2021/11/05
ブルパップライフルの基礎知識~ブルパップの○と×~
かつてアサルトライフルの理想の形と称され、一世を風靡した形式があった。ブルパップと呼ばれるその形式は、現在実銃界でこそほとんど見なくなってしまったものの、その未来的フォルムからSF映画・ゲームに登場する架空銃やエアガンの世界では一定の人気を保っている。今回はそんなブルパップ方式のメリットやデメリットまで含めた基礎知識を解説しよう。
そもそもブルパップ式とは?
アサルトライフルやショットガン、ボルトアクションライフルの形式のひとつであるブルパップ(bullpup)式。1970年代から1990年代にかけてヨーロッパを中心に発展した。M4A1カービンやAK47といった通常のアサルトライフル(ここは便宜的にコンベンショナルタイプと呼ぶ)はボルトなどの機関部とマガジンがグリップより前に設置されている。それに対してブルパップ式はボルトなどの機関部とマガジンがグリップより後方に設置されている(ストックと機関部が一体になっている)のが特徴だ。バレル長を維持しつつ全長をコンパクトにできるメリットがある。
ブルパップ式が開発された当時、アサルトライフルそのものが過渡期にあり、優れたアサルトライフルを生み出すうえでの選択肢のひとつとして誕生した。ブルパップ式は未来のアサルトライフルとして期待されたものの、アサルトライフルの使用環境や用兵思想の変化などにより現在では少数派となってしまった。
ブルパップ式のメリット
- メリット1:長いバレル長を保ちながら全長が短くできる
前ページで述べたようにブルパップ式の最大のメリットは長いバレル長を確保しながら全長が短くできる(保てる)ことだ。コンベンショナルタイプではストックの前に機関部があるのに対して、ブルパップ式はストック内に機関部を設置したことで、コンベンショナルタイプと同じバレル長でもストックの長さ分だけ短くできる。そのため、バレル長をできるだけ確保したいスナイパーライフルに用いられることがある。
- メリット2:コンパクトでバランスがいい
バレル長を確保しつつ全長を短くできるので、同じバレル長のコンベンショナルタイプよりもコンパクトで取り回しやすい。バレルを短くすればさらにコンパクトにできる。サブマシンガンと同じサイズでより強力な弾が発射できる。狭い場所や車輌の中などで扱いやすくて持ち運びやすく、小柄な方でも構えやすい。グリップがボディ中央にあり、機関部が後方にあるので前後バランスに優れている。ただしバレルを短くすることで前後バランスが崩れる恐れがあるのがデメリットといえばデメリットだ。
- メリット3:バリエーション展開しやすい
ブルパップ式のメリットのひとつに機関部を内蔵したストック、バレルアッシー、レシーバーがモジュール化しやすいことが挙げられる。そのためバレルやレシーバーを交換することでシチュエーションに応じたセットアップが簡単にできる。コンベンショナルタイプはヘッケラー&コックがG3系でいち早くモジュール化を実現しており、最近ではモジュール化によりバレルやハンドガードの着脱が行なえるようになった。しかし、M4A1だとバレルの交換はアッパーレシーバーごと交換する必要があり、AK47はバレルの着脱は不可能だ。
ブルパップ式のデメリット
- デメリットその1:ショルダースイッチできない
ブルパップ式のデメリットにまず挙げられるのがショルダースイッチができない(射撃姿勢に制限を受ける)ことだ。ストックに機関部があるブルパップ式の場合、エジェクションポートがストック側面(頬付けした際の顔の近く)に設けられている。そのため、右肩から左肩(左肩から右肩)に持ち替えて構えることができない。また、L85などエジェクションポートが切り替えできない銃の場合、利き手を選ぶことになる。近年のアサルトライフルの射撃術ではショルダースイッチは必須であり、コントロールレバー類のアンビ化も当たり前になりつつある。ブルパップ式でもその問題を解消すべく各社は努力しているものの完全な解決には至っていない。
