2020/02/21
【小説】ロケットランチャーを撃つ方法/著:たきおんこ
「アームズマガジン ミニコンテストVol.01」
大賞作品
-----カンボジアに実弾射撃に行ったらロケットランチャーを撃ってしまった話です。RPGを撃ちたい方は参考に、そうでない方は旅行の話として楽しんでいただけたら幸いです。
私はいかにして実弾射撃を愛するようになったか
私は月に一度か二度サバイバルゲームを楽しむ、ライトなサバゲ好きでした。
銃そのものも好きですが、どちらかというとゲームの緊張感に魅了され、近所に屋内フィールドができたこともあって時間ができるとサバゲに興じていました。
数年前のことです。
私は小説を書いていて、作品中に銃を持ったキャラを登場させていました。
当然、発砲するシチュエーションも出てきます。
私はサバゲで培った銃の扱いやフィールドでの挙動を思い出しながらシーンを書き進めていましたが、あるときふと、疑問が。
……銃って実際に撃つとどんな感じなの?
それまで本物の銃を触ったことはありませんでしたし、もちろん発砲を見たこともありません。
アクション映画の銃を撃つシーンを見まくったり、マック堺の動画もリピしたのですが、いざ書くとなると言葉がでてこない。
お前の表現力が貧困だからだよ! というツッコミは置いといてください泣けてきます。
別に小説なんだから体験しなければ書けないということはないのですが、たぶん執筆作業から逃げたかったんでしょう。
私は書きかけの小説を放置して実弾を撃つための計画に取りかかりました。
日本人である以上、国内で銃を持つことは違法なので、実弾射撃をする機会は限られています。
日本人が実弾を撃つ方法が以下の3パターンほど(非合法除く)。
- 警察官や自衛官など、銃を持つことが許されている仕事につく。
- 猟銃、ライフルなどの所持許可を取る。
- 銃が合法の国へ行く。
このうち一番簡単なのが、銃を合法的に撃てる国に行くことです。
中でもグアムは割とお気軽に銃を撃つことができるらしい。
私は早速パスポートをとって(海外に出たことなかった)グアムへ行きました。
これで本物の銃が撃てる……!
というよりサバゲとかやってて少しでも銃に興味を持っていたら、グアムへ行って実弾射撃をやらずに帰ってくるほうが難しいです。
道を歩いていると、屈強なお兄さんがフライヤー持ちながら「シューティン」とか言ってフレンドリーに近づいてきます。
それが50mおきに襲来するのです。
最初は断っていても海外旅行で少々気が大きくなっていたりして、やがて値段を聞くようになり、気づけば怪しい建物に連れて行かれて手にベレッタとか握らされてるのです。
私はグアムで、屋内屋外ところかまわず撃ちまくりました。
とくに屋外射撃場は拳銃に限らずサブマシンガンだろうがライフルだろうがショットガンだろうが撃てるし、銃は整備されてるし弾丸もちゃんとしてるので射撃を十分に楽しめました。
小説執筆の参考にという当初の目的は忘れ去られています。
こうして私の初海外旅行で初実弾射撃は無事に完了しました。
ですが、ひとつ心残りが。
グアムの実弾射撃では、できないことがあったのです。
連射です。
アメリカは州によって連射ができるところとできないところがあるらしく、グアムはできなかった。
M4もAKもMP5もP90も、ぜんぶ単発発射のみ。
連射してみたいと思うのは当然の流れなのです。
調べてみると北米では何か所か連射可能な射撃場があって、YouTubeでも動画が上がっていたりします。
しかし、遠い。
距離も遠いし行くだけの金を確保する見込みがまず遠い。
近場でどっかないか調べてみたら、カンボジアはできる、とベトナム在住の友人が教えてくれました。
カンボジア?
