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2020/03/20

【小説】口まわり防具装着のススメ/著:木塚 麻耶

 

 「アームズマガジン ミニコンテストVol.01」 

 エッセイ/コラム部門 入賞作品 

 

-----サバゲーマーの皆様、こんにちは! 突然ですがあなたは、サバゲーをする時に『口まわりの防具』をつけていますか? このエッセイは普段、口まわりの防具をつけてない方に向けて、マスクやシュマグの重要性をお伝えしようと思って書きました。安全で楽しいサバゲーライフを送るために少しだけ、このエッセイに目を通していただきたいと思います。

 


 

はじめに

 あなたはサバゲーをする時に口まわりの防具をつけていますか?

 目を保護するゴーグルなどは、必ずつけていますよね。

 私が活動している地域では、ゴーグルを装備しないと戦闘エリアに入ることもできないサバゲーフィールドしかありません。

 一方で、戦闘エリアが広い──特に屋外のサバゲーフィールドでは、口まわりの防具をつけなくても良いというレギュレーションになっているフィールドもあります。

 私がよく遊びに行く屋外のフィールドでは、スタッフさんから口まわり防具の装着を推奨されていますが、必須ではないのでつけない人も多いです。

 私もそうした中のひとりでした。

 

 


 結論から言いましょう。

 口まわりの防具をつけていなかったせいで私は、歯を失いました。

 BB弾が当たって、前歯が折れたんです。

 こんなことを書くと、『サバゲーって怖い』ってイメージが広がってしまいそうなので、サバゲ人口をもっと増やしたいと考えている私としては不本意なのですが……。

 しかし、サバゲ中に歯を折ってしまい、痛い思いをするのと同時に安くない治療費を払わなければならない被害者がこれ以上増えないよう、私はこのエッセイを書いています。

 ここから、私が前歯を失うことになった経緯と、その治療にあたった費用などをまとめていきます。

 これを見てくださったサバゲーマーの皆様。
 口まわりの防具をつけてください。

 

 

 

歯が……

 私は月に1〜2回ほど、大学時代の友人と一緒にサバゲーフィールドで遊んでいました。

 

 よく行くのはゴルフ場のそばにある広いフィールドで、そこのレギュレーションでは口まわりの防具装着が必須になってはいませんでした。

 私は長物戦ではマスクやシュマグをつけますが、ハンドガン戦ではいつも口まわりの装備を外してしまっていたんです。

 

 


 『その日』もいつものように、長物を使ったセミオートのチームデスマッチやフラッグ戦をしていました。

 問題は、ハンドガンオンリーのフラッグ戦で起こりました。

 その対戦は、私の所属していたチームが敵チームを圧倒していました。

 仲間の数名が敵チームの裏どりに成功し、敵陣の右側がボロボロになったので、フラッグの周囲にいた敵が、右側の応援に行って敵陣中央が手薄になったのです。

 私は自陣からまっすく敵陣に進攻したので、敵フラッグの一番近い場所にいました。中央の守備が手薄になっていたのと、サポートしてくれる味方が追い付いてきたので、フラッグを取りに行くことにしました。

 少し進攻して、バリケードの向こう側に敵がいました。バリケードの下から影が動いているのが見えたんです。その敵さんは、私たちに攻め込まれて自分の影を気にするほど余裕がなくなっていたのか、もしくは影を気にすることを知らない初心者さんなのではないかと思いました。

 『カモ』です。

 サクッと倒して、フラッグまで行ってしまおう。

 そう思いながら、ハンドガンを構えて進みました。

 

 


 バリケードまで3メートルほどのところで、敵が飛び出してきました。

 

 影で動きが丸わかりなので、簡単に倒すことができました。

 至近距離なので痛くないように、胸からお腹辺りを狙って当てるつもりだったのですが、敵さんが少し屈んでいたため、私の撃ったBB弾は敵さんの首に当たってしましました。

 即座に狙いを変更できるほど、私はまだ上手くないんです。

 その敵さんはマスクをしていたものの、首には防具をつけていませんでした。

 

「──っ!! ヒット—!」

 首に弾が直撃してしまい痛そうにしていましたが、その敵さんはすぐにヒットコールをしてくださいました。

「アッ、すみません!」

 至近距離で防具のない部分に撃ち込んでしまったことを、ほぼ条件反射で謝ろうとしたとき、倒した敵さん後ろから、別の敵が出てきたんです。

『大丈夫ですか?』──そう聞こうとしていた私の口は、開いていました。

 その開いている口に、仲間を倒されたもうひとりの敵が撃った弾が──

 

 


 クリーンヒットしました。

 サバゲーをしている人ならわかるかと思いますが、対戦中はアドレナリンが出ているので、ガードが薄い箇所を撃たれてもそんなに痛くありません。セーフティエリアに帰還したあたりで、仲間から撃たれていることを告げられ、それを意識した途端に痛みがやってきます。

 でもその時は、その場でヒットコールができないくらいの痛みに襲われました。

 はじめは、唇を撃たれたと思いました。

 これまでにも唇を撃たれたことは何度かありますが、この時は痛みのレベルが違いました。

 とりあえずヒットコールをして、その場から離れました。

 セーフティエリアに戻る途中で、口の中の違和感に気づきました。

 前歯が……ない?

