2025/12/20
ワルサーPPS M2

Gun Professionals 2019年5月号に掲載
重いプロローグ
先日、NYに住む友人(元日本人)と電話で長話をし、つくづく考えさせられることがあった。
彼には、銃によって命を奪われた友人知人が数人いる。そして実は本人も、撃たれて負傷した経験を持つ。車を運転中、何者かが.22口径のライフルらしきものを発射。弾は後部右座席のドアから斜めに入り、運転席のシートを貫通して彼の背中に命中した。位置的には心臓の真後ろだったが、弾は骨に当たってバウンドし、深く入らず九死に一生を得たのだそうだ。犯人は結局捕まることはなく、警察の見解では「恐らくふざけたティーンエイジャーの仕業だろう」という程度で、事件は未解決のままなのだそうだ。
恐ろしい話である。まるで映画『バベル』のワンシーンのようだ。彼はそんな過去の経験から自衛の意識が非常に高く、銃が身近にない生活は心配でたまらないらしい。丸腰の旅行先などでは、時折大きな不安に襲われるのだという。銃撃の恐怖を考えあわせれば、察するに余りある事ではある。
アメリカは危ない国だ。それは自分も重々理解しているつもりだ。しかし、本当に心底解っているのかと聞かれれば、自信はない。それはたぶん、30年以上この国に住んで運良く一度も危ない目には遭っていないから、どうしても実感として沸いてこないのだろう。心のどこかで、「自分はそんな危ない目には遭わないし」と、タカをくくっているフシがある。その根拠のない甘い考えこそが一番まずいんだと、彼の話で思い知ったのだ。
実際自分は、昨年CCWのライセンスを取ってからも、まだまともにはキャリーをしたことがない。銃の選択も、漠然としか考えたことがないという体たらくである。
CCWは、当たり前だが命を託す切り札だ。
にもかかわらず、自分は銃を、趣味の対象としてだけしか真剣に考えてないんじゃないかと、呆れ果てている最中なのだ。キャリーガンについても、“趣味として好み”というファクターを未だにどうしても入れたいみたいなのだ。何という哀れで愚かな被害者型の人間だろう。
命の危険がアブナイのである。充分に信頼ができ、使い勝手が良い銃なら、カッコの良さやらブランドなどはまったく関係ないし、こだわる意味などないはずだ。いや、いっそブランド物じゃない安物のほうが、気後れせず撃ち捨てることもできて好都合だろう。
もちろん、命を守る銃に金の糸目を付けるのかよってご意見もあるかもしれない。しかし、繰り返すが、そつなく動いて使える銃なら、それだけで基本OKなのだ。趣味的な満足感なんてのにいつまでもこだわり、なかなか一歩を踏み出せない自分は、本当にバカな甘ちゃんなんだと思い知ったワケ。
ただ、コレは以前も書いたが、例えCCWのライセンスを持っていても、いったん銃を抜き、発砲などしたら、命以外にも物凄い代償を覚悟せねばならない。裁判やら何やら、後の処理がひどく大変だからだ。ゆえにアメリカには、CCW保険も存在するほど。それこそ、撃たれて死んだほうがマシだったみたいな事態にもなりかねない。銃の携帯には相当な覚悟がいる。
また、護身銃を持っていたがゆえにかえって悲劇を呼び込む場合もあるだろう。黙って財布を差し出せば済むところを、銃を抜いたがゆえに逆に撃たれてしまうとかだ。少し前にどこだったかの州で、銃撃犯に護身銃で応戦した善良な市民が、駆け付けた警官によって誤って射殺されるという救いようのない事件も実際に起きている。
言い出したら切りがない。しかしそれでも、想定外が極力起こらないようとことん見越して考え抜かなきゃホントはいけないのだ。自分と家族の命を守るためには。
といったような事をつらつら考えながら、今月取り出してきたのはワルサーのPPSだ。改良型のM2のほうである。
右:リアサイト。こちらも蛍光のドット入りで、ドブテイルで留まる。高さの違うオプションが幾つか用意されているが、交換には専用のツールが必要。材質は前後ともメタル製だ。
PPS
ワルサーがPPSをリリースしたのは、2007年だ。