ちょっと前まで戦争やってなかった? くらいのイメージで場所も言葉も通貨単位もまったく知識がありません。
でも友人は一度行って射撃やったっていうし、行ってみるか。
そうだカンボジア行こう。
こうして私は、友人の住むホーチミンに飛んだのです。
小説執筆の参考にという当初の目的は完全に忘れ去られています。
カンボジアで私たちを待ち受けていたのは味の素とコンドームだった
ベトナムからカンボジアへ行くには陸路がリーズナブルということで、私は友人と二人、ホーチミンからプノンペンへ行くバスに乗りました。
旅の目的は、カンボジアでの銃の乱射もとい連射です。
友人は前に一度カンボジアの射撃場に行ったことがあるというので実に心強いです。
ホーチミン発プノンペン行きバスの出発は朝7時半。
走り出してから5分後くらいに友人がパスポートを忘れたことに気づいてバスを止め、二人で降りてパスポートを取りに戻り、一時間後の便に乗るという、それ以外はなんのトラブルもなくバスは7時間ほど走って、プノンペンに着きました。
バスターミナルには、トゥクトゥクと呼ばれる荷台つきバイクのドライバーたちが観光客をカモろうと大勢待ち構えています。
ぼったくりなどの噂も聞くので、警戒しながらバスを降りるなり彼らは一斉に群がってきて口々に、
「アジノモト! アジノモト! 」
と連呼してきました。
唐突に調味料の名前で呼びかけられるというよくわからないシチュエーションに戸惑っていますと、続いて聞こえてきたのが、
「オカモト! オカモト! 」
最初オカモトさんに間違えられてるのかな? と思いました。
これは日本人旅行者の気を引くための、彼らなりの日本の言葉知ってるぞアピールです。
状況から察するに、どうやらそれは日本人の岡本さんではなく日本製品のオカモトでした。
日本製でオカモトといえばただひとつ――。
コンドームです。
彼らは日本のシェアNo.1コンドームメーカー、オカモト株式会社を連呼していたのです。
「アジノモト! オカモト! 」
遠い異国の地で親しまれている日本製品、味の素とコンドーム。
そこはソニーとかトヨタじゃないんか、と心の中でツッコミを入れつつ、こちらも海外旅行で気分が高揚していたので勢いに任せて、
「味の素! 岡本!」
とコールを返すと向こうもまたそれに答えるという、そこだけ日本企業名のコールアンドレスポンスになった謎の一体感でした。
日本人もカンボジア人もない、地球市民としてひとつになった私たち。
日本製品もまだまだ捨てたもんじゃないな、などと感傷にひたりつつ、まずはその大勢の岡本の中から、ドライバーを選ばなければなりません。
彼らにしてみれば私たちはカモなわけですが、こちらとしましてもどこへ移動するにも彼らの力が必要なのです。
すると友人が、少し離れたところに立っていたおじさんに歩みよって声をかけました。
偶然だったのですがそのおじさんは、友人が前にプノンペンに来たときガイドを頼んだトゥクトゥクのドライバーさんだったのです。
名前はトドさん(仮名)。
久しぶりの再会に盛り上がる友人と、素で覚えてなかったトドさん。
速攻でガイドをお願いしました。
一泊二日の滞在中、移動や案内を全部頼んで30ドル。
友人は前回トドさんに射撃場まで案内してもらったそうです。
私たちは最速で射撃場への案内人を見つけることができて、幸先の良いスタートでした。
ひとまず、トドさんの運転するトゥクトゥクに乗って、私たちはホテルに向かいます。
トゥクトゥクに揺られながら、トドさんに、明日の午前中に屋外射撃場に行きたい、と伝えました。
友人が前回行ったのは、プノンペン市内の屋内射撃場でした。
今回屋外を希望したのは、外のほうが標的までの距離が長いからという、単純な理由です。
するとトドさんが提案してきたのです。
「◯◯◯を撃たないか?」
最初なにを言っているかわからず、適当に相槌を打っていると、トドさんが荷台の幌を指差します。
トゥクトゥクの幌に、写真が貼ってありました。
ミリタリーっぽい服装のトドさんが、満面の笑顔でロケットランチャーを構えていました。
ロケットランチャーは居酒屋のお通しのようなもの
カンボジアへの旅の目的は、銃のフルオート実弾射撃なのですが――。
実はその目的に限って言えば、カンボジアに行く前に既にクリアしていました。
私と友人はプノンペンを訪れる前に、ホーチミンでアサルトライフルの連射を経験済みなのです。
ホーチミンにクチトンネルという、ベトナム戦争のときにベトコンが潜伏や移動に使っていた穴がありまして、今は観光地になっているのですが、そのクチトンネルに射撃場が併設されていました。
私と友人はプノンペンに行く二日前に、クチトンネルへ行きました。
射撃場では連射が可能ということで、ここでフルオート射撃ができれば、私の旅の目的は達成できてしまいます。
これカンボジアまでわざわざ行かなくてもいいのでは……?
