2023/05/27
【実銃】伝説的ガンスミスが生み出した“GRAND MASTERS”に迫る【中編】
POWER CUSTOM
GRAND MASTERS
70年代から80年代の中頃まで、リボルバーへの注目度は非常に高かった。アメリカのポリスオフィサーの多くがリボルバーを装備し、PPCマッチやビアンキカップには様々なカスタムリボルバーが登場。リボルバーのガンスミスも多く、それぞれ独自のデザインを競っていた。そんなガンスミスの中でも、レジェンド(偉大な功績をあげた人物)と呼ばれたのが、ロン・パワー氏だ。
彼の作った“Grand Master”モデルは、当時最高のカスタムリボルバーだったと言える。
意外と繊細なリボルバー
「ヘーイ、ガイズ、よく来たな~、ワータシがロン・パワーでーす」
もちろんパワーさんがこんな日本語を話したわけではない。でもパワーさんの英語には、中南部独特のアクセントがあり、それがまた彼の温かくも優しい人柄を助長している。こればっかりは誌面では伝わらないので、こんな言葉にしてみた。それはともかく、パワーさんは大きな手でがっちりと握手してくれた。
パワーさんが“パワーカスタム”を始めたのは、1959年のことだ。当時の彼はまだ鉄鋼会社に勤めており、ガンスミスはサイドジョブだったようだ。数年後、彼はUSアーミーに入隊し、マークスマンシップユニットのピストルチームメンバーに抜擢される。そう、パワーさんは実力のあるシューターでもあったのだ。
除隊後もファイアアームズインストラクターとして多くのオフィサーにシューティングを教え、またガンスミスとしてカレッジやアーマラースクールでのクラスを担当したりしている。
70年代に入ると、カスタムリボルバーのガンスミスとして忙しくなり、リボルバーならロン・パワーという定説が出来上がっていく。
我々が訪問した当時、パワーカスタムのウェイティングリストは1年半以上もあった。
「グランドマスターはどうですか~? マッチで勝ててますかー、まずは見せてくださーい」
お言葉に甘えて8万発も撃ったリボルバーを見てもらう。
「これは沢山撃ってますねー、愛用してくれて嬉しいでーす。バレルはもう寿命なので交換しますか? あー、シリンダーにもエンドシェイクが出ていますねー、これはチューンナップが必要です」
それからの数時間は、我々にとってリボルバーに対する認識を覆すものとなった。
エンドシェイクというのは、数多くの実弾を発射していると、シリンダー周りにガタが出て、シリンダーをつまんで前後させると微妙な遊びが出てくることをいう。この遊びがあると発射毎にバレルに飛び込んでいく弾頭がまっすぐに進まず、それがゆえに精度が落ちていってしまう。
発射の衝撃や噴き出る発射ガスの勢いというのはかなりのもので、後ろに押されたカートリッジはフレーム面に毎回激突している。だからここにガタがあると、パーツのあちこちに影響が出て、さらなるガタを生んでしまうのだ。これに対処するには、スターの下やヨークがシリンダーと触れる部分に薄い(0.01-0.02mm厚)リング状のシムを入れ、全長を長くしてガタを抑える方法をとる。
また、シリンダーを回転させるキモとなるスター部分にあるハンドが押し上げるラグもハンドとともに変形が危惧される場所で、チェックが必要だ。これをチェックするには、左手でシリンダーを両側からつまむことによってシリンダーに負荷をかけ、トリガーをゆっくりとダブルアクションで引いていく。ハンマーが落ち、左手の負荷をかけたままトリガーを戻した際、シリンダーがロックされずに逆回転してしまうようなら、この部分の摩耗が進んでいることになる。オーバーサイズのハンドをインストールし、スター部分のラグをシェイプし直してチューンしなければならない。
このトリガーを引いてハンマーが落ちる直前にシリンダーがシリンダーストップによって固定されているというのは、S&Wリボルバーならではのアドバンテージである。シリンダーを回転させる量が不十分だと、このシリンダー戻りが起きてしまうのだ。シリンダーが完璧に定位置に固定されていないと、発射された弾頭はバレルに飛び込む際に変形してしまい精度が落ちてしまうのだ。
他にも、エジェクションロッドが何らかの原因で曲がってしまうとシリンダーの回転に支障が出て、ヨーク(シリンダーを支え、スイングアウトさせるパーツ)がきちんとフレームに固定されず、精度はガタ落ちになってしまう。