PPSとはPolice Pistol Slimの頭文字をあしらったもの。その名の通り、シングルスタックのマガジンを使用する薄型で扁平なボディが売りで、9mm及び.40S&W口径の採用によって従来のワルサーのハイドアウトガンであるPPKからシリアスにステップアップし、純粋にその後継を狙ったモデルだった。
同社のP99のバリエーションからは一線を画し、グロックに近いアクションを採用したのも大きな注目点だった。トリガーには指セイフティを備え、スライドキャッチやらテイクダウンレバー等々は位置も形もグロックに酷似。ちなみに登場当時は、S&WのシールドもスプリングフィールドアーモリーのXDコンパクトもまだない時代だ。シングルスタックのサブコンパクト9mmポリマーでは走りに近い製品だった。
それから9年、グロックまでもがスリム化を進める中で、2016年に満を期して登場したアップグレード版がご覧のM2だ。
自分としては、正直言うと初期型のほうを探していた。あっちは全体がもっと角張っており、薄くて平らでブロッキーな姿が非常に印象的でインパクト大。似たり寄ったりの流線形ポリマー銃がひしめく中でわりと異彩を放っていた部分が気に入っていたのだ。それは例えて言うと、『科学忍者隊ガッチャマン』の車両デザインの変化に近いものがある。初期では各々が個性的なシェイプでカッコ良かったのに、リバイバル版では並べて流線形となり、明らかに没個性化が進行。子供ながらに何だかガッカリした記憶がある。PPSのデザイン変更にもそれと同じものを感じたのである。
にもかかわらず、どうしてM2を買ったのかと言えば、たまたま手頃な売りを発見し、「新型も結構エキゾチックじゃん」と、ついつい流れちゃった次第。前章の続きとなるが、何かにつけて自分は意識が超低い人間だと呆れるばかりで。
購入先はネットの銃器売り買いサイトARMSLISTだ。箱付きで上々のコンディション。この手の小型銃は携帯が前提なので、スライド先端の擦れが心配だったが、それもほぼ無し。一番の決め手は、ベーシックモデルではなくてグレードが高いLEモデルだったという点だ。違いはサイトにある。白点ではなく蛍光のドットが付き、暗闇で煌々と光って便利。加えて、マガジンが6、7および8連発の三種が計4本付いてきたのも得点が高く、青色の純正ワイヤーロックが欠品しているのとタバコの匂いが漂っていた事以外は満足ということで決断した次第だ。
お値段は280ドル。LEモデルのリリース時の標準小売価格は499ドル、ベーシックは469ドル。現在の市場価格は、LEモデルでもたまに300ドル台前半もチラホラ見掛ける。もしや中古買いは失敗だったかもという感が無きにしも非ず。売り主は「グロックに戻ろうと思って」とおっしゃっていたが、果たして実力のほどはどうだろうか。
WALTHERのCCW
いま業界を見渡すと、サブコンパクト9mmポリマーでは、S&WのM&Pシールド、グロックの43あたりとスプリングフィールドXDの3機種がトップ争いを演じている状況だ。グロックは圧倒的な知名度、シールドは長年の紆余曲折を経て辿り着いたスタイルとメカ、そしてXDは通好みのグリップセイフティが受けている模様か。一方今回のPPSは、残念ながらやや地味な存在に甘んじている。注目度がなぜか低い。しかし自分には、結構頑張っているように見える。と言うのも、旧型からのアップグレードの箇所がマジで目白押しなのだ。スリムなポリマー9mmの先駆を切ったワルサーの意地が全身に詰まっている感じなのである。
それらを列記してみれば————
まず、このエルゴノミックなグリップ。旧型ではバックストラップをワンタッチの交換式にして握り心地に選択肢(2種)を設けていたが(このバックストラップは外すと作動が不能になるストレージセイフティの機能もあった)、M2ではそれはオミットし、同社のヒット作PPQからシェイプやテクスチャーを継承した万人向けの握り易いグリップに作り替えた。ヒョイと握れば、「うわっ」と思わず声が漏れるくらいに薄く、それでいて適度な盛り上がりとフィンガーチャンネルが良く効く抜群のフィット感。個人的にはグロックやらシールドよりもシックリくるくらいに研究の跡がアリアリ。


