2019/01/21
無可動実銃は極上の嗜み Vz.59N 軽機関銃【2019年2月号掲載】
鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫
この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。
多数の派生モデルを生み出したブルーノZB vz.26軽機関銃の正統な末裔
崩壊したオーストリア=ハンガリー帝国からの独立を果たしたチェコスロバキア共和国では、設立されたばかりの国軍の装備確保が急務であった。第一次世界大戦を経験し、帝国の重工業地帯として工業化が進んでいたチェコスロバキアは、当時世界第7位の工業国であり、兵器製造は国軍の強化のみならず、外貨を稼ぐ手段としても有効だったことから輸出にも力を入れていた。
チェコ陸軍は1923年に新軽機関銃の要求仕様を確定し、1926年にはブルーノZBvz.26軽機関銃を開発。当時の他国製の機関銃と比べ、ZB26軽機関銃の故障の少なさは驚くべきものであり、高性能で価格も安いZB26軽機関銃は多くの国に輸出されている。
チェコスロバキアは第二次世界大戦後は社会主義国化が進み、ワルシャワ軍としてソ連の弾丸が採用され、モーゼル弾を使用する名銃ZB26は終わりを迎えた。チェコはソ連製の軽機関銃も取得したが、1950年代初頭に制式兵器の刷新のためにネイティブデザインの武器を求めてZB26をベースとした軽機関銃の開発に着手し、結果として7.62mm×45vz.52弾と7.62mm×39弾を使用するVz52/Vz57を経て最終後期生産型のVz59が開発された。
東西冷戦の中で埋もれてしまった傑作機関銃
スタンダードな軽機関銃としてさまざまな国に影響を与えたZB26の流れを汲む由緒ある血統のVz.59は、非常に汎用性に優れた設計だ。ソ連が軽機関銃を分隊支援火器のボックスマガジンのRPKと中隊規模で使用するベルト給弾のPKM汎用機関銃に分けたのに対し、チェコは分隊支援火器から戦車の同軸マウント機銃にまで使用できる汎用機関銃として開発している。
継続的な射撃をしてもビクともしないZB26譲りの丈夫な機関部を持ち、分隊機関銃として使用する際はバイポットの付いた軽量バレルを使用。中隊機銃として三脚に載せて運用したり、車輌やタンクの同軸機銃として使用する場合はヘビーバレルが装着されるなど汎用性に優れる。操作において最大の特徴は、コッキングハンドル兼用のピストルグリップを前後させるユニークなコッキング操作スタイルだ。これは元を辿ればZB53重機関銃(Vz.37)やVz.52軽機関銃から引き継がれたチェコの機関銃ではスタンダードなスタイルのようだ。
独特のコッキングはトリガーを引くことでフィールドカバーが開き、親指でレバーを下げるとロックが解除され、トリガーアッセンブリーを前方にスライドさせてコッキングを行なう。慣れれば素早い再装填が可能だが、危険な操作に思えるようでチェコ以外では普及していない。今回は無可動実銃ながらギミックが生きている非常にユニークな個体だ
バレルに取り付けられたハンドルは左右の位置でのロックが可能で、運搬、バレルの取り外し、アサルトモードに対応する
プレスパーツが多用された機能美にあふれたレシーバーは名銃ZB26の面影が残り、チェコ軍特有のグレーの焼付塗装が施されている
上部にマガジンを差し込むZB26とは異なり、横から給弾する方式に変更されたため、リアサイトがオフセット方式から中央に変更されて凝った作りのものになっている
また、東側の武器システムを採用していない地域にも対応した西側の7.62mm×51NATO弾を使用するVz.59Nが1968年に開発されている。
外貨獲得のため輸出を視野に入れた開発を行なってきたが、冷戦下の共産国ではソ連の武器形態を崩せず、西側においては東側からの武器輸入禁止の煽りを受けてしまい、ZB26の時のようなヒット作にはならなかった。
しかし、チェコスロバキアでは国家が二分した1992年以降でもチェコ共和国とスロバキア共和国の両国で使用され続け、NATO加盟後はアフガニスタンに出兵したチェコ軍でVz.59Nが使用され過酷な条件下でも確実に可動している。ZB26の時代から数えて90年以上、Vz.59だけでも60年の歴史を持つ本銃はまさしくチェコを代表する傑作銃なのは間違いない。
DATA
- Vz.59N 軽機関銃(#S-4040-N)
- 全長:1,115mm
- 口径:7.62mm(7.62mm×51NATO弾)
- 装弾数:ベルト給弾
- 価格:¥237,600
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TEXT:IRON SIGHT
撮影協力:東京サバゲパーク
この記事は2019年2月号 P.90~91より抜粋・再編集したものです。