2020/03/13
【小説】.44マグナムってなにさ? はじめてのひとへの銃と銃弾入門/著:岩永和駿
「アームズマガジン ミニコンテストVol.01」
エッセイ/コラム部門 入賞作品
-----ひょっとしてミリタリー物って敷居が高いのかしらん? と思って書いてみました。実は著者も半可通でして、いろいろな方からの教えを賜りたいと思っております。というか、もっと詳しい人の書いたものを読みたい! というわけで、「隗より始めよ」。この程度のやつが書いているのならば、俺はもっとわかりやすく詳しいものが書ける、という方の作品を待つためにUPしてみます^^実は私自身が、銃器についてなんだかよくわからんと思っていたのが〇〇口径というやつだったのです。
※画像は造るモデルガンのコルト・コンバットコマンダーの発火シーン。
弾丸のはなし
わたくしたちの世代ですと、銃の専門用語に初めて触れたのは『ルパン三世』に登場した次元大介の.357マグナムか『ダーティーハリー』の.44マグナムではないかと思うのです。
アームズマガジンを購読されているような方からすれば、釈迦に説法といったところでしょうが、せっかくノベルアップ+でこうしたコンテストがある機会なので小説の執筆の参考になればと、銃の弾薬についてのエッセイなどを書いてみようかと思い立ったわけです。
そして何かと物忘れの激しい自分の覚書としても使おうかと。
無論専門ではないので、簡単な解説になりますし、間違いがあればご指摘いただければ幸いです。というか、この分野でもっと詳しい方の解説が読んでみたい。
今回の話は、「ミリタリーって難しそうだし、そもそも.44マグナムとかって何よ?」という方に読んでもらって、「なんだそういうことなら自分でも書けそう」ってなってくれればなあと思って筆をとった次第です。
★【次元の銃とダーティーハリーの銃、そして日本の警官の銃】
※写真の銃は本文とは無関係のエンフィールドNo.2MkⅠです。
では、馴染みがあることから、冒頭の二例と日本の警察官の銃と弾丸について説明します。
次元大介が使用していた銃はスミス&ウェッソンM19です。コンバットマグナムなどと呼ばれていましたね。
マグナムっていうし、なんか威力がありそうってイメージです。ではどんな弾を使っているのでしょう。
M19で使用する弾は.357マグナム。よく見ていただくと、数字の前に小数点がありますね。標記によっては省かれるのですが、これによって弾の大きさがだいたいわかるのです。
この数字は、銃弾の直径が0.375インチという意味です。
1インチが約2.54センチなので
2.54×0.357≒9
おおよそ9㎜ということになります。
2.54×0.44≒11.2
ダーティーハリーの使っていた銃弾は直径1cmを超えますね。映画でもすごい威力だと言われています。
では、今日本の警察官がもっている銃はどれくらいなのでしょうか?
日本の警官の多くが所持しているのはニューナンブM60やスミス&ウェッソンM360jという拳銃です。この銃は.38口径で弾薬は.38スペシャル。
2.54×0.38≒9.7
スペシャルというくらいだし、弾丸の直径も.357より大きいですね!
すごい日本の警察官、次元より強力な銃を持ってるんだ!
……とはならないんです。
理由は二つ。
➀ちょっと特殊なのですが、.38スペシャル弾は銃弾の直径ではなく火薬を詰めた金属の筒、薬莢(やっきょう)の直径で表記しています。実際の弾丸の直径は9㎜。実は.357の拳銃で撃てるんです。でもその逆は無理。銃の強度や薬莢の長さの関係で、ニューナンブでは.357マグナム弾は撃てません。
②マグナム弾というところが大きな違いです。マグナム弾というのはざっくりいうと火薬がたくさん入る長い薬莢を使っている弾なんです。.38スペシャル弾の薬莢の長さは29.3㎜なのに対して、.357マグナム弾の薬莢の長さは33㎜あります。
同じ直径でも薬莢の中にある火薬の量によって威力が変ってくるのです。火薬が多いほど勢いよく発射できますからね。
ダーティーハリーの.44マグナム弾にいたっては、もっとたくさんの火薬で大きな弾丸を飛ばすので、さらに威力が大きくなります。
ライフルの銃弾などは直径が7.62㎜とか5.56㎜ですが、長い薬莢にたくさんの火薬、長い銃身と長く鋭い弾丸によって、拳銃弾よりはるかに遠くに届きますし、威力も大きくなります。
弾の威力の違いは、他にもホローポイント弾かフルメタルジャケット弾かとかいろいろありますが、そちらにまで触れていくとややこしいので、ここでは省きます。
★【9㎜パラベラム弾と.45ACP弾】
拳銃の弾丸でよく比較されるものに、現在主流の自動拳銃弾、9㎜と.45口径があります。
◎9㎜パラベラム弾