と思ったりもしたのですが、残念ながらクチトンネルでの射撃では、私の連射欲を満足させるに至りませんでした。
クチトンネル射撃場の銃はすべて、コンクリートの台に固定されていたのです。
M16もAK47もM60も、取付金具の遊びで多少ガタガタと動くものの、狙いをつけることもままならないほどガッチリとボルト留めしてあったのです。
……まあ一応連射できるってことで、とりあえず私はAK47を撃ってみました。
ベトナム戦争で使ってたんでは? と思うほど年季の入った、木製ストックは油を吸って黒光りしていて、途中何度も不発で全然連射にならない。
続いて撃ったM16もまたベトナム戦争で米軍から鹵獲したんでは? と思うほど年季の入った、でもとくに不発もなく無事に連射できたのですが――。
やはり銃が固定されているからでしょうか。
撃ったときの反動が、もっとこう、ガツガツガツっと、来るはず(想像です)がいまひとつないのでぜんっぜん物足りないのです。
「んー、こういうんじゃないんだよな――」
自分で構えて撃ちたい。
せっかく実弾を撃つのですから、自らの手で銃を構え、全身で連射の衝撃を感じたいわけです。
中途半端なフルオート射撃をしたせいで、逆にカンボジアへの期待が高まってしまいました。
そんな私たちに、ガイドのトドさん(仮名)からの提案です。
「屋外射撃場で、RPGを撃たないか?」
みなさんはRPGを知っていますか?
肩に担いでドーンと撃ってヒューって飛んでヘリや走行車両がドカーンってなるロケットランチャーです。
ブラックホークがダウンしてしまったりするアレです。
私も一時期ドハマリしていたバトルフィールド4で愛用していたので知っています。
「いやいやいやいやいや結構ですノーサンキューです」
速攻でお断りさせていただきました。
だって私たちはただ、普通にアサルトライフルとか機関銃の連射をしにきただけなんですから。
「ちなみにRPGおいくらですか(一応聞く)」
「350ドル(約4万円)」
「いやいやいやいやいややっぱり結構ですノーサンキューです」
アサルトライフルのマガジン一個30発入りが50ドルと聞いていたので、私は400ドル用意していました。
400ドルあれば240発撃てます。
たった一発のロケット弾でドカンと炸裂させるなんてもったいなさすぎます。
あとやっぱりちょっと怖い。
至近距離に着弾させてしまう可能性だって全然あるわけなので。
それがですね……。
屋外射撃場はRPG射撃が必須らしいんですね。
アサルトライフルもマシンガンももちろん撃てますが、まずはRPGを一発撃つのが屋外射撃場へ行く条件だ、とトドさんは言います。
ようするに居酒屋のお通しのようなものです。
行くなら必ず頼まなくてはなりません。
これは何かふっかけられているのでは? という疑念もわいてきました。
しかし友人は前回のプノンペン来訪時トドさんにガイドを頼み、屋内射撃場へ案内してもらっていて、彼がぼったくったり高額な料金を要求したりする人ではないことを知っています。
それに私たちが屋外にこだわらず、屋内射撃場なら別にRPGはないので普通に射撃ができるのです。
もう屋内でいいか……。
私と友人がいろいろと逡巡しているのを見てトドさんが、
「300ドルでどうだ」
来ましたディスカウントです。
これに私の心が動きました。
トドさんもそこまで言ってくれてるのだし、値段ももちろんですが、なにより私自身が自分に対する言い訳を発見してしまったのです。
そもそも当初の目的は、小説の参考にするための実弾射撃でした。
ならば逆に、小説にRPGを登場させれば、参考にするために撃たなくてはいけませんよね?
「私が撃ちましょう、RPG」
話はまとまりました。
翌日の朝8時、私たちはトドさんのトゥクトゥクで、屋外射撃場へと出発しました。
ロケットランチャーはッ!簡単にッ!撃たせてくれないッッ!!
プノンペン、朝8時。
私と友人がホテルを出ると、トドさん(仮名)のトゥクトゥクが待っていました。
これから屋外射撃場へと向かいます。
ちょっと風はありますがとてもいい天気で、絶好の実弾射撃日和と言っていいでしょう。
トゥクトゥクは、プノンペン中心部から郊外へ延びる幹線道路を進んでいきました。
射撃場まではだいたい一時間半とのこと。
途中のガソリンスタンドで車に乗り換えます。
ここで車の運転手の若いお兄さんが合流。
トドさんから、彼が今日の射撃のガイドをする、と紹介されました。
確かにトゥクトゥクで一時間以上揺られるのはしんどそうだったのでほっとしましたが、車代とか運転手代とかどうなるんだろう? と若干の不安を抱えたまま、車は走り出しました。
助手席にトドさんが乗り、後部座席に私と友人。
車が進むにつれ、外はだんだん建物が減り、畑が増え、川を越え、湿地が続く――まるで千葉のサバイバルゲームフィールドに行く県道みたいな風景です。
道端でバカでかい水牛が草を食んでいなければほぼ印西。
走っても走っても似たような景色が続きます。
そろそろ着くだろう、というあたりで車は幹線道路を折れて、細い道へと入っていきました。
周囲は草と背の低い広葉樹、その間を舗装されていない道(というより轍)がうねうねと這っています。
……いくら屋外射撃場とはいえ、こんなところにあるか?
