム弾が7発装填できるモデルはM686 PLUSとネーミングされている。Kフレームのグリップサイズはそのままに、.357マグナム弾のプレッシャーに耐えられるようにKフレームよりひと回り大きいシリンダーと、フルレングスのアンダーラグが備わったバレルが特徴。日本でよく知られているKフレームリボルバーにコルトパイソンのバレルを装着したカスタムリボルバー「スモルト(スマイソン)」に影響を受けたとされており、当時流行していたPPCマッチのディスティングイシュットクラス用として人気を博した。一時期カタログ落ちしたものの、.357マグナム弾が撃てるリボルバーのメインモデルとして豊富なラインアップとともに現在も販売されている。

 

バレルやフレーム、シリンダーの素材はABS樹脂で、塗装などされていない地肌のままなのでテカテカしている。当時メッキモデル以外は素材の地肌のままがほとんどだった​​​​​

 

 そんなM586をMGCがモデルガンで発売したのは1983年。当時、MGCを筆頭にマルシン、コクサイ、東京マルイ(組み立てキット)からモデルガン、クラウンから撃てるプラモデルとして発売されていた。1983年にコクサイから発売されており、実銃の誕生年を考えると、非常に早くモデルガン化されていたことがわかる。5社から発売されるほど競作状態ではあったが、1983年にマルゼンのライブカート式エアコッキングガンKG-9が発売されたのに加えて、コンバットマガジン誌でサバイバルゲームが紹介され、時代はモデルガンからエアガンに移行しつつあった。
 

パッケージはMGCのモデルガンらしくお洒落なイラスト入り。このイラストはイラコバさんが描いたものだという。ベースの色はM586が紺に対してM686はベースが銀色だった

 

 この頃MGCは、1983年に創刊された月刊誌「モデルガン・チャレンジャー」を中心に製品レポートを掲載し、誌面では人気が高まりつつあったエアガンに対するネガティブキャンペーンが展開された。しかし、そんなMGCも1985年にセミオート式ガスガンM93R-APを発売。「モデルガンチャレンジャー」誌は休刊となり、同社はモデルガンからエアガンに軸足を置き、歴史に残るエアガンを続々とリリースしていく。M586はM93R-APが登場する前に発売された、完全新規のリボルバーのモデルガンとなった。なお、MGC休業前に発売された最後の完全新規のモデルガンは、1991年発売のベレッタM9である。
 

パッケージを開けたところ。発泡スチロール制の内箱にはキャップ火薬と別売の.357マグナムカートリッジが納めるスペースが設けられていた

 

 M586のトイガンと言えば、ガスガンとモデルガンでリリースして現在も発売されているマルシン製やコクサイ製が有名だろう。MGCのM586はどちらかと言えばマイナーなモデルだが、1970年代に登場した同社のハイウエイパトロールマン41マグナム(通称ハイパト)やM29に比べて格段にリアルになり、実銃の資料が入手しやすくなったことや、他社との競作が影響していると思われる。特に内部メカは実銃に近いものとなっていた。当時MGCが推し進めていたモデルガンを使った射撃システム「シューター・ワン」に対応したシリンダー構造を採用しており、発火性能も申し分なかった。写真の6インチのほかに4インチ、ステンレス版のM686(4インチ、6インチ)、さらにバリエーションとしてキャリーコンプカスタムやスマイソンが作られた。
 

ライフリングが再現されたマズル部分にはパーティングラインがうっすらと残っている

 

M586を象徴するフルレングスのアンダーラグが備わったバレル。バレル長は4インチと6インチ。左側にはスミス&ウェッソンの刻印が入れられている

 

6インチのみフロントサイトは交換可能で、写真のレッドランプ入りのランプドタイプとレッドランプなしのパートリッジタイプが選択できた

 

フレーム右側のアドレスはMGCオリジナル。レーザー刻印ではなく金型で入られていた

 

ABS樹脂製のサイドプレート側にS&Wのモノグラムが入れられており、こちらは実銃のレタリングに近づけられている。フレームとの間には隙間が目立つ

 

セミワイドのスムーズタイプトリガーの後方にはトリガーストップが設けられている

 

無骨なハンマーノーズが備わったハンマーは安全性を考慮したいわゆる響き打ち式。ハンマーの形状はリアルさよりも耐久性を重視したもの

 