9×19などとも表記されることがあります。これは弾丸の直径が9㎜で薬莢の長さが19㎜ということです。直径は.357マグナムや.38スペシャルと同じですが、薬莢の長さは随分短いですね。ただし、炸薬の詰め方などにより、威力は.38スペシャル弾より高いです。
◎.45ACP弾
こちらは直径が11.4㎜もあります。薬莢の長さは22.8㎜。9㎜パラベラム弾よりは長いですが、マグナム弾や.38弾とくらべるとやはり短いです。
薬莢の長さが短いのは自動拳銃で用いられるからです。
自動拳銃はリボルバー式の拳銃がレンコンみたいなシリンダーに弾を詰めるのと違って、銃のグリップ(握り)のところにマガジン(弾倉)を挿す方式なので、弾の長さが長いとグリップの幅が広くなってうまく握れなくなってしまうのです。
実際には.44マグナム弾を装備できるオートマグとか、各種マグナム弾に加え.50AE弾までのラインナップがあるデザートイーグルなどという拳銃もありますが、あくまで例外です。
ではこの二種類の弾丸について長所と短所、そして実際に使われている銃などを示していきます。
◎9㎜パラベラム弾
・長所
反動(撃った後の銃身の跳ね上がり)が少ない。したがって命中率が高い。それにともなって、すぐに狙いが定められるので速射性も高い。
直径が小さいので、千鳥(ちょっとずつずらして)でたくさんの弾丸を装填できる(グロッグなどは17発+1)。
・短所
一撃で相手の動きを止めるストッピングパワーで.45ACP弾に劣る。
・使用拳銃
ベレッタM93R、グロッグ17、SIG SAUER、ワルサーP38他多数。
※ヨーロッパ系メーカーに多い。
◎.45ACP弾
・長所
一撃で相手の動きを止めるストッピングパワーに優れる。
・短所
反動が大きく目標に当てにくい。
比較的装弾数が少ない(7~8発程度)。
・使用拳銃
M1911(コルト・ガバメント)、H&K HK45、FP45リベレーター等。
※アメリカのメーカーに多い。ヨーロッパのメーカーはアメリカ向けに輸出するときは.45口径バージョンを作ることもある。
要するに一発で相手をのしてしまう力をとるか、扱いやすさをとるかと言ったところでしょうか。
.45ACP弾は9㎜パラベラム弾よりも使用する拳銃は少ないものの、M1911コルト・ガバメントなどは第一次大戦、第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争を通して米軍の制式拳銃であり続け、高い信頼性を誇ります。
米軍には、昔.38口径の威力不足に泣かされた経験から「.45口径信仰」というべきものがあり、ストッピングパワー優先の伝統があったようです。
映画『フルメタルジャケット』で鬼軍曹ハートマンを演じた故リー・アーメイ氏(本当は演技指導で立ち会っていたが、その迫力にキューブリックが出演させたという)は自分の出演する銃関係の番組『ガニー軍曹のミリタリー大百科』で9㎜拳銃を持たされ、「9㎜なんて!」と汚い物でも触るように毛嫌いする様子を見せたりしていました。
その後のシーンでは9㎜拳銃の集弾率(狙ったところに弾が集まる率)や速射性に感心していたので、演出だったわけですが、米軍の「.45口径信仰」を如実に表すエピソードにはなるでしょう。
★【火縄銃他の弾薬】
日本の火縄銃の弾丸は、薬莢などない時代のことですから、さきっぽの銃口から銃身奥に火薬を入れて突き固めて撃っていました。弾丸は球状ですし、ライフリング(弾丸に回転をつけるための線条)もないので現用の銃などと比べると、命中率や飛距離で大きく劣ります。
日本では弾丸の種類は重さで区別されていたようです。
二匁半=11.8㎜
六匁=15.8㎜
十三匁=20.5㎜
など、今の弾丸に比べて直径は大きかったようですね。
しかし、一発ごとに先から火薬を注ぎ入れ、突き固めて弾丸を先から込めてでは時間がかかって仕方がありません。それで、長篠の合戦では三段構えにしたりしたわけですが。
やがて時代は進み、銃身の後部から弾丸をつめることができるようになりました。しかし、その時点でもやはり弾丸と火薬は別々でした。これでは装填に時間がかかって仕方がありません。
かくして、薬莢というものが開発されるわけですが、初期の薬莢は紙製で、薬室(発射時に弾薬を収める場所)内で燃えてしまうように作ったため、燃え残りのせいで作動不良などもあったようです。そして当然のことながら、雨や湿気には弱い。
現代のような金属製の薬莢が使用されるのは、フランスのグラース銃で19世紀後半まで待たなければなりません。
このグラース銃は改造を経て日本の初期の軍用ライフルに採用され、十三年式村田銃へとなっていくのです。
★【大砲の口径】
ややこしいものに大砲の口径長というものがあり、今まで説明してきた拳銃やライフルの〇〇口径というのとは全く別物です。ただ、普通は口径長と呼ばずにやはり「口径」と呼ぶので拳銃の「口径」と紛らわしいですね。