周りを見ても半径3キロに人の住む気配ゼロだし、それっぽい看板もなければ標識もない、グーグルマップを見ても道も建物もないのです。
「ここで殺されて埋められたら、見つからないだろうな」
ていう会話が冗談に聞こえない感じの、死体を埋める以外使い道のなさそうな荒野を車は走り続けました。
しばらくすると前方の木陰に、ランクルっぽいのが一台停まっているのが見えてきました。
ますます不穏な感じです。
私たちの乗る車はランクルに並ぶようにして停まり、
「着いたよ」
トドさんが言います。
え、いったいどこに射撃場が!?
あるのは細い木の柱に藁葺き屋根だけの、掘っ立て小屋ともいえないような小屋だけです。
そこには迷彩服を着たおじさんが待っていました。
これ映画でゲリラに捕まった人が連れてかれて殺されるシーンの絵面だ……。
でも、ここが射撃場だったのです。
車を下りると、そこらじゅうに薬莢が転がっています。
掘っ立て小屋の屋根の下に木製の台があり、本日のメニューがずらーっと並んでいました。
AK47、M16、K57、M60、M79、RPD、ロケットランチャー。
見た瞬間、それまでの不安も忘れて一気にテンション爆上がりです。
私たちは銃を選びました。
アサルトライフルをAK47とM16、マシンガンのM60はクチトンネルで撃ったのでK57をチョイス。
M79グレネードランチャーと軽機関銃のRPDは今回見送り、手榴弾も2つ3つ転がってましたが見なかったことにします。
そして本日の主役、ロケットランチャーです。
見た目はグリップと引き金の付いた筒。
これが300ドルか――などと思いながら眺めていると、ガイドのお兄さんがそのロケットランチャーを差し出してきました。
装弾してないのもあって、持ってみると意外に軽い。
お兄さんが、外を指差しました。
迷彩服のおじさんがロケット弾を手に立っています。
え、初っ端これ撃つの!
私はお兄さんに押されるようにして、小屋から射撃場へ出ました。
射撃場といっても、ただの広大な荒れ地です。
ところどころ土が盛り上がっていて、その上に標的を置けるようになっています。
しかしロケットランチャーの標的は違います。
その向こうにそびえる山なのです。
迷彩服のおじさんがロケットランチャーの構え方をレクチャーしてくれました。
右手でグリップを握り、左手は右肩あたりで筒を上から押さえる。
その状態で照準を合わせたら、筒の先にロケット弾をセットします。
セットといっても筒にロケット弾を差し込むだけ。
あっけないですがこれで発射準備完了です。
迷彩おじさんは私の左側から支えてくれています。
いよいよ発射です。
友人もトドさんも固唾を飲んで見守っています。
引き金に、指をかけて――迷彩おじさんがカウントダウン。
「3、2、1、ファイア!」
私は引き金を引きました。
あたりは、しん、と静まり返りました。
何秒たっても静まり返ったままでした。
不発です。
私は発射の姿勢をキープしたまま待ちます。
不発の場合、もう一回引き金を引いたりすぐに下ろしたりしてはいけません。
遅れて発射することがあるからです。
これはどの銃でも同じです。
迷彩おじさんが弾頭を引き抜きました。
……え、これ大丈夫?
私の不安をよそに、迷彩おじさんは新しいロケット弾を持ってきました。
弾を差し込み、あらためてロケットランチャーを構えます。
前方の山に狙いを定めて。
迷彩おじさんが本日二度目のカウントダウンをはじめました。
「3、2、1、ファイア!」
引き金を引く。
あたりは、しん、と静まり返りました。
不発です。
……え、これ大丈夫? ほんとに大丈夫!?