アジャスタブルタイプのリアサイトは実銃同様に上下左右に調整可能

 

スクエアバットのフレームにはオーバーサイズグリップが装着されている。オプションで木製グリップ(オーバーサイズとファイティングタイプの2種類)が用意されており、実銃用のKフレームグリップが装着できた

 

シリンダー内の改造防止インサートと前撃針を見たところ。改造防止インサートにはガス抜けをよくするために逃げが設けられ、前撃針の中心部に穴が開けられている。このためマズルフラッシュと音抜けに優れていた

 

ヨークが収まるフレーム部分内側に自主規制に適合(合格)していることを示す「SPG」マークが入れられている。銀色のフォーシングコーンは別パーツ

 

シリンダー前面内側には改造防止のための超硬材で作られたインサートが鋳込まれている。バレルやシリンダーのインサートを抜くと法律違反になるので絶対にやってはいけない

 

カートリッジはOリングを使ったインナーロッド式と呼ばれるもので、7㎜キャップ火薬はカートリッジ前部に詰める。シンプルな構造で発火性能に優れており、メンテナンスしやすい

 

.357マグナム弾のダミーカートと比較したところ。長さはケース部分とほぼ同じ。現代の視点から見るとリアルさに欠ける。でも当時はこれでよかったのだ

 

シリンダーにカートリッジを装填したところ。カートリッジの底部はすり鉢状になっており、ハンマーノーズがインナーロッドを叩きやすくなっている。エジェクターは実銃同様に機能する

 

グリップを分解したところ。グリップ内側には金属製のウエイトが組み込まれている。フレーム左側は実銃と違ってフラットで、シャーシプレートとグリッププレートを固定するためのネジ(合計4本)が設けられている

 

内部メカを見たところ。各パーツとも実銃に近い形状と機能が再現されている。MGC製品で板バネが使われるのは珍しいとのこと。安全対策のためシャーシプレートとグリッププレートは別パーツで構成されている


 手にしてみると、ABS樹脂製のバレルやフレーム、シリンダーは表面仕上げされていないABS樹脂の地肌のままなのでテカテカしている。各所にウエイトが仕込まれているものの、現代のヘビーウエイト樹脂製モデルガンに比べると軽い。リアルになったとはいえ最新のモデルガンに比べるとディテールの再現度は甘く、刻印もリアルではない。しかし、トリガーフィーリングはスムーズで、メリハリのあるカチッとした作動フィーリングは安心感を覚える。発火させてみると不発はなく音抜けもよい。まさに「発火式モデルガンはこうあるべき」を具現化しているかのようだ。MGCらしい優れた作動性能との両立が図られている。ガンガン発火させて楽しみたい方にはうってつけのモデルガンだろう。
 

タナカのペガサス式ガスガンスモルト4インチステンレスフィニッシュVer.3(写真下)と並べてみたところ。MGCのM586はプロポーションの甘さや仕上げが地肌そのままなのが気になるものの、当時としては頑張っており、ハイパトやM29とは別格の出来映え

 

 MGCのM586はモデルガンメーカー群雄割拠の中、モデルガンが熟成期を迎えつつあった時代であり、トイガンのメインストリームがモデルガンからエアガンに移行する過渡期に登場した製品としては秀作といっても過言ではない。

 

M586のバリエーションのひとつであるキャリーコンプカスタム。1990年代中頃に作られたもので、素材にヘビーウエイト樹脂が用いられている。ヘビーウエイトモデルには2.5インチ、3インチモデルもラインアップされていた

 

キャリーコンプカスタムの特徴であるシングルポート+左右合計6ポート仕様の3インチバレル。ランプドタイプのフロントサイトは別パーツ

 

6インチとキャリーコンプカスタムを並べたところ。キャリーコンプカスタムはS&Wのモノグラムが左側(シリンダーラッチ下)に施されている。カスタムモデルらしくシルバーのトリガーとハンマー、ファイティンググリップが標準装備されている

 

タナカのペガサス式ガスガンS&W M19 PC 3インチ“キャリーコンプ”ヘビーウエイトVer.3(写真下)と比較したところ。おそらくキャリーコンプを初めて再現したのはMGCだろう。フレームサイズの違いはあるものの、バレルの形状等よく再現されている

 

TEXT:毛野ブースカ

 

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