2018/10/31
S&W Performance Center M327 TRR8【2018年12月号掲載】
S&W社のカスタム部門ともいえる「パフォーマンスセンター」。ここから興味深いリボルバーがリリースされた。TRR8。この.357マグナム8連発にスポットを当ててみよう。
357 Magnum, .38 S&W SPECIAL +P
- 装弾数:8
- バレル長:5インチ(12.7 cm)
- 全長:10.5インチ(26.7 cm)
- 重量:35.2 oz(1kg)
- シリンダー材:ステンレス
- バレル材:ステンレス
- フレイム材:スカンジウム合金(マットブラック仕上げ)
タクティカル・リボルバー
今さらリボルバー?
眉をひそめる皆さんの顔が目に浮かぶようである。
確かに、リボルバーの用途は、ごく限定的なものになっている。「信頼性」というゆるぎないアドバンテージを持ちながらも、装弾数の少なさ、リロードの煩雑さ、重くかさばる、といった決定的な短所が取りざたされ、それまで大きなマーケットであったLE(法執行機関)の制式銃の座から消滅してしまった。それがリボルバーだ。
現時点では、ハンティング用の大口径マグナムか、2インチ以下のバレルを持つ携帯用のバックアップガンとして特化するほかに生き残るすべはなさそうに思えてしまう。
ところが、である。
S&Wのカスタム部門であるパフォーマンスセンターから、TRR8がリリースされた。TRRというのは「タクティカル・レール・リボルバー」の略で、8はもちろん8連発という意味だ。リボルバーに「タクティカル」という名前が冠されたというのは近年稀にみるというか、すごいことではないだろうか。
正直に言おう。初めてこのリボルバーを見た印象は「無理やりアクセサリーをつける必要あるのか!?」だった。もちろん今やハンドガンにウェポンライトは必需品だし、我々くらいの年齢になるとドットサイトのようなオプティクス(光学機器)が装着できることは、すこぶる嬉しい。さらに.357マグナムの8連発というのも、ファイアパワー的にグッとくる。
筆者は以前、リボルバーのアクションシューティング競技に没頭していた時期があった。当時はバーマンカスタムというS&WM627を7連発にカスタマイズしたものを使い込んでいた。M686の7連発が出る10年以上も前のハナシである。これも7連のフルムーンクリップを使って、リロードも4秒以内に可能という楽しいカスタムガンだった。今回こいつも引っ張り出してみたが、いかんせんM627のNフレームに6インチのブルバレルというのは重過ぎて、現実的ではないということだけはストンと理解できた。
そうしてみるとこの最新版TRR8はさすがで、なんとも見目麗しい5インチバレルに、フレームはS&W自慢のスカンジウム合金製で軽量化に徹している。どちらも取り外し可能なレールがバレル上下に装着可能で、ここにウェポンライトやレーザー、オプティクス等を搭載可能となっている。
その重量は997.9gと、これはシンプルな1911とほぼ同等な数値に収まっている。それでいて、口径は.357マグナムと、威力的には.45ACPの上を行くことになり、装弾数においても肩を並べているのだから面白いことになってきた。
このTRR8が開発されたきっかけというのが、実に興味深い。
皆さんもご存じのように、全米にあるLE機関には、SWATと呼ばれる特殊な訓練を受けているエリートチームが存在している。彼らは凶悪な犯罪が起きた際に呼集され、ファイアパワーの大きいウェポンや装甲車を駆使して事件を解決していく、いわゆる特殊部隊である。
このSWATチームのオフィサーたちから、「バリスティックシールド(防弾盾)を持ったリード・ペネトレーター用に特化しリボルバーを作ることができないか?」というリクエストがS&W社のパフォーマンスセンターにいくつも入ってきた。
リード・ペネトレーターとは、凶悪犯が潜む場所に突入していくチームの先頭にいる人を指し、通常は防弾盾を片手に持ち、利き腕にハンドガンを持って渦中に飛び込んでいく。この際、スライドが前後するという機構を持つセミオートピストルでは、盾の陰から発砲しなければならない関係上、スライドが盾と干渉してジャムが起こってしまう可能性が高くなってしまうのだ。さらにどうしても片手で撃たなければならないので、確実なファンクションに必要なスライドの慣性を失ってしまうことも起こりうる。つまり、トリガーを引けば確実に発射できるというリボルバーの信頼性がクローズアップされることになるのだ。数多くのオフィサーが信頼する.45ACP弾よりも威力的に優位で貫通力の高い.357マグナムを8連射できる軽量リボルバーがほしい、というのがSWATオフィサーたちの念願だったのだ。
そんなSWATチームへのパフォーマンスセンターからの解答が「TRR 8」だった。
バレル下にはウェポンライト&レーザー、トップレールにはロウライト時(暗がり)用にリフレクトダットサイトを装着することができる。この用途からすると必須のデザインであろう。
ほかにもいくつかの工夫がある。より確実なシリンダーのロックアップのために、ヨーク部分にボールベアリング状のロックが組み込んであり、これがバレルシュラウドの定位置に確実に固定される。精度を上げ、耐久性を向上させる大事なポイントだ。トリガープルも、カスタム並みとまではいかないが、充分にスムーズで、ステージングと呼ばれるシリンダーの回転が止まる場所でいったん指の動きを止め、さらに狙いすましてからハンマーを落とすという、S&Wリボルバーならではの引き具合を容易にしている。
他にも、フロントサイトに埋め込まれたゴールドビード(ブラス製だが)やトリガーの裏側に埋め込まれたトリガーストップ、全面マットブラックの表面仕上げなど、憎い意匠があちこちにみられるのにはついつい頬がゆるんでしまう。
適材適所というか、今回のガンのオーナーは、現役SWATチームのメンバーであるジェイソン・デイヴィス氏である。
「このリボルバーがS&Wのパフォーマンスセンターからリリースされた際、その開発目的も我々関係者の間にはさざ波のように広まっていったんだ。私もペネトレーターを務めることがあるし、君も知っているように私のデューティガンは.45ACPのコルト1911だからね。訓練で実際にジャムを起こしたことはなかったが、常にその危惧はあったというのが本心だ。信頼性の高いリボルバーで、.357マグナム口径の8連発、これはもう手に入れないわけにはいかなかったんだ」
納得である。
ジェイソン・デイヴィス(Jason Davis)。いくつもの企画に協力してもらっているSWATチームスナイパー。長年ファイアアームズインストラクターを務めており、ハンドガンからカービン、ボルトアクションまで、すべてのファイアアームズに造詣が深い
500発撃って見えてきた高い実力!
今回の実射は、実際にバリスティックシールドを使った射撃にした。
私の自宅にあった15年以上前のアモを持ち出したため、盛大な発射炎を噴出してしまったが(最近開発されたアモはこの発射炎を抑えるように研究が進んでいる)、ジェイソン所属のPD(ポリスデパートメント)インドアシューティングレンジが室内で、黒いバックグラウンドということもあって.357マグナム口径のファイアボール(発射炎)を数多く捉えることができた。
実射の感想は「さて困った。撃てば撃つほど魅力が増していく……」。
つづきはアームズマガジン誌面に任せることにするが、リボルバーとしての優れた集弾性や、奇しくも(?)バッチリ捉えられた派手なファイアボールの画像も交えてその魅力をお伝えしている。ぜひご覧いただきたい。
バリスティックシールド(防弾盾)の陰から撃つ。誌上では各種アモによる発射炎やリコイルの違いを、その実射シーンで比較したページもある。必見だ
Text & Photos: Hiro Soga
この記事は2018年12月号 P.118~125より抜粋・再編集したものです。