これはカンボジア軍の期限切れ弾薬在庫一掃セールなのかもしれない
私はいま、カンボジアの荒野でロケットランチャーを構えています。
最初はそんなつもりなかったんですよね。
ただ、カンボジアで実弾射撃、連射もできるよ! という言葉につられて来てしまっただけなんですよね。
私はいま、引き金を引いても一向に発射されないロケットランチャーを構えています。
二発目が不発の時点で心はバッキバキに折れてました。
もういい! やめよう! これで300ドルが浮く!
その300ドルでAKを撃ちまくればいいじゃない!
そんな私の心を知ってか知らずか(知るわけない)、迷彩服のおじさんが気を取り直して持ってきました三発目のロケット弾。
ランチャーの先端にセットして、三回目のカウントダウンです。
「3、2、1、ファイヤー!」
引き金を引いた瞬間、強烈な爆圧を顔に受けました。
鼻先30センチのところでロケット弾が火を吹いたわけですから、その圧力をダイレクトにかぶるのは必然。
イヤーマフを着けていても発射音がドン、と腹の底まで伝わってきます。
目の前は煙で真っ白。
その煙のせいで、飛んでいくロケット弾を目で追うことはできませんでした。
弾は2秒ほどで遥か彼方の山裾に着弾、爆発しました。
茶色がかった爆煙が上がり、一瞬置いてから炸裂音が響き渡りました。
トドさん(仮名)とガイドのお兄さんが歓声を上げています。
撃った……。
撃っちゃったよーRPG……。
山の麓に上がった煙はゆっくりと風に流され、散っていきます。
私は放心状態で小屋に戻りました。
「大丈夫だった?」
私が聞くと、
「結構衝撃来た」
友人は言いました。
ロケットランチャーの後方から放出されるガスの圧は相当なものだったと思います。
でも、発射のときの音と圧に怯んだわりに、撃ったときの反動はそれほどでもありませんでした。
一応迷彩おじさんが左側から支えてくれていたのですが、それは反動を抑えるためではなく、射手が明後日の方向に照準を向けないためなのでしょう。
その後、私と友人はAK47とM16とK57の連射を楽しみました。
7.62mm弾の不発があったり、K57が実銃なのに息切れ(連射してるとブローバックがだんだん遅くなる)したり、
「やっぱAKは跳ねるね」
なんていう、のどかな会話をしながら。
ガイドのお兄さんがグレネードランチャーと手榴弾をやたら勧めてくるのですが、私はもうRPG二度の不発でSAN値が削られてますので丁重にお断り、それでなくても手榴弾だけはマジ勘弁です。
万一手元で爆発したらと考えると、とてもやる気になれません。
実弾射撃は一歩間違えれば取り返しのつかないことになる、と常に頭の片隅に置いてました。
なんかあっても旅行保険は下りないし全部自己責任。
でも、だからといって忌避するのではなく、正しく扱えば十分安全に楽しめるもの、だと思います。
まぁそれも場所によるかな――というのがカンボジアでの射撃の感想です。
たぶんここで使う銃や弾丸は、カンボジア軍で使わなくなった銃とか期限切れ弾薬なのでしょう。
不発弾は多いし、銃も古くて整備状態もあまり良くありませんでした。
ほんと、事故がなくてよかった。
私たちは無事に射撃を終え、RPG+実弾射撃代、総額800ドルを支払いました。
全部事前に聞いていた料金の通りで、人件費や車代も込みでした。
トドさんが、ガイド兄さんや迷彩おじさんとその場でお金を分けます。
当然ですが、一番多く持ってくのは迷彩おじさんです。
迷彩おじさんは銃や弾薬をランクルに積み、帰っていきました。
私たちも車に乗り込み、帰途につきます。
私は、満足でした。
もちろん友人も。
カンボジアで実弾射撃、もう一回行くか? と聞かれたら?
私たちはもちろん、
「行く」
と答えるでしょう。
少々問題もありましたけど、フルオート射撃を堪能できたし、RPGも撃ててよかった。
なおこのときの経験は、小説を書くための役に全くたっていません。
ガソリンスタンドで再びトドさんのトゥクトゥクに乗り換え、バスターミナルに着いたのはホーチミン行きバスの発車時刻ギリギリでした。
大急ぎで荷物を抱えてトゥクトゥクを飛び降り、一応両替したもののほとんど使わなかったリエルをトドさんに渡して、「サンキュー!」と固い握手を交わし、「バーイ! シーユー!」と何度も繰り返してバスに乗り込みました。
バスは動き出し、トドさんは大勢のオカモトの中に紛れて、見えなくなりました。