これは何かというと、大砲の長さを表しているのです。
計算方法は砲弾の直径×口径(長)=砲身の長さ
砲身が長いほど、砲弾には加速がつくので威力も飛距離も伸びます。
例1 戦艦大和の主砲
45口径46㎝砲
46×45=2070㎝
戦艦大和の主砲の砲身の長さはなんと20m70㎝になります。
例2 戦艦アイオワの主砲
※「ブリトー」と「だが今日じゃない」でお馴染み、映画『バトルシップ』に出てきたミズーリの同型艦です。
50口径40.6㎝砲
40.6×50=2030㎝
例3 シャーマン戦車の砲
37.5口径75㎜砲
7.5×37.5=281.25㎝
車体前面装甲51㎜
例4 タイガーⅠ 戦車の砲
56口径88㎜砲
8.8×56=492.8㎝
車体前面装甲100㎜
戦艦や戦車の場合は装甲や弾が命中した時の角度も関係してきますが、これでみるとシャーマン戦車がタイガー戦車に苦戦したのがよくわかると思います。映画『フューリー』でアメリカの戦車兵がタイガー戦車を恐れた気持ちがなんとなく伝わってきますね。あの映画でブラッド・ピッドが乗っていた戦車はちょっと特別な52口径76.2㎜砲搭載型でしたが(仲間の戦車は上の砲を搭載)、やはりタイガー戦車には及びません。
ちなみに日本軍の主力中戦車九七式中戦車は、より短砲身の57㎜砲で前面装甲は25㎜しかありません。まあ、こちらは榴弾メインの歩兵支援戦車
(トーチカとかを壊す)なので致し方ないのですが。
イメージとしては60口径というと「おお、大砲の砲身が長いなあ。貫通力重視か飛行機を狙う高射砲かな」、40口径以下だと「短めの砲だな。榴弾
(撃ち抜く力より爆発する力を重視した砲弾)メインかも」という感じでしょうか。一番の違いは、ドーンッと打ち出した時の初速なので、同じ大砲の弾なら口径の数字が大きいほうが高く遠くへ飛ばせ、敵の装甲を打ち抜く力も強いというところです。
★【銃器とキャラクター】
分かりやすいので、ルパン三世を例にとってみましょう。
・ルパン三世
ワルサーP.38
主に9㎜弾
見た目も名前もかっこいい。ドイツ軍の制式拳銃で、堅実な造りであると同時にこの手の自動拳銃には珍しくダブルアクション(撃鉄を上げずに引き金を引くだけで撃てる)を取り入れるなど新機軸もあり。
・次元大介
スミス&ウェッソン M19 コンバットマグナム
.357マグナム弾
実は警察やFBIに好まれた銃。比較的小型で十分な威力がある銃を目指して開発され、その堅実な造りから孤高のガンマンの良き相棒というイメージがあります。
・峰不二子
いろいろ
設定はあったかもしれないけれど、その時々でファッションのように銃を持ち変えるイメージ。アニメのオープニングでは口紅を塗ったあと、それをデリンジャー(女性の護身用という印象がある掌に収まるような小型銃)に詰めて撃つという演出もありました。おっしゃれ~なのです。一方で、宮崎駿監督が荒ぶった『死の翼アルバトロス』の回ではドイツ軍の大型機関銃を小脇に乱射しつつ駆け回るなどの大立ち回りもありました。
・銭形警部
コルト・ガバメント
.45ACP弾
頑固で一本気、ルパン逮捕に一途な銭形警部には、古くから変わらぬ四角張ったデザイン、絶対の堅牢性&信頼性のガバメントがよく似合う。ニューナンブを使用していたこともあったような気がしますが、何かの設定で読んだガバメントをここでは推したいですね。
こんなふうにキャラクターと絡めてみるのも面白いですね。
わたくしたちが実銃を人に向けるようなことはあってはなりません。
でも、空想の世界では、銃は個性豊かで魅力的な小道具になると思います。これはミリタリー分野に限らないのではないでしょうか。
ここでは銃や弾丸の説明をしましたが、小説の中ではそれにとらわれ過ぎてもつまりません。
清楚な女子高生がスカートをひらりとさせ、腿のホルスターからガバメントを抜いて乱射してもいい。
幼女がこてんと後ろにひっくり返りつつ、ダーティーハリーのような.44マグナムをぶっ放してもいいと思います。
リアル路線ではちょっと避けたいところかもしれませんが、そんな魅力的なシーンのバックグラウンドになればなあと思います。
本当にざっくりと解説してみました。
実際のところ、微妙にニュアンスが違うというところもありますが、あえてわかりやすく割り切って書いています。興味を持った方がいらっしゃれば、ご自分で詳しく調べてみてください。
そもそも銃の種類で出てくる.44マグナムとかってなによ?
というところに敷居の高さを感じていらっしゃった方が、「へー、なら書いてみようかな」となれば嬉しいです。
実はわたくしもミリタリー関係の知識はまだまだで、今回勇気を出して書いてみたのですが、この企画で新しい知識をもらえればなあと思っています。
アームズマガジンミニコンの成功を願ってやみません。