- デメリットその2:素早いマガジンチェンジが苦手
グリップより後方、ストック側にマガジンがあるブルパップ式は、コンベンショナルタイプに比べて素早くマガジンチェンジするのが得意ではない。ブルパップ式が登場した時代は、積極的にマガジンチェンジを行なうことを前提としていなかったためと思われる。マガジンキャッチの形式にもよるが、構えたままマガジンチェンジするのが物理的に難しい。特にL85のようにマガジンキャッチが射手側にあるタイプは致命的だ。M4A1のようにマガジンキャッチを押すだけでマガジンが取り出せない。近年開発されたタボールやケルテックRDBなどは素早くマガジンチェンジができるようにマガジンキャッチが工夫されている。
- デメリットその3:操作系が銃によってバラバラ
コンベンショナルタイプの操作系(セーフティ、セレクターレバー、マガジンキャッチ、ボルトキャッチ、コッキングハンドル)のポジションや操作方法はM16/AR系とAK47系、それらの亜流に大別でき、M16/AR系とAK47系の操作方法を覚えておけば操作できる。しかしブルパップ式は各銃によって操作系がバラバラで、銃ごとに操作方法を覚えなくてはならない。また、セレクターレバーとセーフティが別に設けられているモデルは操作が煩雑になる。FN P90やF2000、タボール、ケルテックRDBなど、コンベンショナルタイプのようにセレクターレバーとセーフティが一体になっているモデルもある。
- デメリットその4:サイトレディアスを確保するのが難しい
機関部をストック内に収めたことで全長が短くなった反面、サイトレディアス(フロントサイトとリアサイトの間隔、照準線)が短くなってしまった。サイトレディアスが長いほうが正確な射撃には向いており、短くなるということは正確な射撃がしにくくなる。またストック上面とバレルの軸線が近く、ハイプロファイルなアイアンサイトが必要になる。そこでステアーAUGやL85、F2000などはアイアンサイトを最初から搭載せず、光学機器(スコープ)を標準装備することでサイトレディアスの短さを補っている。現在はドットサイトやスコープが任意で搭載可能なスコープマウントベースが装備されている、いわゆるフラットトップレシーバーモデルが多くなっている。
- デメリットその5:アクセサリー類が装着しにくい
ブルパップ式はコンベンショナルタイプのようにアクセサリーマウンティングシステムを採用したハンドガードが装着しにくい。これも時代の趨勢であり、1970年代から1980年代にはウェポンライトやレーザーエイミングモジュールなどのアクセサリーを装着する思想はなく、仕方がないといえば仕方ない。近年ではL85A3やステアーA3、タボールなどはアクセサリー類が装着可能なハンドガードやアクセサリーレールが装着したモデルが登場している。今後はブルパップ式のメリットであるコンパクトさを生かしつつ、上手にアレンジする必要がある。
- デメリットその6:作動音がうるさい
機関部を内蔵したストックが耳の近くにあることから、発射時に生じるボルトの作動音とエジェクションポートから漏れる発射音はコンベンショナルタイプに比べて明らかにうるさい。一度に多く発射するようなシチュエーションは稀だろうが、聴力への影響が懸念される。これは構造上の問題なので解決しにくい。しかしエアガンの場合、特にガスブローバックガンはリアルな撃ち応えが体感できるメリットはある。
以上がブルパップ方式が持つ主なメリット/デメリットである。メリットに比べデメリットの方が多いのが寂しいところではあるが、それでもブルパップ方式はコンベンショナルなスタイルにはない独特の魅力やロマンを持っており、そこに惚れ込んだ根強い愛好者もいる。今までブルパップを敬遠していた方も、試しに一度手に取ってみるとその魅力に気づくかもしれない。
この記事は月刊アームズマガジン2021年11月号 P.28~31より加筆・再編集したものです。