パワーさんは、エジェクターロッドが曲がっていないか1/1000mm単位で計測できるツールを作り上げてしまい、チューンを可能にしている。また、このヨーク部分がフレームにがっちりと固定されているというのは、精度を追求するカスタムリボルバーにとっては重要なポイントとなる。
グランドマスターでは、シリンダーの回転に妨げとなり得るエジェクションロッド先端のロッキング機構を廃止し、ヨーク部分に2方向からボールベアリングを使ったロックを追加している。
我々は、リボルバーというのは部品の点数も少なく、可動部分もミニマムなので信頼性も高く堅牢だと思っているが、精度を追求するとなると意外と繊細なのだ。
「ああ、トリガープルにも段差とドラッグ(引きずり)が出ているな。ちょっと直してあげよう」
ここで我々はパワーさんのリボルバースミスとしての経験と力量を目の当たりにしてしまうことになる。
まず、サイドプレートを外したかと思うと、ハンマーセイフティを外した状態でトリガープルをゆっくりとチェックした。そしてほんの少し緩めたハンマースプリングを素手で外したかと思うと、トリガーリバウンドハウジング、そしてハンマー、トリガー、シリンダーストップをものの5秒もかからずに取り出してしまった。
そして角棒状の目の細かいストーン(砥石)を使って、フレーム内部を“すいすーい”となぞっていく。削るというより磨いている感じだ。次にトリガーのハンマーと接触する部分を軽く“3こすり”すると、猛然と組み込み始めた。ハンマースプリングをかけると、またゆーっくりとトリガープルをチェックする。今度は思わずカウントしてしまったが、また4秒ほどでパーツを取り出したかと思うと、今度は何箇所かを“すーっ”とワンストロークだけストーンを滑らせて、5秒で組み上げる。まるでビデオの早送りとスローモーションを交互に見ているような感じだ。これをあと2回繰り返し、ハンマーとトリガーのシャフトに薄いリング状のシムを入れて組み上げ、チェックしたのちにっこり笑ってガンを手渡してくれた。
「トライ イット(試してごらん)」
思わず息をのみ込んでしまった。シルキースムーズかつ軽いのだ。
「これはフェデラル社のマッチプライマーを使うという前提のチューンだ。CCIやレミントン社のプライマーだと不発が出るかもしれない。フェデラル使っているだろ?」
もちろんだ。プライマーは我々が弾薬をリロードする際、いくつかのメーカーから選ぶことができる。CCIやレミントン社製は外側のシェルが固めなので、プライマーを発火させるにはそれなりの力で叩く必要がある。そのためにはハンマースプリングを重くし、ハンマーそのものもある程度の重量が必要になるのだ。
その点フェデラル社製はシェルが柔らかく、特にマッチモデル(ほかにスタンダードという廉価版もある)を使う限り、これまで不発が起きたことは一度もない。
「バレルは交換するかね? 置いていってくれれば先に取り付けてあげよう」
嬉しいオファーだったが、このガンは3年間ビアンキカップを戦った相棒だし、何だかこのまま置いておきたい気がしていたのだ。
「おお、そういえば、戻ってきたグランドマスターが1挺あったな。確か刻印とコンプが気に入らなくて返送されてきたとかいっていたな。興味あるかい?」
これまた、もちろんイエス! である。なんでもこのカスタマーは、新型のワンホールコンプより旧型のスリットタイプがよく、またバレルに入った.38SPLという刻印が気に入らなかったのだという。まあベースガンがS&W モデル681なのだから.357Magと入れて欲しかったのだろうが、パワーカスタムを返送するなど、私に言わせれば“もってのほか”ではないか。
当然のごとく、このグランドマスターは私の所有するところとなった。同行した友人たちのぼやくこと、ぼやくこと。この後、S&Wリボルバーについてこってりと話を聞いた後、パワーさん所有のトンプソンサブマシンガンを撃たせてもらったり、キャットフィッシュ(いわゆる食用ナマズ)のフライを食べに行ったりして、楽しい1日を過ごさせてもらい西海岸に戻ってきた。
Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年8月号に掲載されたものです。
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