 口の中は、血の味がいっぱいしました。

 セーフティエリアに戻って、トイレの鏡で自分の口の中を見ました。

 上顎側の前歯──中切歯っていうらしいです。正面から見て右側の中切歯が、真ん中くらいで斜めに折れて、そこから先がなくなっていました。

 

 


 やってしまったと思いました。

 当然ながら永久歯です。折れたら次は、生えてきません。

 私、サメじゃないので……。

 この時は、自分がサメだったらいいのになーなどと考えていました。

 現状が把握できたので、ちょっと冷静になりました。

 そしてすぐ、フィールドのスタッフに相談に行きました。このフィールドでは、怪我をした際に保険が効くということを私は知っていました。

 しかし──

 

 


 歯の治療は、保険適応外でした。

 そしてスタッフさんから、折れた歯の先があれば治療費が安くなるかもしれないという情報を聞き、ゲームが終わった後に急いで折れた歯を探しに行きました。

 一緒に遊びに来た仲間にも協力してもらい、ゲームとゲームのインターバルの十分ほどの時間、歯を探し続けました。

 でも私の歯は、見つかりませんでした。
 見つかるわけがないんです。

 フィールド内には、撃たれたBB弾が無数に転がっています。

 地面に落ちて、踏まれて汚れ、一部が欠けたり割れたりしたBB弾は、どれも歯の欠片に見えてしまうんです。

 サバゲーフィールドで歯が折れた時、それが口の中に残っていなければ、地面に落ちた歯を探すのは困難を極めることが判明しました。

 こうして私は、自分の前歯と永遠にお別れすることとなりました。

 ちなみにそのサバゲーフィールドで、歯を欠損したのは私が初めてのことだったそうです。

 私の怪我を受けて、そのフィールドではゲーム開始前にマスクの着用を強く推奨するようになりました。

 もちろん私はそれ以来、必ずマスクを着用するようにしています。

 前歯を失っても、私はサバゲーをやめませんでした。

 ここから、歯の治療にかかった費用のことなどを書こうと思います。

 ここまで読んでくださったサバゲーマーの皆様。

 口まわりの防具をつけてください。

 

 

 

治療と出費

 前歯を失った私は、その日のうちに歯科医院に行きました。

 

 事前に歯の治療のことを色々と調べたのですが、折れた前歯の治療となると数十万円も必要になるとのことだったので、目の前が暗くなったのを覚えています。

 私は社会人七年目なんですが、自由に使える貯金がほとんどないのです。

 残業をほとんどしないので収入が少なく、かつ多趣味でいろんなことにお金を使ってしまうからです。

 幸い、夏のボーナスが出た直後だったので、治療費は何とか支払うことができましたが、その歯が折れた年は生活がかなり厳しくなりました。この年の夏のボーナスは全額、歯の治療費に消えていきました。

 歯って、高いんです。

 治療費が高額になる理由として、保険が効かないことが挙げられます。

 一応、保険が効く治療法もあります。

 ここからは、この辺のことを詳しく書いていこうと思います。

 まず私は、自宅から一番近い場所にある『折れた歯の治療ができる歯科医院』を探しました。歯が多少欠けた場合は、治療できる歯科医院が多いです。

 しかし、ほぼ真ん中から折れて、折れた先の歯もない場合は、治療できる歯科医院が限られるようです。

 私の家は片田舎にあるので、車で四十分ほど移動したところにある歯科医院まで行かなければなりませんでした。

 ネットで見つけた歯科医院に電話で『歯が折れたので治療したい』ということを伝えると、その日のうちに治療していただけることになりました。この時点で私は、かなりほっとしていたのを今でも覚えています。

 予約した時間に歯科医院に行って、治療を受けました。

 私の歯は神経がむき出しの状態になっていたので、神経を抜くしかありませんでした。私の治療を担当してくださった先生は、神経を抜いて穴をふさぎ、前歯の形をした詰めをつけてくださいました。

 食べ物を噛むことはできませんが、見た目は前歯が折れているようには見えなくなったんです。翌日仕事があった私は、これをとても喜びました。

 そして今後の治療について、話を聞きました。
 差し歯の選択ができるみたいです。

 保険が効いて安く治療できる代わりに、変色しやすい樹脂の差し歯。

 変色しにくく、肉とかも問題なく噛めるけど保険が効かないセラミックの差し歯。

 樹脂の差し歯は変色したり折れたりすることもあるようで、セラミックの差し歯をお勧めされました。

 私はセラミックの差し歯を選択しました。治療費は、樹脂の歯のおよそ三倍でした。

 高かったです……。
 私の少ないボーナスが、全部消えました。

 でも、メンテナンス性などを考えると、セラミックの歯で良かったと思っています。

 差し歯になって結構時間が経ちますが、不調を感じたことはありません。

 折れた歯の治療で私は計四回、歯科医院に通いました。

 歯が折れても、四回の治療で何とかなるんです。

 ちなみに折れたのが歯の先端だけだったり、折れた歯が残っていれば、もっと短期間で治療が終わるそうです。

 私の場合は神経まで到達していたので、どうしようもなかったみたいですが……。

 

 


 口まわりの防具さえつけていれば、歯が折れるという痛い思いも、夏のボーナスを全額失うようなこともありませんでした。

 口まわりの防具って重要です。

 私がよく行くフィールドには、迷彩服に合わないといった理由などでマスクをつけない方が多くいらっしゃいます。

 つけると息苦しいし、暑いです……。それもわかります。

 しかし私は、サバゲーを安全に楽しむためには、口まわりの防具は絶対に必要だと考えています。

 口まわりの防具をつけましょう。

 最近はおしゃれなシュマグや、息苦しくないメッシュタイプのマスクがいっぱい売られています。迷彩服に合うデザインの製品も、たくさんあります。

 痛い思いをしないために。

 ボーナスを失わないために。

 なにより、あなたの大切な歯を失わないために──

 口まわりの防具をつけてください。

 


 

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