2021/03/24
【第3回】ソヴィエト連邦の超兵器「弾道弾の飛翔経路」
ソヴィエト連邦の超兵器
大陸間弾道弾 第3回:「弾道弾の飛翔経路」
冷戦時代、その軍事力で世界を震撼させたソヴィエト連邦。彼らの“切り札”というべき最強兵器『大陸間弾道弾』を、核物理学者 多田将氏が6回に分けて解説!
目次
弾道弾の構造――多段式
弾道弾の中身は、ほとんどが推進剤でできている。たとえば液体燃料式「R-36M2」の9割、固体燃料式「RT-23UTTKh」の8割が推進剤である。推進剤を入れたタンクやモーターケースは、推進剤が尽きてしまえば無駄な重量となるので、飛行しながら適宜切り離していく。これが多段式ロケットであり、長射程の大陸間弾道弾では液体燃料式で2段、固体燃料式で3段のものが主流である。最終段を切り離すと、弾道弾が運ぶべき搭載物(ペイロード)――「弾頭」だけになる。
弾道弾は発射されると推進剤を燃焼し(そして使い切った“段”は切り離し)、加速・上昇していく。この区間をブースト・フェイズと言う。液体燃料式で4~5分、固体燃料式で3分程度であり、弾道弾の姿勢を制御できるのはこの段階まで。以降は重力に従い単純な楕円軌道を描くだけとなる。そのため、このわずかな区間の精度が着弾まで数千km先の精度を決定してしまう。
高度な技術が要求される複数弾頭型
弾頭は重力に引かれて楕円軌道を描き(ミッドコース・フェイズ)、大気圏に再突入する(ターミナル・フェイズ)。ターミナル・フェイズは、通常の大陸間弾道弾で、1分未満である。
弾頭は、大気圏再突入に最適な円錐型をした容器に入っている。これを英語では「再突入体」、ロシア語では「戦闘ユニット」と呼ぶ。再突入体は、6000℃を超える高温に晒されるため、特殊な技術で内部の弾頭と制御機器を守っている。弾頭はひとつ(単弾頭型)のものと複数搭載のものがあり、複数弾頭型をロシア語では「分割弾頭」と呼ぶ(英語では「MIRV、多弾頭独立目標再突入体」である)。
複数弾頭型では、弾頭はそれぞれ「分割段」と呼ばれる姿勢制御用エンジンを備えた“段”に搭載され、ひとつずつが個別の目標地点への軌道に乗るよう自身の姿勢を調整する。着弾の精度を左右するため、非常に高度な技術が要求される。英語では、この分割段を「PBV(Post-Boost Vehicle)」と呼び、この区間をポスト・ブースト・フェイズと呼ぶ。
空力により軌道を変える
通常の再突入体は重力により落下するだけだが、冷戦期には空気(揚力)を利用して軌道を変えるものも開発された。アメリカでは機動を修正する「機動式再突入体(MaRV)」が準中距離弾道弾「パーシングII」に搭載されている。ソヴィエトでも同様のものが大陸間弾道弾用に開発され「誘導戦闘ユニット」と呼ばれた。
また、さらに積極的に空気抵抗を活用し、ターミナル・フェイズで1,000kmもの距離を滑空する「アリバトゥロス(アホウドリ)」という滑空弾頭も開発されている。「アリバトゥロス」は実戦配備には至らなかったが、近年になって復活し、次世代の核運搬手段として注目される大陸間弾道弾用超音速滑空弾頭「アヴァンガルド(前衛)」として完成した。
解説:多田将
(※WEB掲載にあたって編集部で文章を改編・再構成しています)
イラスト:サンクマ
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