2024/05/20
【実銃】シューティングに特化したベネリハイエンドカスタム「TTI Benelli M2 Ultimate 3 Gun」【前編】
TTI Benelli
M2 ShotGun
Taran Tactical Innovations Benelli M2 Ultimate 3Gun
正式名称は“TTI Benelli M2 Ultimate 3 Gun”という、3Gun競技用に作り上げられた“勝つためのショットガン”だ。この21インチバレル、8連マガジンのモデルが、映画『ジョン・ウィック:パラベラム』で印象的に使われ、一躍人気モデルとなったのは、皆さんもご存じであろう。
今回は、3Gun競技に特化した9連マガジンモデルを紹介したい。
3Gun=スリーガン:ライフル、ピストル、ショットガンを使うアクションシューティング競技
レース ショットガン
ベネリM2は、ベネリ社のパオロ・ベネリ氏とブルーノ・チボラーニ氏によって開発/特許取得された“Inertia Driven System(イナーシャドリヴンシステム)”というリコイルオペレーション方式を持つ、セミオートショットガンだ。
イナーシャとは慣性、惰性という意味で、発射ガスの圧力を使うガスオペレーテッド方式を採用するモスバーグ930/940、レミントン ヴァーサマックス、ベレッタA400などと違い、発射時に発生するリコイルの力のみを使ってサイクルを行なう慣性モーメント方式と呼ばれるリコイルオペレーテッドシステムの一種である。
このシステムのキモは、バレルとのロッキングラグを備えたロテイティングボルトヘッドと、それを支える重いボルトキャリア、そしてボルトキャリア内でボルトヘッドを押している強力なスプリングの組み合わせだ。まずはイナーシャシステムの作動サイクルをリストにしてみよう。
- 発射前の状態。ボルトヘッドはロッキングラグによってバレル内に固定されている。
- 撃発すると、ボルトフェイスを後方に押すリコイルが生まれ、まずガン全体が後方に押され、シューターの肩に反動が伝わる。これによって慣性モーメントが発生し、同時に重量のあるボルトキャリアはそのままに、ボルトヘッドだけが内部スプリングに反発し押し込みながら数ミリ後退する。
- ボルトヘッドが一定位置まで後退するとカムによって回転が始まり、ロックが解除されてボルト内のスプリングが反発する力を利用してボルトキャリア全体がリコイルスプリングに逆らって後退し、同時に排莢する。
- リコイルスプリングによってボルトが前進し、キャリアによって押し上げられた次弾をくわえてチェンバーを閉鎖する。
- サイクルが完了し、次弾発射準備が整う。
このイナーシャシステムにはいくつかのアドバンテージがある。
まず、天候や環境に影響されにくいという点だ。例えば砂が舞う強風のデザート地域で使う必要がある際など、ガスシリンダーやピストン、ポートといった繊細な個所を持つガスオペレーテッドガンに比べ、遥かにリライアブル(信頼性が高い)なのだ。
同じ理由で、部品点数が少なく、火薬カスや鉛などの蓄積しやすいものをシステム内に取り込むことがないので、ジャムが起きにくく、またクリーニングの回数を大幅に減らすことができる。つまりローメンテナンスなのだ。
また重量の嵩むガスピストンシステムがバレル下にないため、フロントが軽くなりガンのバランスが良好で、上下左右への移動がより素早くできるという利点もある。そして弱点として取り沙汰される部分としては、ガスオペレーテッドよりもリコイルがストレートでキツイ、というのがある。
発射ガスという気体が介在するガスシステムに比べ、リコイルを作動サイクルに使うイナーシャシステムでは、その重量の軽さも相まってリコイルがキツイという人は多いが、私自身は通常使用においてベネリM2のリコイルが、例えばモスバーグ930に比べて大きいと意識した記憶はない。
一度、3インチのマグナムロードをレミントンのガスオペレーテッドと撃ち比べた際に「ああ、イナーシャの方が肩に来るな」と感じたことがあるくらいなのだ。
もう一つ、アンチベネリの人たちからの指摘が多いのが、肩付けが悪かったり、火薬量が少なめな安価なシェルを使った際、ジャムが起きやすい、という点である。
これも正直言って、私には今のところこの手のジャムが起きていないので、同意する要素がない。ウォルマートで買った格安250発入りウィンチェスター12ゲージを使ったこともあるが、シェルのプラスティック部分がリムから切れてしまうジャムを経験したのと、友人が肩付けせずに腰だめで撃とうとして排莢不良が起きた以外には、これまでに1万発以上は撃っているが、問題があったことはないのだ。
さて、前置きが長くなってしまったが、TTI(Taran Tactical Innovations)M2である。これらのM2は、もう8-9年前になるだろうか、偶然21インチバレルのベネリM2の出物(当時21インチバレルモデルはレアで、価格も高めだった)が手の出しやすい価格であったので、手に入れると同時に、それまで使っていた重いレミントンのセミオートをリタイアさせるべく、タラン・バトラー氏にカスタマイズをお願いしたものだ。カスタマイズ部分は以下のとおりである。
- カスタム軽量化ボルトキャリア DLCコーティング
- トリガージョブ
- レシーバーのローディングポートリシェイプ&ポリッシュ
- エキストラクター&バレル モディフィケーション(ジャム対策)
- TTIカスタムシェルリフター/シェルキャリア
- シェルキャッチのチューンとポリッシュ
- キャリアラッチのチューンとポリッシュ
- ポイント オブ インパクト(着弾点)の修正
- ハンドガードのスティップリング
- リコイルパッド改良
- TTIアルティメイト セイフティ
- TTIオーバーサイズ ボルトリリース
- TTIスプリングパッケージ
- Nordicエクステンデッドマガジンチューブ&クランプ
- TTIアルティメイトチャージングハンドル
- Hi Vizファイバーオプティック フロントサイト
とまあ、それこそ手の入れられる部分はすべて3Gunシューターの権化ともいえるタランのセンスをつぎ込んでカスタマイズしてある。M2の出物は2挺あったので、友人と結託して、さらに安く手に入れて、タランにはほぼ同じ仕様で、ピストルストックと通常のストックでセットアップしてもらった。
当時の3Gun競技では取り回しの良さを優先して、21インチバレルの方が有利とされていたのだ。昨今では、21、24インチバレルともにパーツとして手に入れることができるので、8連から10連までのマガジンチューブとともに、マッチやそのクラスによってセットアップを変えるというのが簡単にできるようになった。
私にとっては、それまで使っていたレミントン ヴァ―サマックスに比べると、フロント部分が軽くなったことも相まって、ターゲットからターゲットへの移動が速くなり、まるで自分が上手くなったような気がしたものだ。
またリロードのし易さは特筆モノで、当時は4発を握り、1発ずつ「シャコ、シャコ…」とロードしていくのが主流だったが、その後のダブルロード、ひいてはクワッドロードまでも対応できるセットアップであった。
確かに値段はそこそこする。カスタム代だけで1,500ドルほどなので、ベースガンを入れると3,000ドルのカスタムガンということになる。ただし、それだけの価値は十分にあると言い切れる。
現在は私も3Gun競技からはリタイアしているので、このTTI M2は8連マガジンにして“ジョン・ウィック仕様”にし、我が家のセルフプロテクションショットガンの一翼を担ってもらっている。マスターショットガンは、いまだに使い慣れて確実性の高いレミントン870だが、ガンセイフの中のTTI M2には、常にOOバックを8発装填して、一番手前に立ててある。
Photo&Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年10月号に掲載されたものです
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